52 人間との共存
「美音は人間とモンスターが共存できると信じておるのか?」
妖月様の声は冷たい。
まるでそんなことは不可能だとでも言うように。
でも私は思う。
このモンスター世界に住んでみて人間とモンスターは共存できるのではないかと。
たぶん時間はかかると思うが少なくとも共存は難しくても「争う」ことはしなくてもいいんじゃないかな。
「共存するのは難しくてもお互いをよく知れば「争い」をすることはないと思います。「争い」は何も生みません」
私は自分が思ったことを言ってみた。
私は人間が傷つくこともモンスターさんが傷つくことも望まない。
「……人間の方が我々を差別し排除しようとしたとしてもか?」
「え?」
人間の方がモンスターさんを「差別」して「排除」しようとしたってどういうことかな。
もしかしてモンスターさんたちは過去に人間と共存しようとしたことがあるってこと?
「それってモンスターさんたちが人間と共存しようとしたのに人間の方がモンスターさんたちを差別して排除しようとしたことがあるってことですか?」
「……そうか、美音はまだ生まれて間もなかったな」
妖月様は溜息をつく。
う~ん、18歳を生まれて間もないってのもどうかと思うけど、妖月様の寿命から考えたらまだ子供って言われても仕方ないかな。
「私は妖月様に比べたら子供ですけど、モンスターお役所でちゃんと働ける年齢です。人間とモンスターさんの関係を説明してくれたら理解ぐらいできます」
妖月様は私をジッと見る。
私も視線を逸らさずに妖月様を見つめる。
この問題は私が「人間」である限りついて回る問題だもん。
いつまでも私のことを「ヴァンパイア族の亜種」って言って皆を騙すのは嫌だ。
「……そうか。では準備ができたら美音にモンスターと人間の歴史を教えてやろう」
「モンスターと人間の歴史ですか?」
「ああ、美音は人間でありながらこのモンスター世界で生きている。いずれは知らなければならぬことかもしれぬからな」
モンスターさんと人間の歴史かあ。
私が学校で習ったのは約50年前にダンジョンが出来てダンジョン内にはモンスターがいて人間を襲うので気を付けることというぐらい。
でも実際にダンジョン内で出会ったモンスターさんたちは私に優しくしてくれた。
学校で習ったことが全てではない。
真実は自分で確かめないと。
「分かりました。どんな歴史でもいいので真実を教えてください」
「……分かった。しばらく待っておれ」
「はい」
その後は静かに妖月様と夕食を食べて就寝した。
次の日。私はモンスターお役所に出勤してブオン係長に出張の報告をしていた。
さっそく体験宿泊の記事を作成するように言われてキョウカ主任と一緒に作業することになった。
そしてお昼休みにミツールさんと食堂に昼食を食べに行く。
そう言えばミツールさんみたいな一般のモンスターさんは「人間」のことをどう思っているのかな。
やっぱり人間は敵だと思ってるの?
私は気になってミツールさんに声をかけた。
「すみません、ミツールさん」
「なに?」
「ミツールさんは人間のことってどう思われますか?」
「え? 人間って、人間界の人間のこと?」
「はい」
「急にどうしたの? 人間に興味があるの?」
「はい。ダンジョン係が人間と争っているって聞いたんですけど人間ってそんなに怖いのかなあって思って」
私がもっともらしく答えるとミツールさんは「う~ん」と考える。
「僕の個人的な感想でいいかな?」
「はい。それでいいです」
私はドキドキしながらミツールさんが人間をどう思っているのか次の言葉を待った。




