10 モンスター解析書
「美音さん。食事の用意ができました。食堂へご案内します」
界魔さんがやって来て私に告げる。
「あ、はい。今、行きます」
私は椅子から立ち上がり部屋を出て界魔さんの後をついて行く。
食堂には先に妖月様がいてテーブルにはオムライスが置いてある。
本当にオムライスだ。
嬉しいな。
「遅くなってすみません。妖月様」
「別に遅くはない。時間通りだ」
「私の席はここですか?」
私はオムライスの置いてある席を指差す。
「そうだ。今後は界魔にお前が食べられる物を適当に作らせるがよいな?」
「はい。界魔さんって料理できるんですね」
「界魔は私の身の回りの世話を全てやっておる。必要な物があったら界魔に申せ。そうすれば用意しておく」
へえ、界魔さんって妖月様の仕事の時だけじゃなくて生活や行動も一緒にしてるんだね。
なんか執事さんみたいだな。
あ、そうだ。この世界のお金を借りないと。
「あの、妖月様。この世界のお金を少しでいいので貸してくれませんか?」
「なんだと?」
妖月様の赤い瞳が鋭くなり低い声で返された。
ひえ! 怒らないでください! 当面の資金が必要なだけですからあぁーっ!
「いえ、少しはお金を持ってないとお役所で働いて初任給を貰うまで私一文無しなんで………」
私が恐々理由を言うと妖月様の表情が普通に戻った。
「確かに。それは不便だな。よかろう、界魔。後で美音にお金を少し渡しておけ」
「承知しました」
「うむ。では食事をするぞ」
「はい」
私は目の前のオムライスを口にする。
うん! トロトロの卵が美味しい。
これなら問題なく食べれる。
私がチラリと妖月様を見るとグラスに注がれた赤い液体を飲んでいる。
うわあ、あれって家畜の血なのかな?
家畜の血でもやっぱり血を飲むなんて本物のヴァンパイアなんだなあ。
あれ? でも妖月様は人間の血は飲まないのかな。
もしかして私って食糧用に連れて来られたりしてたりして。
「あの、妖月様」
「なんだ?」
「妖月様の食糧が血なのは分かりましたが人間の血とかは飲むんですか?」
「………この世界に人間は基本的にいない。家畜の血ならすぐ手に入るのに何でわざわざ人間の血を飲まねばならぬ?」
え? ああ、そうか。ここはモンスター世界だもんね。
人間界に行くにはダンジョンを抜けて行くしかないし食事の度に人間界に行ってたら大変だよね。
「でも、私を食糧としてここに連れて来たんじゃ?」
妖月様の赤い瞳に冷気が宿る。
うわ~ん! また地雷踏んじゃったかな?
「お前の血など飲んでも仕方ないわ。それにこの世界では他種族を襲って食うのは「ルール」で禁止されておる」
「え? 他の種族を襲って食べたりはしないんですか?」
「当たり前だ! お前は私たちモンスターを知能のない動物と一緒だと思っているのか!」
動物にもある程度は知能はあると思うけど、ここで妖月様が言っているのは動物とモンスターを一緒にするなってことだよね。
「いえ。そんなことは思ってません。ただ、モンスターさんたちが何を食べるか分からなかったので」
私の言葉に妖月様は溜息をつく。
「よい。お前はまずモンスターというモノがどういう生き物なのかを知ることから始めろ。無知なお前にはこれをやる」
そう言うと妖月様の右手に分厚い本が現れた。
わ! もしかして魔法を使ったのかな?
あれ? でも特殊能力は使ってはいけないんじゃなかったっけ?
「妖月様。今、魔法を使いましたか? 特殊能力を使ってもいいんですか?」
「イチイチ細かいな、お前は。私は特殊能力の『能力使用許可』を持っておる。だから問題はない」
へえ、そうなんだ。
妖月様は私にその本を渡してきた。
「この本は何ですか?」
「モンスターの種別ごとの特徴が書いてある。どのような特殊能力を使うのかもな。これを参考にせよ」
私が本をよく見ると『モンスター解析書』と書いてある。
ペラペラと中身を見るといろんなモンスターが写真付きで載っている。
これがあったら相手がどんなモンスターか分かるってことか。
「いいか? モンスターは種別によって食べる物の好みも違うし特殊能力も違う。まずはモンスターを相手にして困ったらこれで調べろ。そうすれば対処方法も考えられる」
「はい。分かりました。ありがとうございます」
せっかく妖月様が私のこれからのことを思って貸してくれた本だもんね。
大事にしなきゃ。
「お前にはモンスターの特性を覚えやすいような職場に配属させてやる」
「本当ですか? どんな仕事でも頑張ります!」
ようやく公務員として働ける。
私は嬉しい気分でオムライスを食べた。
私が夕食を食べ終わった後に界魔さんが部屋にやって来た。
「美音さん。先ほど妖月様に言われたお金を持って来ました」
あ、お金を貸してもらう約束だったもんね。
界魔さんは私の前に三つの硬貨を置く。
「この世界には銅貨、銀貨、金貨の三つの種類のお金があります」
ふ~ん、やっぱり日本とは違うよね。
「まず銅貨の5枚分が銀貨1枚の価値です。そして銅貨10枚分と銀貨2枚分は金貨1枚の価値となります」
えっと、そうすると銅貨が千円札で銀貨が五千円札で金貨が一万円札って考えれば覚えやすいかな。
「分かりました。でもそれっていつも持ち歩く袋が必要ですよね?」
「ここにその袋も用意しました。どうぞお使いください」
わあ、界魔さんて本当によく気が付く人だなあ。
尊敬しちゃうな。
「ではごゆっくりお休みください」
「ありがとうございます」
私は界魔さんにお礼を言った。
さてこれで当面の資金はあるしあとは仕事を頑張るだけだね。
寝不足で初日から遅刻しないように今夜はもう寝ようっと。
寝る準備をしてベッドに入ると今日一日の怒涛のような疲れが襲ってきて私はすぐに眠りに落ちた。




