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六話 会話

「ソウヤ、この人がこのクインの町、魔法師協会支部長、セレスさんだ。ああ、あと私の兄弟子になる」


「そして、セレスさん、こいつがソウヤだ」


 兄弟子なのはわかったが、俺の肩書は?

 まあいいか、そんなのないほうがいいに決まってる。

 気楽に生きたいからな。


「それで、ロザリア君が何でここまで! まあ、理由は伝わってきているが!!」


「そうか、この町にも伝わってるか」


「ただ、新帝国はこのことを内密のうちに終わらせたいみたいなのだがね! 魔法協会支部長の私のような者の耳にしか伝わってはない!」


「それは、正直ありがたいですね」


 二人で話し合っている。

 セレスはにまにました顔に暑苦しいしゃべり方。

 それに、初対面の俺に速攻で攻撃してきた。

 すごいな、誰から見てもわかる変人だ。

 でも、ローザ様は平然とセレスと会話している。

 俺は蚊帳の外だ。


 というか、兄弟子と言っていたが、この二人同じ師匠を持つのか。

 ローザ様もその師匠もよくこの変人と関わっていたな。


「それよりも久しぶりに会えたことに感謝だ! 前にあったのは、師匠がなくなった時だったからね。 数年ぶりになるね!」


「はい、私こそ魔法師協会クイン支部長になってから、なかなか挨拶にも行けず申し訳ないです」


「いやいや、君の境遇は知っている! 仕方のないことだよ!」


「ただ、横のその男のことは話してくれるかな?」


 急に雰囲気が変わる。

 二人の視線が俺に向く。

 まてまて、そんなに見られると緊張するだろ。


「すみません、セレスさん。やはり、この弟子ではだめでしたか?」


「いいや、そこはもういいのだよ! 君の弟子取りに文句を言う権利は私にないわけだし!」


「それに、さっきの試験にこの男は合格したからね! 私の呪文を受けて生きているとは相当な才能ではある!」


 俺は試験を受けていたらしい。

 さっきの肺が焼けるようになったやつか。

 こいつ、俺を殺す気でやってた?

 俺、不死身じゃなかったら、死んでた?


「ただ、」


 もう一度、セレスの目が俺の方へ向く。


「ロザリア君、この男と主従契約魔法を結んでるね。弟子とはいっても、大方、連れてきた従者に魔法を仕込んでいる、そんな感じだろう」


「君、名前はソウヤとか言ったか?」


「そもそも、君はロザリア君の境遇を知っているのか。へらへら、ついていってるわけじゃないだろう? 君には、ロザリア君を守れるだけの気概と能力はあるのかなあ!」


 急に俺に会話を振られる。

 セレスの片手には、杖が握られていた。

 こいつ、多分、すぐにでも魔法を撃ってくるぞ。

 聞こえのいい回答を言えば、この場はうまく収まるのか?

 緊張が走る。

 これ、死人が出るやつだぞ。


 でも、俺には、

 そんな気概も能力もあるはずがない。

 何言ってるんだこのセレス。

 そもそも、俺は何かを任されるというのが嫌いなんだ。

 ……いざとなっても、……ローザ様を守り切れる保証ができるわけがない。


「あるわけないだろ、そんな能力」


 俺はセレスに半ばやけになって答える。

 すると、セレスは立ち上がる。


炎の渦(ウェーブ)


 やりやがった、このセレス。

 部屋の中でもお構いなしだ。

 セレスは俺の体を炎とともに宙へ打ち上げる。

 周囲のいすや机、飾られてあったインテリアとともに俺の体はかき混ぜられ、すりつぶされ、地面にたたきつけられる。


「ロザリア君、こいつはだめだよ、こいつは! こいつに命を預けられるとは私は思えないね!」


「しかし、そうはいっても私の弟子なのだ」


 体が回復した俺は、セレスの方を見る。

 急に攻撃してきやがって。


「従者なら、慎重に選ばないとだめだよ。がちがちの主従契約魔法で抑え込んでいるわけでもないんだろう? こいつが君を売ったら、それで、ハイ、終わりだ」


 ローザ様は、そんなことないと反論している。

 ありがたいことだ。


 部屋は散らかり、俺は不死身じゃなかったら、死んでいた。

 いかれてるぞこいつ。

 セレスは相変わらず、にまにま笑っていた。


「ただ、この体、興味深いねえ。損傷した部位がもうすでに回復している!」


「周囲のマナで体の損傷を補っているのか! 回復魔法が発動したようにはみえなかったが!」


 話題は変わったが、セレスはまだ俺を品定めするように横目で確認してくる。

 なんだよ、仕方ないだろ。

 別に俺はここに来たくて来ているわけじゃない。

 俺は、立ち上がり、散らかった部屋で奇跡的に俺の近くに倒れていた椅子に座り直す。

 セレスは形だけの謝罪をする。

 深々と頭を下げるが、その口角は上がっている。

 ずっとにまにましているということだ。



 短い謝罪の後、セレスは机やいすをざっと片付ける。

 ただ、あまりこまかいことは気にしないようで、窓のガラスがひび割れにはまったく気にしないし、壁に飾られた絵画の額縁は少し曲がっている。


 セレスは、疲れたといいながら、いすに座り直す。

 そして、ローザ様と話し始める。


「ロザリア君、最後に会ったのは…、いつぶりになるかね!」


「はい、師匠が亡くなったときですから2年ほど前になります」


 師匠はなくなっているのか。

 これからしんみりした思い出話か?

 思っていたが、ローザ様は興奮しながら、セレスに話しかける。


「それより聞いてくださいよ、セレスさん。私、水属性魔法も高位魔法を使えるようになったんです! これ、すごくないですか?」


 ローザ様は、目をキラキラさせながら話しかけている。

 さっきまでの俺の仕打ちはお構いなしだ。

 魔法のことを話したくてたまらない。

 そんな目をしている。


「やはり、君は天才だな! 水属性魔法はいいものだろう! 種類が豊富で飽きがこない!」


「そうですよね、そうですよね」


 セレスの方も目がキラキラしていた。

 さっきの俺への敵対心を完全に忘れている。

 どうやらこいつも魔法ばからしい。


 その後2時間俺をほったらかしに二人で魔法話に花を咲かしていた。



 俺が退屈していたところ、

 コンッ、コンッ、部屋の外からドアをノックされる。


「はいりたまえ!」


 セレスがにまにましながら言うと、外からエントランスでセレスに付いていた女の一人が部屋に入ってくる。

 ちなみに、にまにまは完全に俺の主観だが、あながち間違ってもいないと思う。

 こいつ、いつも口角を上げているのだ。


「……先刻、キュートス様がお見えになりました」


 セレスの顔がこわばる。


「要件は?」


「受付のいうことにはセレス様に申し付けたいことがあるようで。……濁されましたが、ロザリア様へのあいさつが目的かと」


「受付が困っておりましたので、私が代わりに対処しました。キュートス様には、セレス様は取り込み中です。と申しておきました」


「今日は少し、気が焦っていた。また日を改めてうかがう。とのことです。」


 ローザ様がしゃべらなくなる。

 表情も重い。

 あいさつってそういうこと?

 出会ったら、殺ったるからな! ってこと?


「明日、私から、面会しに行くと伝えてくれ。どうやらあちらも気づいているようだね!」


 セレスの顔はにまにましなくなっていた。

 いや、嘘だ。すぐに口角を上げた。



 キュートスというのは、ここら一体の領主であるという。

 新ホルド帝国、皇帝から帝国北方の治めることを任されている。

 中でも、キュートスは皇帝派一の武人と言われているらしい。

 これって、ローザ様危ないんじゃないのか?

 新帝国から追われていたはずだろう。


「ローザ様、キュートスってやつに会うとまずいんじゃないのか?」


 というか、今ここで襲われてもおかしくはないだろう。

 俺はローザ様に聞く。

 ローザ様は気まずい顔をする。


「まずいな」


 さらに続ける。


「いや、あの農場の時みたいに、あったら殺されるなどということはないが」


 少しの静寂。

 ローザ様のここまで困った顔は初めて見た。

 俺からしたら、何がまずくて、いま何が起きているか何一つわからないが。

 ここで、状況の説明を求めるべきなのだろうが、

 俺は何も聞かなかった。

 ローザ様は意図的に追われる理由を隠してきたように思えるし、

 それに、

 責任を負いたくない。

 俺はいつでも蚊帳の外。

 命令されたからついてきているだけ。

 そこに俺の医師は介在しないのだ。



 沈黙を破るように、セレスがにまにました顔で口を開く。


「ロザリア君は私の客人ということにする! 彼も正面から私兵を動かすということはないだろうね!」


 そんなんで、大丈夫なのか? 

 相手は領主だろ? ってことは国が相手だ。


「皇帝直轄領ならともかく、ここは帝国北方だよ、まだ帝国よりも私たち魔法師協会の方が影響力は高いのだよ。ほほ!」


 変な笑いがこぼれているが、そういうことらしい。

 領主といっても魔法師協会や在郷の有力者との折り合いもあり、うかつには動けないというのだ。


「それに、キュートスは皇帝派だよ?? ロザリア君に直接危害は加えられないよ!」


 ?? そういうものなのか? 

 俺はてっきり、ローザ様は見つけたら即処刑の大犯罪者だと思っていたけど。

 意外と政治的な事情なのか?


「ロザリア君、今日はゆっくりと休んでくれ! この魔法師協会の近くに宿を手配しよう。疲れているだろう? 私も疲れているし、用事もある。これから後の話は明日だよ、明日!」


「大丈夫、そっちの弟子にも、犬小屋を用意するよ! 何も心配することはない!」


 俺は犬小屋行き? そんなんで、安心できるわけないだろ。


「何から何まで、ありがとうございます。セレスさん。ほら行くぞ、ソウヤ」


 待って、あのセレスってやつ。犬小屋はほんとにやりかねないから。

 ローザ様、今すぐ修正させて!



 結局何も言わないまま俺たちは、魔法師協会を後にした。

 宿は、魔法師協会を出てすぐ右に行ったところにあった。

 魔法師協会から近く、冒険者街の中心部だし、店の構えも立派だ。

 セレスってちゃんと権力あるんだな。

 これをこの宿屋を、名ばかり支部長のやばい奴だと思っていたのだが。


 宿屋に入り、チェックインする。

 ローザ様とともに宿屋の主人に部屋をとりに行った。


「はい、支部長様から部屋を融通するよう言われてあります。3階のお部屋が一つと、犬小屋が一つでございますね」


 口調も丁寧だ。

 やはりここは比較的、要人や金持ち向け宿屋なのだな。

 セレスもいいところを取ってるではないか。


「当宿、犬小屋はありませんでしたので、裏口に作らせました。これもセレス様きっての要望でしたので」


 んん? 犬小屋? それ俺のためだろ。

 セレスもお茶目なことをしてくれる。

 どうお礼をしたらいいか。


「はは、犬小屋か、それはセレスさんの冗談だ。新しい部屋をもう一つ用意してくれるか?」


「いえ、できません、これだけはセレス様が断固として変更を認めないとおっしゃっていましたので。 弟子の方は犬小屋で寝ること以外認めないと」


 セレスの野郎、ふざけやがって。

 今度会ったら、ぼこぼこにしてやる。

 いや、返り討ちに会うな。

 今日の日ほど、自分の無力さを悔いた日はない。




ーーーーーーーーーー




 クインの町、冒険者街。夜。


 結局、ローザ様の部屋に俺の犬小屋を置くことで、問題を解決した。


「セレスさんには、申し訳ないことをした」


 ローザ様がそう呟く。

 いや、この犬小屋を見て!

 どう見ても、セレスの方が申し訳ないことしてるよ!


「いいや、領主のキュートスはうかつに動くことができないと話しただろう。それは、セレスさんも同じことだった」


 しかし、あからさまにローザ様を客人とし、かくまう動きをした。

 これをしったら、キュートス側はこのことを追求するだろう。

 なぜ、新帝国が追っているローザ様をかくまうんだと。

 つまり、新帝国に真っ向から対決するといったようなものなのだ。


「明日、直々に面談するらしいが、心配だな」


 セレスの立場が一気に危なくなることだってある。

 どうして、セレスはそこまでして、ローザ様をかばうんだ。


「私の兄弟子だからな!」


 ローザ様はそういう。

 俺には、ちっともわからないが、そういうことらしい。

 俺は、気楽に生きていたい。たぶんこれもわからない方が、いいことなのだろう。


 今日はもう眠りにつくことにした。


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