第1話 星の儀式
母さんの声の値段は、二百クレジット。
月曜日になると、星籠学園では、まだ誰にほんの少しの自由を許す価値があるのかが決められる。
全寮制の星籠学園。その講堂に、何百人もの生徒が列を作っていた。
黒い制服。伸びた背筋。抑えられたざわめき。
舞台中央の巨大スクリーンが点灯した。
星の儀式――第五回
金色の文字が、光の粒子になってほどけていく。
その直後、三つの名前が輝き始めた。
星崎零華。
一ノ瀬美桜。
黒沢慎一。
講堂は拍手に満たされた。
三人が舞台に上がる。
黒沢はメダルより、段差の幅のほうを気にしているようだった。美桜は、どの視線がどこへ動くのかをすでに正確に知っている者の繊細さで微笑んでいた。
けれど、ほとんどの生徒が見ていたのは零華だった。
星崎零華は急がずに歩いていた。濃紺の髪が、真夜中の絹のように背中へ流れ、舞台の光を反射する銀色のリボンで結ばれている。制服は他の生徒と同じはずなのに、彼女が着ると直線でさえ権威を帯びた。生徒会の短いマントは、まるで最初からそこに生まれたもののように肩に載っていた。
学園長が金色のメダルを彼女の胸につけると、零華は完璧な笑みで頭を下げた。
大人たちに誇らしさを覚えさせる種類の笑み。
そして、生徒たちに目を伏せさせる種類の笑み。
三人は舞台を下りた。
スクリーンの光が変わった。
金色が消えた。
赤が浮かんだ。
有沢凱斗。
山瀬春人。
犬塚葵。
最後列で、一人の男子が泣き声を飲み込んだ。
山瀬春人は制服を両手で握りしめていた。自分の名前を見つめる目は、それが判決であるかのようだった。
「山瀬、彼女との面会なくなるな」
前の方で誰かがつぶやいた。
「音楽部への出入りもだろ」
「かわいそ。三回遅刻しただけなのに」
凱斗は表情を変えずに全部聞いていた。
講堂の入口近くに立ち、扉の影に半分隠れていた。スクリーンに映る赤い自分の名前を見て、それから他の二人を見た。
学園長がマイクに近づいた。
「影区域の生徒。家族通話を七日間停止。図書館の利用を制限。外部活動への参加は、次回評価まで凍結とする」
講堂は沈黙でその罰を受け入れた。
凱斗は視線を自分の手に落とした。
親指。人差し指。中指。
指で計算した。
それから鞄から、角の擦り切れた硬い黒表紙のノートと、金属製の製図ペンを取り出した。クリップの近くには、小さなひびが入っている。凱斗は、人からもらった物を雑に扱わなかった。
ノートを開き、書いた。
母さんの声の値段:二百クレジット。
現在残高:マイナス五十。
自由までの距離:無限大。
「自己新記録!」
横から声が飛んできた。
犬塚葵が遅れて現れた。制服の上着を腰に巻き、鼻に絆創膏を貼っている。まだ三階分を走って上がってきたみたいに息をしていた。
「一週間で五百ポイント減点だよ、有沢くん。お祝いに走る?」
「遠慮する」
葵は顔いっぱいに笑って、彼の背中を叩いた。
凱斗は危うくノートを落としかけた。
「元気出して! 私たち、下位トップスリー仲間だよ」
「下位トップスリーだ」
「細かいことはいいの!」
生徒たちが立ち上がり始めた。儀式は終わった。
凱斗はノートを閉じ、鞄にしまい、廊下が混む前に出た。
自室の扉の前で、胸ポケットに手を入れた。
空だった。
目が細くなる。
もう一度ポケットに触れた。それから上着の内側。次に鞄。
ペンが消えていた。
凱斗は振り返った。
引き返した。
(犬塚に背中を叩かれた時か)
廊下はもうほとんど空だった。
角を曲がると、黒沢が片手に電卓、胸に予算表を押し当てて立っていた。
「許容できない……校歌が予定より十二秒超過した。十二秒分の照明、空調、集団音響消費……」
黒沢が目を上げた。
凱斗を見た。
Excelの表に汚染細胞でも見つけたみたいに止まった。
「有沢」
「黒沢」
「君の名前は赤だった」
「お前の名前は金だった」
「それにより、望まない社会的接触の発生確率が三十一パーセント上昇する」
「おめでとう」
黒沢は半歩下がり、電卓を胸に守るように抱えて、脇の廊下へ消えた。
三秒後、葵が反対方向へ走り抜け、ベンチを飛び越え、まるで校則がただの提案であるかのように着地した。
「有沢!」
「もう会った」
「一日十キロ走れば、悲しみは追いつけないよ!」
「ゴールで待てる」
「いい返事! 最悪の態度!」
葵は通り過ぎながら、また彼の背中を叩いた。
凱斗は壁にしがみついた。
体勢を立て直した頃には、彼女はもう消えていた。
そのまま講堂まで戻った。
扉はまだ少し開いていた。
凱斗は音を立てずに入り、最後列の近くを探し始めた。舞台の照明は消されていたが、高い窓から差し込む太陽が、講堂を明るい帯で切っていた。
ペンは、倒れた椅子のそばにあった。
彼は近づいた。
その時、声が聞こえた。
「クレジットのデータは、十八時四分に改ざんされています」
凱斗は止まった。
講堂の中央に、星崎零華が太陽を背にして立っていた。光のせいで、その輪郭はほとんど宗教画めいて見えた。肩にかかる短いマント。胸の金色のメダル。髪の銀色のリボン。
彼女の前では、清掃係の男子が膝をついていた。
手の中の鍵束が小さな音を立てるほど震えている。
「あなたは、業務用の鍵でこの部屋に入ったところを目撃された唯一の人間です」
零華は言った。
「今ここで認めますか。それとも、学園側に、学内不正として正式な処分手続きに入らせることをお望みですか」
男子は顔を上げようとした。
「誓って……俺は、掃除に来ただけで……」
零華が近づいた。
彼と目線を合わせる程度に身を屈め、二本の指で作業服の襟を整えた。その仕草は、一秒だけ優しく見えた。
そのあと、男子の顔はさらに青ざめた。
「雑な嘘は、聞いているだけで疲れます」
彼女の後ろで、一ノ瀬美桜がファイルを胸に抱えていた。彼女の笑みは甘い。ほとんど母性的だった。
「お願いだから、早く認めて」
彼女は小さくつぶやいた。
「会長がこれ以上、こんなことに時間を使うのを見るのはつらいから」
凱斗は、落ちていたペンに手をかけたまま、まだしゃがんでいた。
清掃係の男子の、絆創膏とテープだらけの指先を見た。
凱斗はペンを握りしめた。
(模範行動は百クレジット)
ゆっくり立ち上がった。
(勝手に片づければいい)
百クレジットあれば赤字から抜けられるし、通話にも近づける。
もしかしたら、調子のいい月なら、母さんの声にも。
ペンをポケットにしまい、出口へ向かって歩いた。
「あなた以外に犯人は考えられません」
零華が言った。
「同行なさい」
清掃係の男子が両手を床についた。
「お願いします……罰を受けたら、今週末、母に会えなくなるんです」
凱斗は扉の近くで止まった。
その言葉は、彼の声が消えたあとも講堂に残った。
母。
凱斗の手がペンを握りしめた。
一度、息をした。
それから、首だけを向けた。
「そいつじゃない」
講堂から空気が抜けたようだった。
清掃係の男子が、まだ濡れた目を上げた。
美桜が胸に抱えていたファイルが一センチ下がった。
零華は動かなかった。
窓の光を受けて、髪の銀色のリボンだけが揺れた。
それから、ゆっくりと、彼女は凱斗へ顔を向けた。
氷のような青い目が、どこを切るか選ぶ刃のように彼に落ちた。
「……あなた、何者ですか」




