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『始まりの海に、優しきひだを寄せて』

『始まりの海に、優しきひだを寄せて』


世界の東の果て、まだ若い太陽が昇る前の空は、乳白色と薄紫が混ざり合ったような、ひんやりとした色をしていた。大気には、生まれたばかりの塩の香りと、湿った岩肌が放つ硬い匂いが満ちている。あらゆる水の源流であり、世界をぐるりと取り囲む大河オケアノスの宮殿は、真珠母貝の内側のように、鈍く、しかし虹色の鈍光を放つ壁で囲まれていた。その静寂を破るように、寄せては返す波の音が、低く、お腹の底に響くようなリズムで鳴り響いている。

海の女神テテュスは、宮殿のテラスにある、ひんやりとした大理石の椅子に腰をかけていた。彼女が身にまとっているのは、細かくひだの寄った、深いエメラルドグリーンのシルクのキトン(古代ギリシャの衣服)だ。その生地は、彼女が息をするたびに、まるで本物の波が揺れているかのように滑らかに動き、裾には細かな金の刺繍で、飛び跳ねるイルカや、渦巻く潮の流れが表現されていた。肩口を留めるブローチは、本物のピンク真珠をあしらった銀色のもので、朝の淡い光を浴びて優しくきらめいている。

彼女の隣には、夫であり兄でもあるオケアノスが、青い藻の混じった豊かな髭を蓄えて座っていた。彼の纏うトガは地中海の深い底のような濃紺で、触ると少し湿り気を含んでいる。

二人の前にある丸いテーブルの上には、今朝の食事が並べられていた。大きな素焼きの皿に盛られているのは、オリーブオイルをたっぷりと回しかけ、ちぎった野生のミントを散らしたイチジクの果実だ。その横には、ヤギの乳から作った白くて塩気のある硬いチーズと、外側はカリッと香ばしく焼けているが、中はもっちりとした麦のパンが置かれている。さらに、小さな銀の器には、海の底で採れたばかりの、透き通った葡萄のような海藻のピクルスが、酸っぱい香りを漂わせていた。

テテュスは、白く滑らかな指先でイチジクをひとつ摘み、口に運んだ。熟した果実の濃厚な甘みと、ミントの清涼感が口いっぱいに広がり、鼻から抜けていく。彼女はふう、と、少し憂いを含んだ息を漏らした。その瞳は、深海のように底知れない、しかし温かみのある碧色をしている。

「ねえ、オケアノス。ゼウスたち若い神々が、クロノスをタルタロスへ突き落としてから、もうどれくらいの月日が流れたのかしら。世界は新しくなったけれど、私の心はいまだに、あの戦いの泥の匂いや、引き裂かれる大地の悲鳴を覚えているのよ」

オケアノスは、どっしりとした手でパンをちぎり、ヤギのチーズをのせて口に放り込んだ。咀嚼する音が静かなテラスに響く。彼はワインを薄めた水を一口飲み、喉を鳴らしてから、妻の顔を見つめた。

「テテュス、お前の心はいつも優しすぎる。あのチタノマキア(神々の大戦)の間、私たちはどちらの側にもつかず、この大河の底でただ水を巡らせていた。ゼウスも、私たちを敬い、この領域には手を出さない。それで十分ではないか。ほら、その海藻を食べなさい。お前が好きな、ピリッとした塩の味がするぞ」

「そういうことではないの。形式の平穏が欲しいわけじゃないわ」

テテュスは、勧められた海藻のピクルスを小さく噛みしめた。コリコリとした小気味よい食感とともに、磯の強い旨味と酢の刺激が舌を震わせる。その刺激が、かえって彼女の胸の奥にある、言葉にならない焦燥感を呼び覚ますようだった。

「私が言いたいのはね、世界が引き裂かれたときの傷跡のことよ。オリンポスの神々は勝利に沸いているけれど、戦いで親を失った妖精ニンフたちや、棲処を焼かれた獣たちの涙は、すべて雨となってこのオケアノスに流れ込んでくる。私は毎晩、その涙の冷たさを、この肌で、この足の先で感じているの。水はすべてを記憶してしまうから」

「ならば、その記憶を優しさで包んで薄めるのが、お前の役目だろう」

オケアノスは、妻の肩に大きな手を置いた。その手からは、嵐のあとの海のような、力強くも包容力のある温かさが伝わってくる。

「私たちは世界の血管だ。すべての乾きを潤し、すべての汚れを洗い流す。ゼウスたちが玉座でいばっていようとも、彼らだって私たちの水がなければ生きられぬのだからな」

「ええ、分かっているわ。だからこそ、私は止めないの」

テテュスは立ち上がり、テラスの欄干へと歩み寄った。エメラルドグリーンの裾が、大理石の床をサラサラと擦る音がする。欄干に手をかけると、眼下には果てしなく広がる青い大河が、白く細かい泡を立てながらうねっていた。彼女がそっと右手を前に差し出し、指先を小さく振ると、水面からきらきらと輝く無数の水滴が立ち上り、彼女の周りを踊るように回り始めた。

「私は、この世界に満ちる乾きを癒すために、もっと多くの子供たちを産み、育てなければならない。オケアノス、私たちの娘たち、あの三千人のオケアニデス(海の妖精)たちを、もっと遠くの島々、もっと深い森の泉へと送り出しましょう。彼女たちの歌声が、傷ついた生き物たちの耳を包み込むように」

「すでに娘たちは世界中に散っている。これ以上、何を望むというのだ」

オケアノスが少し呆れたように、しかし愛おしそうに目を細めて尋ねた。

「次は、川の神たちよ」

テテュスは振り返り、その頬をほんのりと薔薇色に染めながら微笑んだ。その表情には、すべての生命を慈しむ、母としての強い感情が満ち溢れている。

「大地を縦横に走る、力強い息吹のような河川を、もっとたくさん作りましょう。冷たくて澄んだ水が、泥まみれの戦場跡を洗い流し、そこから新しい若草の匂いが立ち上るようにするの。私は、ただ流れるだけの水になりたくない。誰かの喉を潤し、誰かの涙を包み込む、生きた温もりでありたいのよ」

「お前の熱意には、いつも降参だ」

オケアノスは椅子から立ち上がり、テテュスの隣に並んだ。二人の身体が触れ合うと、海の深い匂いと、朝の光の匂いが混ざり合い、心地よい調和が生まれる。

「では、今日も始めよう。私たちの水を、世界の隅々まで届ける仕事を」

「ええ。まずは、あの乾いた南の台地へ、冷たい霧を送りましょう」

テテュスは優しく微笑み、再びイチジクの皿へと目を向けた。朝の食事はまだ残っている。彼女はパンを小さくちぎり、夫の手へと握らせた。

「しっかり食べてね、オケアノス。世界を潤すには、私たち自身が満ち足りていなくてはならないのだから」

「もちろんだ。お前の淹れてくれた、このハーブの香る白蜜の酒があれば、いくらでも働ける」

二人は笑い合い、まだ静かな世界を見つめながら、ゆっくりと食事を続けた。テテュスのキトンの裾は、絶え間なく寄せる波のように、いつまでも美しく揺らめいていた。



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