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6/6

6  会いたかったんだ

地球というか、日本というか。

戻ってきた美優姫が始めたことは……。


では、どうぞ。

 高校生活が始まるまでの間に、オリジナルの曲をさらに何曲か創ろう。


 そう決めて、宝物兼相棒を小脇に抱えて、作詞ノートに向かった。

 私は歌詞を先に考えるタイプのシンガーソングライターなのだ。


 シンガーソングライター。

 今はまだ人には言えない。

 その自信がない。

 自信になるバック・ボーンがない。


 話が戻るけど、でも、歌詞を全部書き終えてから作曲する、というわけではない。

 出だしの一行、またはサビで一番伝えたいこと、描きたいストーリー、気に入ったフレーズ、それを歌詞にして気に入ったらギターを鳴らす。

 メロディーに乗せて歌ってみる。

 

 うん、悪くない、と思えるときもあれば、当然、別のアプローチのほうがいいかな、とまた一からやり直したりの繰り返しだ。

 あっという間に時間は過ぎてしまう。


 あの店(おそらくは酒場だと思う。頑丈おじさんもお酒臭かったし)での出来事は、もちろん覚えている、鮮明に。

 忘れられるわけがない。

 でも、矛盾しているのかもしれないけど、雲を掴むような話だとも思う。


 ドアを、それは自分の部屋だけじゃなくてトイレでも、開けるときに


(またあの店につながるんじゃ)


 と一度覚悟をした。

 右手で開けみたり、左手で開けてみたりもした。

 でも、部屋は部屋でトイレはトイレだった。


 あの日から十日後にある鍛冶師大会に出るための武器。

 頑丈おじさんが満足のいくものができたのだろうか?

 それからあのおじいさん……。


 夢ではないと認識はしているものの、時間が経つにつれてリアリティーは薄くなっていった。

 そうしているうちに、また土曜日になった。

 時間とは、足が速いものなのだ。


 天候に恵まれたおかげで、先週と同じ場所で、同じ時間に私は歌い始めた。


 おじさんとおばさんが、私が歌っているところを見たい、動画を撮りたいと言うので、私は受け入れた。

 親心のようなものだろうから、悪い気なんてしなかった。

 でも前回に私が言ったことをきちんと理解して、時間をずらして家を出て、同伴という形ではなく、観客A、Bという体で観てくれた。

 歌いながら、私は少し照れた。

 なるべく視線を送らないようにしようとは思ったのだけど、どうしても、となってしまったのだ。


 それとは別に、あのおじいさんを探した。

 思えば不思議な人だ。

 歌っている二時間の間に、とうとう姿は見えなかった。

 あんまり気を取られ過ぎて、ギターをミスしてしまったくらいだ。

 いけない、いけない。


 またモエコさんが来て、ちょっと話をしている時に、おじさんとおばさんは笑顔で小さく手を振って帰っていった。

 私も小さく手を振った。


 知ってる人?


 と訊かれ、ささっと説明をした。


「いい人たちだね」


 そう言われて、自分が褒められた時よりも嬉しくなったことに、軽い衝撃を受けた。


 歌を歌えて、お客さんに拍手をもらえて、とてもいい時間を過ごせたのだけど、結局あのおじいさんに会えずじまいだったのが心残りとなった。


(だからってまた不思議体験をしたいわけじゃないのはないんだけど……)


 家に着いて中に入っても人の気配はなかった。

 あれ?

 おじさんとおばさんは先に帰ったはずなのに、どうして?

 あのおじさんとおばさんなら、飛んできて感想の三つや四つは言いそうなものなのに。


 もしかして、とスマートフォンを取り出した。

 案の定、おばさんからのメールが来ていた。

 スーパーに寄ってから帰るから、少し遅くなる、とあった。

 晩ご飯の食材の買い出しか。そりゃあ時間的にそうだよね。


 階段を上がり自分の部屋のドアを開けると、頑丈おじさんが大笑いしているところだった。

 私は膝から崩れ落ちた。


「おお、嬢ちゃん。会いたかったんだ」


 まあ、飲みな。

 そう言った頑丈おじさんの目はバキバキしていた。

 覚醒状態のようで、私はやっぱり怖くなった。

 そんな私の気も知らずに手を引いて、カウンターに連れて行った。


「できたんだよ!」

「え?」

「できたんだ! 鍛冶師大会に出せるほどの、武器が」

「わあ、よかった」

「だろう。嬢ちゃんがくれたオリハルコンのおかげだ。もらった足で工房に直行して一週間、ぶっ続けでハンマーを振るったんだ。俺はドワーフだろ。だからやっぱりバトルアックスだ。俺が造った中でも、ありゃあ一番の出来だ。ああ、間違いない」

「……一週間も、寝ないで鍛冶をしたんですか?」

「ああ、嬢ちゃんの歌を聴いてから、力が湧いて湧いて。眠くなんかひとっつもねえ」


(いや、それはやばいですよ)


 私が目で言うと、三十おじさんと金髪お姉さんもため息をついた。


「なあ、嬢ちゃん、またあの曲を歌ってくれ。祝い酒だ」

「駄目駄目駄目駄目。あの歌は、今はやめたほうがいいですよ」

「ん、そうか? 何でだ? まあ、いいか。じゃあ、なんかこう、今の俺にふさわしい、何てえかな? まあいい、嬢ちゃんが歌いたい歌を、聴かせてくれ。いい気分なんだ」


 豪快に笑う頑丈おじさんに、今一番必要なものは、間違いなく睡眠だ。

 私は歌った。

 メロウなバラードを。

 今度は喉の渇きもなく、伸びのある高音を出すことができた。


『まっさらな夢』のようなアッパーな曲を待ち構えていた頑丈おじさんは、最初は面食らっていたけど、目を閉じて体をわずかに揺らしながら聴いてくれた。


 五分十五秒。


 歌い終わると同時に、頑丈おじさんはグワバッターンと倒れた。

 後頭部を強打する倒れ方で、見ていた私たち三人(つまり前回と同じ閑古鳥状態だったのだ)は叫んだ。


「グマ爺!」

「グマ爺!」

「頑丈おじさーん!」


斧が完成してよかった! 

そして倒れたグマ爺はいったいどうなるのか?


では、また。

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