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1  勇ましく駆け出して

こんばんは。こんにちは。おはようございます。

小町翔石と申します。

2026年5月1日現在、「ばんざいやまのお友だち」という童話も

投稿させていただいております。そちらもご覧いただけたら嬉しいです。


では、どうぞ。

 私の門出を祝うかのように、空は青く、日差しは柔らかく、雲は真っ白で寝心地がよさそうにふわふわと浮かんでいた。


「それじゃあ、おじさん、おばさん、行ってきます」


 玄関まで見送りに来てくれた二人に選手宣誓のように言って、私の足は自然と駆け出さずにはいられなかった。


「本当に一人で大丈夫か?」

「大丈夫よ。保護者同伴のほうが恥ずかしくて大丈夫じゃないわ」

「気をつけるのよ。なんかあったらすぐ電話してね」

「わかった。遅くなっても晩ご飯には間に合うようにするから」


 おじさんもおばさんも、心配性というか、過保護というか。

 まあ、いい人たちではあるんだけど。

 眉の間に皴を作って。

 それとも、私があっけらかんとしすぎているのかな? 

 数分前のリビングでのやりとりを思い出して、私は笑をかみ殺した。


 背中にはギター・ケース。

 向かうは某公園。


 ギターは中学の卒業記念に買ってもらったものだ。

 おじさんもおばさんも、そんなに高いのはいいって言ったのに、これから何十年って使うんだからって。大学生の亜由美お姉ちゃんにだって、いろいろとお金はかかるはずなのに。

 私は宝物でもあり相棒でもあるそのアコースティック・ギターで、夢への第一歩を踏み出すのだ。

 強く、高らかに。


 駅に着いたときには、上着を一枚薄くしてきて正解だったと思った。

 衣装を汚したくはないので、ギター・ケースへの衣装の接着面を減らすために一旦下した。

 正式な名称は知らないが、鏡のように私を映すものがあった。


 ギターを持った自分。

 他人からはどう映るのだろう?

 私には誇らしく見えた。

 これから、これからだ。

 

 ワクワクしかなかった。

 だって、ドリームズ・カム・トゥルー、なんだもん。

 ホームに電車が入ってきて、たくさんの人が下車し、私を含めたたくさんの人が乗り込んだ。

 邪魔にならないようにギター・ケースは下ろしたままで、二駅、私は揺られた。


 その車両には当然、私以外の乗客も多々いたのだけど、目に入らなかったというのか、気に止まらなかったというのか。

 私の心はもうすでに公園にいた。

 

 そして十数分後、私は実際に公園に立っていた。

 アコースティック・ギターをチューニングして、ギター・ケースを広げて置いて、発声練習をして。さあ、歌うぞ。


 土曜日の二時前からたっぷり二時間、私は喉を披露した。

 私の声を聴いて、すぐに去っていく人もいた。

 それは当然、がっかりした。

 でも、地べたに座って、曲が終わるごとに拍手をくれる二人連れの女性もいた。

 

 よかった、私の歌が届いたんだ。

 

 歌っているうちに聴いてくれる人は増えていき、途中からは何重かの半円が出来上がっていった。

 私は夢中で歌っていたので、ざっくりと


(何曲歌ったから今はきっとこれくらいの時間だな)


 とは思っていたけど、何度目かの休憩で確認するまで、四時になろうとしていたことにまったく気がつかなかった。


「ここまでお付き合いくださってありがとうございます。時間的に、すみませんけど、次で最後の曲とさせていただきます。私が初めて作詞・作曲した、オリジナルです。何だか秘密の日記を読まれてしまうようで恥ずかしいんですけど、聞いてください」


 えーっの後に拍手が起こって、どちらも嬉しいリアクションだった。

 ふうと一つ息を吐いてから、私は歌った。

 ギターを外してお辞儀をすると拍手が起こり、開いておいたギター・ケースに投げ銭をくれる人が一人、また一人と現れた。


 金額がどうこうではなく、認めてもらえたこと、好意を持ってもらえたことが、心にぐっと来た。

 私のストリート・ミュージシャン・デビューはこんなふうにして終わった……と思わせておいて、終わらなかった。


「お疲れ様」


 缶ジュースを差し出して、モエコさんが労ってくれた。

 優しい笑顔だった。


 モエコさんは、私がストリート・ミュージシャン・デビューをするにあたっていろいろとノウハウを教えてもらった先輩ストリート・ミュージシャンだ。


「初めてであれだけ歌えるなんて、度胸があるわね。才能もあるわ」

「そうですか? そう言ってもらえると自信になります」


 と話している間にも、投げ銭をくれる人がいて、私は


「あ、ありがとうございます」


 と頭を下げた。

 その人は手を振って去っていった。

 そうしてからまたモエコさんに向き直った。


「私のほうが緊張してたみたい」


 モエコさんが笑うので、私も釣られて笑った。

 歌いながら、何回か目の端にモエコさんを確認してはいたけど、私のことをそんなにも気にかけてくれていたと知って、情に厚い人なんだなあと、心が温かくなった。


 それだけじゃない。

 モエコさんは綺麗で美人で背もすらっと高くて、モデルみたいな人なのだ。

 歌声も歌う様も迫力があって、一節聴いて私はぶっ飛んだ。

 この人ならと、私は声をかけてみて、そしてそれは正解だった。

 外身だけじゃなくて中身も綺麗な人だったのだ。

 大学の軽音楽部で活動していて、バンドを組んでいたのだけど、事情があって今は独りでストリートで歌っているらしい。

 事情というものを詳しくは聞いてはいないし、聞くのもなんか失礼な感じがしたので、何となく、こんな感じなんだろうなと思いはしたけど、触れないままでいる。

 きっとこれからも、私から尋ねることはないだろうとも、思う。


「これからどうするの?」

「おじさんとおばさんが心配して待ってると思うので、今日はもう帰ります」

「うん。そのほうがいいわ。それに思った以上に気疲れしてるはずだから、ぐっすりと眠れるわよ、きっと」


 私は頷いて、人の半円が無くなったギター・ケースのほうを見やった。

 視線が固まった。

 人が倒れる瞬間というものを、見てしまったのだ。


「大丈夫ですか?」


 私は駆け寄った。

 でも何の反応もない。

 声をかけて肩を揺すってみた。

 やはり反応がない。

 モエコさんに救急車を呼んだほうがいいのかどうか仰ごうと「きゅ」と言ったときに「ううん」とその人は目を覚ました。


ご覧いただきありがとうございます。

「ミ・ユ・キ」は何曜日の何時頃に投稿する、という今までの私のやり方を変えて

連載させていただこうかと思っているのですが、どうでしょうか?

何曜日の何時頃に投稿する、と決めて連載したほうが良いでしょうか?

皆様の反応によって変えていこうと思っているので、お声をお聞かせいただければ幸いです。


では、また。

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