ミネラルド国への序章
「……以上が、ここ最近のゼブラの街周辺での状況ですわ。」
リナの声が広い室内に響く。
ここは一応執務室……となっているが、実質俺の私室だ。
部屋はたくさん余っているが、移動するのが面倒なので、ここに仕事を持って来てもらっている。
一応体裁を繕うためにベッドなどプライベート空間は奥で仕切ってあるので、ぱっと見執務室らしくはなっている……はず。
「やはり、人族の影は見られないか……いったん引き上げたとみて間違いないだろうな。……ところで決まったのか?」
俺はリナに確認する。
ミネラルド国に一緒に行くのを誰にするかというので、先日から揉めているらしい。
情報収集等があるのでリナかリィズ、感知能力は高めの人材が欲しいので、カナミか、ミリィのどちらかは来てほしいとは伝えてあるので、それ程揉めないと思ったんだが……。
「えぇ、色々ありましたが、セレナーデ2号店のDXパフェモンスターでリィズさんに譲りました。」
DXパフェモンスターはリィズの大好物だ……それより同行を望むなんて……。
「ミネラルドにはパフェなんかないぞ?それでもいいのか?」
「はぁ……。パフェより大事なものがあるんですよ。」
「……そういうものか?」
「そういうモノです。」
あまり深くは聞かないでおいた方がいい様な気がした。
「じゃぁ、リィズと……あとは誰だ?」
「さぁ?昨日ミリィさんとリィズさんとレイファさんが何かお話をしていましたが……後、ソラさんが拗ねていますので、後でフォローしておいてくださいね。」
「……まぁいい。2~3日後には出ようと思うが、何か問題はあるか?」
「そうですね。オーガ族とサキュバス族の集落が出来上がりましたので視察をお願いしたいのと、ハーピー族、魚鱗族、リザード族の集落候補地の整備をお願いしたいと思います。」
「あー、結局アイツらも、ここに住むってか。」
元々、サキュバス族とオーガ族の窮状を救うための救済措置だったのに、なぜか一種のステータス扱いになってしまった魔王島の移住権。
一応、魔王島に移住するためには、種族全体との命約を条件にしているが……。
一般的な同盟と同義の盟約と違い、命約とはその字のごとく命そのものを命主に預けるという、まさに生殺与奪の権利を命主が持つかなり重いものである。
種族全体で命役を結んだ場合、末端の者がしでかした背信行為であっても、種族全体が滅ぶ危機となる為、余程の事がない限り、結ばれることはない……のだが。
「ここに住みたいってだけで、命約結ぶとか……魔族の命、軽っ!」
「それだけ、ご主人様の御威光があるという事です。」
リナは、そう言いながらも目を逸らしている。
「あと、魚鱗族とリザード族に関しては、ご主人様ではなく、それぞれスイ様とラン様との命約になっておりまして、スイ様、ラン様よりの要望として挙がってきております。尚、ハーピー族はソラ様を命主にとの要望がありましたが、ソラ様自身の手で制裁済です。」
……俺の威光関係ないじゃん?
「スイちゃんとランか……ま、いいんじゃないの。後で話を聞いてくるよ。ハーピー族は……まぁ、ソラに任せておけばいいだろう。」
この島に住むドラゴン……ダークネスドラゴンのダーちゃん、ファイアードラゴンのラン、アクアドラゴンのスイちゃんとは『義の契り』を結んでいる。
これは、簡単に言えば、絶対にに裏切らないよ、何かあったら助けるよ、というようなことを誓約で縛ったものだ。
だから、スイちゃん達を命主としたならば、スイちゃんと俺は義の契りによって結ばれている為、俺を裏切る=命主に背くという事になるため、俺に生殺与奪の権がない事を除けば命約した種族と何の変りもない。
むしろ、俺が責任を負わなくても済む分、みんなそうしてもらいたいぐらいだ。
「じゃぁ、そのあたりの処理は任せる……後で、展望室へ来てくれ。」
俺はそう言って、リナを下がらせる。
実際、リナの処理能力は群を抜いて優秀だ。
今は、俺専属のメイド兼秘書兼護衛兼愛人のような立場にいて、城内の事から、外交に至るまでの一切を任せている。
リナ一人では大変なのだが、意外とミーナが役に立っているらしく、ミーナをはじめとしたメイド隊がリナの指揮の下、様々な所で活躍しているらしい。
最近では鬼人のセイラがリナを手伝ってくれるようになって、リナの負担も半減しているが、もう少し文官の人材を確保したいところだ。
「カナ、ミリィ、リィズ、ソラ、展望室へ来てくれ。」
俺は、4人に指示を出すと、展望室へと向かう。
展望室は露天風呂のすぐ真下に設置されていて、360度見渡すことが出来る絶景スポットだが、実際には、島内運営の作戦室として使用することが多い。
この世界にはレーダーなんてものもないので、実際に見ながら計画を練るには、都合がいいのである。
「みんな揃ったか?じゃぁ、リナ、状況の説明を頼む。」
俺は皆のかをを見回すと、今の魔王島の開発状況の現状を、リナに説明してもらう。
リナは、眼下に見える場所を指しながら説明を始める。
「まず、この城に一番近い草原地帯にサキュバスの集落が完成しています。……あそこですわね。」
リナが指し示すところを見ると、建物が固まって建っている場所が見える。
「そこから少し森の方へ移動したところ……あそこです。そこが、オーガ達の集落となります。」
ちょうど森との境目になっている所だ。
鉱山も近い所にあるので、採掘なども手伝ってくれるだろう。
「それから、こちらの方……あのあたり一帯が魚鱗族の集落になる予定です。」
海辺の、ビーチからかなり離れた岩場と森のあたりを、リナが指し示す。
魚鱗族とは、マーマンやマーメイド、サハギンなど、要は半魚人とか人魚とか呼ばれる種族だ。
基本的には海の中での生活になるが、一部種族が陸に上がることもあるので、人気のない岩場付近を割り当ててある。
「あの岩の上で、人魚が歌ったりすれば絵になるねぇ。」
カナミがそんな事を言ってくる。
確かにな。……一度リクエストしてもいいかもしれないな。
「ボクも歌うよー。」
ソラが乗り気だ。
「縄張りを荒らさないように。ソラ達の場所はあっちだ。」
俺は島の北側にそびえたつ岩山を指す。
「今、ご主人様が指し示した辺りがハーピー族のテリトリーとなります。彼女たちは決まった住処を持たず、高く険しい岩山や断崖絶壁を住処としますので、あの岩山から北部の海岸線までを割り当てています。テリトリーさえ指し示せば、勝手に巣作りとかしますので、基本放置で構いません。」
「そうなのか?」
結構いい加減な扱いに、心配になって聞いてみる。
「えぇ、逆に、彼女たちに細かい事を言っても無駄です。……鳥頭ですから。」
ハーピー達には、単純明快最低限の事だけをはっきりと、じゃないとダメらしい。
ソラも最近毒されてる気がするので、ちょっと勉強させないといけないかもしれない。
「最後にリザード族ですが、彼らは種族ごとに住む場所の好みが違いますので、やや変則的になります。具体的には、ラン様のダンジョンとその前一帯の森から少し伸ばして、あのあたりの草原地帯、そしてさらに伸ばして凍土側の湿地帯。途切れ途切れにはなりますが、種族特性としていた仕方がないと思います。」
そう言ってリナは、ファイアーダンジョンからフェンリルの凍土辺りまでを指し示す。
「あの辺りは、まだ未開拓地だからな。リザード族には開拓しつつ探索するように伝えてくれ。」
俺が言うと、わかりました、とリナがメモに書き留めていく。
「とりあえず、魔王島に住む種族と割り当てはこんな感じだが、何か意見はあるか?」
俺は、皆に確認するが、意見は無い様なので、次へと進む。
「次は特産物についてなんだが。」
俺は、皆にわかりやすいように説明を始める。
「島内で自給自足は問題なく賄える。ただ、それだけだと飽きが出てくるだろ?折角、ポメラとゼブラという人間族領と魔族領に窓口があるんだ。人族、魔族間で物資の流通を図れば、儲かるんじゃないかと思うんだ。だから、島内で何か特産物になりそうなもの見かけたりはしないか?」
ポメラの街は獣人の国とは言え、ヒューマン種の出入りもかなり激しい。
獣人達独自の物品が珍しいと、結構いい値で取引もされている。
そこに魔族領の物品を持ち込めば更に人気が出ること間違いないだろう。
貿易の拠点ともなれば、ポメラの重要性が増して、そう簡単につぶすことも出来なくなる。
逆に、人族の物品には、魔族領でないものが数多くある。
その代表的なものが魔術具だ。
着火用の道具や、冷蔵庫などでさえ、魔族領にはなかった。
ゼブラの街は、なんだかんだと多種族が入り混じっているが、サキュバス族に続きオーガ族を保護した俺を見て、アドラーが「この街の管理は任せた」と言って押し付けていったので、多少の無理は押し通すことが出来る。
この街に便利な魔術具があふれかえれば、噂を聞きつけた他の街の魔族が買い付けに来るようになるだろう。
人の動きが活発になれば、魔族領の情報ももっと得られるようになる。
貿易による儲けより、こっちの目的の方が重要だったりする。
「ウーン、お米ぐらいかなぁ。今は私達の分ってことでそんなに作ってないけど、特産物にするならちょっと、場所を広げないといけないけどね。」
カナミがそう言う。
確かに、人族領も魔族領も、俺の知っている限りでは米はなかった。
ミリィ達や、オーガ達の反応から見ても、米はそれなりに受け入れてもらえるとは思う。
「とりあえず、候補1だな。他には?」
「あのね、ハルピュイア達の抜け羽が凄いの。アレ何かに利用できないかなぁ?おにぃちゃん、この間、欲しがっていたでしょ?」
ハルピュイアの羽を使った、羽毛布団や枕、クッションなどの羽毛グッズ。
ソラに言って集めさせて、試作してみたが、あれは確かにいいものにはなる。
「職人育てないとなぁ……俺一人じゃ無理だ。一応候補2な。」
「そう言うのなら、魚鱗族やリザード族、後はダーちゃん達の鱗でなんか作るのはどうっすか?」
「鱗って抜けるのか?」
「知らないっすけど、必要なら、強制的に剥ぎ取るっす。」
可哀想だからやめてあげて。リィズが言うと冗談に聞こえないから。
「まぁ、一応自然に抜けるかどうか確認してからだな。後、やっぱり職人育てないとな。」
その後も色々な意見が出たが、中々これというものは出てこなかった。
「まぁ、これくらいだな。リナ、とりあえず、今までの意見をまとめる事と、開拓、探索時に何かあったら報告が上がるように手配しておいてくれ。」
俺はそう言ってリナを下がらせる。
「で、誰が一緒に行くか決まったのか?」
リナが出て行った後、俺は4人の顔を見回す。
「決まったっすよ。私とカナミがついていくっす。……その代わり、にぃにとのイチャイチャ禁止されたっす。」
「そう言う事です。これから出発までは私とソラがレイさんを独占することになりました。」
そう言って、抱き着いてくるミリィとソラ。
後ろではカナミとリィズが羨ましそうに指を咥えて見ている。
まぁ、しばらく置いていくから仕方がないのか。
俺は出発までの間、ミリィとソラを重点的に可愛がることになったのだった。
「じゃぁリナ、少しの間留守を頼んだ。何かあればミリィを頼れば大丈夫だから。」
ゼブラの街まで見送りに来てくれたリナに言う。
正直、種族間のトラブルなども考えるとミリィが残ってくれるのは助かる。
実務に関してはリナの手に余るほどの事が起きたならば、即帰還する予定だ。
俺は手を振ろうとして諦める。
代わりに、俺の両腕にしがみついている、カナミとリィズが手を振ってくれた。
「レイにぃ、まずはどこへ向かうの?」
「あぁ、このままレミアのダンジョンへ向かう。」
「レミアのダンジョンって転送陣があったっすよ?」
俺の言葉に、不思議そうに首をかしげるリィズ。
確かに転送陣があるので、そこに飛べばよかったんだろうが。
「一応、ここから、レミアのダンジョンまで怪しい奴がいないか確認しておきたくてな。」
「成程っす。」
俺達は気配感知の範囲を最大限に広げながら、レミアダンジョンまで進んでいった。
「……というわけで、あそこではゴールドが使えないんだ。」
「じゃぁ、どうするんすか?」
「以前稼いだ分が少し残っているはずだ。入国登録したら、ダンジョンに潜って、少し稼ぐかな。」
俺は道中、カナミとリィズにミネラルド国の事を教えてやる。
初めて聞く事に、二人とも興味津々のようだった。
「そうだな……あとは、一人職人を勧誘できるといいんだけどな。」
「アテはあるの?」
「あぁ、凄腕の鍛冶職人がいる。」
カナミの言葉に俺はケイオスを呼んでみせる。
「これの原型を作ったのが彼女だ。」
「レイにぃが作ったとばっかり思ってたよ。すごいね。」
カナミが賞賛する横で、リィズが膨れている。
「リィズどうした?」
「また女っすか……。」
「いや、まぁ、女性だけど……。」
「ヘタレのくせに、いつもいつも女をひっかける天然たらしっすね!」
うー、とリィズが威嚇してくる。
どうにかしてほしいとカナミを見るが、カナミも、はぁ……と大きなため息をついている。
「えーと、彼女はそう言うのじゃなくて……。」
「レイにぃ、そんなことはどうでもいいの。私もリィズも1週間近くお預けを食らってたのよ。それをやっとイチャイチャできる!と思った矢先に女の子の話されて……ちょっとは察してよ。」
カナミが少し拗ねたように言ってくる。
リィズは完全に拗ねてしまっている。
「えーと、ごめん?」
とりあえず謝りながら、俺は二人を抱きしめる。
……しかし、これって俺が悪いのか?
(まぁ、レイが悪いわね。)
(そうよ、全部レイが悪いんだから!)
ファーとエアリーゼが急に出てきて、俺を責め立てる。
最近、戦闘時以外は、どこかにふらふらーと行ってしまうので、こういう何でもない時に話をするのは久しぶりだった。
(大体、レイだって、ブランの気持ちに気づいてないってわけじゃないでしょ?)
「まぁ、そうなんだが……。」
(それを勧誘しようって言うなら、それなりの覚悟と誠意をもたないと、かなり質が悪いわよ。)
「……という事なんだが……どうかな?」
俺は二人にブランの事、これからの事を説明する。
「まぁ、後はそのブランさんがどう思うか次第だわ。……この状況でも、来るのなら受け入れてあげるわよ。」
全くもぅ……とカナミが呆れたように言う。
「……まぁ、愛人枠は空いてるからいいっすよ。今更何言っても無駄っすね。」
リィズがまだ拗ねている。
仕方がないので、しばらくお姫様抱っこで運ぶことにした。
レミアダンジョンの入り口につく頃にはリィズの機嫌も直ってくれた。
「ここから入ると40階層に繋がるので、そのまま人族側の階段を上って38階層まで上がるぞ。」
俺はそう言うと、扉を開けてくぐる。
そのまま39層へ上がるが、39層にはモンスターはいなかったので、そのまま38層へ。
『灼熱の大爆発!』
俺は38層に上がると同時に39層へ続く道を破壊する。
壁が崩れ落ち、瓦礫に埋もれて39層へ行く道は完全に閉ざされる。
「にぃに、何するっすか!」
「レイにぃ、私達帰れなくなる。」
俺の突然の行動に、二人が慌てふためく。
「落ち着け。こうしておけば、ここから魔族領へは行けなくなるだろ?後、帰りはミネラルド国内に転移陣を設置してあるから安心しろ。」
俺が言うと、二人は戸惑いながらも落ち着いてくれる。
「とりあえず、25階層を目指すぞ。ここのモンスターはそんなに強くないが油断はしないようにな。」
俺は二人に、先に進むことを促す。
「水の刃!」
リィズの双剣から水の刃が放たれ、モンスターを切り刻む。
「氷の槍!」
カナミが放つ氷の槍が、モンスターを貫く。
「夢幻舞闘斬!」
リィズが舞うようにモンスターの群れを切り裂いていく。
「メガトン・クラッシュ!」
カナミが巨大化したメイスを振りお落とす。
衝撃で倒れていくモンスターたち。
結局25階層に辿り着くまで俺の出番はなかった。
25階層、ここにはフロアボスがいるのだが……。
(ファーリース、久しぶりにアレやろっか?)
(アリゼ姉様、やりましょうか。)
((というわけで体貸してね))
ファーとエアリーゼが、それぞれ、俺とリィズと融合する。
(ジェットストリーム!)
リィズを介してエアリーゼが魔法を放つ。
渦巻く風の奔流がキメラサーペントを捕らえる。
(ライトニングトルネード!)
ファーが俺を介して魔法を解き放つ。
雷撃を帯びた竜巻が風に囚われているキメラサーペントを更に包み込む。
((ファイナル・テンペスト!!))
ファーとエアリーゼの声が重なる。
俺とリィズを介して放たれた魔法が一つとなり、キメラサーペントを中心に周辺を巻き込む。
吹き荒れる暴風と電撃によるダメージ。
自由が奪われ、暴風の内部でのたうち回るキメラサーペント。
やがて、キメラサーペントが動かなくなり、暴風も収まっていく。
辺りが静けさを取り戻すころには、一切合切吹き飛ばされて綺麗になったフロアと、キメラサーペントの死体だけが残された。
((やったね。))
二人はご機嫌だった。
俺は、フロアの隅へ移動する。
そこには、あの暴風にも耐えきった結界に囲まれた転移陣があった。
「ふぅ、無事でよかった。」
「転移陣すか?」
「そう、ミネラルド国の街中に移動する一方通行の簡易的なものだけどな。」
このままダンジョンを上っていけば、出口でギルド職員に見つかる。
そうすると「どこからダンジョンへ入ったか?」で揉めることになる。
現状で、転移陣の事がミネラルド国王サガの耳に入るのは避けたい。
街に入ってしまえば、どう入国したかなんてことはどうにでも言い訳が出来る。
「二人とも、こっちへ。」
俺は二人を転移陣へと招く。
二人が俺の横へ来たところで、魔力を流し転移陣を起動させる。
光が消え、部屋の片隅に移動したことを確認する。
俺は扉を開け、ちょっとおどけて二人を誘う。
「ようこそ!ミネラルド国へ!」




