奴隷と鉱山とダンジョンと
「さぁ、出なさい。楽しい時間の始まりよ!」
「くッ!」
俺は引き立てられながら目の前にいる女……エミリアを睨みつける。
「ダビットは……ポメラ王国はどうなった。」
俺は一番の気がかりをエミリアに訊ねる。
ポメラ王国建国……この件の状況次第で、この先行きが決まる。
「その様な事、あなたには……いえ、面白そうね。たまには付き合ってあげようかしら?」
俺はそのまま拷問室へ連れていかれる。
珍しくエミリアも一緒だ。
俺は、早速張り付けられ、鞭打たれる。
ピシッ!ピシッ!
「グッ……」
俺は打たれるたび、呻き声を漏らす。
それを見て、エミリアは笑い声をあげる。
俺が痛めつけられているのが、よほど気に入ったらしい。
「いいザマですわ。……あなたの所為で、計画に支障が出ているのですから、これくらいは楽しませてもらいませんと。」
「グッ……何のことだ……?」
「あなたが精霊の御使いなんて言うから警戒してたのですが……連れている者が精霊使いだったんですってね。見事に騙されましたわ。」
「勝手に勘違いしたのは……グッ……そっちだろ。俺には関係ねぇ……。」
「そうですわね。でも、腹立たしいことに変わりはありませんわ。だから……。」
「ウグッ……。」
エミリアとの会話の間も、鞭打ちが途切れることはない。
「あなたの歪む顔が見たいのですわ。」
ピシッ!ピシッ!
「グッ……、好きなだけ……見ればいいだろ。」
「いつまでその態度が続くかしら?……そうそう、ポメラ王国でしたね。近いうちに建国されますわ。……私を王妃に迎えて……ね。」
エミリアの顔が愉悦に歪む。
エミリアが自慢気に話したところによると、あの屋敷の火事はアルガード王国に雇われた冒険者……つまり俺達の事だ……が欲に駆られて火を放ち財産を持って逃げたという事になっている。
しかし、強盗に見せかけた事件の裏にはアルガード王国が、建国の邪魔をする為会談の最中に要人殺害を企んだのではないかと言われている。
その真相を、今捉えた犯人……つまり、俺だ……の尋問によって明らかにしようとしている……らしい。
また、無事助け出されたエミリアは、亡き祖父の志を継ぐため、ポメラ王国建国に奔走し、建国の暁には両国の懸け橋となるべく、ダビット初代国王に嫁ぐことになっている……そうだ。
「大夫いい顔になってきたわね。ついでにもう一つ教えてあげましょうか。あなたの側にいた女たちが、あなたを助け出すためにノコノコと顔を出すんじゃないかと、網を張っていたんだけど、、どうやら国外に逃れたようよ……つまり、あなたは見捨てられたのよ!」
俺の顔が驚愕に歪む……。
「オホホ……、そうよ、その顔が見たかったのよ!貴方は近日中にミネラルド国へ奴隷として売られることになったわ。……そう、有名なあの国よ。もう顔を見ることはないでしょうけど、お達者で。オホホホホホ・・・・・。」
エミリアは高笑いを残して部屋から出て行った。
俺はしばらくしてから治療を受け牢に戻される。
奴隷として高く売る為には、弱らせすぎてはいけないのだ。
「クッククク……。」
俺は一人になると、笑みをこぼす。
今まで笑いをこらえるに必死で……それが苦痛に歪んだ顔に見えた事だろう。
エミリアの言葉で驚愕したのは、油断だったが、まぁ、勘違いしてくれたようで助かった。
あの時、俺が驚いたのは、まさかエミリアの口からあいつらの無事が聞けるとは思ってもみなかったからだ。
エミリアは、俺に、見捨てられたんだ、助けは来ないんだという事を強調したかったのに違いないが、俺はあいつらを逃がすためにワザと捕まったのだから、国外へ逃げたという事がわかったのは朗報だった。
あとはどうやって逃げ出すか……だけど、せっかく油断しているんだから、ここはしばらく大人しくしていよう。
エミリアの話ではミネラルド国へ売られるらしいが……リンガードから出てから動いた方がいいかもな。
ミネラルド国。
四方を険しい山と深い森に囲われ、唯一開けた方には広大な砂漠が広がっている、一度入ったら出られない陸の孤島ともいうべき国だ。
他国との国交は飛空艇にて行われており、国王自らによって徹底管理がなされている。
国民の90%が奴隷もしくは奴隷上がりの者で、現国王も元奴隷だったという。
国内には良質の鉱山があり、ダンジョンが発見されている。
また、森の向こう側が魔族領の為、魔族との小競り合いが絶えない。
つまり、坑夫として、ダンジョン調査の露払いとして、対魔族の肉壁として使い捨てに出来る奴隷はいくらあっても足りないという事だ。
そこに売られるという事は……生きて国外へ出ることは99%不可能という事を指す。
……まぁ、リンガードもアルガードもポメラ王国も、ここ1~2年でどうこうとはならないだろうし……、しばらくミネラルド国でゆっくりするか……ダンジョンに興味もあるしな。
そう、ダンジョン……ロマンあふれる響きだ。
一度行ってみたいと思っていた場所だ……以前のは急すぎて、何が何だかわからなかったからな。
だが、こういう状況で行くことになるとは思ってもみなかった……出来ればアイツらと一緒に楽しめればよかったんだけどな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「最果ての国へようこそ!私はあなた方を歓迎するわ。」
今回、この国に売られた奴隷は、俺を含め15名。
俺達の前に一人の女性が立っている。
「あなた方の処遇について、私キラルゥが説明させていただきますね。」
これからの事を説明してくれるそうだ。
「あなた方はこれから三等奴隷として遇されます。三等奴隷はこれから案内する最下層で寝泊まりしていただきますが、今後の働きによっては等級が上がり、住処も良くなっていきますから頑張ってくださいね。」
奴隷にも階級があり、下から「三等」「二等」「一等」と上がっていく。ここまでが下級奴隷だそうだ。
そこから「初級」「三級」「二級」「一級」と中級奴隷の階位が続く。
そして「D級」「C級」「B級」「A級」と上級奴隷のクラスになる。
A級の上には「S級」があり、S級になれば身分は奴隷のままではあるが、一般人と変わらぬ扱いを受けることが出来るようになる。
更にS級に上がったのち、自らの見受け金を払えば自由を買い戻すことが出来るという……つまりそこまでいかないと、この国から出ることが出来ないというわけだ。
もちろん自由を買い戻した後は、国を出てもいいし、この国でのし上がっても構わない。
今の国王はそうしてトップにまで上り詰めた男だ。
「この国では『ミネラ』という紙幣しか通用しないわ。よって、あなた方に支払われる報酬も、あなた方が使う通貨も全て『ミネラ』になります。」
この国独自の通貨で、レートは100ミネラ=1Gらしい……この国を出る時には換金してくれるそうだ。
「ここではミネラがすべてよ。ミネラなければ食事もできないわ。その代わりミネラさえあれば何でも買えるのよ。食事、武器、女……。」
自由もね……とキラルゥが言う。
「ネェチャン、アンタも買えるのかい?」
近くにいた男が、下卑た笑いをしながら言う。
「モチロン、相応の代価をいただければ……ただし高いわよ。それまで生きていられるといいわね。」
「質問だ、ここでミネラを稼ぐにはどうすればいい?」
俺は一番気になっていたことを聞く。
「そうね、色々あるけど、基本は鉱山とダンジョンかしら?」
ここでは、強制労働等の縛りはない。ある意味自由だ。
しかし、ミネラがなければ食事もままならない。
なので自主的に稼ぎに出るしかないというわけだ……よくできている。
「鉱山は、そのままよ。指定された鉱山で坑夫として働いてもらうわ。一日の終わりには500ミネラの給金が支払われるわ。また、レア鉱石を掘り当てた人には、レア度に応じたボーナスも支給されるわよ。」
ここの酒場での食事は、モノにもよるが、大体100~500ミネラかかる。
贅沢をしなければ、何とか生きていけるというところか。
「ダンジョンはそれなりに腕に自信がなければお勧めできないわ。」
ダンジョンでは探索が任務だそうだ。
しかし、ダンジョン内で見つけたものは全て強制的に買い取られる……この買い取り金額が稼ぎというわけだ。
ダンジョンで見つけたものは、後日ショップにて売り出されるので、ミネラさえあれば自分のモノに出来るらしい。
また、ショップに出されるまでは、見つけて来た者に優先権が与えられるので、レアアイテムを手に入れたければミネラを沢山稼いでおくことが必須なんだそうだ。
ただ、モンスターも徘徊しているので武器がないと生き延びることは難しい。
ある程度稼いだ奴隷は、ダンジョンで見つけた武器を買い戻して使用するらしいが、ミネラのない奴隷には武器一式を貸し出してくれるらしい。
貸出料はダンジョンから帰ってきたら支払うことになるが、そこで支払えなかった奴らがどうなるかは誰も知らない。
そのまま連れていかれて戻ってきた奴がいないからだ。
また、上層にあるギルドから、定期的にダンジョン依頼が出されているので、それをクリアすれば報奨金がもらえるという。
「ある程度軍資金が溜まって、腕を磨いたらダンジョンで稼ぐのが自由への早道よ。」
……というより、ダンジョンで稼ぐ以外、上にあがるだけのミネラを稼ぐのは難しいだろう。
力がすべて……か。
「以上で説明は終わり……ギルドなんかの施設の説明も残っているけど、あなた方が、それを利用するまで生き残っていられたら、その時説明するわね。」
それから1週間……俺は様子を見ていた。
一応毎日鉱山に行く……とりあえず無一文では話にならないからな。
最低限の食事と日々の細々とした出費で、手元には1000ミネラも残らなかった。
「確かに、これじゃ生きていけないな。」
1週間観察していれば色々なことが分かる。
鉱山だけではその日食べるのがやっとだ。
だから他の手段で稼ぐしかない。
女達は、男から金を取って抱かれている。
抜け目のないは情報を売り買いしているのもいる。
弱い者を従えて、上納させている者もいる。
だが、それだけだ……ここを抜け出せないから、ここで生きていく方法を考えている……それだけだった。
「なぁ、よかったらパーティ組まないか?」
ある日、そう声をかけてくる男がいた。
ダンジョンに一人で挑むのは無謀。
分け前が減るが、それでも生きて帰ってこその稼ぎだ。
だからパーティを組むのは当たり前のようになっているが……。
「いきなり、言われてもな。」
「あぁ、失礼した。僕はカルディ。んー、情報屋ってところかな?」
「その情報屋がなぜ俺に?見ての通りの新人だぜ?」
「それだよ、その言い方。普通自分でそんなこと言わない。……よほど余裕のある奴以外はね。」
……そんなものか?
「ここで生き抜き、のし上がろうとするなら、情報も大事だけど、それ以上に力が必要だ。そして、僕みたいに力のないものは、力のあるものに寄生するしかないのさ。」
「何故、俺を?力があるかどうかも分からないだろうに。」
「うーん、なんとなくかな?だから、今回はお試し。お互い納得いかなければそれっきり。どう?後腐れなくっていいでしょ?」
……まぁ、一度試しにダンジョンに行こうと思っていたから、悪くはないが……
「条件は?」
「そうだね、今回はお試しだから契約料は無し。稼ぎは、君が2/3持って行っていいよ。」
「えらく気前がいいな?」
こういう手合いは何か隠している場合が多い。
「あぁ、僕、探している物があるんだ。だから、もしそれが見つかったらボクに優先権をくれる事。それが条件だよ。」
「探しているモノってなんだ?」
「それを言っちゃぁ、足元見られるでしょ。だから、ダンジョンを出る前に、最初にアイテムを一つ選ばせて。それが目的のものであってもなくても、最初に選ぶのは僕。それでどう?」
悪い条件じゃないと思うけど……とカルディは言う。
確かに悪い条件ではない。
「いいだろう。丁度、ダンジョンに行こうと思っていたしな。」
「契約成立だね。じゃぁ、明日はダンジョンだから遅れないでよ。」
そう言って、カルディは去っていった。
翌日、俺は普段寝泊まりしている最下層から4階層上の広場に来ていた。
ここは下級奴隷たちの溜まり場だ。ここにギルドの窓口があり、酒場があり、斡旋所やShopがある。
要は、此処を起点に生活があるという事だ。ここより上に行きたければ階級を上げるしかない。
「あら、レイフォードちゃんじゃない?珍しいわね、今日はどうしたの?」
俺を見かけたキラルゥが声をかけてくる。
彼女は、なぜか初日から俺を気にしているようで、鉱山に行く前や帰って来た時、必ず声をかけてくる。
鉱山に行くのなら、もっと早い時間だから、この時間にここに居る俺が珍しかったらしい。
「いや、ダンジョンに降りてみようと思ってな。」
「だったら、そこのショップで武器を買っていくといいわ。初めてなんでしょ?レンタルでもいいけど、今後もダンジョンに行く気があるなら、ショップで買っておいた方がいいわよ。」
「あぁ、忠告感謝する。」
ショップの武器は最低でも500ミネラする。
初心者が潜れる程度の浅い階層ではいいところ300~400ミネラを稼ぐのが精々だ。
悩むところだけどな……。
それより、わざわざ忠告してくれるキラルゥの真意は……。
「よほど気にいられているみたいだね。」
背後からカルディに声を掛けられる。
「どうだかな。」
俺は肯定も否定もせずとりあえず武器を買う。
これで俺の手持ちはほとんどなくなる。
「じゃぁ、最終確認するよ。分け前は2/3.ただし、アイテム一つは僕が先にもらう。……これで大丈夫だね?」
「あぁ、それで構わない」
「じゃぁ、潜ろうか?頑張って稼ごう!」
俺達が潜ったダンジョンは、通称「初心者ダンジョン」と呼ばれるところだ。
15階層までしかなく、探査されつくしていて旨味はほとんどない。
それでも、初めてダンジョンを経験する奴らには丁度いいとして、この国のギルドによって管理されているダンジョンだ。
ある意味安全ではあるが、稼ぎは殆どないので、ここで経験を積み他のダンジョンへ行くのが通例だ。
ダンジョンの中での稼ぎは3つ。
まずはダンジョン内に存在するアイテム。
薬草や鉱石などの素材アイテムがほとんどだが、稀に宝箱などがあったりする。
次にモンスターを倒したときの魔種。
最後にモンスター素材などのドロップ品。
殆どがモンスター素材だが、稀に武器やアイテムなどが手に入ることもある……。
モンスターにやられると、まず例外なく食べられる。
モンスターたちの落とす武器などはその時に消化しきれなかった物……らしい。
「ボクたちは三等奴隷だからね、このダンジョンも5階層までしか許可されていないんだよ。知ってた?」
「いや、知らなかった……等級で行けないところがあるというのは聞かされていたが、ダンジョンの中にまであるとはな。」
「まぁ、弱い奴らが無理して奥に行って死んじゃったら損するでしょ。だから仕方がないんじゃない?」
確かに、カルディの言う通り、俺達を買い取った国は、稼いでもらわないと大損することになる。
「とりあえず、2等まで上がれば初心者ダンジョンはすべて解放されるから、まずはそこ目指そうよ。」
2等に上がる条件はそれほど厳しくない。
ダンジョンに行った経験がある事と上納金5万ミネラだ。
1回でもダンジョンに行き、後は鉱山に行って慎ましく暮らしていけば、1年もあれば2等になれる。
しかし、そんな悠長な事は言っていられない。
1週間ここにいて分かった。
……ムリ!
こんな生活耐えられない。
臭いわ、食事はまずいわ、夜はロクに寝られないわ……。
どんな環境でもやっていける……って思ってたけど、この環境は無理です。
俺はサッサと自由民になってアイツらと再会するんだ……。
「なぁ、ここに出るモンスターってどんなのがいるか知ってるか?」
「情報料高いよ?」
「今夜の食事1回分。」
「OK!……1~3階層は殆どが巨大ガエルかダンジョン蟻だね。4~5階層になると、それに加えてダンジョン蜂とクロウラー、迷宮蜘蛛が出る。あと5階層には稀にキラーマンティスの目撃証言もあるね。」
カルディは、情報屋を名乗るだけあって、色々と下調べをしてあるらしい。
実際1~2階層で出くわしたモンスターは巨大ガエルだけだったし、3階層に入って早々にダンジョン蟻の群れに襲われている。
ザシュ! ザシュッ!
俺はアリたちの脚を斬り割き、頭と胴の付け根の弱いところに剣を突き刺してとどめを刺す。
俺にとって大したことのないモンスターだったが、カルディは苦戦しているようだった。
「ふぅ……やっぱり、レイは見込んだとおり強いね。」
「……まぁ、これくらいの相手ならな。」
ここで謙遜しても嫌味なだけだろう。
「この群れを一掃したら少し休むか?」
「そうだね、ちょっと連戦続きだったしアイテムも整理しておきたいね。」
「じゃぁ、もう少し頑張るか。」
残っている蟻は4匹……今持っている剣の強度を考えても「爆烈風」の一発で片が付くのだが、俺はそのまま斬りかかる。
……1週間様子見をしていた時に気付いたのだが、この国には魔法が使えないやつが多い。
魔力を流す程度の事は誰でも出来るものだと思っていたが、実際はそうでもないらしい。
魔法を使える奴もいるが、そいつらは皆「魔法使い」を名乗っていて、周りからも一目置かれているので、別に俺が魔法を使えることを隠しておく必要はないのだが……なんとなく、今は隠しておいた方がいい気がする。
他、色々俺が普通だと思っていた事がそうじゃ無い事もあるかもしれないので、カルディが信用できるのならば、色々と情報を仕入れたいところなんだけど……下手なことを言えば、こっちの情報だけを悟られてしまう。……それは面白くない。
……まぁ、すぐに判断下さなくてもいいか。
「レイ、お疲れー。何かいいものドロップしてた?」
俺の分の素材剥ぎ取りを終え、テントに戻ると、先に戻っていたカルディが声をかけてくる。
「あぁ、幾つかレア素材と装備を残していったぞ。」
そう言って俺は集めてきたアイテムを並べる。
カルディもアイテムを取り出して並べる。
「最終素材が籠4つ分で1000ミネラ。10等級の魔種が30個で300ミネラ、カエルの素材が全部で1200ミネラ。蟻の素材がレアも併せて7200ミネラ、後はその鉄の剣だね……切れ味をよくする魔法かかってるね……3000ミネラになるかな?」
カルディが、今までに集めたアイテムの買取額を算出していく……。
「どうする?結構稼いだと思うし、お互いの実力もある程度わかったと思うから、もう戻ってもいいかなとも思うけど?」
「どちらでも……せっかくだから5階層まで行ってもいいかなと思ったけど、カルディにその気がないなら戻っても構わないぜ。」
「あれぇ?……これは予想外だ。」
カルディがビックリした顔をしている。
なんか変なこと言ったっけ?
「あぁ、ゴメン。結構いい剣も入ったし、戻りたがると思っていたから。」
「それほど苦戦していないしな。次の事を考えると、一応先は確認しておきたい。」
「……成る程。じゃぁ、5階層まで行ってから戻ろうか。」
そう言って、カルディは、鉄の剣を投げてよこす。
「ボクには使えないからさ、レイが使いなよ。どうせ、上に戻ったら取り上げられちゃうものだけど。今だけでも、いい武器使っておきなよ。」
「あぁ、そうだな。」
◇
「いやー、さすが、レイっち。凄いねー、あのキラーマンティスを一撃だなんて!」
「一撃じゃないだろ……5回以上は斬り付けたっての。」
「そうです、素敵でしたよ!」
あれから俺達は順当に階をすすめ5階層まで降りたところで、「稀に」出現するというキラーマンティスと出会ってしまった。
まぁ、俺の敵ではないので、ある意味美味しい敵なのだが……。
それより、何故か一緒にいる女性……ナターリアと名乗った……4階層で、パーティの仲間に乱暴にされそうだった所を助けたのが縁で、結局最後までついてきてしまった。
男女の区別なく放り込まれている最下層だが、意外と治安は悪くなかったりする。
特にこういう場所で起きがちな、女性への乱暴という面においてはかなり厳しく見張られていて、下手な裏通りより安全なぐらいだった。
まぁ……そんなことをすれば、あっという間に女がいなくなり、困るのは自分たちだという事が、長い年月で伝聞化されているからだろう。
ただ、まだ入ったばかりの新人はそんなことが分からないので、監視が緩いダンジョンに連れ出し無理やり事を成すという事件はよくあったりする。
今回俺達が4階層で出くわしたのは、まさにその瞬間だった。
まぁ放っておいてもよかったんだが、……実際カルディは放っておこうと言った……見捨てるのも忍びないので、結局助けてしまったのだが……。
「酷いです。私をこんな所に放り出したら、すぐモンスターに襲われて死んじゃいますよ?レイさんはそれでいいんですか?助けたんだから最後まで責任もって面倒見てくださいよ!」
と、捲し立てられここまで連れてくることになった。
まぁ、この階段上がれば地上だから、もう少しの辛抱だけどな。
「それより、契約だろ?どのアイテムを選ぶんだ?」
「ウン、そうだね……これにしておこうかな?」
カルディが選んだのは「巨大蟷螂の鎌」だった。
鍛冶屋に持ち込めば「双頭鎌」に加工してもらえる。
カルディみたいに小剣を使う奴らには使い勝手のいい武器の素になる素材だ。
「今、この時点で、こんなに良い武器を手に入れることが出来るなんて思ってもいなかったから、嬉しい誤算というやつだね。」
カルディの目当てのものではなかったそうだが、嬉しそうだった。
俺とカルディは地上に戻り、アイテムの精算をしてもらってから酒場に行く。
食事を奢る約束だからな。
何故かナターリアも一緒についてくる。
「……何故、ナターリア迄ついてくるの?」
「えっ?一緒に冒険した仲じゃないですか?打ち上げ一緒にやるの当たり前ですよね?」
……俺が間違っているのか?
……まいっか、今日は2万以上の稼ぎだし、一人分位ケチケチせずに行こう。
それなりに食事を楽しんだ後、カルディと別れて最下層のねぐらに戻る。
「……いつまでついてくるんだ?」
俺の傍にはナターリアがいた。
「最後まで面倒見てくれるって言ったじゃないですかぁ。」
「言ってない!」
「えぇ―無責任ですよぉー。」
「知らん。」
「レイさんは冷たい人ですね。……実は、怖いんですよ。」
ナターリアの声のトーンが急に落ちる。
「昼間あんなことがあって……大丈夫だとは思っても、やっぱり一人でいるの怖くて……。」
ナターリアを見ると俯いて肩を震わせている。
「ごめんなさい。無理言ってるのわかってるんですが、今夜だけ……今夜だけでいいですから一緒にいてもらえませんか?」
彼女の元気そうなそぶりを見てすっかり忘れていたけど、襲われかけてたんだしな。
不安にもなるだろう……。
「……はぁ、今夜だけだからな。」
そう言って俺は彼女に背中を向けて横になる。
「……ありがとう……ごめんなさい。」
彼女が小さくつぶやく。
背中から手が回される……柔らかい体に包まれながら、俺はいつしか眠りに落ちて行った。
「……レイさん……ごめんなさいね……。」
彼女が呟く声がしたような気がした。
新展開……ダンジョン攻略です。
ひたすら稼ぐだけです。
新しく出てきた少女ナターリア……彼女は新ヒロイン候補……ではありません*ネタバレ
ヒロインにする予定ないのですが……レイファの当初の予定では「行きずりのオンナ」の予定だったんですよね……
ミネラルド国編、そんなに長くする予定はないですがしばしの間お付き合いいただければ幸いです。




