最下層からの成り上がり?
「レイフォードちゃん、聞いたわよ。」
キラルゥが揶揄うように言ってくる。
……いや、実際揶揄ってるのだ。
「で、そのコの抱き心地はどうだったの?」
「……抱いてねぇよ。」
「え、おっぱいも触ってないの?」
「おっぱい言うな。触ってねぇよ。手も出してねぇよ。朝起きたら全財産持って逃げられたバカな男だよ。これで満足か!」
本当に……同情した俺がバカだったよ。
襲われている所を助けた女の子……ナターリアが心細いというので、一緒にいてあげたんだが、俺が寝ている隙に俺が稼いだ全ミネアを持って行方をくらました。
比較的治安がいいとは思ったが、隙を見せたらやられるのに変わりはなく……油断した俺がバカだっただけだ。
「だから預けたほうがいいって言ったのにねぇ……2万ミネアだっけ?高い授業料になったわね。」
ギルドではミネアの預かりシステムもある。一度預けてしまえば、食事やショップでの買い物は登録証を通してキャッシュレスで支払うこともできる便利なシステムだ。
「登録料の1000ミネアに入出金手数料合わせても、そんなにいかないわよ。これに懲りたら、ケチらない事よ。」
そう、便利なシステムだが金がかかる。
早く上にあがろうと気が急いてたのか、ついケチった……というか油断したんだよなぁ。
「そんな童貞のレイちゃんにお姉さんからもう一つ忠告ね。」
「ど、ど、童貞言うなぁ……。」
「あら?違った?」
「ち、ちが……ノーコメント!」
「ふっ……まぁ良いわ。」
キラルゥが妖艶に微笑む。
「お姉さんからの忠告。女を抱きたかったら娼館に行きなさい。」
中級奴隷になれば、街に行けるようになるから、そこで女を買えという。
「女の子を抱こうとした瞬間、強面の男共に取り囲まれたり、抱いてる最中にグサリ!……というのはよくある話よ。気を付けてね。」
レイちゃんがお金を貯めたら私が初めての相手をしてあげてもいいわよ、と笑いながら言うキラルゥ。
完全にからかわれている。
「まぁ、いい。それよりダンジョンに潜るから手続きを頼む。」
「ハイハイッと……あら?一人で行くの?」
「その方が安全だからな。それに、どうせ5階層までしか潜れないんだろ?」
「あらあら捻ちゃって……。そうねぇ、キラーマンティスを余裕で倒せるくらいだし……。」
キラルゥが何やら考え込む。
「レイちゃん、一つ依頼を受けない?」
「そう、ギルドからの依頼。これを受けてくれるなら15階層……最下層迄の探索許可を出すわ。」
「内容は?」
「モンスターの調査。」
「これ以上は依頼の受領がないと話せないわ。」
……まぁ、そんなに難しそうな内容じゃなさそうだし、15階層まで潜れるのは魅力的だ。
5層までに出るモンスターのシードは9等級まで……あのキラーマンティスでも8等級だ。
ここでの魔種の買取額は10等級で10ミネア、9等級で30ミネア、8等級で50ミネアだ。とりあえず2等奴隷に必要な5万ミネアを魔種だけで貯めようと思ったらキラーマンティスを千匹倒さなくてはならない。
そんな悠長なことしていられない。
昨日のカルディの話では15階層まで行けば5等級ぐらいの魔種を落とすモンスターもいるって事だし、
5等級の魔種なら500ミネアで買い取ってくれる。
それぐらいの奴なら素材も併せれば30~40匹も倒せば十分御釣りが来るだろう。
依頼の内容や報酬によってはもう少し楽になるかも……。
「依頼を受ける前に一つ聞きたい。二等奴隷にあがる条件は知っているが、二等から一等へ、一等から初級へ上がる条件が知りたい。」
「変なこと聞くのねぇ……まぁいいわ。二等から一等への昇格条件は、3つある「初心者ダンジョンの最下層迄探索できる腕がある事と上納金15万ミネラよ。」
「最下層に行ったというのはどうやってわかるんだ?」
簡単よ……とキラルゥが言う。
「それぞれその最下層でしか採集できないものがあるのよ。それを持ちかえれば、最下層に到達したって認められるわ。」
違反防止の為に、それが何なのかは秘密だけどね……とキラルゥが言う。
「初級への昇格条件は『中級奴隷資格依頼』クリアすることと、30万ミネラの上納金ね。」
「中級資格依頼ってどんなのだ?」
「……今は、まだいいんじゃない?その前に考える依頼があると思うんだけどな?」
……そうだな、その通りだ。
「OK!依頼を受けよう。詳細を聞かせてくれ。」
「そう言ってくれると思ったわ。……まぁ、そんなに難しくはないと思うけど……。」
これを見て……と一冊のノートが渡される。
俺は受け取り中を改める。
「……これは……モンスターの一覧か?」
「その通りよ。初心者のダンジョンその一に挑んだ皆の努力の結晶ね。」
ノートの中にはモンスターの名前、特徴、どの階層に生息しているか、果てはドロップ品まで詳細に書き込まれている。
「……正直凄いと思うが……くれるのか?」
「そんなわけないでしょ。貸すだけよ。」
これがあるのとないのとじゃ、攻略の効率が全然違う。
「これが依頼と何か関係あるのか?」
「今回の依頼はモンスターの調査って言ったわよね。初心者ダンジョンに出るモンスターはそこにすべて載っているのよ。」
「じゃぁ、何で……必要なくないか?」
「それがね、最近、そこに載っていないモンスターの目撃情報が出ているのよ。だから、今回の依頼は、その噂の確認。どの階層にどんなモンスターが出たかを調べてきてほしいの。報酬は基本3000ミネラ。1体発見につき1000ミネラの追加。見つけた場合は、この記録結晶に姿を写し取って来てね。」
新種の確認か……見つからなくても3000ミネラ……いいんじゃないかな。
「確認だが、そのモンスター倒さなくてもいいのか?」
俺はノートを返しながら訪ねる。
「あら、もういいの?……新人の三等奴隷にそんな無茶言わないわ。見つけるだけで充分よ。……まぁ、倒して魔種やドロップ品の情報まで持ち帰ってくれれば素材の買取とは別に追加報酬は考えておくわ。」
期限は1週間よと言って、キラルゥが書類を差し出してくる。
俺は差し出された書類にサインをし、ダンジョンに向かう。
昨日入手したばかりの鉄の剣を手にして、階層を深く潜っていく。
まぁ、この剣だけでも手元に残って助かったな。
5階層目までは、昨日色々回ったので、軽くスルーしていく。
一応、グリムベイブルに写したモンスター一覧の確認はしておく。
「……とりあえず、5階層までは特に問題なさそうだな。」
ここまで倒したモンスターは巨大ガエル3匹、ダンジョン蟻10匹、ダンジョン蜂4匹、クロウラー2匹、迷宮蜘蛛1匹だ。キラーマンティスとは遭遇できなかった。
所要時間は1時間半……。
この調子なら、10階層ぐらいまではいけそうかな。
初心者ダンジョンなんて余裕!……と考えていた時期が私にもありました。
いや……コレ初心者一人じゃ無理でしょ。
今、俺の周りには50匹ほどのムカデのモンスターがいる。
そして、頭上には蝙蝠型のモンスターが30匹ぐらい飛び回っている。
1撃1撃は大したダメージになってないが、何分数が多い。
7階層に入った途端にモンスターに囲まれる……正直、俺じゃなかったら、即死だっただろう。
「……ほんと、一人で来てよかったぜ。」
他に人がいたら、とてもじゃないが庇う余裕などない。
「とりあえず、さっさとケリつけますか……。」
俺は地面に剣を突き刺し魔力を流し込む。
「……いいぞ、もっと寄ってこい……ここだ!炎の爆風!」
炎が周りを巻き込み唸りを上げる。
ムカデたちが炎に焼かれて息絶えていく。
剣を地面から抜き、頭上に掲げる。
「爆烈風!」
爆風に巻き込まれ、蝙蝠たちが落ちてくる。
ピシッ!ピシッ!
剣から、ひび割れる音がする……ありゃ、魔法2発で限界かよ……。
8000ミネラが魔法2発か……これはちょっと考える必要があるなぁ。
とりあえず、ドロップ品を集め、魔種を集めて、現状を確認する。
魔種が10等級が25個、9等級が80個、8等級が7個……3000ミネラ。
モンスター素材がレア素材含めて8000ミネラ。
合わせて11000ミネラか……。
素材採集していけば+1000ミネラぐらいにはなるけど……。
……正直、このペースで10階層ぐらいまで降りることが出来れば、5万ミネアぐらいは稼げそうだけど……。
「武器がこれじゃぁなぁ……あと1発魔法の触媒に使ったら壊れるなぁ。」
素材かぁ……。
…………。
壁の岩を削ってみる。
数個の石が採れる。
その一つを握り、魔力を込める。
「……魔力付与榴弾」
魔力付与をした途端石はボロボロと崩れていく……ダメかぁ……。
俺は他の場所を掘ってみる。
石を手に入れてはエンチャントを施す。
その度に崩れていく石。
その後1時間にわたり、掘ってはエンチャントを繰り返してみたが、結果は芳しくなかった。
「はぁ……今日はもう帰るか。」
帰りの道すがら、素材採集をしながら帰る。
結局、稼ぎとしては13000ミネラとなったが、預り所の登録料や、明日用の武器やアイテムなどを買ったら5000ミネラしか残らなかった。
「まぁ、このペースでも10日もあれば……いや、15階層まで行けるのは依頼期間の1週間だけか。それまでにあと4万5千ミネラか……。」
……まぁ、明日考えるか。
翌日、俺はショップの前で悩んでいた。
「この属性石って強化素材だよなぁ。こんなに高いのか?」
俺が目にしているモノは、各装備用の強化素材だが、1つ500ミネアの値が付いている。
「ああ、それは上位の高級素材ですからね。下位の物ならこちらにありますよ。1つ100ミネアです。どうですか?」
「……そうだな、これとこれと……。」
結局いくつかの素材を買ったら残り所持金が2000ミネラになってしまった。
俺は手続きを済ませてダンジョンに潜る……。
6階層へ続く階段のある広間で、一旦小休止を取る。
正直、このダンジョンの本番は6階層目からになる。
1体1体は強くないものの、群れでくるモンスターが多くなるため、その対処をどうするかが問題だ。
「まぁ、PTを組んで対処するっていうのが基本なんだろうけどさ……。」
正直、本来の力が使えればこんなところどうってことないのだが……
「あぁー、もう……、この考え方がダメなんだ!」
使えないんだから、使えないものとして割り切るしかない。
一応購入した属性石にエンチャントが出来る事は確認済……しかし、1回限りの使い捨て。
1回使う毎に100ミネラ以上の稼ぎがなければ赤字という中々シビアなモノ……。
ダンジョン内で見つかればいいんだけどね。
「魔法使いを雇ってみるか……。」
いや、これはもっと後ならともかく、今は無理だろう。
なんといっても1回分の稼ぎが少なすぎる……中級ぐらいに上がってから考えればいいだろう。
しかし……魔法使いか……盲点だったかもしれない。
とりあえず、手元の属性石を確認……全部で20個か……とりあえず10階層行ってみよう。
俺は、6階層へ続く階段を下って行く。
6階層ではダンジョン蜂の群れに、7階層では迷宮蝙蝠の群れ、8階層には迷宮ムカデの群れと……とにかく群れを成すモンスターのオンパレードだったが属性石に込めた魔法のお陰もあり、それ程苦も無く倒せる。
……どちらかというと倒した後のアイテム採集の方が大変だったりする。
そして今、俺の目の前にはクロウラーの群れ……。
これくらいの群れ、剣一本あれば多少時間はかかるものの、大したことなく殲滅できるのだが……。
「うーん、どうして焦るんだろうなぁ……。」
クロウラー達を切り倒しながら考えるが答えが出てこない。
「 榴弾 」
俺は属性石を群れの中心に投げ込み、キーワードを唱える。
残ったクロウラー達が爆散し戦闘終了となり、俺は辺りに散らばった魔種を集めていく。
……んー、なんかイライラする。
俺は更に階層を進んできたのだが、イライラが収まらないどころかどんどん溜まっていく。
そのイライラをモンスターたちにぶつけているが、一瞬スカッとするもののすぐ苛立ってくる。
その苛立ちをぶつけるためにモンスターを探して八つ当たりする。
そんな事を繰り返しているうちにいつの間にか15階層……最下層にまで来てしまった。
一応、周りを見ながら素材を採集しておく。
イライラが募る……なんか、調子悪いのかなぁ。
とりあえず採集した素材確認もかねて小休止することにした。
……10等級の魔種が200個以上ある……いつの間にこんなに倒したんだろう。
でも、これだけあっても2000ミネラ程度なんだよなぁ。
ふと、この魔種を見て思う……これ固めて丸めたら大きくなって等級上がらね?
……すごくアホな考えだと思いつつ、俺は10等級の魔種に魔力を流し込みこねくり回していた。
少しこねると柔らかくなるので別の魔種に包むようにして魔力を流す……そしてこねる。
柔らかくなる度に魔種を取り込みこねていく……気づいたら10等級の魔種全部を一つにまとめてしまっていた。
……その大きさは人の拳ぐらいになっていて、魔力を流しつつこねていたせいで飽和状態になっていた……。
……簡単に言えば暴発寸前ってことだ。
調子に乗り過ぎたかなぁ……何か手ごろな的があればいいけど……。
そう思って辺りを見回していると、視界の端に何か動くものが見えた。
ロックゴーレムだ。
単なる岩だと思っていたけど……ゴーレムだったのか……。
そして、俺はこの初心者ダンジョンにゴーレムがいなかったことを思い出す。
「なるほどね、ゴーレムがいたというわけだ。」
俺は記録結晶を取り出し、ゴーレムの姿を写しとる。
その周りも観察してみると、似たような岩の山があと2つある……たぶんアレもそうなんだろう。
一応記録結晶に写しておく。
そして俺は、先ほど作った魔種玉に魔力を注ぎ込み、苛立ちをぶつけるようにゴーレムへ投げつけた。
魔種玉はゴーレムにあたり……爆散した。
……正直言って予想外の威力だったが、少しすっきりした。
俺はゴーレムのいた場所へ移動する。
……壁にぽっかりと穴が開いていた。
…………これ、ギルドの職員も知らないことなんだろうなぁ……。
とりあえず、ゴーレムの破片と魔種を回収し、穴の中を調べることにする……。
穴の中は小部屋になっていた。
中央に置かれた小瓶から禍々しい気配がする。
部屋に一歩足を踏み入れると、禍々しい気配が増大する。
(よくも、おめおめと我の前に顔を出せたものだな。ニンゲンよ!)
……うん、コレは放置しておいた方がいいものだな。
俺はそっと小部屋から出る。
(あ、待って、待ってよ……冗談だからー冗談だから行かないでー!)
小部屋の中の声が焦ったものに変わる。
放置しても良かったが、なんとなく懐かしさを覚えて、再度部屋に戻る。
(ふっ、ニンゲンよ、我を開放する栄誉を与えてやろう。さっさと瓶の蓋を開けるがよい。)
俺は再度身をひるがえし、部屋から出て行こうとするが……。
(あ、待って、待って、嘘、嘘だから助けて。出してくれたらちゃんとお礼するからぁ~。)
俺が出て行こうとした気配を感じたのか、慌てて言い換える声の主。
「最初からそう言えばいいんだよ……瓶壊せばいいのか?」
そう言って俺は壊れかけの剣に魔力を込めて、瓶の前に突き刺し、残った属性石を全部投げる。
(あ、待って、蓋、蓋開けるだけでいいんだからねっ!)
「 榴弾 」
声の主が何か言いかけているが、俺は構わずキーワードを唱える。
ドゥムッ!
剣に内包された魔力と誘発して、通常より数倍の威力となった爆風が部屋中を駆け巡る。
俺はもちろん部屋の外に逃げている。
爆風が収まったのを確認し、部屋の中に入る……瓶はちゃんと壊れている……が中身がない。
(もぉー、普通は素直にふたを開けるでしょ!なぜ爆発させるかなぁ!もぅ。)
俺の頭上から声が聞こえる。
見上げると手のひらサイズの小妖精がいた。
……見かけはフェアリーだが、発せられる気配に禍々しさを感じる。
闇に属するものの気配がする。
内包している魔力圧もフェアリーの物ではない。
……なんだこいつ?
(大体、人間はデリカシーとか気づかいというものが足りないのよ……)
フェアリーはまだブツブツ言っている。
感じる気配はともかく、言い回しや喋り方がエアリーゼを思い出させる。
「おい、お礼は?」
俺はまだブツブツ言っているフェアリーに声をかける。
(はぁ、あんな事しておいてお礼をようきゅ……あれ?アンタ、どこかで会ったことある?)
フェアリーが不思議そうに尋ねてくる。
「いや、初対面だと思うが?」
(そうよねぇ……私が閉じ込められて300年以上経ってるはずだから、知ってる人間が生きてるはずないのよね……でも、この感覚どこかで……。)
フェアリーがぶつぶつ言いながら考え込む。
「時間がかかりそうだから、帰るわ。」
俺はそう言って立ち去ろうとするが、その襟首をフェアリーが引っ張る。
(ちょっと待ちなさいよ!……って、あれ?……姉様達の気配……)
俺に触れた途端フェアリーの言葉が途切れる……姉様?
(アンタ……ありえないとは思うけど……、最近精霊と話した?もしくはあったことある?)
フェアリーの声が、どこか警戒を含んだものに変わる。
「話したというか……半月ほど前までは一緒にいたぞ。……エアリーゼかファルスを知っているか?」
フェアリーの態度から、ひょっとしたら関係があるかもと、名前を出してみる。
(姉様の名前を知ってる……お前、いったい何者!)
フェアリーが警戒半分動揺半分といった感じで聞いてくる。
どうやら、ファルスたちを知っている様子のフェアリー。
「お互い、色々知りたいことが多そうだ。情報交換といかないか?」
俺はフェアリーに提案する。
正直な話、フェアリーから発せられる魔力圧から考えると、今は敵に回したくない。
(そうね、私も色々ききたいわ。)
フェアリーもそう思ったのか警戒心をあらわにしながらも提案に乗ってくる。
「俺はレイフォード、お前の名前も教えてもらっていいか?」
ダンジョン攻略……がメインじゃないです。
レイフォードのイライラは、単なるストレスです。
私も書いていてイライラしました(W




