三者会談プラスワン
「ポメラ王国国王、ダビット=ソレアノだ。」
ダビットが、目の前の二人に自己紹介をする。
「これは、遠いところ、ようこそいらっしゃいました。リンガード共和国国家元首のソラン=フォードです。こちらが孫娘の……。」
「エミリア=フォードと申します。お見知りおきを。」
白髪と白い髭を蓄えた男とそのそばに控えていた女性がリンガードの代表らしい。
ソランがもう一人の人物に目を向ける。
「アルガード王国、エルファント公爵家の娘、ソフィア=エルファントと申します。本日は実り多き日であることを期待しておりますわ。」
この場にいるもう一人が挨拶をする。
「エルファント公爵というと、あの……。」
思わず口を挟んでしまう。
「ご存じのようですね。その通り、現国王はワタシの伯父にあたります。」
それよりあなたは?と目線で訴えかけてくる。
俺は、ポメラ国王に目線で合図をしてから自己紹介に入る。
「大変、失礼をいたしました。私はレイフォードと申します。故あって精霊からの要請を受け、見届け人としてやってまいりました。どうかこの場にいる事をおゆるしください。」
精霊の妖精云々は嘘であるが、そう言っておいた方が相手も納得しやすいだろう。
「彼はアルガードの冒険者であるが、彼の仲間には我がリンガードの者もいるし、精霊を通じて、ポメラ国の者との親交も厚いと聞く。そのような立場の者であれば情理両面から冷静な意見をおらえるんじゃないかと、私が許可した。」
このような話し合いにおいては熱くなることが往々にしてある。それに歯止めをかけてもらえるだろうと、ソランは言っているのだ。
ソフィアはしばらく黙考した後、頷いて答える。
「フム、両人が認めているのであれば、私一人が何を言ったところで意味はなかろう。」
「ご賛同いただけたようで。何より。では早速会談を始めましょうか。」
そう言ってソランは会談用の部屋へ案内してくれる。
部屋に入ると、各々に席についていく。
「ん?どうした冒険者殿。席に着かぬのか?」
ソフィアがそう訊ねてくる。
「いえ、私はあくまでもオブザーバーですので……。」
そう言って、やんわりと断ろうとするが……
「何を申しておる。精霊の御使いを立たせておくわけにはいかんだろう。こちらに来て座るがよい。」
仕方なく席に着く俺に、ソフィアが持参した菓子を薦めてくる。
「これは、わが国で最近流行っておる菓子ですの。我が国以外では、目にすることはないと思いますわ。ぜひ賞味してもらいたいと思いまして持参しましたの。」
そう言って、差し出されたものは……クッキーだった。
ソフィアは、驚く俺の顔を見て満足そうに頷き、ソランや、ポメラにもクッキーを薦める。
俺はクッキーをつまみ、口の中に入れる。
素朴な味わいではあるが、間違いなくクッキーだった。
「これは驚きました。私は田舎者故、このような美味しいお菓子を存じ上げませんでした。中央ではこのようなものが流行っているのですね。」
俺は、初めてで驚いていますと装いながら話を振っていく。
正直、三者会談なんかどうでもよかった。
中央にはクッキーを広めた人物がいる。
そいつは間違いなく、俺と同郷……向こうの世界の人間に間違いない。
俺は、そいつの情報が欲しかった。しかし、それを前面に出すと足元を見られる。
……それくらいは俺でもわかっている。
何とか、話を誘導していかないとな。
「ほぅ……これは確かに美味い。ソフィア殿が自慢したがるわけだ。」
「えぇ、とても美味しいですわ。今度、アルガード王国を訪問するのが楽しみですわ。」
「ウム、これは初めての味わいだ……リナにも食べさせてやりたいな。」
俺と同じようにクッキーを味わっているソラン、エミリア、ダビットからも称賛の声が上がる。
「お口にあったようで何よりですわ。これは、わが国の聖女様が考案なされたもので、素材の工夫一つで、庶民から貴族まで楽しめるものになっておりますわ。」
……簡単に情報が手に入った。
聖女様=俺と同じで間違いないな。
気になるのは、聖女様がチート能力を持っているかどうか……まぁ、敵に回す理由もないし、それ程気にしなくてもいいか。
しかし、聖女様か……。この会談が終わったら訪ねてみるか。
「ほぅ、噂に名高い『聖女様』の考案ですか。しかし、庶民から貴族までとはどういう……。」
俺が考え事に耽っている間にも、ソランとソフィアの会話は続いていた。
顔はにこやかだが、何か探りあっているような……すでに「会談」は始まってるってことか。
「えぇ、詳しくはお教えできませんが、クッキーの素材は多岐にわたるもので、中には代用できるものもあるので、庶民でも手に入れやすい素材を使えば、安価で庶民の口にも入ります。逆に厳選した素材を使用することで、全く違った味わいの物が出来上がりますのよ。今、アルガードの貴族の間では、どのような味わいのクッキーを作り出すのかを競うのが流行りですわ。」
「ほぅほぅ、実に興味深い話ですな。」
終始笑顔のソランだが、裏の糸を探っているようで、目が笑っていない。
ダビットを見ると、ソフィアの話に聞き入っている……ダメだな。
獣人は良くも悪くも誠実で実直だ。こういう場に一番向かないであろう種族だ。
そういう意味では、建国なんて考えない方が彼らの為だろうとは思うけど……。
「このクッキー一つをとってもそうですが、聖女様はその名に相応しく、庶民・貴族関係なく誰にでも愛を注ぐ素晴らしい方でいらっしゃいます。」
ソフィアがいったん言葉を切って、お茶に口をつける。
「聖女様は、最近我が国内での獣人達の事を憂いております。その意見に賛同する者達も多数出てきております。」
ソフィアが、ダビットとソランを見る。
「状況は徐々に変わりつつあります。特に獣人達にとっては良い方向へと……。それなのに、今建国を急ぐ理由は何でしょうか?急速な動きは混乱を招くだけです。そのあたりはどうお考えなのでしょうか?」
……なるほどね、こう繋げるわけか。
さしずめソフィアのターンってところか。
この札に対しダビットは対抗する札を持っていない。
……というか、ダビットってほとんど札もってねぇよな。
するとソランの持つ札だが……。
「そうですな。さすがは聖女様ですな。その心には私とて、ただただ、心を打たれるばかりです。」
しかしながら……と、ソランが続ける。
「聖女様お一人では出来る事にも限りがあるでしょう。……今こうして話をしている間にもアルガードの貴族様方は、獣人の奴隷を求め、商人たちは商品を仕入れるために駆けずり回っているのでしょうな。」
ソランが切り返す。
まぁ、そう来るよな。それが、リンガード及びポメラ側の大義名分なわけだし。
「その件については、否定はできません。獣人達を含め奴隷制度を我が国は認めているのですから。」
なんだと!……いきり立つダビットを俺が止める。
奴隷制度云々を言い出したら、時間がいくらあっても足りない。
代わりに俺が口を出す。
「先日、アルガードの奴隷商人が襲われている所に偶然遭遇したのですよ。しかし、奴隷商人の言う『商品』である獣人奴隷が、ある集落が襲われて攫われた者達だったんですよ。」
このことについてどう思われますか?とソフィアに訊ねる。
「そうですか……あれはあなた方だったのですね……あの件に関しては礼を言わせてもらいますわ。」
……奇妙な偶然……いえ、これも運命の糸が紡がれた結果……なのでしょうか……。
ソフィアが何やらブツブツ言っている。偶然でも運命でもどちらでもいいけどさ……。
「……そうですわね。精霊様の御使いである貴方には正直にお話いたしましょう。奴隷の出自に関しては調べる術がございませんわ。。商人が「まっとうな手段」で売っているのであれば、それに対し為す術がないのが現状ですわ。」
「そんな事……。」
ダビットが怒りに震えている。
「だからこそ『建国』なんですよ!」
ソランが、我が意を得たりとばかりに言ってくる。
「現状では獣人達は「どこの国にも属していない」のです。その為、裁く者が居ないという事が起きているのです。しかし、ポメラ王国が建国されれば、獣人達は「国民」となりそれを襲うものは「侵略者」となります。戦争を起こしたいならともかく、普通はそうならないように国が介入します。「国が介入できる」のですよ。」
ソランの言っていることに間違いはないのだが……何か引っかかるんだよなぁ。
「ソラン殿のおっしゃりようはわかります。私も建国そのものに反対しているわけではないですわ。しかし、何故『今』なのです?しかも、リンガードが後ろ盾と触れ回って何をなさりたいのでしょうか?」
「すべては獣人達の窮状を救いたいという考えからですな。それともソフィア殿には他に良い案がおありとでも?」
「そうですね、例えば獣人達を国民として受け入れる。獣人達の集落は「自治領」として、干渉は最小限に……。これだけでも抑止力としての効果は十分だと思いますわ。」
それからゆっくり建国へ向けた準備をしていけばいいとソフィアは言う。
「そんな悠長なことを言っているから、獣人達が追い込まれてしまったのですぞ。」
「お言葉を返すようですが、後ろで煽る者が居るから追い込まれているのではなくて?」
ソランとソフィアが、にらみ合う……。
ダビットはオロオロしてるばかりだ……。
いや、お前が中心のはずだろ?
ここだけ見ても、獣人が口実として使われているというのは明らかだ。
「ソラン殿に一つだけ聞きたい。」
俺はソランに質問を投げかける。
「何でしょうかな?」
「リンガードのメリットはどこにある?」
「獣人達の困窮に際して立ち上がったのです。メリット何てありませんよ。」
あたりまえでしょう?というが……。
「信じられないな。個人で動いているならともかく、国単位での行動だ。何らかの見返りがなければ動くに動けないはずだ。特に隣国の制度に関わる問題となれば下手な事をすれば戦争になる。」
それとも戦争が目的か?とソランを睨みつける。
「……。はぁ、私もソフィア殿に習って正直に話しましょうか。」
しばらく睨み合っていたらソランの方が折れた。
「リンガードのメリットとしては、ポメラ王国への土地、運営資金などの貸し付けによる利子などの金銭面、アルガード王国と何かあった場合の緩衝材、労働力の提供、各国へ対してのアピールなど、多々あります。」
でも、全ては建前ですよとソランは言う。
「本音は、すごく個人的な事なんですよ。……エミリア……こちらへ。」
ソランがエミリアを呼ぶ。
「見てください。」
ソランがエミリアの髪の結っている部分を解き、髪の毛をかき分ける。
「「・・・・・・!」」
それを見たダビットとソフィアは驚きで声も出ないようだった。
エミリアの頭上にあったのは丸い二つの耳だった。
「エミリアは、獣人とのハーフです。……最近のリンガードではそれほど珍しい事ではありませんが……。」
リンガード国内でならともかく、他国ではやはりまだ偏見が強く蔑みの対象となるそうだ。
ポメラ王国が獣人の国として国際的に認められれば、そういう偏見も少なくなるだろう……少なくとも表立って蔑む人はいなくなる。
「私はただ、孫娘たちが笑って過ごせる環境を作りたいだけ。ただそれだけなんですがね……。」
ダビットはソランの言葉に思うところがあるのか、黙って聞いている。
「さて、お話は分かりましたので、今日の所はそろそろ解散しませんか?どうせ、今日いきなり結論が出るとは思っていないのでしょう?」
「そうですわね。私も一度国へ帰って報告をしてからの話になりますし。」
「そうですな。我が国としても「アルガード王国と話し合いをした」という事実があればいいだけですから。」
「私も、一度考えをまとめたい。色々あり過ぎて混乱してきた。」
皆も賛成してくれたので解散することになった。
「皆さん、お疲れでしょうから、今日の所はこちらで泊まっていってください。部屋を用意させます。……生憎と晩餐までご用意できませんが、そこはご容赦ください。」
晩餐を用意しないのは、ソランなりの気遣いだろう……この状況で和やかに会食など出来そうもないしな。
俺達はその申し出をありがたく受け取ることにした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「なぁ、レイフォード殿。私は一体どうしたらいいんだろうか?」
ダビットが問いかけてくる。
相当参っているな……まぁ仕方がないだろうけど。
俺達が食事の為に街へ出ようとすると、ダビットが何やら話をしたそうなそぶりだったので、食事に誘ってやったのだが……。
会談では、結局殆どしゃべってないしな。自分の思惑と関係なく、どんどん外堀が埋められていく感覚だったのだろう。
「正直に言っていいか?」
「あぁ、率直に頼む。さっきみたいな回りくどい話は理解が追い付かない。」
……俺は苦笑するしかなかった。
「王様に向いてないよ。」
俺はズバリと言ってやった。
「そ、それは……わかっている……。」
悔しそうに言うダビット。
「にぃに、言葉が足りてないっす。」
リィズのフォローが入る。
「あぁ、ごめん。ダビットが王様に向いていないって話じゃなくてだな……。」
王様というのは国の代表だ。国内では絶対的な指導者であり、民を導き守る責がある。
守るというのは国外の敵から守ることも当然含まれる。
戦争とか、目に見える外敵なら遺憾なく力を発揮することが出来るだろう。
しかし、政治となると目に見えない敵との戦いになる。
相手の言葉の裏に隠されたことを読み取り、言質を取られないように発する言葉に気を付け、また、相手からこちらの望む事を引き出すために誘導する。
ダビットに限らず、基本的に実直で融通の利かない獣人達には向いていないのだ。
もちろん、そう言う事を得意とする者達もいるだろうが、その者を探したり育てたり……そういう組織作りの根幹が出来ていない今国王だけ決めて建国というのは無理があり過ぎる。
そこはソフィアが指摘したとおりだと思う。
「ならば、尚の事私はどうすればいいのだ?どうしたらよかったのだ?」
「さぁな、無責任かもしれんが、そこまでは俺もわからん。ただ、リンガードの言いなりのまま建国すれば、いいように扱われて滅ぶ未来しか見えん。」
ソランが嘘をついているとは思わないが、それがリンガードの総意であるわけがない。ソラン自身も知らない裏があるように思える。
「ただ、王となったからには必死になって勉強し、人材を育てるのが必要だろうな。そしてしっかりとした形になるまで、何があっても国を守り抜く……その覚悟があるのか?」
「あぁ、覚悟はもうとっくに出来ている。ただ、どうすれば守れるのか……。」
「ここまで来たら建国するしかない。もうこの流れは止められないからな。ただ、言われるままに建国するんじゃない。……リンガードだけじゃなく、アルガード……ソフィアに頼ってもいいかもしれんな。とにかく「対等だ」という事は忘れずに。俺が言えるのはこれくらいだな。」
明日、集落のみんなとよく話し合えばいいさと言っておく。
少し考えたいというダビットを残して、俺達は店を後にした。
「ダビットさん大丈夫かしら?」
ミリィが心配そうに言うが、俺達が出来る事は何もない。
「まぁ、あれで、芯はしっかりしていそうだから大丈夫だろ。」
「おにぃちゃんが国を作って、獣人さん達を面倒見たらいいんじゃない?」
ソラがそんな事を言ってくる。
獣人の国を俺が作る……か。考えたこともなかったな。
獣人の国……モフモフ天国……俺は王様だから周りにモフモフを侍らせて……いいかもしれん。
「ソラが変なこと言うから、にぃにがおかしなこと考えてるっす。きっと少女たちを侍らせてモフモフを楽しもうとか考えてるに違いないっす。」
そんな事になったらソラの居場所なくなるっすよとリィズが言っている。
「おにぃちゃん、国を作ってもモフモフは傍に置いちゃダメ!」
ソラがダメ出しをする。
「何だ、ダメなら国を作るのやめた。」
「ほんとに考えてたっすか……。」
……いいじゃないか、モフモフ天国の夢見たって。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
夜、屋敷の客間で寛いでいると来客があった。
「寛いでいる所、申し訳ないです。少し話がしたくて……。」
そう言って入ってきたソフィアだったが……俺を見て固まる。
俺は、ソファーの上で、ネコ耳をはやしたリィズを膝にのせ耳を弄っている所だった。
その横ではソラが膝の上に乗ろうと体を押し寄せていて、横からはミリィがギュっとしている。
まぁ、一言でいえば女の子に囲まれているわけだが……知らない人が見たらドン引きするよね……普通は。
「す、すまない。取り込み中だったか。」
顔を真っ赤にし、慌てて出て行こうとするソフィアを呼び止める。
「あぁ、大丈夫だから。ちょうど俺も話を聞きたいと思っていたし。」
そう言ってリィズを下ろし、ミリィにお茶を入れてくれるように頼む。
ソフィアには向かいに座ってもらったが、チラチラとリィズを見ている。
「……ひょっとして、リィズのミミ触りたいとか?」
俺がそう言うと、ソフィアの顔が「いいんですか?」というように嬉しそうなものになる。
「嫌っすよ!」
リィズは即座にそう言うと精霊化を解く。
あぁ……もったいない。
見るとソフィアもがっかりしているようだ。
(えー、もう終わりぃ?弄られて真っ赤になるリィズちゃん可愛いのにぃ。)
エアリーゼがそう言いながらリィズの周りを飛び回る。
「せ、精霊……?」
エアリーゼを見たソフィアが驚いた顔で見てくる。
「ん?精霊見るの初めてか?」
「……使役されていない、こんな自由な精霊は見たことがない。」
「そうか、じゃぁ、サービスをしてやろうか?」
驚くソフィアを見て、つい調子に乗る。
「ファルス。姿を見せてやって。」
(仕方がないですね。1曲で手を打ちましょう。)
「ってことだから、ソラ、よろしく。」
「もぉー、おにぃちゃんは勝手だよぉ。」
文句を言いながらも嬉しそうなソラの背中から翼が出て、精霊化する。
「どんな曲がいい?」
(お客様がいますから……優しい歌をお願いします。)
「はーい。」
~~~♪
ファルスのリクエストを受けてソラが歌い出す。
光の精霊達が姿を現し、ソラの周りを曲に合わせて回る。
歌にひかれる様に様々な下級精霊たちが寄ってくる。
精霊達が動くたびに瞬く精霊光……まるで光の乱舞だ。
いつ見ても幻想的なその光景に圧倒される。
やがて、ソラが歌い終わり、緩やかに光が消えていく。
「……ソフィアさん、どうしましたか?」
俺は呆けているソフィアに声をかける。
あの光景を初めて見たらこうなるのは仕方がないが、予想以上の効果だったようだ。
「あ、あぁ……すごく素敵で……まるで夢の中にいるみたい……。」
「楽しんでもらえて何よりだよ。」
ソフィアは、しばらくの間ぼんやりとしていた。
「それで話って?」
俺はソフィアを促す。
「あ、ハイ……まず最初にここでの話はアルガード王国のソフィア=エルファントではなく、ただのソフィアとしての話だという事をご了承いただけますか?」
要は公的な話ではなく、あくまでも私的な話だという事だ。
「構いませんよ……それに、その姿で威厳を取りつくってもムリですよ。」
ソフィアは、膝の上にソラを乗せて頭を撫でている……ソラは、以前リィズ用に作ったネコ耳カチューシャを装着済である……正直ふにゃふにゃだ……。
まぁ、ケモミミの破壊力はすごいからな……ケモミミだけで世界を征服できるんじゃないか?獣人族……。
「えっと、レイさんは、昼間のソランさんの話、どう思われました?」
まぁ、その話題だよなぁ。
「正直な話、嘘は言ってないけど全てではない、といった感じですかね。」
「やっぱりそう感じますよね。」
ソフィアはリンガードの狙いがわからないという。
「獣人達の窮状はわかるのですが、なぜ『今』なのかがわからないのです。」
確かに、獣人奴隷の問題は、もう何年も前から起きている。
動くならもっと前に動いてもいいはずである。
「実は、今私は聖女様に獣人奴隷の買い取りをやめるように進言しているのです。」
「それはまた……なぜ?」
「リンガードが後ろ盾について獣人の国が建国されるという話が急速に広まっているのですが、それについて奴隷商たちはどう動くと思われますか?」
「うーん、商品が手に入り難くなって困るだろうなぁ。」
「そこに「聖女様が獣人を買い集めている」という噂が流れたら?」
「今のうちにたくさん売りつけようと思うだろうなぁ。」
「まさしくその通りになっているのです。実際非合法と思われる獣人奴隷の数が昨年に比べて3倍以上になっています。」
「かといって見捨てるわけにもいかないからなぁ。」
「正直、建国云々の話がなければこのような事にはならなかったはずなのです。」
「抑止する為が、かえって被害をもたらしたって事か。」
「このようなこと、歴史を紐解けば、過去に似た例はあります。リンガードがその事を知らないとは思えません。」
ソフィアは意図があってやっているのではないかという。
「正直な話、獣人達が国際的に政治を行うには、まだ早いと思われます。」
各国の格好の餌にされるだけです……とソフィアは言う。
「まぁ、それは俺もそう思うけど……。」
「言ってることは正しいように思えるのですが、裏がある気がして気持ち悪いのです。」
……ここで、俺の仮説を披露してもいいのだろうか?
ソフィアを信じることが出来るか……。
ここまで考えて、自分の馬鹿馬鹿しさに気づく。
目の前にいるソフィア。ソラを撫でてふにゃふにゃしながら、それでも取り繕ってしゃべっているソフィア。
これで、何か企んでいるという奴がいたら、そいつこそ頭がおかしいに違いない。
まぁ、本当に何か企んでいたら、俺は人間不信から立ち直れなくなりそうだけどな。
「ソフィア……ちょっと真面目な話だ。昼の会話を聞いて俺の中である仮説が組みあがっている。その仮説を補強するためにも2~3質問したい。」
俺の声が、まじめなトーンに変わったので、ソフィアも、居住まいをただす。
「まず、獣人王国賛成の声は、国内でどれくらい上がっている?」
「結構な数よ。過半数近くになるわ。」
「次、国王の意見はどっちだ。」
「どちらかと言えば反対派ね。……私と一緒ですわ。今すぐは性急すぎてよくないという考え方ね。」
「既得権益にしがみついている奴らもいると思うが?」
「そうね。でも、賛成派が急激に膨れ上がっているから、うまく誘導してまとめ上げないと対抗できないっていうのが現状ですわ。」
「賛成派の中でおかしな……例えば、奴隷を沢山扱っている奴……とかはいないか?」
この質問に対し、ソフィアが少し考える……。
「そういえば……ガーリック卿等は、獣人差別の先鋒みたいな人だったのに、なぜか賛成派にいるわ。」
……大体読めた……あたっているかどうかわからないけど……。
「最後に聖女様は賛成派か、反対派か?」
「……どちらでもないわ。『難しくてよくわかんない』って言っておられます。」
よくわかんない……か、なんとなく懐かしい響きだな。
「ただ、賛成派は、聖女様を担ぎ上げようとしていますし、聖女様自身が態度を示していなくても、行動が賛成派と取られています。」
「まぁ、そうだろうなぁ……聖女様が危うい……か。」
あっと、大事なことを聞いておかないと。
「関係ない話だが、聖女様って、クッキー以外に、変わったもの考案したりとかしてるか?」
「よくご存じですね。今マイアス領を中心に『聖女様が考案した』という『シャンプー&リンス』が女性たちの間で大人気ですよ。他にも色々あるそうですが……。」
……間違いない。聖女様は俺と同じ向こうの世界の人間だ。
やはり、早急に聖女様と会った方がいいみたいだな。
「それで、レイさんの仮説というのは……?」
黙り込んだ俺にソフィアが聞いてくる。
「あぁ、すまない。……あくまでも仮説だから、そのつもりで聞いてくれ。」
俺は、自分の考えをソフィアに話し出した。
「リンガードが打ち出したポメラ王国建国の話……表向きは困窮している獣人達を助けよう、というものだ。内容的にも納得できるものがあるし、一般大衆はみんな賛成するだろう。実際そういう風潮になっているしな。……ここで反対する奴が現れたらどうなると思う?」
「民衆の支持を失う……ですか?」
「まぁ、そんなところだろう。このままいけば、近いうちにポメラ王国は建国される。しかし内容はどうあれ、反対したアルガード王国と国王。……あまりいい印象は与えないだろうね。」
「そんな……。」
「世間的にアルガード王国は非難される。そして、「非難されるのは反対をした国王の所為だ」と国内の賛成派が民衆をあおる。……そしてクーデターを起こす。みんなクーデーター派を支持するだろうね。何て言ったって、反対派の多数は既得権益にしがみついていたろくでもない奴らばかりだから、ちょっとバラしてやれば一気に信用を失うだろうね。」
「……。」
ソフィアは黙って聞いている……声も出ないようだ。
「あとは簡単、国政を握った奴らと裏で糸を引いていた奴らが好き放題。ポメラ王国?政治もろくにわからない獣人なんぞ、口先だけでいいように操れるさ……ってところかな?」
「……どうすればいいと思う?」
「どうしようもない……国王にありのまま伝えて判断仰ぐしかないだろう。この仮説を聞いても、そのままであれば、そういう運命だったとしか言いようがないし、賢明な王なら対抗手段を考えるだろう。最低限、建国前までに「反対ではないが、よく話し合おう」という姿勢を見せ続ければ最悪の事態まではいかないんじゃないかな?」
……ソフィアはしばらく考え込んでいた。そして……。
「レイさん、ありがとう。すごく有意義な時間でした。……私に何ができるかわからないけど……出来る限りの事をして見せます。」
ソフィアの顔は為政者のそれだった。
「あぁ、がんばれ。しばらくしたら俺達もアルガードに戻るから、その時ゆっくり話せたらいいな。」
「その時は我が家にお招きしますわ。ソラちゃんのステージをお願いしたいと思います。」
ではいずれ……とソフィアは部屋を出て行った。
さて、俺も寝るか……と思い周りを見てみると、みんな眠っていた。
俺とソフィアの話が難しすぎたらしい。
ベットに運ぶのも面倒なので皆に毛布を掛けてやり、俺もそばで眠ることにした。
……明日、ダビットたちと話をして、それからアルガードに向かおう。
そう思いながらいつしか眠りに落ちていった。
次回、獣人の国編ラストになります。
本当はこの回で終わる予定でしたが思ったより長くなってしまいました。




