封印と呪い!?
「使えないって、どういう事っすか?」
リィズが詰め寄ってくる。
「落ち着けって、今説明するから。」
俺はリィズを抱きかかえ、膝の上に座らせ背後から抱きしめてやる。
それだけで、興奮していたリィズは大人しくなり俺に体を預けてくる。
その様子を見て、カナミも俺の傍に来たそうにするが、膝の上にリノアを乗せている為、放り出すわけにもいかず、一人で苦悩している。
「正確に言うと使えないわけじゃなく、使えなくなる、だな。」
「どういう事っすか?」
「簡単に言えば、魔力の回復が異常に遅いのと調整が効かなくなってるんだよ。だから、魔法を使い続ければいずれ魔力が枯渇するし、なるべく消費を抑えようとしても調整が効かないから想定以上の魔力を消費することになる……この世界で最初にリィズを助けた時覚えてるか?」
俺が聞くと、リィズはこくんと小さく頷く。
「あの時からおかしいとは思っていたんだよ。俺は最小出力で放ったはずなのに、あれだけの威力だろ?最初は増幅されているのかと思ったけど、どうやら勝手に魔力が上乗せされていたらしい。」
「実際のところ後どれくらい使えるの?」
カナミが聞いてくる。
「正確な所は分からん。残魔力量は大体2/3ってところだから、出力を絞った灼熱の大爆発なら、300発は放てると思うんだけどな、さっきも言った通り調整が効かないから、次に魔法を放つとき、どれだけ消費するのか計算できないんだ。加えて、他にも変な制限がかかってるような気がするからヘタに魔法を使う事は出来ない……たぶん、この宝玉の失敗もそのあたりが関係しているような気がする。」
俺は崩れた宝玉の欠片の山を見ながら言う。
「どういうことなんだろうね?私はいつもと変わらないのにね。」
「分からん。この世界の『紋章』が関わっているのかもしれないしな。大体女神がこの世界に送り込んできた意図が分からん内は、下手な消耗は避けたいところだな。」
「うーん、……ってリノアちゃん?」
カナミの膝の上で大人しく座っていたリノアちゃんが、トコトコと俺の前に来る。
そしてリィズを押しのけて、俺と向かい合うように膝の上に座る。
「何するっす!」
いきなり押しのけられたリィズが文句を言うが、リノアは構わずに俺を見つめてボソッと呟く
「する?」
「するって……何を?」
一瞬、リノアが何を言っているのか分からなかった。
それはカナミやリィズも同じらしく、二人とも唖然としたまま動きを止める。
「子作り……リノアに言わせるなんて、おにぃちゃんのエッチ……。」
リノアは、顔を真っ赤にし、モジモジしながらそう言う。
「あのぉ、リノアさん?ちょっと話が見えないんですが?」
俺が戸惑っている間に、リノアは自分の上着の留め金を外す。
どういう作りになっているか分からないが、それだけで、リノアの上半身がはだけ、それなりに成長している双丘が姿を現す。
「ちょっ……むぐっ……。」
止めようとする俺の口をリノアの唇が塞ぐ。
そして、俺の空いている右手を自分の胸にあてがう。
俺は、手の平に伝わる弾力と、リノアの舌技に心が奪われそうになる。
……っていうか、この子この年でどこで覚えたんだ?
「「すとぉぉっぷ!」」
唖然としていたカナミとリィズが我に返り、リノアを引き離そうとする。
カナミに引っ張られ、少しだけ離れたリノアが俺を見上げながら聞いてくる、
「リノアじゃ……ダメ……なの?」
潤んだ瞳でそんなこと言われたら、大抵の男は陥落するに違いない。
しかし、幸か不幸か、俺の傍にはリィズとカナミがいた。
「ダメよ。こういうのは、夜まで待ちなさい!」
カナミがリノアを引き離し、乱れた服を直しながらそう告げる。
……いや、そう言う問題か?
「にぃに、リノアにまで手を出すっすか?」
リィズが、自分の愛刀を握りしめながら聞いてくる。
「やっぱ胸っすか?それともロリっすか?私に飽きたっすか!」
「ちょっ……落ち着けっ……それ危ないからっ……。」
詰め寄るリィズを押しとどめる……って、なんで俺がこんな目にあってるんだよ。
俺はリィズを宥める言葉を捜しながら、そんな事を考えていた。
◇
「えっと、落ち着いたか?」
目の前に座る三人に声をかける。
「ゴメンナサイですぅ……。」
カナミとリィズに挟まれて項垂れるリノア。
「一応理由を聞いていいか?」
「……女神様の……意図……です……。」
「どういうことだ?」
俺は意味が分からず再度リノアに訊ねる。
リノアの話をまとめると、この世界は太古はともかく、今では紋章の力が無くては成り立たないそうだ。
火を熾す、水をくみ上げる、何かを作る……すべてに紋章を持つ者の力が関っている。
また、力の大小は有れど、紋章を持つ者は全人口の70%、そのうち聖痕を持つ貴族階級が8%、紋章を持たないものは奴隷階級として肉体労働に従事するという、紋章による階級社会が出来上がっていて、これを崩すのは事実上不可能に近い。
しかし、長い年月が経つと血が薄まり、貴族階級の中でも聖痕を持って生まれるものが少なくなり、時には紋章を持たずに生まれてくるものもいる。
その為、召喚術が伝わる王家は、ちょっとした事件がある度に勇者召喚を行い、その勇者の血を取り入れる事で血脈を守ってきたという背景がある。
そして、勇者を呼び出して、勇者の子孫を残すのは女神様の意思であり、召喚術を授けられた王家の義務である、と代々伝えられてきたという。
「だからリノアみたいに聖痕を持つ女の子は、みんな勇者様が現れたら子作りをするように義務つけられてるのですぅ。」
聖痕を持って生まれた女性は、国から援助を受け、かなり自由に育てられる。
行動に制約はなく、大抵の我儘を押し通す事が出来る。
ただし、それは「勇者と子を成す」という絶対的制約の代償という事らしい。
「だから、リノアはおにぃちゃんの子供を産まなきゃいけないの。」
リノアがそう言いながら、じりじりと間を詰めてくる。
その眼はどこか虚ろで、いつものリノアらしくない。
「カナ!」
「ウン分かってる……『カームプロテクション!』」
カナミの魔法が発動し、光の輪がリノアを包み込む。
意識を失い倒れ込むリノアをリィズが受け止める。
カナミはリノアに近づき、呪文を唱えながら、リノアの全身をくまなく触る。
「……ふぅ。」
一通りリノアの身体を光で包み込んだ後、カナミは魔法を解除する。
「何かわかったか?」
「うん……でも、かなり酷いよ。」
「大丈夫なんすか?」
リノアを抱きかかえながら、リィズが聞く。
「簡単に言えば『強制契約』の強化版の魔法がかけられているわ。力あるもの……すなわち勇者と相対した時、魅了と、誘発・催淫の効果が表れる様になってるわ。」
カナミはそこで言葉を切る。
「解除できないのか?」
「ちょっと無理。個人じゃなく血脈に対して掛けられているからね……。後、対象と効果が限定されていて強制力が強くない分解除に対しての抵抗力が上がってるのよ。」
カナミはギュッと唇をかみしめる……そして俺の眼を見て口を開く。
「センパイ、場合によってはリノアちゃんとしてあげてね。」
「それしかないのか?」
「うん、今後もね、何かの拍子に今みたいな発作を起こす感じで発動すると思うの。大抵の場合は、落ち着けば大丈夫だろうけど、『強制契約』を抑え込んだまま放置するのが続くと、リノアちゃんの精神が持たなくなる可能性があるから……。」
カナミが目に涙を溜めながらそう訴えてくる。
聞けば聞くほどえげつない。
「その事は後で考えよう。しかし、聖痕を持つ王家に連なる血筋の女性という事はサリアとネムもその呪いにかかってるという事か?」
「ネムちゃんのは聖痕じゃなくてただの紋章だから大丈夫だと思うけど、サリアちゃんはダメね。まだ発動はしていないみたいだから、センパイはなるべく近づかない方がいいとおもう。」
カナミの言葉を聞いて、、俺は腹をくくる。
「やっぱり、この国を出るのを早めるか。」
「それがいいっすね。」
俺の呟きにリィズが頷く。
リノアのお陰で、アガルタ城南の砦とその周辺の城郭街は一丸となって、サリア姫を中心にまとまりつつある。
その噂が中央にまで流れ、北部に近い都市を持つ領主は中立という立場を取り、クーデター派とサリア姫のどちらに着くのが都合いいかと、様子見をしている。
また、中央部では、クーデター派に反意を持つ者たちがレジスタンスを組織し、小規模な小競り合いが頻発、これを抑えるためにクーデター派は動けずにいる。
つまり、ある意味安定した状態になっているというのが、今のアイガス王国の現状だ。
そして、安定しているという事は停滞しているという事でもある。
下手に動けば今の微妙なバランスが崩れるため、どの陣営も動くに動けないのだ。
だから、この状況を打破するためにも、一度アイガス王国を出る事を考えていて、その為に「紋章がないのに力が使える」事を誤魔化す為の準備をしていたのだが……。
「でも、大丈夫なの?宝玉の作成上手く行ってないんでしょ?」
カナミが心配そうに聞いてくる。
「聖痕はまだ紋様のコピーのみだけど、紋章の方は下級なら封印に成功しているから何とかなるだろ。」
俺はそう言って幾つかのビー玉サイズの水晶球を取り出す。
「後はこれを宝飾品に加工すれば、急場は凌げるだろ。」
今手元にある宝玉に込められている『力』は『着火』「風壁」など、火・火・風・土・光・闇の基本6属性に属する幾つかの力と『回復』『治癒』などの癒し系が幾つかあるだけだが、当面はこれで凌ぐしかないだろう。
「ふーん、で、どこに向かうつもりなの?」
「それはこれから決める。出来れば魔道具とかの流通が多い所がいいんだが。」
「それなら帝国がいいのですよぉ。」
リィズに抱きかかえられていたリノアがそう口を挟んでくる。
「リノア、気が付いたのか?」
「ウン、おにぃちゃん、迷惑かけてゴメンね。」
「それで、何で帝国なの?」
抱きかかえているリィズから、リノアを受け取り身体中にサーチを掛けながら、カナミが訊ねる。
「帝国の四聖候の中で『白聖の虎将軍家』は「創造」の聖痕の血脈なんです。だから、おにぃちゃんの求める力か人が見つかりやすいと思うよ。」
カナミに身を預けながら、リノアがそう教えてくれる。
「血脈っすか?」
色々と調べていた俺や、宝玉作成を手伝ってくれたカナミと違い、まだ、紋章や聖痕の事をあまり理解していないリィズが首を傾げる。
「んっと、リィズは聖痕と紋章の違いってどこまで理解している?」
「あんまり理解してないっす。聖痕は紋章の上位互換っていう認識程度っす。」
俺の質問に、リィズがちょっと恥ずかしそうに答える。
「その認識で十分だよ。」
だから、俺はリィズに分かりやすく説明することにする。
「簡単に言えば聖痕は「大項目」で紋章は「小項目」なんだよ。」
そう説明するが、ちょっとわかりにくかったようで、リィズが首を傾げている。
「例えば炎系列の紋章の場合、火球の紋章、火の壁の紋章というように、紋章によって使える力が決まっているけど、『炎の聖痕』なら、炎を操る魔法が全て使えるんだ。だから「上位互換」という認識で間違いはない。」
リィズはコクコクと頷いている。
「そして、各国の王族や貴族の中には『血脈の紋章』と呼ばれる特殊な紋章が受け継がれていて、これは、その血族にしか現れないという特徴があるんだ。例えばリノアの持つ『ペガサス』の聖痕だけど、これは調教師系列の上位に位置する『幻獣』の聖痕をリノアの先祖が持っていて、その力を受け継いでいるんだ。」
調教の聖痕や紋章を持つ者は他にもいるが『幻獣』系の聖痕や紋章は初代アガルタ伯爵の血を引く者以外から現れる事はない。
逆に『幻獣』系の聖痕や紋章を持つ者がいたら、それはアガルタ伯爵の係累という事になる。
「そう言う、一部の血族からしか出ない紋章を『血脈の紋章』というんだ。血脈の紋章は、他にはない独特のものだったり、他より強力だったりするんだよ。」
「成程っす。」
俺の説明に、リィズが納得したように何度も頷く。
「だから帝国に行くのがいいと思うんですよ。」
すっかり元の元気を取り戻したリノアが、カナミに抱きかかえられながらそう話す。
「それに帝国なら、私が案内できるのですよ。」
リノアの言葉に、俺もカナミもリィズも驚いて彼女の顔を見る。
「案内って……ついてくるつもりか?」
「当たり前じゃないですか。」
訊ねる俺に対して、何言ってるんですか?と不思議そうな顔で見てくる。
その顔を見て、俺は説得するのを諦める。
あの顔はよく知っている……何を言っても聞かず、自分の意志を押し通す顔だ……。
俺の周りには、そう言う顔をする女の子が一杯いる。
だから、言っても聞かないという事をよく分かっている……俺は無駄な事をしない主義なのだ。
「ハァ、分かったよ。その代わり色々手伝ってもらうからな。」
「ウン、任せて。」
俺がそう言うと、嬉しそうに、今日一番の笑顔で頷くのだった。




