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アガルタ城攻略

「暇っすねぇ。」

「暇ねぇ。」

「だぁーっ!お前ら煩いっ!」

 さっきから、両脇で「暇、暇」とユニゾンで囁かれる俺の立場にもなって欲しい。

「そんなに暇なら、街に行って買い出しでもして来いよ。特に食材関係はどれだけあっても足りなくなるからな。」

 俺はそう言って、収納バックと金貨の入った袋を投げて渡す。

「って、センパイ。このお金どうしたの?」

「にぃに、ここに来た時、アイテムもお金も何もないって言ってたっすよね?」

 カナミが受け取った金貨の数を数えながら聞いてくる。

 リィズも興味があるようだ。


「や、カナミの元に駆けつける時とな、あの部屋から脱出するときに、目に付いた金目のもの物を、こう、ちょいちょいっと、な。」

「センパイ?」

「にぃに?」

 金貨の出所を知った二人がジト目で俺を見てくる。

「ほ、ほらっ、俺達への慰謝料とか賠償金代わりだよ。王女様の護衛の依頼料とか、な。それに、そのままだったらクーデターを起こした奴らの資金源になるだろ?それなら俺達が有意義に使ってやる方が国の為だって。」

「……そう言う事にして置くっす。」

「はぁ、サリアたちには言えないわね。」

「だから、ナイショで、な。」


「何がナイショなんですの?」

 俺が二人に口止めをしていると、突然背後からサリア王女の声が聞こえる。

「ビクゥッ!」

「口でビクッという人初めて見たっすよ。」

 俺の渾身のリアクションに、リィズの冷たい指摘が入る。


「それで、何がナイショなんですの?」

 再度聞いてくるサリア。

「そんな事より、どうしたんだ?攻略できたのか?」

 俺が話題を変えるためそう聞くと、サリアが、少し困った顔をする。

「そのことで、少しご相談をと思いまして。」

「おいおい、言ったはずだぜ、魔王の助力は安くないって。」

「えぇ、存じております。ですのでここは、『魔王』様ではなく、異界より来られた友人のレイフォード様に是非ご助言を、と思いまして。」

 そう言いながら、にっこりと笑うサリア。

 ここに来てからの数週間で化けやがった、と思わず唸ってしまう。

 以前のサリアなら、どうしていいか分からず、オロオロするだけだったに違いない。


「立場が人を育てる……か。」

「何かおっしゃいまして?」

 俺の呟きにサリアが反応する。

「いや、何でもない。特別に話を聞くだけだぞ。」

 俺の言葉に、カナミとリィズがワザとらしく大きなため息をつく。

「じゃぁ、私達は買い出しに行ってくるっすよ。」

「サリアに変なことしちゃダメよ、そう言う事するときは私も一緒だからね。」

「いいから、さっさと行ってこいっ。」

 カナミが変なことを言い出したので、さっさと追い出す。


「あの、お二人はどちらへ?」

 怪訝そうにサリアが聞いてくる。

「あぁ、暇だっていうから買い出しにな。この先どうするにせよ、旅支度は必要だからな。」

「そうですか……やはりこの国を出られるのですか?」

「それはお前次第だって言ったろ?で、何を悩んでいるんだ?」

「クスッ……やはりレイフォード様はお優しいんですね。」

 微笑みながらサリアが呟く。

「今はその優しさに甘えさせていただきたいと思いますわ。」

 そう言ってサリアが話し出す。


 サリアの話を簡単にまとめると、ガストール老は力を貸すに値するものを見せよと言ったそうだ。

 つまり、勝利の目算とか、得られるメリットとか、そう言ったものが無ければ力を貸せないという事だ。

 当たり前だろう、誰が好き好んで損をしたいと思うだろうか?

 ガストール老がサリアを匿っているのは、あくまでも前王との友誼と義理があっての事、これ以上は、それなりのメリットが無ければ動くことはないだろう。


 現時点で、サリア側に着いたとして得られるものは、王族側についているという正当性だけだ。

 それも、戦に勝てればの話、負けてしまえば、その正当性さえ失われる。

 そして、現在の戦力比は25:1……この状況で、サリアに手を貸すメリットはどこにあるのか?

 つまりは、そう言う事だ。


「それで、俺に何が聞きたいんだ?現状についてはガストールの爺さんがちゃんと教えてくれたみたいだから、理解はしてるんだろ?」

 サリアはコクリと頷いてから、再び口を開く。

「えぇ、それでですね……。」

 サリアは持ってきていた荷物の中から地図を取り出して広げる。

「このアガルタから南に位置する3つの砦、これを墜とした上で、この地を治める城を墜とせば、2万の兵力を集める事が出来ます。その数をもってして、ここと、ここ、この地方を、私達に恭順させれば、アイガス王国の1/4を掌握する事が出来ます。」

「それで?」

 分析能力は悪くないなと思いつつ、先を促す。

「後は状況次第ですが、リズノア王国、トリニティ帝国を煽って、本国との緊張感を高めます。その上で、どちらかと手を組んで攻めあがれば、王都の奪還はなるかと思います…………が如何でしょうか?」

 サリアが上目遣いに俺の顔を覗き込む。

 これで問題ないだろうか?と。


「まぁ、細部は色々詰めなきゃならんだろうが、悪くはないな。」

 俺がそう言うとサリアの表情がぱぁっと明るくなる。

「ではっ!」

「実現できるなら、の話だけどな。」

 しかし、続く俺の言葉に、一気にシュンとなる。

「そもそも前提条件の『砦を墜とす』のをどうやる?上手くアガルタの兵を借り出せたとしても、いい所3千だろう?対してこの砦は、最低3千の兵士が常駐、事が起きれば7千まで増援可能だ。これをどうやって落とす?」

 俺の言葉にサリアは黙り込み、視線を漂わせている。

 そして顔を上げると、意を決したように訴えてくる。

「レイフォード様のお力を借りるわけにはまいりませんか?」

「……言ったろ?魔王の力は安くない、と。」

 じっと見つめてくるサリアに、冷たく言い放つ。

 しかし、サリアも引く気はないようだ。

 その眼の色が挑戦的なものに変わる。


「そうは言いますが、あなたの言う『魔王の力』とやらは、『アイガス王国第一王女、現第一王位継承者』たる、この私サリアの身を預けるに相応しいだけの力があるのでしょうか?」

 身体は小刻みに震えてはいるが、俺の眼を見てキッパリと言い放つ。

「言ってくれるねぇ。それだけの力があるかどうかを、砦を墜とすことで証明して見せろってか?」

「そうです、空手形はゴメンですわ。」

 強気な発言で自分を奮い立たせているのだろう。口調とは裏腹に、顔は蒼白で、体中が震えている。

「……良いだろう、そこまで言うなら力を貸してやろう。」

 俺がそう答えると、サリアはホッとしたように体の力を抜く……が、まだ安心するのは早いぞ。

「ただし、条件がある。」

 続く言葉に、力が抜けて崩れ落ちそうになっている身体を、必死に立て直すサリア。

「色々あるが、まず手始めに……。」

 俺の言葉に、サリアは真っ赤になりつつも小さく頷いたのだった。


 ◇


「サリア様、お呼びでしょうか……ってわっ!」

 室内に入ってきたアルベルトが驚愕の声を上げる。

「オイオイ、どうした……んなっ!!」

 続いて入ってきたガイルも室内の様子を見て固まってしまう。

 正確には、この部屋の主であるサリアの姿を見て……だが。

 二人を呼び出したサリアは、部屋の中央の豪華な椅子に座っている……いや、()()()()()いると言った方が正しいか。

 手は後ろに回され、その身体のライン、特に胸元が強調されるような感じで縛られているのだから。

 そう、大人向けのちょっと()()な動画で、よく見かける縛り方である。

 ちなみに縛ったのは、サリアの横で、同じように縛られているネムを抱えてご満悦な表情をしているカナミである。

 何故、そんな縛り方を知っているのだろうかと、リィズを見たら、リィズは静かに首を振って「世の中知らない方が幸せって事があるっすよ。」と言ったきり黙り込んでしまったので、俺もスルーすることに決めた。


「お前かっ!すぐ姫様を解放しろっ!」

 ガイルが真っ赤な顔をしながら叫ぶ。近づいてこないのは、リィズを警戒しての事だった。

「そう言われてもなぁ、これはお姫さんが望んだ事なんだぜ。」

 俺は飄々と答える。

「バカなっ!すぐ解放するんだ!」

 アルベルトも言ってくるが、それを当のサリアが遮る。

「アルベルト、ガイル、落ち着きなさい。これはレイフォード様……いいえ、ご主人様の言う通り、私自ら望んだことです。」

「何をバカな……。」

「そう言う様に脅されているんですよね?そうですよね?」

 サリアの言葉でも信じられないと、目を見張るガイルとアルベルト。

 しかしサリアは、そんな二人に対し、静かに首を振る。

「いいえ、私はご主人様にお力をお借りする代わりに、隷属することを選びました。ここにいるのは王女でも何でもない、ただの奴隷女なのです。ですので、二人はもう、私に従う必要はないのです。それだけを言いたくて呼んでもらいました。今までありがとう。」

 サリアはそう言うと、顔を伏せる。


「まぁ、そう言う事だ。……もう主従の関係じゃないって言ってるが、どうだ?何だったら、今まで仕えた御礼という事で、コイツに奉仕させるか?中々上手だぞ?条件次第では好きにさせてやるが、どうする?」

 俺がそう言うと、サリアは顔を真っ赤にして俯く。


「「ふざけるなっ!」」

 アルベルトとガイルの声が重なり、二人そろって剣を抜く。

「サリア様、あなたがどう思われようが、私は貴方様の騎士であります。」

「姫様、どうか御命じください。この不届きものを切り捨てて助けよ!と。」

 剣を構える二人から殺気が放たれる。

 それを受けて、リィズも威圧を強めているが、二人は動じない……どうやら本気のようだ。


 俺はサリアに顔を向けて小さく頷く。

 サリアは、頷きを返すと、二人に告げる。

「お二人の気持ちはよく分かりました。こんな私をまだ主と思ってくれるなら、どうか、この場は剣を納めてください。」

 サリアが二人に話しかけている間に、カナミがサリアの戒めを解いていく。

「しかし……。」

 ガイルとアルベルトは戸惑っているが、サリアの眼を見て、不承不承剣を納める。

 戒めを解かれたサリアは立ち上がり、二人の下へと向かう。

「二人を試すような真似をして申し訳ありません。これからも、その命、私に預けてくださいますか?」

 サリアが二人に手を差し出すと、アルベルトとガイルは片膝をつき、その手を取って首を垂れる。

「この命はすでに姫様のものであります。」

「姫様の命とあれば、例え相手が悪魔であろうとも、この命をかけて叩っ斬ってやりましょうぞ。」

 こちらをちらりと見ながら、物騒な誓いを立てるガイル。

 

「うーん、主従の誓いは美しいねぇ。」

「にぃに、何が言いたいっすか?」

「私とセンパイは夫婦の誓いだよね?」

 俺の単なる呟きに、なぜか二人が反応する。

 そして、なぜか不穏な気配を漂わせている。

 俺は愛想笑いでその場を切り抜けるしかなかった。


 ◇


 場がようやく落ち着いたところで、俺達は改めて座り直して軍議を始める……とは言っても、現状で話すことは殆ど無い。

 これは、アルベルトとガイルの不満を逸らすための形だけの軍議だ。

 実際の策は、すでに行動が開始されている。

 この場にカナミとリィズが居ないことがそれを裏付けているのだが、サリアも他の二人もそれに気づいてない。

 ただ、縛られたまま放置されているネムだけが、恨めしそうに俺を睨んでいた。


「取りあえず、3日後にガストールの爺さんと話をしようか。その場でサリアは、さっきの話を爺さんにしな。それで全ては動き出す……後戻りは出来ないからな。」

 言外に「辞めるなら今の内だ。」と言う含みを持たせてサリアに告げる。

 サリアは、拳を握り締めて大きく頷く。


「それから、そこの二人。気持ちは分かるが、そう睨んでくるのは辞めてくれないか。」

 俺は、さっきからずっと睨んでいる二人に声をかける。

「別に俺に従えって言ってる訳じゃない。あんたらの敬愛する姫さんの言うことに従ってくれればそれでいいから。」

 それに、と、俺はニヤリと笑いながら続ける。

「大体、姫さんが隷属したのは本当のことだし、部下のあんたらがそんな態度だと、姫さんへキツいお仕置きをしなきゃいけなくなるしな。」

 俺がそう言うと、二人の殺気が一気に膨れ上がる。

 

 バシャッ!


 二人が腰の剣に手をかけるが、いきなり頭上から水をかけられて、それどころではなくなっている。

 俺ではない。何故なら俺にも水が浴びせられ、ずぶ濡れ状態なのだから。


「ちょっとは頭冷やすっす。にぃにも一言余分っすよ。」

「リィズ……早いな。」

 犯人はリィズだった。

 カナミと一緒に行った筈なので、早くても明日の夜まで戻ってこないと思っていたのだが。

「カナミに言われたっすよ。カナミが戻るまで、サリアに手を出さないように見張っていてって。」

 リィズの言葉に、ホッと一息吐くアルベルトとガイル。

 しかしその顔は続くリィズの言葉で微妙なモノに変わる。

「カナミからの伝言っす。『サリアの初めては私が貰うんだからセンパイはお預け。』だそうっすよ。」

 

 その言葉に、二人だけでなく、俺とサリアの表情も微妙なモノに変わる。

「アイツは一体なに考えてんだ?」

「知らないっすよ。どうせ、どうやってにぃにの気を引こうかって考えてるだけっすよ。」

「何だかなぁ……。」

 思いっきり気が削がれた俺は、リィズにいくつか買い物を頼み、後のことはサリアに任せて、与えられた自室に戻ることにした。


「総ては三日後からだ。」とサリアに言い残して……。


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