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誰もいない教室、授業の終わり

「ねえねえ、高級お肉まだ?」


 土の精霊ティエラ。

 淡い茶色の髪と猫目を持つ彼女は、ロウの服の袖をクイクイ引っ張り首を傾げた。

 ルミエールから出来る限り逸らしていた顔を、ティエラに向けてロウは彼女の頭を撫でる。


「ごめんな。今は持ってないんだ」


 目を細めて気持ち良さそうに撫でられていたティエラの表情が、一瞬にして悲しげなものに変わった。


「そうなんだ。今はないんだ。残念」


 食いしん坊で、ぐうたら大好きなティエラはフワッフワの耳毛が特徴の猫耳と尻尾も悲しげに伏せる。


 授業にお肉は必要ない物である。とロウは考えていた。

 授業に必要のないものは基本ロウは持ってこない。というか持ってくる人の方が少ないだろう。


 もし仮に持ってきて、教師が授業中にお肉をつまみ食いなんてしたら、生徒のやる気は削がれてしまうものだ。

 たとえ、食べなくても教卓にお肉を乗せている変人として見られてしまう。


 ロウは変人になる勇気はなかった。

 それから、生徒が一人も集まらないなんて事態になるとは思わなかった。


 教師紹介のときに聞こえた6つの拍手。

 それがあったから6人位の生徒は来るかもと、期待していた。

 しかし、現実は残酷なもので、実際にこの教室にいるのは6の契約精霊だけだった。


 ここで話しの初めに戻る。

 学ぶものがいない状態で教師がいる。

 このとき教師は必要か? と聞かれたら、ロウは必要ないと応えるだろう。

 つまり、今は必要がない。


 逆に、今は契約精霊のティエラが高級なお肉を食べたいと言ってきている。

 しかし、ロウはお肉を持っていない。なぜかと聞かれると、授業に必要ないからだ。

 このときお肉は必要か? と聞かれたら、ロウは必要だと応えるだろう。

 だから、ロウは思った。


(教科書の代わりに、次は高級なお肉を授業時間のとき持っていこうかな)


 銀髪の男ロウ。

 仮にも彼は教師である。


 話はそれたが、目の前のティエラは相変わらず落胆色を見せていた。


「今度の休みにでも、一緒に街に行って高級なお肉を食べよう」


 ティエラを元気付ける為に、ロウは誘った。


「うん。でもまだ僕は力がないから、暫く宝玉化してていい? 早く人間に近い姿になりたいんだ」


 ティエラの願いは、人間になることだ。

 もともと、砂漠地帯に住んでいた猫の魔物の魔力を摂取して生きていたティエラは、そこに訪れる人間に興味を持ったらしい。

 その人間と触れ合う内にティエラは人間になりたくなったようだ。


 そして、ティエラはロウが一番新しく契約した精霊で、契約してからまだ半年程度しか経っていない。

 人間以外の魔物の魔力の割合が他の精霊より多いので、猫の髭が生えていたりと、ティエラは他の精霊より獣成分が強い。


 なので、ティエラは人間の魔力の割合を上げるために魔力を摂取して、早く人に近付きたいから魔力の摂取効率のいい宝玉化を常にしているのだ。

 ちなみに、ティエラがぐうたらな理由は、猫の魔物と過ごしていた頃、お昼の時間帯はみんな寝ていて、その魔物が昼は起きないからつまらないと思ったティエラは一緒に眠っていたらしい。

 その習慣が今でも残っていて、昼の時間帯に起きていることは珍しいことだ。

 それに加え、ロウは昼に動いて夜はぐっすり眠る人間である。

 ロウが寝ている夜間は、やっぱりつまらないと思ったので寝ることにしているから、結局昼も夜も寝ていて、暇なときは何か食べるというぐうたら精霊が出来上がったわけだ。


 ここで精霊は眠る必要はないのか、という疑問があるかも知れない。

 それの答えは……眠る必要はない。だ。

 精霊は基本的に魔力の集合体である。人間の魔力を吸収したら人間に近い肉体構造になるが、それは完全に人間の体ではない。

 例えば、人間は肉体を損傷すると、即座に治らないが、精霊は魔力がある限り一瞬にして治すことができる。逆に、魔力がないと治らない。

 それは肉体すらも魔力で出来たものだからだ。


 そして、人間は魔力をすっからかんにしても、気持ちが悪くなるなど弊害があるが、暫く安静にしていれば体の中で新たな魔力が生成され、死ぬことはない。

 だが、精霊の場合魔力を作り出すことが出来ず、空気中や他の生物から吸収しなければ魔力を得られない体をしている。

 魔力を得られなければ、魔力の集合体である精霊は消滅……つまり、死んでしまう。


 話は戻るが、精霊は生物が生き抜く上で必要な3大欲求などの代わりに、魔力を摂取したいという欲求だけがある。

 だが、欲求がなくとも寝ることは出来るし、食べることも可能だ。


 そんな精霊のティエラは宝玉内で寝ていたり、現界して食べたり、食べ終わったらまた寝たりと、ぐうたらな生活をするうちに、こんな生活もいいかな。と思い始めている節もある。

 本来魔力を吸収するだけの精霊の欲求だが、ティエラは普通の人間よりいつの間にか、食欲と睡眠欲が勝っている気がするのは、ロウの気のせいではないのかもしれない。


「うん。寝てていいよ」

「ロウ。ありがとう。おやすみなさい」


 しかし、ロウのティエラへの態度は、他の精霊への態度よりも甘かった。

 他の精霊は、いたずら好きだったり、嫌われていたり、元気に歌っていたり、自分を無駄に持ち上げたり、腹黒だったり、でもう全然擦れたところのないティエラは、割と癒しだったりするのだ。


 そして、ティエラは左耳のピアス……宝玉の状態に戻った。


「ティエラちゃんは宝玉に戻っちゃったかぁ。でもぉ、5人だけでも授業の練習にはなるよねぇ」

「うん。ありがとねオスクーロ。誰もいないところで授業するより、誰かいた方が授業の練習する意欲も湧くよ。

 ……あれ、でもどうしてフラム達は一斉に現界したんだろう? オスクーロが宝玉のみんなに呼びかけても、ハウはノリで来るかも知れないけど、学園では出来るだけ現界しないように言っていたから、フラムとルミエールは来ないと思ったし、マーレも現界しないと思った。……ティエラはやけに高級お肉とせがんでいたから、それで釣ったって分かるけどさ」

「クスクス、それは簡単な話だよぉ。ロウ先生がぁ、不用心にもお口ペロペロされたからじゃないかなぁ」


「ふーん……」

 とは言ったものの、なぜそれでみんなが来るのか分からず、顔を赤くしながらロウは本題へと話を変えた。


「でも、まぁ、早速授業の練習をしよう! みんな席に着いてくれ」

「ねぇ! どうしようロウ! 制服姿になっても、袖の炎が消えないから炎上してる生徒になっちゃうんだけど! 今まで気にしなかったけど、この袖口の炎全然消えてくれない!」


 ロウが授業の練習をしようと言ったとき、今まで黙っていたフラムがそういった。


 フラムも服の見た目を制服に変えたのだが、炎の力が強すぎて袖口が炎で燃えている。

 今まで黙っていたのはその炎を消そうとしていたからであろう。


 フラムはロウの初めての契約精霊であり、一度火山でパワーアップしてから単色の深紅の髪や目から炎の赤と黄色いグラデーションになったとともに、炎の力が強まり袖口が常に燃えている状態になってしまった。


 が、


「街に出るときもそのままだったし、別に無理して消さなくてもいいよ。……それと、制服似合ってるね」

「あはははは! そっか、消さなくてもよかったんだね! ロウの教える姿も期待してるよ!」

「うん、期待しててよ」


 そして、ロウは教壇に登り改めて言った。


「これから、基礎魔法学の授業を始めるよ! みんな席に着いてくれ」

「私は一番前の真ん中の席ね! ロウの教師姿を真正面から観察するんだ! 悪いところがないか、嫁をいびる姑のように!」

 ジーーーーーーーーーー……。

「…………フラム……その席に座るの私……。……フラムは後ろ……行って」

「フラム。その席はわたくしが主様の視姦……もとい、敬い崇めるいわば聖地のようなものでございます! 主様の真正面は即ち聖地! いくらフラムといえど、その席を戴くのはわたくしでございます!」

「その席はぁ、ロウ先生の授業の練習を提案したぁ、クーロの特権だよぉ♪」

「ええい! 黙れ! 嫌がる主様をその舌で穢した獣が! フラムならまだしも、貴様がその席に座るのなどありえない……ありえてはならないことです!」

 ジーーーーーーーーーー……。

「…………変態なルミエールもありえない……」

「まあまあ、みんな一番前の列は開いている事だし、そこに座ればいいんだよ!」

「みんな! どこでもいいから席に着いてくれ」

「勉学勉強机に向かう♪ 教室中心びゅびゅびゅびゅーん♪ 縦横斜め♪ 机が囲む♪ ここは紛れなく♪ 教室の中心♪ 誰もが見る見るジロロローン♪

我を見る見るジロロローン♪ けどけどおかしい♪ 誰もが見てない♪ 我の存在感すかかかーん……♪ がーん♪」


 結局、誰がど真ん中の前の席に座るのかなかなか決まらなくて、気付いたら終了のチャイムが鳴ってしまい、授業の時間が終わる。

 結局授業は椅子取り争いで潰れてしまった。


 授業の練習にはならなかったと、思うかもしれないが、そうではないとロウは首を振るだろう。

 授業はたしかに進められなかったが、分かったことがあったのだ。


 それは、

(こんな少人数を纏められない俺は、教師に向いていないのかもな……)

 そんな疑念と、生徒に対しもっとちゃんと注意を言わなければならないのだという、反省点が浮き彫りに出来た。


 教師生活を一歩ずつ歩んでいるロウ。

 彼の次の授業に生徒は現れるやいなや、それは解らぬことだ。


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