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誰もいない教室、精霊とのワチャワチャ

 フラムとロウが戯れているのを見ていたのは、マーレだけではなかった……。


「我は風の娘速いのだ♪ ピュンピュン秒速ずがががーん♪ 天地がそこに隔てるように♪ 油と水が分かれるように♪ 二人の間に潜り込む♪ ロウロウフラフラ隙間に我ハウ♪」

「ぐえ!」


 緑色の髪がさらさら揺れる。

 ロウとフラムの間に潜り込んできたのは、風の精霊ハウだ。

 妙にテンポのいい言葉を唄いながら至近距離から超加速で飛んできて、急停止する。

 急停止の衝動で教室内に風が荒れ狂い、窓ガラスをガタガタ揺らした。


 小さなトンボの羽根のようなものを生やしていて、一見すると人間サイズの妖精(フェアリー)族みたいに見える。

 ロウは高速に飛んできて腕をばっと開いたハウに腹元を押され、教壇の段差を起点に後ろに倒れ込んで教卓に頭を打ち付けられそうになったが、寸前で(ウィンド)の魔法により体制を立て直すことに成功した。

 しかし、腹を思いっきり押されたので、痛むそこを擦っている。

 ちなみに、フラムはちゃっかり後ろに下がって避けていた。


「痛て……」

「ロウ! 大丈夫!? 」

「あれあれおかしい当たったよ♪ ロウロウ鈍足ガガガガーン♪ お腹にめり込む我の右腕♪ そして沈みゆくロウ我が主♪ プンプン怒る? ごめんなさい……♪」


 コクリと頭を軽く下げ、チラッチラッとロウの顔を伺い見るハウ。

 それは悪いことした子供が親の表情を見るみたいで、申し訳なさそうな顔もしている。

 謝る言葉すら唄いながらだったが。


「いや、ハウはわざとやった訳じゃないからいいよ」


 いつもはハウのあの動作を避けられるのに、今回避けられなかったのは理由がある。


「でも、狭い場所ではこの登場は禁止ね」


 そう、後ろに下がろうとしたら教壇があり下がるのに失敗したのだ。

 ハウはロウの発言を聞き、ムムッと何事か顔を顰める。


「我の登場どうするの♪ 課題問題頭を抱える♪ 我の頭はスカカカーン♪ はぅぅ……♪」

「いや普通に歩いてくればいいと思うんだけど……」

「そんな登場つまらない♪ 我は派手好きドドドドーン♪ 翔けるこの羽根飾りであらず♪ 翔けるこの我風の精霊♪ ピュンピュン飛びたいダダダダーン♪」


 ダダダダーンってなにか壊れる擬音みたいだな。とロウは苦笑した。

 その横でフラムも笑う。


「あはははは! ハウちゃん今度狭い場所での登場の仕方を一緒に考えよう! それからいつもワンパターンのポーズだし、なにかバリエーションもこの際考えておこうよ!」


 フラムがそんな提案をすると、ハウはフラムの両手をとって、足の力だけでジャンプする。

 表情はもちろん喜び色だ。


「やったぁフラフラありがとう♪ 我は名案期待する♪ ぽんぽん閃けパパパパーン♪ 誰もが驚く我の瞬速と♪ 誰もが崇める威厳のポーズ♪ ロウロウ次の楽しみね♪」

「うん、楽しみにしてるよ。フラムの考えるポーズはどんなのだろうなぁ」

「あ、あはははは……! なんかハードルが上がってるよ……!」


 フラムは口元を引き攣らせる。


 ふと、ハウがいつも着ている服とは違う服を着ていることにロウは気付いた。

 いつもはノースリーブに短パンみたいな動きやすい格好だが、今はこの学園でよく見かける服を着ている。

 Yシャツとスカートにローブを羽織っている格好。

 それは、この学園の制服だ。


「その服は……」

「ロウロウ気付いたみたいだね♪ スカートはためくひらららーん♪ 風に揺られる旗のように♪ 海で泳いだクラゲのように♪ みんなしてるよ♪ この格好♪ 見て見てロウロウジロロローン♪ 着て着てフラフラシュパパパーン♪ ジャン♪」


 そう言ってハウは、他の精霊がいるところに高速で移動し、ガバッと腕を開く。

 高速から急停止したものだから、ハウのスカートが舞い上がって中のスパッツを露呈させてしまっていた。


 ハウの腕を広げた場所には、この学園の制服を着飾った5の精霊がいる。


「え? みんなどうしてこの学園の制服をきているんだ?」


 ロウは首を傾げた。

 それに応えるために黒狼の娘が前に躍り出て、ニッコリ笑う。


「クーロの提案だよぉ。生徒が来なくてぇ、授業の予行練習をしてる、悲しい悲しいロウ先生のためにぃ、みんなに制服を着て貰っちゃいましたぁ♪ クスクス、こうすれば予行練習にやる気が出るでしょぉ? どお、ロウ先生? クーロ似合ってるかなぁ?」

 ジーーーーーーーーーー……。

「……………ロ………合う…………?」

「ロウロウ改めロウ先生♪ クロクロ曰く淫行きょーし♪ 似合ってるかな? くーるくる♪」

「ねえねえ、お肉くれる? オスクーロに聞いたよ。この姿をすれば最高級のお肉にありつけると」

「あ、主様! お目汚し失礼します……!」


「あ、ははは、みんな似合ってるよ。ありがとう俺のために」


 ロウは少し驚いた。

 反抗期の娘が父親を嫌うように、自分のことを嫌っているマーレや、自堕落な土の精霊ティエラが珍しく現れて、態々服装を変えるなんてことをするとは思わなかった。

 光精霊のルミエールは、いつもの堅苦しい言葉遣いの娘だ。


「それから、ハウ。淫行教師は止めようか! オスクーロにあまり影響されないでね」

「はいはいわかった言うの禁止ね♪ 淫行きょーしは封印しよう♪ ロウロウ嫌がるガガガガーン♪ 我ことハウは♪ 承諾しましょう♪」


 分かってくれてよかったと、ロウは一安心する。

 しかし、ロウの言葉にオスクーロが異議を申し立てた。


「ロウ先生の言い方酷ーい。クーロがハウちゃんにぃ、悪影響与えてるみたいに聞こえるよぉ? それにぃ、クーロに口元をペロペロされちゃったんだからぁ、淫行したことに変わりはないでしょぉ♪ クスクス」


 にこやかな笑みを浮かべながら口元を指差すのオスクーロの言葉に、先ほどの感触を思い出したロウは、"忘れようとしていたのに"と顔を赤くする。

 そして、天使の輪っか以外ただの人間の少女にも見える光の精霊ルミエールはそういえば……と金の瞳に怒りを滲ませ、オスクーロに指を指した。


「そうでした! 制服を着るという提案で忘れそうになっておりましたが……オスクーロ貴様! 主様になんて羨ま……けしからぬ事をしてくれたんですか! 主様が甘美なる声を紡ぐその口元を、獣のように蹂躙して穢し、あまつさえ悪びれる様子もなしでいる。これは主様への叛逆です! 主様! オスクーロには何かしらの罰……を……主様……?」

「な、なに!?」

「ご尊顔が神秘的な朱色に染まっております! どこか体調が優れないのですか!? もしそうなのでしたら、この不肖ルミエールに何なりとお申し付け下さい! 主様がお呼びでしたら、たとえ火の中水の中トイレの中お風呂の中いつでもどこでも駆けつける所存であります!」

「そ、そうか……!」


 凄い熱量だ。

 ロウはルミエールの最後の方の発言を内申引きながらそう思った。


「ルミエールちゃんってぇ、ロウ先生の精霊の中でぇ、一番の変態だよねぇ……。トイレの中お風呂の中ってぇ、何それ願望? ロウ先生、他の精霊達に真に悪影響を与えるのはぁ、クーロじゃなくて実際のところはルミエールちゃんでしょぉ?」

「なっ! 貴様! そのような戯れ言ーー」

「……一理なくもない」

「え、主様ぁ! 何故一理なくもないとその美声を下界に轟かすのです!? そして、何故わたくしから美麗なご尊顔を背けるのですかぁ!?」


 ルミエールは涙目である。

 しかし、顔を背けてるロウには分からない事だった。

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