43話 親善試合
少し書き溜めしましたので、投稿再開します。
今まで北方語以外の言葉は『◯☓△』と言う形でしたが、ルビが小さくて読み辛いので『〈 〉』という表現に変えました。
陽が大分傾いた頃になると、本日宿営する場所のセン村に到着した。
主にグリーンスキンが住む、200人程の村である。ここにも奴隷はいて、その全ては村長であるオークが所有していた。
村の中の積雪は綺麗に片付けられていて、獣車も走りやすくなっている。
この村の空き家屋でウマッハ達は1泊するのだが、奴隷達は空き地で天幕を張っての野営だった。山の中での宿営よりも良いが、寒いのは変わらない。
広場で獣車を停めると、ウマッハは村長へ挨拶に行った。
その間バンブロック達は檻から解放され、広場で休む許可が出る。そこで各々が体を伸ばしたりしていると、ふとあるものが目に留まる。
荒い造りながら、木造のコロシアムが見えたのである。この村でもやはり、闘技が浸透していた。
月に1度のペースで、他の村との合同剣闘大会を開催していた。もちろんバドの街へも、時々だが遠征している。
そしてもうひとつ、バンブロックは気になっている建物があった。
村長の家である。
いや、家と言うよりも屋敷と言った方が良い。
バンブロックはその屋敷を見てつぶやく。
「なあ、モナ。あれが村長の家なんだよな」
「ああ、そうみたいだな。知らんけど」
「この村の規模にしては、やけに大きいと思わないか」
「村長の家の大きさなんてさ、どうでも良いよ。それよりロック、腹減ってこないか」
「う〜ん、そうだな。確かにどうでも良いか」
バンブロックは人間社会と照らし合わさて、この村の規模と村長の家の規模の不釣り合いが、気になったのであった。
それに村長の身なりも良いし、所有する奴隷の数も多い。
この村の規模だけでは、そんなに良い暮らしは出来ないと思ったからだ。
またバンブロックとは違い獣人のガンプは、鼻をクンクンさせながら眉間にシワを寄せている。
バンブロックが尋ねると「酸っぱい臭いがする」と言う。ただし具体的に“何の臭い”かは分からない。
バンブロックとモナも分からず、首を傾げるだけだ。
しばらくするとオーク兵が来て、村長所有の剣闘士との剣闘試合を行うと言ってきた。
ただしこの村の剣闘士は、ランクEしかいないので、対戦はガンプだけになる。
そして対戦相手は熊系獣人であった。
こうして親善試合の準備が、優先的に進められていく事になる。
準備が始まると、村にある見張り塔の鐘がゆっくり鳴らされる。すると村の至る所から村人達が、コロシアムへと集まって来る。村人総出で、闘技場の除雪作業である。
バンブロック達は、観客席からそれを見ているだけで良かった。
ただし、座る事は許されなかったが。
除雪の終わりが見えてくると、今まで作業していた者達が、今度は闘技場の観客席に座り始める。もちろん客としてである。
こんな辺鄙な地とあって、闘技試合は村人の数少ない娯楽のひとつであった。
観客も集まり準備が整い、いよいよ試合が始まる。
村人ならば試合を見るのは無料だが、殆んどの村人は試合の勝敗の賭けに参加するため、そこで胴元の村長が利益を得るのである。
とは言っても村人の賭ける金額は安い。それで村長の利益もたかが知れていた。
そしてガンプと熊獣人が、10メートル四方程の闘技場で対峙する。
やはり地元の熊獣人が、圧倒的な人気であった。試合が始まる前からガンプには罵詈雑言が凄まじく、反対に熊獣人にはエールが送られていた。
試合で使う武器は、全て刃が潰してある武器であった。地方の小さな闘技場では、剣闘士の消耗を減らすと言う意味で、このルールを採用している。
とは言っても、刃が潰してあっても使い方によっては、切れるし突き刺さる。
いざ試合が始まると、ガンプのレベルの方が数段上だった。
しかしそれは、仕方無いのかもしれない。
ガンプは養成所で毎日鍛錬している上に、元はベテラン兵士である。言ってみれば戦いのプロ。
反対に相手の獣人は、そう頻繁に試合がある訳でも無いから、普段は狩りや力仕事をしている。
そうなると、剣闘士としてのレベル差は明白だった。
試合が進んでくると、相手の攻撃パターンが読めてきて、ガンプに余裕が出てきた。
わざと相手に攻撃をさせて、それを全て避けるか盾で受け流して見せ、余裕をアピールしてきたのである。
純粋に力だけは、相手の熊系獣人の方が上である。だが俊敏力や試合運びや技量は、豹系獣人のガンプが上。
ガンプは相手の攻撃をいなしながらも、肩をすくめたりといった余裕を見せる。
その行為に怒り始めたのは熊獣人だけでなく、村側の他の奴隷剣闘士達もだ。観客席から身を乗り出して、ガンプに罵声を浴びせ始めた。ボックス席にいる村長も、機嫌が悪そうである。
そこで堪らず、バンブロックが声を上げた。
「ガンプッ、遊んでないで早く終わらせろ!」
それを聞いたガンプは、仕方なさそうな表情を見せるや、熊獣人の足を払った。
すると熊獣人は転倒。
背中を地面に激しく打ち付けた。
あからさまに悔しさを表情に出し、歯をギリギリと噛み締める。そして尚も立ち上がろうとする。
そこへガンプの剣の切っ先が、熊獣人の喉元へ突き付けられた。
『〈まだやるか?〉』
その言葉の直後、試合終了のドラムが鳴らされた。
観客からは、諦めのため息が漏れる。
そこで怒りを露わにした村長が、ウマッハの席へと向かう。
そしてウマッハと村長との間で、話し合いが行われた。その結果、急遽もう1試合行われる事となる。
出場するのは、バンブロックとモナである。
急に試合と言われた2人は、急いで入場口に向かう。すると直ぐに武器を渡された。刃の潰された小剣と丸盾である。モナも同じで、鎖ダガーではなく小剣と丸盾だ。
そしてそのまま闘技場へ放り出された。
除雪された地面には砂が撒かれ、湿ってはいるが水溜まりはない。
ーーこれだと麻痺は無理か
水溜まりがあれは、この間のラットマンの様に出来たのにと、悔やむバンブロック。
反対側の入口からは、対戦相手が入って来た。
対戦相手はランクEの獣人である。
ただし人数は6人。
ランク違いを修整するため、この人数になったのである。
それぞれが違った武器を持っていた。あれは間違いなく、得意な武器を選んだのだろう。
しかも全員が部分的とは言え、革鎧を身に着けている。
そこでバンブロックがボヤく。
「俺達は渡された武器だけだし鎧もなしだろ。なんかズルくないか」
するとモナが返答。
「じゃあ、今から文句言って変えてもらうか」
「いや、相手を目の前にして今更だろ。それにこいつらランクE程度なら、全く問題ないんじゃないのか」
「う〜ん……知らんげど、ロックはそれで良いかもしれないがな、私は使い慣れた鎖ダガーが欲しい。小剣は余り得意じゃない」
2人が会話している間にも、対戦相手の剣闘士6人は、ゆっくりと前に進んで来た。
「モナ、お喋りはそこまでだ。奴ら俺達を殺す気満々だ」
殺気に満ちた獣人6人の足が、徐々に速くなって来た。最早走っている速度。
そして観客の盛り上がる声と共に、試合開始のドラムが鳴った。
6人の獣人達は左右に分かれて行く。挟み撃ちにしようと言うのである。
「モナ、左は任せた。俺は右を片付ける!」
バンブロックとモナも左右に分かれる。
いち早くバンブロックは、3人の獣人と接触した。
人間であるバンブロックに比べると、頭一つ以上獣人達は大きい。傍から見ると、まるで3人の狩人に狩られる獲物の様である。
その獲物が牙を剥く。
バンブロックは最初に、正面の虎系獣人に仕掛けられた。
虎系獣人が何か叫びながら、メイスを振り下ろす。
『〈この生意気な人間があぁっ!〉』
その声からは、凄まじい殺意が伝わってきた。
バンブロックはそれをするりと躱し、落ち着いた動きで横をすり抜けて行く。
すると虎系獣人が、脇腹を押さえて崩れ落ちた。
バンブロックが小剣を叩き込んだのである。
刃は潰されているとは言え、鎧の無い箇所への命中だ。皮膚は裂けて血が滲む。
恐らくあばら骨が砕けている。
バンブロックは瞬く間に、1人目の剣闘士を無力化したのだった。
投稿開始しましたが、毎日ではなく週に3〜4本ほどを考えています。
よろしくお願いします。




