七十八話 vsシャルリア 前編
「え? まだ7歳だろ? なのに両方上級って」
上級だって? 今の父さんが超級だから階級で言えば父さんの一個下じゃないか……どうやっても勝てないだろ。
「師匠が何を思って私より強いと言ったかは分かりません。だから私はこれ以上何も言いません、ただ見ていて下さい」
シャルリアちゃんは声がとても冷たく静かに怒っていた。
俺、何もして無いのに……。
すごい、トゲトゲとした視線に軽く身震いする。
これがよく言う殺気と言う奴だろうか。
「それじゃあ2人とも今回は模擬戦だから木剣でやろうか」
「すみません、僕に拒否権は無い感じですか?」
これあれだろ、シャルリアちゃんの経験値にされる奴だ。
主人公を引き立てるモブに成り下がる奴じゃん。
「うーん、嫌って言われるとこっちも無理強いは出来ないんだけど……怖いの?」
エルトリスさんは何でちょくちょく煽ってくるんだよ。
怖いよ、怖いけど。
俺はフィオラの方をチラ見する。
そうだ、俺はフィオラの中でカッコイイ兄貴分……はフツーウに取られてるからカッコイイ親友として誇れる人でありたい。
だからここは引けな――
「ライラス、怖かったらしなくても良いよ。ライラスが怖がっても僕、嫌いになったりしないよ」
うっ!心に刺さる、それを言われると引きたくなるけど。
「や、やります」
「それでこそ、男の子だ。じゃあ2人とも木剣を持って外に出ようか!」
成り行きで絶妙にしたくない戦いを強いられた。
一応はやるけどボコられたくないな。
「2人とも少し離れてね……って、やっぱりライラス君やりたくなさそうだね」
「あれですか、女性が相手だと不満ですか? 安心してくだ――」
「いや、勝負事なんだ性別も種族も関係ないよ。相手に戦意があるならいつでも真剣勝負だ。」
「……そうですか。なら始めましょう」
俺とシャルリアちゃんは持参した木剣を持って距離をとる。
歩いている最中、後ろを振り返って見てみるとシャルリアちゃんの木剣はかなりボロボロになるまで使い込まれている。
努力の証だろう、かく言う俺の木剣は少し傷が付いている程度であまり努力していないのが見てわかる。
「それじゃ両者見合いあってー」
胸に手を当てて深呼吸をする。
ほぼ同年代とやる初めての模擬戦、緊張して手汗が出てくる、ズボンで軽く拭いて木剣を握り直す。
「ライラス頑張ってー!」
俺には熱い声援が送られてきた、フィオラが手を振ってきたので俺も手を振り返す。
シャルリアちゃんに対しての応援が無い、シャルリアちゃんの師匠は壁にもたれ掛かりながら腕を組んで静観していた。
父さんから聞いた話かなり厳しい人なのだろう。
声援が無いのは少し悲しい。
「シャルリアちゃん、お互い頑張ろう!」
今日一で大きなピキリ音が聞こえた。
俺が神様から貰った転生特典はピキリ音が聞こえる能力らしい、今ので見てわかるぐらい不機嫌になった。
FPSで誤射で死体撃ちしてしまった時を思い出した。
なんか申し訳ない気持ちがいっぱいだ。
「2人とも準備はいい? よーい、始め!」
シャルリアちゃんが下段構えを取ったのを見て考える。
構えた直後に金色に輝く魔力の光が見えた。
フィオラの時と同じ奴だ!
しかしその事は後回しだ、今は戦闘に集中しよう。
最初は中段構えで様子見してか――
「グッ!」
思考が停止して勢いよく吹っ飛ばされる。
さっきまで少し離れていた少女がいきなり俺の前に現れて木剣の上から重い一撃を叩き込まれた。
「痛ってて、これはまともに戦えそうに無いな」
吹っ飛ばされ時に木剣を落としてしまった。
父さんに武器は絶対離すなと言われていたのにな、剣士失格だ。
起き上がって直ぐに相手を見ると追い打ちをしてくる気配が無い。
どうして襲ってこないんだ、絶交のチャンスのはずなのに。
「速く拾ったらどうですか? これは模擬戦だから木剣を手放した時点で勝敗は決まってるでしょ?」
「ありがたく拾わせてもらうよ」
俺は落ちている木剣の所までゆっくりと歩く。
拾った瞬間に襲ってくるとかは……無いみたいだな。
「待ってくれてありがとう、いつでもどうぞ!」
「じゃあ、お言葉に甘えて行かせてもらいます」
もう油断はしない、常に警戒して常に力をいれておこう。
そう思った矢先にシャルリアちゃんが構えた。
またも魔力の光が見えた。
いったい何と関係しているのかは分からないが後で聞いてみよう。
今回は上段構えか――
「よしっ! 今度は反応できたッ」
上段構えをした瞬間にシャルリアちゃんが正面切って突っ込んできた。
上段構えには下段構えで応戦する。
と言っても、攻撃を受け流したり避けたりでは無く攻撃に合わせて防いだわけでも無い。
俺がしたのは飛んでくる攻撃の軌道上に力いっぱい振っただけだ。
それには技術も技もない。
俺が力いっぱい振り上げた木剣とシャルリアちゃんが高速で振り降ろされた木剣が衝突した。
木と木がぶつかり甲高い音が響き、両者後ろに弾かれる。
これで一度距離を取って作戦を練り直そう。
「って! ちょ! まっ!」
一回防いで調子に乗っていた。
俺は後ろに弾かれた後に体勢を崩してるがその間にシャルリアちゃんは軽やかにステップを踏んでそのまま突っ込んできた。
俺だって長年剣道やってた剣士の端くれだ。
反応速度と剣筋は自信がある。
不格好にも無理やり攻撃を防いでいたが三撃目でバランスを崩してしまった。
その隙にシャルリアちゃんが強く踏み込んできた。
さっきより重い一撃が来るのが分かる、防ぐのは無理だ。
一か八か攻撃を受け流すしかない。
シャルリアちゃんは木剣を頭の上まで大きく振り上げている。
タイミングを合わせて上から振り下ろされる木剣に対して少し斜め上から切りつける。
そして木剣同士がぶつかった瞬間に剣先が下になる様にずらしそれと同時に体を出来るだけ横にずらす。
全身を使ってようやく受け流した。
シャルリアちゃんは自分の力を流されて勢いよく重心が前に移る。
作戦が上手くいってシャルリアちゃんがバランスを崩した。
初めてシャルリアちゃんがハッと驚いた。
出来ればこのまま押し切りたい。
「見直した、少しはやるんだね」
俺から見ると俺の方が圧倒的有利なのに戦闘中に話す程余裕がある。
ラウド戦を思い出す……バランスを崩して勝ち確だと思ったら超人的な身体能力と経験で覆された。
だから今回は一切油断しない。
俺はシャルリアちゃんがバランスを崩している間に後ろ回り、力いっぱい踏み込む。
早く、重く、正確に振り下ろす。
次はどんな手を撃ってくるんだ……防ぐか、避けるかどっちだ。
「でも残念……」
次にシャルリアちゃんが取った行動は俺の想定外の行動をとった。
後ろから攻撃しているはずなのに後ろをみずに木剣を背中に回す。
俺の木剣に接触した瞬間にさっき俺がした時と同じように……いやそれ以上に素早く綺麗に、最小限の力と動きで受け流した。
しかも片手で。
その後は重い一撃をもろに食らって撃沈。
フィオラが直ぐに駆けつけて回復魔術を掛けてくれた。
「ライラス大丈夫? 無茶しないでね?」
「あぁ、ありがとフィオラ」
負けちゃったな。
まぁでも、上級者相手に一瞬でも驚かせただけ頑張った方かな。
フィオラにカッコいい所は見せれなかったけど。
「見てましたか師匠、私の方が強いです!」
シャルリアちゃんは不服そうに、しかし嬉しそうに師匠に勝利報告をしていた。
しかし師匠のエルトリスさんはまだ終わっていないという顔だ。
「じゃあ遊びもここまでにしてライラス君には本気でやって貰おうか」
え? 俺、今の本気だったんだけど。
勝手に秘密の力隠されてるパターンとか無いよ。
その言葉を聞いてまたシャルリアちゃんの顔が強張った。
怒りを露にしたシャルリアちゃんが抗議する。
「今の戦いで手加減していたようには見えませんでした。あれは本気だったと思います」
「確かに剣術の試合では本気だったけどこれはあくまで模擬戦。ただの剣術の訓練じゃない、ライラス君の得意なのは魔術だ。それを一度も使っていない……これを本気と言えるかい?」
つまり魔術を使ってもう一度戦えって事か。
「お言葉ですがエルトリスさん」
「何だい、ライラス君?」
「魔術は木剣の様に殺傷能力を下げれません。本気でやれば死ぬことだってあるんです。安易に人には使えません」
三人組とそのボスだったザンニスには手加減一切なしで使ってた俺が言えた事じゃないが今回はあくまで練習の範囲内、人にまじゅつえおぶつけるのは抵抗がある。
「安心して、シャルはそこまで弱く無い。もし君が殺してしまうと心配してるならその時は私が止めてあげるからさ」
圧倒的自信だ、流石はラウドの師匠だ。
ここはエルトリスさんに胸を借りよう。
「分かりました、自分の全てを出し切ります!」
「いいね、そういう男らしいとこ私、好きだよ」
練習でしかも同い年ぐらいの人に初めて魔術を使うのはかなり怖いが目の前の強敵とエルトリスさんを信じてみよう。
「今度は勝つ!」
「いつでもどうぞ……」
シャルリアちゃんは静かな怒りを隠す事も無く冷たく言い放った。
何をされても勝てる自身の表れだろう。
俺だって魔術を使えば勝てる自身はある。
此処からは正真正銘、本気で行こう
「よーい、始め!」
最後まで読んで頂きありがとうございます!
次話の投稿、楽しみにしていてください!!!




