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四十三話 出立

 ダールに来て1ヶ月が経った。

 忘れないうちに、パーティリーダーの変更を行なった。

 これで海証が紫陽花全体に適用されるので、海上クエストを受けられる事になる。

 とはいえ実際に受けるようになるのはかなり先だし、そもそもあまり海上クエストというものは多くない。


 何故か。

 理由は単純で、海運ギルドは専門の冒険者を雇っていることが多いのだ。

 海運ギルドとしてはいちいち募集する手間が省け、雇われた冒険者としては定期収入が手に入る。

 いわゆるウィンウィンの関係である。


 もちろん海運ギルドに属さないような、小さな船の護衛クエストはある。

 あるにはあるが、これらのほとんどは渡航するようなものではなく、私達の目的には合わない。

 つまり、どちらかといえば海運ギルド側に申し出る必要があるらしい。

 サークィンでぼーっとクエストが見つかるのを待っていても良いが、それよりは直接聞きに行ったほうが良いという。


 まあ先の話だ、一旦置いておこう。


 懐かしのダールでの生活、とはいえやはり冒険者である。

 朝は冒険者ギルドに向かい、昼は町の外でクエストに勤しみ、夜に町に帰ってくるのが基本だ。

 昼だけで終わらない場合、外で野宿した後に朝帰りになることもある。

 変わらない、冒険者の1日だ。


 だが変わったこともある。週に1日休みは変わらないが、5日働いていたのを4日にし、空いた1日を療術の練習と魔言の座学、つまり魔術の練習に当てることにしたのだ。

 サンは週に3日働き、3日休んでいる。そのうちの1日を私達の為に充ててくれているのだ。

 私だけでなく、フアも一緒に学んでいる。とはいえフアは元からある程度療術が使えていたことや魔言が聞き取れない関係で、術式の認識と記憶がほとんどだ。私の教え方は間違っていなかったらしい。

 他のパーティメンバーも同日に特訓をしている。サンだけじゃなく、ロニーが顔を出してくれているのだ。シパリアとロニーの関係性も見えてきた。頭をペコペコしているシパリアはちょっと面白かった。


 その関係で、仕事に充てたうちの4日目は軽いクエストを受けるようにした。朝帰りでは訓練に身が入らないだろうということで、満場一致だった。

 今日がその4日目、ギルドからの帰りだ。


「明日は訓練か……」


 ティナは微妙な表情をしている。

 ティナは闘気を練れない。その代わりか、いくつか上位のゾエロを使った上で練習しているらしい。

 そのせいか訓練中に倒れる事があったり、魔力切れで頭痛に苛まれたりしていると言っていた。

 強くはなりたいが頭痛は嫌なんだろう。魔力を使いまくった時に襲う頭痛は、鼓動に合わせて眼球の奥を抉るような、なんとも言い難い辛い痛みだ。


「ロニーさんヤバいよな」

「ああ、アタシが見た中で1番ヤバい」


 ティナとカクがアホっぽい会話をしているが、完全に同意する。

 リハビリと称して外でビュンビュンしてるのを何度も見たことがある。

 あれはちょっと意味が分からない。なんというか、人間って残像出せるんだなぁって思いながら眺めてた記憶がある。

 そのくらい意味が分からない。要するに動きが目で追えない。

 いや、目で追えないくらいならシパリアどころかカクですら私には見えないこともあるのだが、そういう世界じゃない。

 カクは部分的にめちゃくちゃ早い事がある程度で、シパリアは瞬間移動したかと思うくらい早い一瞬があるだけ。

 ロニーは違う。なんかもうずっと早い。ずっとビュンビュンしてる。かと思えば突然空中で一瞬の静止を挟んだりする。トンボの一種なんだろうか。ロニトンボ。

 しかもロニーの魔力は以前より濃くなっていた。多少元に戻ってきたってことだろうか。つまり以前より早い。超ロニトンボだ。意味分からんけど私にも分からん。とりあえず人間じゃないことは確かだ。


「いや、あれでも万全じゃない。

 怪我の後遺症があると言っていた。

 実際、私の教官だった時は更に早かった」

「はぁ……俺はまだ人間止めたくねえよ」


 シパリアの言葉にカクが意味の分からない事を言っている。一応は私の父なんだが?いや、人間だとは思っていないけど。


「アン、そっちはどうだ?」

「んー、ぼちぼちですな」

「ぼちぼちってなんだよ」


 ぼちぼちはぼちぼちなのだ。

 予想通りというかなんというか、私は外操作というものが苦手らしい。

 外操作とはつまり、自分以外の魔力を用いて魔術を発現させることだ。逆に自分だけの魔力を用いる場合は内操作と言う。

 ちなみに呪人のほとんどは外操作が出来ないらしい。そして私も呪人並に外操作が出来ていないらしい。もしかすると私は拾い子なのかもしれない、と言ったらサンに本気で怒られた。


 とはいえ魔人なので訓練すればある程度は出来るだろうとのこと。最近の私はもっぱらこれの練習ばかりである。

 しかし外側の魔力の扱い方というのがいまいち分からないのだ。魔術自体は発現させられるのだが、理論が分かってないので当然の如く真名の書き換えなんてものは出来ないし、魔力による細かい操作も出来ない。

 一応、解の術は使えるようになった。なったは良いが、無詠唱で使えないので自分が食らったらどうしようもないのが現状だ。

 あの咆哮はイメージとは違い耳を塞いでも防げないらしい。一体どうすりゃええねん。いっそレニーに覚えてもらったほうが良いのでは、と思ったがそもそも呪人は療術に向かないんだった。ぐぬぬ。


 一方の内操作は得意だ。というかいつもこっちばっか使っていたので、自分の外傷を治すくらいは出来るようになった。

 練習方法は単純で、実際に自分を斬りつけ、出来た傷を治すというものだ。正直めちゃくちゃ辛い。手首切ったりする趣味があったわけじゃないし、そういうのが気分いい人の理解が出来ない。単に痛いだけじゃんか!

 しかも最初のうち、つまり未熟なうちは跡が残っていた。サンが傷跡を消してくれていたが、慣れてきたおかげか最近は綺麗に治ることも増えてきた。


「フアは?」

「いくつか覚えました。やっぱり練習は楽しいです」


 フアは逆に外操作に長けているらしい。要するに魔術で攻撃するよりも魔術で回復してる方が得意なタイプということだ。つまりヒーラーだ。

 とはいえ私ほどアンバランスではなく、内操作も十分に扱えている。なのでクエストで野宿する事になった際に、いくつか大きめの術式も教えてみた。

 リチ・ズ(火よ、圧縮)ビオ・ウズ(し、爆発す)ド・ダン(る弾となれ)という術式の上級爆火球と呼ばれる魔術、それからウィーニ・(風よ、集ま)ズビオ・ウ(り、敵を)ズド・ダン(撃ち爆ぜろ)という術式の上級爆風弾とでも呼ぶべき魔術だ。

 前者はスクロールとしても売られている有名な魔術。低速だが大型の火球を放ち、ある程度の大きさのものに触れると一気に爆発する、かなり魔力を消費するが威力は指折りのもの。

 後者は私が以前使ったことのある魔術だ。力詞を付けると5術になってしまうので外しておいた。真名はよく分からんかったからそのまま。性質は上級爆火球に近いが弾速は圧倒的に速く、何より不可視だ。当たると爆音が鳴り響く音響兵器でもある。

 火球は規模が大きすぎるし、風弾はそもそもウィーニ・ダンを使えるのであまり出番はないかもしれないが、使わないと使えないには大きな差があるので教えることにした。

 上級爆火球に関しては私もあまり得意ではなかったので、概要だけ伝えて一緒に勉強した、が正しいのかもしれない。リチ系で大きな魔力を使ったのはあれが初めてだったかもしれない。

 ついでにシト・プート・エル(これを液体化せよ)シト・プート・エレス(これを固体化せよ)といった合成術も教えた。こっちはまだまだ練習中って感じ。そもそもシトは既に使った魔術に対して使うことの多い術なので、術数が増えてからが本番の奴だ。

 これに関してはエルやエレスと相性の良い術なので私もあんまり使ってはいない。ただ、使わないと使えないには大きな差があるのだ。私も使わないだけで使うことは出来るしね。


「しかしレニーの伸びには驚くよな。

 魔術ってそんな簡単に覚えられるもんじゃないだろ」

「ああ、頑張ったからな」


 レニーは日頃の魔力トレーニングのおかげかここのところ成長が著しい。

 4術、つまり上級術式であるエレス・レ(土よ、破)ズド・ウ(裂する)ズド・ダン(弾と降れ)を使ったところを見た私は開いた口が塞がらなかった。

 小さな土の塊を大量に飛ばし、当たると小さく破裂する術だ。攻撃力自体はほとんど無いが、とにかく数が多いので避けられない。要するに目潰しであり、癇癪玉を投げつけてるのに近いだろうか。

 まだ撃つまでに多少の時間は掛かるが、それでもどっかの人外さんみたいに飛び回りながら戦うタイプでは無いので問題にはならなさそうだ。

 ただ範囲の指定がまだ難しいらしく、実戦で使えるほどではないという。そもそも元の魔力自体が多くないので、こういう術はあまり使わずゾエロやガイ、トウに魔力を充てると言っていた。

 とはいえレニーは結構嬉しそうだ。魔人だらけの世界で魔術が苦手いうのは一種のコンプレックスだったのかもしれない。

 4術を使えれば一応の魔術師を名乗れるらしい。こんな分厚い鎧を着込んだマッチョマンでも魔術師を名乗れてしまうのだ。

 ちなみに生活魔術を含む初歩的な魔術の多い2術、いくつかの生活魔術を含む実践的な魔術の増える3術、大規模な魔術が出始める4術、といった具合だ。5術以降はゲシュやシトが出てくるから一概には言えないが、4術まで使えれば一通りの魔術が使えることになる。

 同じ4術でも上級爆火球と私の風弾では消費魔力が段違いだし、魔術による攻撃の規模も全然違うのでなんとも言えないが、まあそんな感じだ。


「とはいえ、本職には劣る」


 本人はこんなこと言っているが、私としては面目丸潰れ……とまでは行かないが、小さなプライドがちょっとだけ傷ついた。

 私ももうちょっと頑張ろう。



◆◇◆◇◆◇◆



 大量に出血しないよう、腕を強く縛っておく。

 縛った左腕にダガーを当て、軽く引く。


「いたた」


 患部に手を当てすぐに詠唱する。

 空気中に存在している魔力と自身の魔力、その両方を意識しつつ詠唱する。


デルア・ゼロ・タイナ(魔力よ、混じり進めよ)


 瞬間的な熱さを覚えるが、我慢。熱さはすぐに引き、代わりに痒みが生まれてくる。これも我慢。

 正常に戻ったことを確認し、魔力の放出を止める。


「うん、完璧」


 傷跡が残ることはほとんどなくなった。これ以上の怪我に対してどうなるかは試せていないが、出来れば使う機会がないと良い。


 次の練習だ。もう一度腕を切り、今度は触れずに、デルアを抜いた術式で唱える。

 左腕、特に患部の周辺を意識し、魔力を集中させる。


ゼロ・タイナ(魔力よ、進めよ)


 同じく熱さが、そして痒みが襲う。先程に比べ両方とも感じる時間は長かったが、5秒もしないうちに失われる。


「よし」


 手の平以外から放つ魔術、その練習も含めている。

 やはり詠唱こそ必要ではあるが、触れずに治せるのと触れなきゃ治せないのでは大きな差がある。両腕が使えない状況でも、口さえ動けば怪我を治せるということだ。

 強引ではあるが、骨折しながらにはなるが、これによって機動戦闘も行なえるようになるだろう。練習を続けていけば、そのうち全身どこからでも魔術を出せるようになるはずだ。

 まあ腕以外から使うかって言われたら疑問が残るが、例えば咄嗟の時に盾を作る、みたいな使い方は出来るんじゃないだろうか。使う場面が訪れない事を祈るばかりだが。


「上達したねー」

「まあね」


 座学は終わり、今は実演の時間。実際に魔術を使う時間だ。

 とはいえ長宿にある元私の部屋でやっているのであまり大規模な魔術は使えない。普段は座学を終えると町の外に行くが、今日は雨なので外出は無しなのだ。


 雨。

 そういえば、ダールを出てからはあまり降らなかった。

 いや、ダール基準で考えるから変なのか。ダールはあまり晴れないし、年中雨が降っている。私のマントもちゃっかり耐水性だったりする。

 なんでここらへんは雨が多いんだろう?後で聞いてみよう。

 それからもう1つ、思い出したことがある。


「ねえ母さん。エルィーニ使える?」

「使えるけど、なんで?」

「いや、どういう術なのかなーって」

「では説明しよう、エルィーニとは!――」


 サン教授の講義の2コマ目が始まった。

 エルィーニとは!以前に調べた通り天候系、というか雨の魔術を指すらしい。

 と言われてもさっぱりだったが、どうやらレンズと一緒に使うことを前提とした魔言であり、レンズ抜きで使うにはちょっと使いづらいとか。

 レンズ、つまり遠距離で発現させるための魔言。例えばレンズを使わずにクニードのみで使った場合、なんというか、勢いの弱いジョウロのような感じになるらしい。

 他の魔術と少し違うのは、魔力供給を止めて水が消えないことか。雲自体を作り上げるのであって、雨自体は自身の魔力を含むものの魔術扱いはされないらしい。雨って雲の中の水が重すぎて落ちてくるんじゃないの?

 それと、周囲が極端に乾燥していると使えないとも。干魃対策になったりはせず、せいぜいが花壇の水やりが楽になったり、ちゃんとした水でシャワーを浴びれたりする程度。

 うん、使い道がない。


 と思いきや、ゲシュやシトと合わせる事でこれはこれで結構便利だったりするらしい。

 聞いてみれば私が既にやってる奴だった。要するにエルィーニで水をぶっ掛けてそこに別の属性詞なんかを加える事で回避不能の攻撃が出来るという代物。

 一応、後で練習してみるか。ちなみにサンはエルィーニで一帯を濡らしシト・プート・リチ(これを加熱せよ)で気体に、更にシト・プート・ドイ(これを暴走させよ)を加えて一時的に魔力の暴走を引き起こすのが鉄板だと話していた。怖い。

 というかシトの二重詠唱とかこれだけで6術相当だし、基術となるエルィーニ・レ(雨よ、其の)ンズ・クニード(地に溢れよ)も含めれば9術だ。これをさらっと鉄板と呼ぶ辺り、薄々感じてはいたが、サンはサンでロニーに負けない程度にはヤバい人なのかもしれない。

 ちなみに、蒸発させるよりも直接ゲシュ・ドイの方が使いやすいとも言っていた。触れると感電する雨は確かにヤバそう。というかどっちにしろ複合属性詞1つに属性詞1つか2つで3属性以上の魔術か。ギリギリだ。4はやったことがないかもしれない。

 属性詞が1つ増えるだけで魔術の難易度は一気に上がる。2つくらいまでならほとんどの人は出来るけど、3つ以上となると話が変わってくる。ロニーなら「腕を3本同時に動かすようなものさ」とか言いそうな感じである。私も上手く表現は出来ない。

 まあ死ぬ前もマルチタスクは結構得意だったし、3属性も気づいたら出来ていた。多分、4属性も出来るだろう。やる理由が特に見つからなかっただけだし。うん。


 とまた考え込んでしまった。どの口がマルチタスクが得意とか言ってんだ。いや、言ってはいないか。考えてただけだ。


「使えて損はないけど、使い勝手はあんまり良くない魔言ってとこ?」

「そうね、使えるに越したことはない」


 使わないと使えないには大きな差があるとはサンの口癖でもある。今度練習しよう。


「じゃ、そろそろ次いこっか」

「うげ」


 次。即ちデルアではなくアルアを用いて術を発動させる練習。

 私はこれが苦手だ。アルアの術式は発現率が2割も無いくらいには苦手だ。

 でもやらなければ前に進めない。タイナはかなり使えるようになったしレンズもそこそこに使えるようになってきた。とくれば次はアルアなのだ。


 そんなこんなで私とフアの魔術練習は進んでいった。どちらかといえばフアの方が伸びは良いように感じる。私は考えばかりが先行してどうにも上手く行かない事が多い。



◆◇◆◇◆◇◆



 ダールに着いて2ヶ月くらいになった。当初の予定、といっても私の頭の中の話になるが、それによれば長くとも1ヶ月くらいになる予定だった。

 結局、私はアルアを完全に使いこなせるようにはならなかった。やっぱり苦手なものは苦手なままらしい。とはいえ3術くらいまでならほとんど100%発現させられるようにはなった。

 3術となるとやや制限はあるが、それでも十分である。4術になると一気に50%くらいになる。一応移動しながら練習を続けるつもりだ。


 移動。

 つまりダールを出る事にした。


 理由はいくつかある。

 そのうちの1つは金だ。2ヶ月という期間はサークィンまでの旅費を稼ぐ期間としては十分だった。

 ダールの冒険者はダーロに比べ稼ぎやすい。原因はいくつかあるが、1番大きいのは大森林だろう。

 魔力異常によってか他の地域とは比べ物にならない密度で魔物が生息しているのだ。

 魔物だけではない。そもそも植物の成長速度も早く、これによって木樵達の稼ぎ場でもあるし、大森林の近くの農地は作物が豊富に穫れるともいう。

 もちろん魔物の生息地でもあるので、農地から魔物の駆除依頼が結構な頻度で寄せられる。

 要するに、ダールの経済の大部分は大森林によって回っている。雑にいえば大森林のおかげで稼げるのだ。


 もう1つは季節だ。

 今日は10月2日。こちらの1年は16ヶ月で進み、1ヶ月は24日で進む。ダールは分かりやすい四季があるわけではないが、そろそろ寒くなり始める季節だ。

 ダールはあまり暖かい地方ではない、というかぶっちゃけ寒い。かなり寒い。特に13月から16月に掛けては、水分の殆どが雪として降るような地域だ。冬の雨は結構珍しい。

 前世の基準で言うと6月と7月の2ヶ月間が夏、12月から1月の6ヶ月間が冬、その間が春と秋だろうか。夏2に対して冬6のバランスだ。夏は年間の1/8しかないのに対し冬は3/8もあるのだ。

 10月、つまり前世基準で言うと秋に当たるわけだが、そろそろ雪の割合が増えてくる時期でもある。

 雪が降り始めると旅は一気に辛くなる、と私は去年1年を通して学んだ。ダールは特に雨や雪の多い地だが、別に他の都市で雪が降らないわけじゃない。

 まず足が遅くなる。次に魔力が減る。最後に野宿がキツくなる。散々だ。ついでにいうと私は転ぶ。何故か知らんがよく転ぶ。戦士連中と違い足腰が弱いだけであり、私の問題ではない、と思いたい。


 まとめると、移動する分のお金は稼げたし、時期的にもそろそろ出ないと面倒な事になるということだ。

 家族には先週伝えてある。昨日、別れを告げた。


 サンは会った時同様、また泣きそうな顔になっていた。サンからは様々な魔術を学んだ。より実戦向けの魔術やその扱い方、基本だけではなく応用、私1人では思いつかないような事も多かった。

 特に療術を習得できたのは僥倖だ。相変わらず他人に使うのは苦手だが、それでも応急処置程度なら出来るようになった。フアが居なくなるまでの間に、もっと上手く使えるように練習しよう。

 副産物として腕以外からの魔術の放出もだいぶ慣れてきた。もう靴の中がびちゃびちゃになり、気持ち悪さを覚えることもないはずだし、2つの魔術に縛られなくもなった。

 療術だけでなく、レンズやガイを使えるようになったのも大きい。特にガイは腕以外からの魔術を使えるようになったのと相性が良かった。

 ガイとは瞬間的にその部位に魔力で作った鎧を発現させるような魔言であり、どちらかといえば軽装の私と相性が良かった。私からカクとティナにも教えたが、ティナは使えるようにはならなかった。

 尤も、ティナはゾエロの扱いに長けてるからあまり大きな問題にはならないだろう。私の部分的に使うガイよりも、ティナの全身に掛けられたゾエロの方が強度としては上なのだ。


 ロニーは微妙な表情だった。なんというか、悲しい顔で無理やり笑っているような、そんな表情だった。ユタの事が気に掛かっていたのかもしれない。

 ロニーからも色々学んだ。クエスト後、時間がある時はロニーの元で剣術を学んだ。

 筋トレこそある程度続けてはいたが、素振りなんて久々だった。私は何度も怒られた。だが感情としては、辛さよりも楽しさが勝った。

 もちろん翌日の筋肉痛は辛さが勝ったが。前世で持っていたイメージと違い、剣の素振りは全身に来る。特に背中と腰、それから太ももの痛みが特徴的だ。それを伝えると体幹が弱いせいだときっぱり言われてしまった。よく転ぶのもこれのせいかもしれない。


 たったの3回だが、ロニーとの模擬戦闘も行なった。条件はロニーに厳しいものだ。

 6対1の人数差、空蹴の空中使用は1回まで、空蹴を除き魔術は2術まで、闘気はシパリアと同等にまで落とす、武器は1本のみ……。

 正直勝てるだろうと思った。しかし結果は大敗北。レニーは1発も防げず、カク、ティナ、シパリアの木剣は全て避けられ、私、フア、ティナ、カク、シパリアの魔術は全て避けられた。

 互いの急所に小さな木の実を付け、それを潰された場合に戦闘不能という条件でやったのだが、ロニーは綺麗に1人ずつこれを潰していった。私には何が起きてるのかすら分からなかった。何度かやったが完敗だった。


 2回目は加えて空中での空蹴自体も縛った。つまり大体シパリアみたいなもんだ、と当時は考えた。

 甘かった。直線のみのシパリアと違い、ロニーは蛇の様にくねくねと、つまり自由に動きまくるのだ。左右に動いていたと思えば突如直進してきたりする。動きの予測がさっぱり付けられず、またもボコられた。

 戦士としての経験の差が大きすぎた。理由は知らないが、ロニーの剣術は対人戦をかなり意識している。人の視覚に入り込んだり、意識の外側から攻撃してくるのだ。あれでは手が出ない。

 後から聞いてみれば、あの蛇のような動きはウィニェル・ゼエロと空蹴を組み合わせたものらしい。レニーとの昇級試験くらいでしか使ったことがなかったが、あんな風に使えるなら確かに便利なのかもしれない。

 こちらは繰り返すことによって魔術を当てることには成功したが、そのどれもがかすり傷のような結果だった。やっぱり完敗だ。


 3回目はルールが大きく変わった。ロニーと魔術師のペア対他5人の戦いになった。勝利条件は互いの魔術師への攻撃であったが、魔術師は一定範囲から動かず、魔術師への魔術を使わないとの条件付きで、レニー以外は一通り魔術師枠として参加した。

 こちらは人数差によってか、ロニーは1回だけ負けてしまった。負けてしまった。つまり私と組んだ時に負けてしまったのだ。

 ティナとカクとシパリア、この3人の同時攻撃にレニーの癇癪玉が混ざったことで往なしきれなかったのだ。結局、カクに剣を当てられ負けとなった。

 詠唱を必要とする都合上、私は咄嗟に魔術を発現させられない。やはり大きな問題だ。せめて短縮詠唱でいいから使えるようになりたい。


 セメニアやケシスとの再開も楽しかった。時間の都合上あまり会えなかったが、セメニアは未だに食事処で働いていたので全員で押しかけた。

 アンをよろしくお願いしますなんて言ったセメニアに何様だと突っ込んだり、色目を使ったカクの足を思いっきり踏んでやったのも記憶に新しい。

 ケシスとはほとんど話せなかったが、未だに記憶は戻っていなかった。本人はあまり気にしていないようで、それよりも最近のテルーの生活リズムが整ってきてる!と嬉しそうに報告してきた。


 楽しかったダールともお別れだ。またいつか帰ってこよう。今度はユタと一緒に帰れたら、両親もきっと喜んでくれるはず。

 結局サンの生理は来なかったし、本人もできてるっぽいと言ってたのでほぼほぼ確定だろう。ユタと一緒に新たな兄弟の顔を見に来なきゃ。

 明日、設定3を更新します。

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