十七話 ゴブリン大戦2
4日後、つまり緊急クエストの前日になって詳細が伝えられた。遅くないかとも思うのだが、ニードトゥノウの原則でもあるのかね。
ゴブリンも会話は出来るみたいだし、間者を送り込むくらいはしてくる……のかなぁ?あの醜悪な見た目じゃすぐバレそうなもんだけど。
ともあれ私達は同班となる人間6人と顔合わせ、及び簡単な作戦会議を初めた。
◆◇◆◇◆◇◆
冒険者ギルド内ではうるさすぎるため、近くの酒場リケレルイシュテール……熱い酒屋とでも訳そうか、その"熱い酒屋"で現在、10人で顔を並べている。
見たところ男5女4だ。1人、どっちか分からない子が居る。手を見ても首を見ても分からない。ま、魔人は基本華奢だから前世ほど男女が見分けられるわけじゃない。私みたいなペチャパイなら男の子と間違えられてもおかしくはない。……ぐぬぬ。
「んじゃ、まずは簡単な自己紹介としようぜ?俺は紫陽花のリーダー、軽戦士で斥候のカクだ。んでこっちが盾術士のレニー、魔戦士のティナに魔術師のアンだ」
意気揚々と"リーダー"を名乗るカク。やっぱそういう肩書きを男は好むものかね。
というか私の分まで紹介されてもーたけど。
「紫陽花?聞いたことないが」
「この前ようやく6級パーティになったところだからな」
「そうか。雷光のシパリア、何でも出来る。こいつはフア。魔術師だが――」
それぞれの紹介が始まった。
雷光パーティは5級のシパリアと7級のフアの二人組。フアはパーティ階級での参加だな。
雷光のリーダー、シパリアは自称何でも出来る奴、つまりティナみたいな感じか?高身長で茶髪の女だ。スラッとした、それでいて程よく鍛えられた良い体にちゃんと胸が付いてる。別に羨ましくないことも無いことも無いことも無いこともない。……ぐぬぬ。魔力量は2.2ティナくらい。
同じく雷光のフアは性別不明。魔術師らしいが深く被ったフードのせいで顔が見えず、声も中性的で分かりづらい。フィアとかなら女なんだけど、フアって名前は初めて聞くし分からない。そこそこ長い金髪。……ほんと、どっち?身長はカクより少し低いくらい。後木の杖持ってる。1.8ティナ。
千人の頂はギナだけが7級で他3人は6級の4人組。
千人の頂のリーダー、ドラウトは普通の鎧に普通の剣、普通の顔に普通の短髪、普通の茶髪。特徴が無い!レニーよりもちょっと低いくらいの身長。
ダラウスはドラウトの双子の弟。似たような装備に似たような顔。弓を持ってる方が弟で剣が兄。
ギナは女魔術師らしい。こっちも顔を隠している上にあまり喋らない。赤毛なのは見えたがどっかのセメニアよりも薄い。赤茶色の方が近いかな?声は可愛かった。こういうの、アニメ声って言うんだっけ。大体私と同じ身長。やーいチービチービ!……やめておこう、この術は俺に効く。2ティナ。
最後の千人の頂のアーグルは男魔術師。こっちは革鎧装備だな、私と似た格好してる。セフィ○スみたいな髪してるが、それはイケメンだけに許されると思うんだだ。魔術師にしては珍しくよく喋る方か。髪色はボルドー、身長は双子と同じくらいかな。0.7ティナ。
人を覚えるのは得意じゃないんだ、あんまり一気に新顔を出さないで欲しい。ババア、不明、兄、弟、赤毛、セフィ○ス……うん、絶対覚えらんない。特に双子。あれ街中ですれ違っても気付かないぞ。
「ティナ」
「どした?」
「あんなにいっぱい覚えられないんだけど」
「アタシもだ。カクに任せとけ」
小声で作戦会議。やっぱり1ティナも覚えられないらしい。私と同類だな。……なんだろう、ティナと同類って考えると心が痛い。
「んじゃ俺ら4班の纏め役はシパリアに任せていいか?」
「断る。進行役のお前がやれ。カクと言ったか」
「だな。適材適所って奴だ」
「おいおい!俺は7級だぜ?無理だっつの」
「大体、全員一緒に動くわけでもないんだ。私がやってもお前がやっても、ドラウトがやっても変わらんだろう」
「だな。だからお前やれ」
「……そーですかい」
あ、これ不機嫌なやつだ。
◆◇◆◇◆◇◆
当日。クエストは朝の鐘と同時、つまり朝5時に始められることなった。とはいえ軍隊でもなんでもない私達は5時に街を出て、予め分けられた班員と共に野営地へ向かいゴブリンを狩るだけという適当な内容しか伝えられていない。
そんなクエストで、こんなに人を集める必要があったのだろうか?門の前には60人は下らない冒険者と思しき人間で犇めいている。唯一参加してると聞く3級パーティはどれだろう。
魔力視を強めて辺りを観察する。とはいえ身長が低いせいであまり見えない。ぴょんぴょこ跳ねていたら腰の辺りを捕まれ、持ち上げられた。レニーだ。
「うぇ!?ちょっ降ろして」
「見えないんだろ?」
「恥ずかしいよ!」
「そうか、すまん」
ああ、もう、めっちゃびっくりした。レニーのくせに大胆だ。でもおかげで見えた。門の左手に1人、魔力量の凄まじい女の子が居た。多分、あれが3級パーティの魔術師だろう。……ティナの10倍以上あったぞ。それに、目が合った。
やっぱり3級ともなれば気配を察知したり出来るんだろうか?もう1人、近くに4ティナくらいの魔力の人間も居たが……彼女もパーティメンバーだろうか。
「あれ?そういえばカクは?」
「あいつはギルドだ」
答えたのは……えーっと、誰だっけ。雷光のリーダー。……ダメだ、ババアって覚えちゃってる。見た目30代くらいなのに。魔人だろうし60手前ってところか?
「シパリアだ」
「あ、アンジェリアです」
ああ、そうそう。シパリアね。覚えてたよ?当たり前さ。ただちょっと、声が出なかっただけなんだ。本当だよ?
「魔術師と言ったな。何術まで使える」
「えーっと……5かな?」
嘘だ。6術まで扱える。10歳のユタと同じと考えると悲しくなるが、魔力量では私のほうが圧倒的に多い。ゲシュやシトを何度も使えるのは私ならではだな。ウィーニやエルなら魔力消費も少ないし。
「複合詞は使えるのか」
「まぁ、そこそこに」
「そうか」
それだけ言うとシパリアは口を閉ざしてしまった。なんなんだこの人。
暫くして、カクが遅れてやって来た。
◆◇◆◇◆◇◆
ゴブリンの野営地への攻撃を開始するために北西へ。
ゴブリンの野営地はどうやら大森林の入り口辺りにあるらしい。厳密には西北西だ。
通常、ゴブリンは平原に生息している。リニアルの直ぐ側では氾濫や半水棲の肉食動物等に襲われてしまい、だからと言って森では歯が立たない。だから見晴らしの良い、強力生物の少ない平原に住む。勿論近くに川がある地域に限るけど。
何事にも例外はあるみたいで、山だったり海だったりにも居る事には居るらしいけど、とにかくこの周辺ではゴブリンと言えば平原の住人なのだ。
ではその平原の住人が森に近付くのはどんな時かといえば狩りや採集だ。それは通常、森で夜を越さない事を前提に行なわれる。では森に住み着くゴブリンとは?
答えは魔王と呼ばれる強力な個体が誕生した場合だ。大森林は魔力が非常に濃く、その影響からか強力な魔物が多い。古いダンジョンから魔力が溢れ出てるとも言われるが、今回は置いておこう。
高濃度の魔力からは強力な魔物が生まれるのはさっきの通りだが、それにも限りがある。そうでなければ大森林は全ての個体が魔王になってしまう。だが実際はそうではない。未だ分かっていないが他に要因があるらしい。
その何らかのトリガーを引いてしまったゴブリンが魔王として生まれてくる。魔王個体はその強力な魔力によって群れを支配することから魔物の王、魔力の王、或いは魔法の王の略とされる。
厄介なことに魔王個体は周囲へ侵略を始めることが知られている。勿論全ての魔王がそうと言うわけではないが、しかし全体として見た場合は8割以上が侵略を開始する。一説によれば群れ全体が魔王の魔力の庇護下にあるせいで多量の食料が必要になるとか。カロリーが足りないってことだろうか。
そして今回、ゴブリンの野営地が大森林に作られた。これは森に住み着くゴブリンが現れたと言うことはつまり魔王の誕生を意味する。ダールからさして離れていない地点で魔王が誕生したことを危惧し、ダリルレ・リニアル領主リル家主導の元、討伐隊が組まれた……というのが今回の流れらしい。
あ、これほとんどカクの受け売りね。それまでゴブリンとかボロ布棍棒で女捕まえて孕ませるってイメージしかなかった。因みにこの前のゴブリンの子供はその野営地から拉致って来たらしい。……先に喧嘩売ったのこっちじゃない?
冒険者は全部で8班に分けられ、私達はそのうちの4班に所属している。纏め役としてはカクだが、4班の指揮を執る人間はこの前の試験官、クザニャというギルド職員だ。
全身を鮮やかな赤に染めた服を着ているが……この人、戦闘出来るんだろうか?この前見た時はゴブリン連れてくる以外何もしてなかったけど。
現在のアンの身長は153cmくらいです。成長中(重要)です。




