閑話 ダールでの何気ない一日
2018/4/23 魔言の間違いを修正(ドイ・ゾエロ→エレス・ゾエロ)。
6級昇級試験の前日、ただの何もない休日。
家でぼけーっとしててもいいが、なんか体が鈍る気がするから街の外へ筋トレへ。
明日は試験だし、それにいざという時に動けませんでしたじゃ話にならない。筋トレは魔術師にも必要な事だと思う。剣の素振りをしたりするわけじゃなく、エレス・ゾエロで負荷を掛けつつ軽く走る。
ゾエロ系は面白い。エレス・ゾエロは体に土を纏わせ飛び道具対策になる。録石で読んだ物語にはこれを極めた"土塊のカザン"なんて人も居た。下手な金属鎧よりも遥かに強堅であり、主人公を守るために「ここは俺に任せて先に行け!」って言ってた。多分死んだよね。
他にもリチでは帯熱と呼ばれ寒さから身を守る術になっているし、エルは逆に暑さや乾燥から守ってくれる。化粧の際に使えばファンデが落ちにくくなるかもしれないね?
ウィーニは暑さ以外に飛び道具にもなるし、自身の発する音も減らしてくれる。1回使ってみたけどマントがはためいて威圧感たっぷりになれた。
ドイは暗殺一家の子みたいに身体能力を高めてくれる上、上級のものなら触れた相手を感電させられるらしい。けどどっちかっていうとハタキに使って埃を集めるために使われてる、というか使ってた。凄い便利よあれ。
ゼロはいつも使ってる通りで消費魔力も抑えめで身体能力を高めてくれる。なんだかんだでこれだよね。すっげー便利。因みに闘気ってのはゾエロ系のいいとこ全部集めたような奴らしい。羨ましい。
っと、また耽ってた。考え始めると止まらないのは悪い癖だよね、うん。
そういえばウィニェルだとどうなるんだろう?良い機会だし試してみるか。
魔力消費はどうせ大きいだろうし、余裕を持って魔力を練ってみる。
「ウィニェル・ゾエロ」
うん、予想通りがっつり魔力を持っていかれた。
んー特に身体能力が上がってるようには感じないけど……ちょっと走ってみるか。
「いだたたたたたたああ」
一歩、足を前に出した。そしたら股が裂けた。
思っきし滑ったらしい。マジ痛い。
誰も居ないとこで良かった。マジ辛い。
そして立てない。マジ酷い。
どうやら体の摩擦力をめちゃくちゃ落としてくれちゃうらしい。氷って……スケートかよ、そっちかよ。そして足元が若干だが凍ってる。おまけで周囲の温度を奪うような感じかな?
これは全く使えない気がする。使わなかったことにしよう、見なかったことにしよう。
後は……うーん、他は戦闘時に色々使っちゃったからなぁ。試したいものは他に……あ、そうだ。施条刻んでみようかな。
もしかしたら遠くまでまっすぐ飛ぶようになるかもしれない。今の氷弾の射程はせいぜい200Mくらいだ。まあ十分遠距離なんだけど、でももうちょっと上を試してみたいじゃん?
確かあんまりぐるぐるさせないんだよね、あれ。とりあえず作ってみよう。サイズは10cmくらいで。
狙うのは500Mくらい離れてるあの木で良いか。
「ウィニェル・ダン」
右手から氷弾を放つ。が、目標には命中せず。100M程度飛んだ時点で急激に地面に吸われた。
非常に速いものの、射程距離が短い。
三度繰り返すも同じ結果だ。
うーん、どうなんだろこれ。予想とは違った結果だけど、でも射程距離がなぁ。動きの早い相手用か?
◆◇◆◇◆◇◆
街に戻ったはいいがやっぱりやることがない。最近会ってないしセメニアに会いに行くことにするか。確か食事処だよな、まんまな名前ですぐ覚えたんだ。
「いらっしゃ――アン?」
「やっほ」
黒地に白のピナフォアを着たセメニア、なんというか非常にメイド服っぽい。イメージと違いすぎて笑いそうになるが堪えよう。
店内は発火石を使用するタイプのランプがいくつも飾られ、日当たり悪目な物件のくせに明るい。うちで使ってるものは2ヶ月くらいで交換が必要になるし、多分前世での白熱電球みたいなもんか。
電気も要らずにこんな明かりを作れるだなんて、便利な世界だ。家畜を屠殺するだけでもある程度は手に入るし、資源の枯渇とは縁がないよなぁ。
こんだけ明るいくせに店の中はそこまで綺麗じゃない。ま、労働者向けの店だし仕方ないか、と適当な席につく。
「てか久々ー。ここ来るの初めてだっけ?」
「うん、ちょっと暇でね。軽めの昼食お願い。後飲み物」
「りょかーい!中銅貨6枚ね、尻蹴って早めに出してもらうから!」
「急いでないからいいよー!」
15時という微妙に遅い時間のせいか他にお客は居ない。しかし、だからといって料理人の元まで走ることはないんじゃなかろうか。
どんな料理が出てくるんだろうか。小腹が満たされる程度で良いんだけどな、夕飯もあるし。
ああそうだ、今日の夕飯、確かサンに買い出し頼まれてたんだった。食べ終わったら市場に行ってすぐ帰らないと。
「急がせてきた!」
「別にいいってば」
なんて考えている間に赤毛が戻ってきた。相変わらず騒がしく元気な奴。嫌いじゃない、というより好きな部類だ。別にロリコンじゃないってかそういう意味はない。
あーでも可愛くなったよな、昔に比べたら大人しくなったし、顔立ちも悪くはないと思う。そばかすもいいアクセントだ。……あれ?やっぱりロリコンなのか?いや、ないない。忘れよう。
元々あんまりうるさい方ではないし、だからといってずっと1人では寂しくて死んでしまうような微妙な自分にとって、こういう騒がしい奴は適度な距離さえあれば最高だ。別に付き合うとかは考えてないってか体は女だ。
「何が出てくるの?」
「今日の軽昼はガーリックライスと小鉢サラダだよん」
ガーリックライス、実際のところ米じゃない何らかのプチプチした穀物なんだけどね。というか白米って見たことないような?
「さって、あたしも暇だし?アンの冒険譚聞いてあげてもいいわよ?」
「しょうがないにゃあ・・いいよ。」
「何その口調。毒でも貰った?」
現地人には通じないネタである。悲しみ。
どの話からしよっか。うちのパーティの紹介もしたいし、大毒亀の話が丁度いいかな。ちょっと長くなるけど。
「アーフォートって分かる?少し前の話になるんだけど――
◆◇◆◇◆◇◆
昼食は思った他美味しく、この値段ならまた来ても良いかもしれないと思えるような場所だった。セメニアに会うのも毎日じゃ流石に疲れるが、週2くらいなら。
大毒亀の話は思ったより受けた。多少盛ったところが無いとはいえないが、大活躍したのはホントだし。無敵だよーホントだよーなんつって。
ともあれお腹も膨れた私は市場に直行。メモ帳代わりの録石を読んでっと……多いな。めっちゃ多いなこれ。だから大きい鞄渡されたのか、しかも4つも……。
角兎を4匹、玉葱モドキを7、大根モドキ2、筍モドキ4、椎茸モドキ14、白菜モドキ4――
この世界に馴染んでいるなぁと思うことがある。今みたいに食材の名前をスラスラ言えるようになった時なんかもそうだし、夜中トイレで起きた際に無意識にドイ・レズド・ズビオを使っている時とか。
このまま地球にワープしたら、夜中起きても間違いなく魔術を詠唱し赤っ恥かくことになるな。ありえないだろうけど、1回経験してるだけあって怖い。今の生活の方が好きだけどさ。
でも、それでもたまに、前世を懐かしむくらいはいいんじゃなかろうか。
ネットが無いと情報というものはここまで集めにくいのかと辟易したこともあるし、休日をだらだらゲームで過ごすことも出来ない。たまにジャンクフードを食べて体に悪い味を楽しんだり、仕事中の眠気覚ましにエナジードリンクを飲んだり、遠くまでの移動に電車を使ったりも出来ない。
なんなら性別まで変わってる。最初は新鮮で楽しんでもいたが、どうにも飽きてきた。生理は面倒だし背は低いし男の目も気になることがある。股間が寂しいこともある。
グチグチ言っても仕方なくて、この世界に適応するしかないのは確かだし、この世界に満足もしているんだけどね。
それでも郷愁を覚える事もあるのさ。ときたまね。
最近気付いたんですが、アンの性格が某漫画の主役にそっくりなんです。……先に書き始めたのは私だったのでセーフってことで許してつかさい。
ネタバレになっちゃうので名前は言えないんですけど、かなり好きな漫画です。終わりが見えてきてて辛い。




