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二十一話 古物商2

2021/06/06 描写の変更と追加情報。

2018/01/26 名前が間違えていたのを修正。


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長らく更新してませんでした。すみません。エタナらないように頑張ります。1回の更新時の文字数も2000文字前後から特に決めずにキリのいい所にします。

 ……うーむ、全く見たことの無い文字ばかりだ。未解読文字含めそこそこに知識はある方だと思ってたが、どの文字も記憶にかすりともしない。

 位取りが違う時点で少しは察していたが……やっぱり、全く別の世界なんだな。


 古物商の店主……ニアケが渡してくれた本を見て、私は少し落ち込んだ。だって、もしかしたら前世と繋がりのある世界だったりーとか、ここは未来のゲームの中で位取りが16なのはパソコンだからでーとか、淡い期待を抱いていたんだが、これだ。

 つまりここは、全くの別世界、異世界って訳だ。元の世界に帰る手がかりすらない。……別に帰りたいとは思ってないが。


 そしてこの文字……ケス語と言い、ダールを含めたこの大陸で一般的に使われる文字らしいが……難しすぎる。1番近いのはハングルだろうか? 文字の形的な意味で。

 ……元々朝鮮語が扱えたわけじゃないから、詳しくは分からんが、単純な図形を組み合わせてるような見た目はハングルに近い感じはある。ただ、大文字小文字の様にか、前字・中字・後字に分かれるとニアケが言っていた。

 文字自体の形が規則的にとは言え全く別の形に変わる上、文字数が凄まじく多い。表意文字と表音文字が混ざっている事から、前世の日本語に近いっちゃ近いのかもしれないが……いや、こうして見ると日本語の習得難度が高いってのがよく分かる。ざっと見てみても読める字が1つも無い。喋れてはいるから後は文字を覚えるだけなんだろうが……なんつー難しさだ。

 まあ、まずは漢字に当たる表意文字の形と意味を覚えていけばなんとかなるだろ……。やっぱりこれ、日本語より絶対難しいわ……これ覚える時間で前世の3ヶ国語くらいは使えそうだぞ……。



◆◇◆◇◆◇◆



「暇ねー……」

「アンちゃんって、いつもああいう感じなの?」

「たまにねっちゅうするとあんな感じ……」

「難しい言葉知ってるんだねー」


 アンが本に夢中になってしまい、手持ち無沙汰となったセメニアはニアケと雑談をしていた。

 机の上には切り分けられたケシス(果物)が置いてあり、件の少年を含めた3人はこれを摘んでいる。

 本なんて何が面白いのかしら?

 セメニアにはアンが理解できないでいた。

 これおいしい!

 少年は喋らずも満足げ、まるでハムスターのように頬を膨らませている。


「あ、ちょっと!」


 最後の1つに手を伸ばしたセメニアだったが、残念ながら食べることは叶わない。ケシス争奪戦は少年の勝利で幕を下ろしたようだ。


「ニアケさん、ごちそうさま!」

「ほーい……うーん」


 暇潰しになる、と小さな探索者達を邪険にするでもなく、おやつまで用意したニアケだったが、赤くなり始めた外を見て方針を変えることにした。

 ダールは確かに平和な町だが、しかし昼と夜では表情を変える。


「そろそろ日も落ちちゃうなー。アンちゃんとセメニアちゃんはどこら辺に住んでるの?」

「アンの家は行ったことない。でもいつも、西広場の公園で会うよ!」

「ほーう。アンちゃんのパパやママは知ってる?」

「アンのパパは、あたしのパパの先生だよ!」

「セメニアちゃんのパパは――」


 ニアケはセメニアから、アンの住処や親の情報を聞き出していく。そしてそれらの情報を紡ぎ、1つの結論を出した。


「じゃあ、アンちゃんのパパはロニリウスさん?」

「うん!」

「なるほどねー。ちょっと連絡するから待っててね」


 ニアケが集中すると、周囲の魔力の流れが変わり、いつしか形となって現れた。

 しかしセメニアには感じ取れず、本に夢中なアンもまた気付くことはできていない。

 当然、呪人である少年にも――


『お姉さん、それ何?』

『あれれ? 僕これ見えるんだ。呪人って聞いてたのになー』

『……? よく分かんないけど、これだよね?』

『あーっ!』

「!?」


 と考えていたニアケの予想に反し、少年は魔力の糸を見ることができていた。

 突然現れた見慣れぬものに、ついと手を伸ばしてしまった。

 触れた瞬間に消えた糸。ニアケは少しだけ怒ったような顔を見せ、少年に分かる言葉で語りかけた。


『お姉さん、こういう分からない物に触るのはあんまりオススメしないなー』

『ごめんなさい』

「何て言ってるの?」

『もう1回出すけど、それには触らないでねー?』


 少年を軽く叱りつけたニアケは、もう一度魔力の糸を伸ばした。先程とは違い、糸は店の外まで伸びていく。


『アンちゃんのパパに連絡取るの。多分あの子、動かないだろうから』

「ねえ! 何て言ってるの!?」


 自分の分からない言葉で喋られ、セメニアは遂にイライラをぶつけてしまう。


「あー、んー、内緒」

「いじわる!」

「冗談冗談。ちょっと、アンちゃんのパパに連絡取れないか試してたの」

「ふーん」



◆◇◆◇◆◇◆



 練兵所。7人の兵士と1人の教官が地稽古を行なっていた。いや、既に3人は動けないようだ。


「そこ! 防御が甘い!」


 戦闘教官であるロニリウスの声が響く。それと同時に1人の兵士が倒れそうになり、それを助けようとした兵士もまた教官に叩き伏せられた。


「もっと周りをよく見て考えるんだ。自分や相手はどこに居るか。自分が相手なら何をするか、何をされたくないか。それを幾重にも重ねて、常に最善手を取ることだ」

「は、い……!」

「君たちが戦うのは魔物だけじゃない。人だけでもない。その両方だ。だからこそ、傭兵よりも、冒険者よりも頭を使う。だが君たちには誇りがあるだろう」


 普段家族に見せる姿とはまた違うロニリウスの姿。辺りは緊張感に包まれ、見学者はその一部始終を反芻し、当事者は目の前の男との壁を感じていた。


「……やっぱり難しいな。僕に強い口調は向いてないよ」


 そんな緊張感を壊す一言。ロニリウスがはにかみながらそう呟いた。しかし目の前で行なわれた、或いは実際に受けてしまった者はやはり強張っている。


「まあ、なんだ。敵として体感した者、味方として体感した者、第三者として体感した者。それぞれ別の印象だとは思う。それでも僕なんかより強い人はたくさん居る。君たちはそれに負けてはいけない――」


 その通りだと。先程までの冷え切った空気が、また熱くなる。兵士達はまだ強くなれる。彼らは入団1年目の、伸び代はいくらでもある新入りだ。


「さて、次のチームだ。作戦会議は終わったかい?」


 ロニリウスが行なっている訓練は、非対称集団戦闘訓練。彼を含めた3人のチームと、5人のチームでの実戦形式。ほとんどのチームが1対1で向かい合い、ロニリウスにだけ3人で対応するという人数差を使う、基本的な陣形を取っている。そして、負けている。

 勿論この訓練に正解はない。ましてやロニリウス側のチームが負ける事も無い。対峙することになった者はロニリウスの技術に叩き伏せられ、一緒になった者は強者の動きを1番間近で見ることになる。これは考えさせる訓練だった。


「君達が僕の味方か。じゃあこの襟巻を。それで、どんな作戦で行くんだい?」


 教官側に着いたからと言って、戦闘に勝ったからと言っても、この訓練に勝敗は関係無い。学んだ者が1番の勝者だ、と彼は考えている。だからこそ、自分をどう使うのか……と、作戦すらも教え子に任せていた。


 教え子が伝えた作戦に、彼は心躍った。今日聞いた作戦の中では1番優秀……かはともかく、1番変なものだったからだ。だからこそ、彼が今後どのように成長をするのかが楽しみで、彼は笑った。

 だがこの訓練はここで終わりを告げる。


「レーシアさん、通信が入っています。少しお時間良いでしょうか」

「ん、分かった。じゃあ皆、一旦自習とする」


 自習と言われた兵士達は、誰がと言うまでもなくそれぞれが、ロニリウスの動きを話し合ったり、地稽古を始めようとしていた。教え子の意欲に火を付けることが出来た、と嬉しそうなロニリウスに、彼を呼んだ男もまた、嬉しそうに笑った。


「それで、どんな通信が、誰から?」

「東広場奥手通り37番古物店のニアケと言う者からです。内容は《娘、本、不動》ですね」

「アンが本で動かない……? ごめん、今日は上がらせてもらうよ」

「ではそのように伝えておきます」


 この世界の通信は、アンが居た世界に比べてだいぶ未発達だ。双方向通信は確立されていないとされ、半二重通信が一般的には主とされる。但し、その通信ですら"魔人"の彼らにとっても難しい術式構築が必要な魔術であり、一般人は中々扱えない――例えば偵察任務従事者達が使う――技術となっている。

 だがそれも、人の枠組みから離れ、組織として見た場合は立派な有用性を持つ。アンの世界に於けるSMSの劣化版のような技術だが、それでも遠方からの情報を得る手段としては格別である。

 そしてそれを、一般人であるニアケが使えるのはなぜか、と言うのはここでは触れないでおく。


(一体何をしてるんだ……?)


 ロニリウスは自身の汗臭さに気付き苦笑いを浮かべ、簡単に浄化魔術を自身に施しつつ、アンの元へと向かった。



◆◇◆◇◆◇◆



「……暇ね! ねぇニアケさん? なんか面白い遊び無い!?」

「うーん、遊びかぁ。私あんまり子守得意じゃないからなー」


 セメニアの言葉に、ニアケは自身の経験の無さを嘆くような反応を見せる。彼女はあくまで古物商であり、元冒険者であると言う事実は子供達には伝えていない。仮に伝えたとして、この幼子の性格上、根掘り葉掘り聞かれて面倒臭いことになるのは明白なので、そういう事が嫌いなニアケは自身の情報はあまり明かさない。


『僕、これからどうしたら?』

「まったなんか分からない事言ってる! この子の翻訳お願い!」

「はーい。んっとね、僕何したらいいの? って聞いてるよ」

「……そういうのはアンに任せるわ!」


 あまりにも投げっぱなしな回答にニアケは苦笑した。

 子供2人の通訳をしつつ、ロニリウスさんが早く来ないかな、なんて考えた。

 この世界にも"本の虫"に近い意味の言葉はある。アンは恐らくそれなのだろう。そしてそんな子には本に夢中な時には手を出すな、なんて慣用句もあったりする。だから彼女はアンの父であるロニリウスを呼び、なんとかしてもらおうと思っている。

 ニアケからしてみると、アンやセメニアは何も買わないし、厄介事を運ぶ面倒な存在なのだ。しかしそれを単に蹴り出さないというのは、彼女自身の性格と、それにアンの父がロニリウスだと言う事実があったから。

 赤くなった町を眺めるニアケの考えは、残念ながら誰にも読み取ることはできない。


「……ふぅ。遅くなりました。遠報(えんぽう)を飛ばしたニアケさん、で合っていますか?」


 そんな折、アンの父であるロニリウスが遂に到着した。容姿端麗且つ魔力豊潤な彼が、かのロニリウスであることは間違いないだろう。ただ服装が少し残念ではある。評判のロニリウスさんとは少し違うな、なんてニアケは考えた。


「はい。初めまして、古物商のニアケ・ケセナ・ヴァルト・ケル・イーシルです」

「これは丁寧な。ロニリウス・クルセト・ブーチャ・エレン・レーシアです」

「いえ、その礼には及びません。私がロニリウスさんを呼びつけたものでありますし」


 二人は魔人流、或いはダール流の深い挨拶を交わす。これは互いが互いを知りたがっている、という意味を持つ挨拶であり、その一歩でもある。

 それ以外にも、略式礼が一般化されている中でこのような挨拶を交わす、交わせると言うことは、互いの身分をある程度明かす事にもなり、自身の名前だけではなく、出身地や血脈をも含む挨拶は、少なくとも粗野な冒険者達や下級の市民などが交わすものではなく、互いの身分の証明ともなる。

 意外な挨拶が帰ってきたぞ、と面食らうロニリウスを見たニアケは少しだけ微笑んだが、残念ながら続く言葉は期待の外のものだった。


「前略としましょう。私の娘が何か問題でも」

「いえ、問題と言うほどでは。ただ、"本の虫には触れるな"と言う諺もあるでしょう? ですので、ここは血縁であるロニリウス様になんとか事を鎮めて貰おうかと」

「なるほど。分かりました。私の娘がとんだご無礼を」


 ロニリウスが頭を下げる。彼らに於いて頭を下げると言うのは、ある種屈辱的な行為であり、身分の高い人間が低い人間に対しおいそれとやっていいものではない。

 それを私に忌諱せずに行なう事は……とニアケは少し考えた後、例の噂話が事実であると確信した。


「いえ、そのような事は。頭をお上げください。私としても幼子との交流は、楽しいものでしたよ」

「そのようなお言葉、有難く受け取りましょう。では早速本題に……アン?」


 そして会話を切り上げると、ロニリウスは自分の娘へと声を掛けた。ニアケからしたら、このような固い会話は苦手でもあるが……しかし相手があのロニリウスだ。龍種を個人で落としうると言う、あのロニリウスだ。

 失礼があっては自身や周りの命にも関わる。例えそれが、今や骨抜きだと陰で揶揄されているとしても、やはり恐ろしいものは恐ろしい。

 だが同時に噂好きでもあった。



◆◇◆◇◆◇◆



 この3つの文字、全部共通する部位を持ってる。それに……あった。こっちでは共通部位が単品で使われてる。てことは――


「アン? おーい?」

「……ん、あ、パパ?どうしたの?」

「店主さんに呼ばれてね。ずっと読み耽ってたんだって?」


 ……ん? なんか赤いぞ、もう夕方!? いつの間にそんなに……そんなに読み耽ってた? いや読めるわけじゃないけど。

 にしても、何かに集中すると周りが見えなくなるのは悪い癖だな。つーかなんでロニーが居るんだ? セメニアかな? セメニアだな?


「んー読めないけどね、なんか面白くって。ずっと考えてた」

「ちょっと僕にも見せてくれるかい?」

「うん」


 ロニーにもよく見えるように席を退いた。本、とは言っても50cm以上あるし、さすがに私にゃ持てん。そんな本をしげしげと眺めるロニー。読めるのか? 読めるなら後で教わろっかな。


「これは歴史書だね。歴史に興味は?」

「無い」

「即断って。あーでも魔術の歴史も少しはあるみたいだけ――」

「ある!」

「うん。そう言うと思ってた」


 なんかニヤついてる顔が腹立つが、魔術関連の知識は今のうちに付けておきたい。化物が私の記憶が徐々に失われるーとか言ってたから、今のうちに新しい記憶として、魔術の有効活用法なんかを考えておきたい。下手すりゃ今世より前世の方が魔術に詳しいまであるからな。日本人は魔法が大好きだし。


「ニアケさん、これを頂いても?」

「あっはい! えっと、それはー……」


 どうやら店主の名前はニアケと言うらしい。いつ知ったんだ、口説いたのか、どうなんだ我が父よ。

 ニアケはなんかカウンターの裏でゴソゴソしてる。もしかして本の値段忘れたとかかな?


「えっと、それは写本ですので、小銀貨4枚ですね」

「う、今の手持ちじゃちょっと足りないね……アン、また今度でいいかい?」


 小銀貨っていくら? 確か中銅貨が100円、大銅貨が1600円だとしてだから……26000円くらいか。は? 10万? 諦めてくれてもいいですよお父様。私達今宿暮らしですのよお父様。


「ううん、この本は我慢する」

「確かに、その方が助かるね……サンに後で怒られる事もなさそうだし、うん。今回はごめんね」

「大丈夫だよ」


 まあ本音言えばほしいんだけど、別に今すぐ読めると言うわけでもないし、今すぐ必要と言うわけでもないし。うん、ちょっとさすがに10万は高いわ。それを何さらっと買おうとしてんの? うち金持ちじゃなくね? 後ニアケよ、視界の端であからさまにがっかりするな。高すぎるわ。

 それとも私の認識が間違ってんのか? 本ってどれもこんくらいすんの? んなアホな。


「さて、あんまり長居するのもだからね、そろそろ帰ろうか。セメニアちゃんも一緒に……あっちの男の子は弟さんかな?」

「あ、聞いてパパ。記憶喪失らしい男の子見つけた」

「……うん?」

「セネ語で喋るらしいの。私はなぜか喋れて、意味も分かるんだけど、ほとんど何も覚えてなくって、気付いたら」

「なるほど……? ……うーん、そういうのは早めに言ってくれた方が嬉しい、かな……」


 ロニーの表情がコロコロ変わって面白い。というか私も考えに夢中でちょっと忘れてた。すまんな少年よ。

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