閑話 哀怒の竜
ユタとアンが別れる、ちょびっと前のお話
「ねーねーお兄ちゃん。なんかお話して?」
「お話って、昨日もしたばかりじゃないか……さすがに僕もネタ切れになっちゃうよ?」
「なんでもいいよ。なんか、昔みたいにお話聞きたい。冒険者の話とか」
「うーん……ああ、それなら一つあるけど……あんまりすっきりしない話だけど、聞く?」
「すっきりしない……うん、それでもいい!」
ユタの膝に乗り、お伽噺を聞くなんて、いつぶりだろうか……それでも、彼が冒険に出てしまい長期間会えなくなると言うならば、しておきたいことの1つだった。帰ってきてからでは、恥ずかしがってこんなことはしてくれないかもしれない。ユタだってもう、思春期の入り口に居るわけだし。それに、もう会えないかも……いや、そんな考えは不吉だ、やめよう……。
そんなことを考えているうちに、ユタのお話が始まる。
「昔々……僕らの居る大陸がまだ、誰も住んでなかった頃のお話。人はまだ居なくて、そこには獣と鳥、虫、そして竜が暮らしていた――
その大陸では、各々が自由に生きて、この世の楽園が広がっていた。人と言う無駄な殺生を繰り返す愚か者も居らず、彼らはその永遠を信じて暮らしていた。
そんなある日、13人の呪人がその大陸に足を踏み入れた。彼らは元の大陸を追われ、誰も知らない土地を探して……そして、その大陸を見つけた。
その大陸では獣は友好的だった。警戒心もなく、暖を取るために、そして興味心から人に近づいた。そして、狩られた。
最初のうちは食事のために狩っていた彼らも、次第に生活が安定し、村となる頃には……金のため、趣味のために獣を狩るようになった。
その大陸では鳥は友好的だった。警戒心もなく、新たな歌を知るために人に近づいた。そして、狩られた。
最初のうちは食事のために狩っていた彼らも、次第に生活が安定し、村となる頃には……金のため、趣味のために鳥を狩るようになった。
しかし竜には近づかなかった。そして竜も、近づかなかった。彼らは同じ土地で生活しつつも、遠い土地で生活をしていた。
そんなある日、竜は魔嵐の気配を感じ取った。竜はこの大陸の新入りたちに、嵐が来ると伝えようと考え、初めての接触を行なった。
竜の忠告により、人は大きな被害も出さずに、嵐を乗りきれた。人は竜に畏怖し、しかしそれでいて感謝した。
以来、人は時々竜に接触した。竜はそれを快く受け入れ、食糧や宝石を貰い、代わりに剥がれた鱗等を授けた。
時が経ち、村は街へ、そして国へとなった。
しかしそれは竜にとっては些細なことだった。
そんなある日、竜の巣に人が来た。人は言った。竜よ、我が国に来てみないか。大層な持て成しを約束する。日頃の礼だと。
竜はそれに従った。何故ならこの人は見覚えがあったから。基本的には住居から出ない竜も、顔見知りの人に誘われてはと街へ向かった。
どうやら人は王であるらしく、国は国を挙げての歓迎会を行なった。竜を一目見ようとごった返したりもしたが、竜は初の体験を楽しんでいた。
夜になると人は酒を持ってきた。なんでも、人はこれを飲み、交友を深めると言うのだと言う。ならばと竜もそれに応じ、人と共に酒杯を交わした。
竜は酒が気に入り、翌日にも欲しいと伝えた。王は快くそれを受託し、明日も飲み交わそうと言った。竜はますますこの人が気に入り、互いの名前を伝えあった。
それが間違いだった。
翌日の夜、竜が待ちわびる酒が運ばれた。もはや気を許した竜は、運ばれてきたばかりの酒を飲み、呑み、のみ……体が痺れ、息が荒くなったが、これが飲みすぎなのかと思い、気に留めなかった。
しかし、それは人の策略だった。体の自由が利きづらくなり、とうとう飛ぶのもままならぬと思った竜の鼻先を、人が切りつけた。
竜は戸惑いつつも人に問うた。何故このような事をするのかと。昨夜の話はなんだったのかと。
人は答えた。竜は鱗しか渡さない。ならば、お前を殺して、全てを奪い取ってやると。しかし竜は強い。だから毒を盛ったのだと。
竜は怒りを覚え、その街で暴れ狂った。目に見える人も物も、全てを燃やし尽くした。
分かり合えたはずの人を、分かり合えなかった人を、その人の街を、国を、その全てを燃やし尽くした。
人の全てを燃やし尽くした竜は、人から受けたその微かな傷を、事件の教訓と残すことにした。それが逆鱗と呼ばれる部位になった。
そして、竜は眠りについた。大暴れしたその竜には休息が必要だった。だから竜は万が一、人が渡ってきてもたどり着けない、雪山の頂上で眠った。
――今もその竜は、どこかで眠り続けている」
「もちろん空想の話なんだけど、僕には竜が可哀想で……だから、あんまり好きじゃない」
「うん、その竜すごい可哀想……あ、1つ気になったんだけど、なんで呪人なの?魔人の方が多いのに」
「この国は昔から魔人が多いし、呪人の国と戦争してた時期もある。そんな頃に話が変わったのかもね」
「なるほどー」




