68 彼の者のレベル。そして、彼のレベル
輪を作り見せ合う顔ぶれは、ほとんどがいつものデカルト隊の作戦会議のメンツ。
ここで挙がる議題に銘を打つなら、魔王転移作戦。発案者は俺。
猟術士の転移陣を使い、未だ姿を見せぬ最後の魔王をここへ引っ張り出そうというものだ。
「途中まで魔王転移は、敵方戦力の分散が狙いだと思い聞いてたが、その逆とはな……ま、やるつもりではいるけれどよ」
マサさんは険しい表情だった。
隣はそれを遥かに上回る厳然たる顔のキョウカ女史。
「アリーゼ隊が八十名、こちらは三十名の戦闘可能な人員があります。しかし戦況は有利とは判断しかねる、切迫した状態です。そこに彼の作戦を遂行すれば、総崩れの危険性が高まります。火を見るよりも明らかな失策です。承服しかねます」
「けどよ参謀役。さっき赤毛の嬢ちゃんが説明してたろ。この『狭間の大広間』で、すべての魔王を倒さねえと収まりが悪い。ギルドとしても討伐後、ふらっと魔王が現れても困るだろ」
「だからと言って、この戦力で四体すべてを相手にするのは無謀ですっ」
強い口調で断言された。
ただ、残念ながら輪の中にあって、キョウカ女史一人だけが渋る構図となっている。
会議はもう討議の場でなく、段取りを話し合う流れとなっているからだ。
「結局全部倒すにゃら、三体も四体も大して変わらないのにゃ」
「ボクはかなり変わると思うけれどなあ。でも、だからこそでしょうか。今後魔王が分裂しないと言い切れない以上、もしかすると、『玉座の間』で四体を相手にすることになるかも知れません。最悪ボク達はここで三体、あちらで四体、計七体の魔王を討伐することになります」
「各魔王を殲滅できる部隊を編成できるのでしたら、また違ったかも知れません。しかしその戦力は今ここには残されていません。残されているのは百名近くの一つの強さです。だからこそ、イッサの案こそが希望なのではないでしょうか」
説得するような語りでルーヴァ、アッキー、カレン。
それでも、目を伏せる女史には、得心した様子はうかがえない。
この魔王転移作戦には、この場で唯一の猟術士、サクラちゃんの力が絶対的必要条件だ……。
アリーゼ隊の指揮官には了承を得ている。あとはギルドの意向だ。
サクラちゃんは自分の身の振り方を、上司に当たるキョウカ女史に委ねた。
彼女の後押しがあれば、少女は動いてくれる。
「参謀役。ギルドは虫が好かねえが、おりゃアンタを、この隊のため尽力してくれる仲間の一人だと思っている」
「……では、刻印者もいます。ここは一時城内から撤退し、ベルニ隊との合流を果たした後、再討伐を試みるのが……得策ではありませんでしょうか」
「その刻印者を抱えたまま、何日だ、何日敵地で過ごして待ちゃいい」
マサさんの口調は、苛立たしさを孕む。
三つの討伐隊の一つベルニ隊がこの付近へ到着するのに、一日や二日辛抱するだけでは済まない。
「魔王には……分裂による減衰などはないのでしょう」
「『黄泉の刻印』が確率スキルに変化していると言い出したのは、アンタじゃなかったか?」
急に話の先が見えなくなったキョウカ女史の発言にも、マサさんは応える。
そのまま隊長と参謀のやり取りが、二つ三つ静かに続く。
魔王の分裂に、これまでに在った強さの分割はなく等分で存在している。
『盗眼』スキルで盗んだ魔王の情報から、キョウカ女史は分析するのだが、言われるまでもなく、俺達は肌で感じている。
今までの……いいや。
上限超えの強さを手に入れた魔王を四体相手にする、その覚悟の上でこの話をしている。
「マサさん。魔王達のレベルって、140とかだよね?」
「ん? ああ、綺麗に同じレベルのようだな。最後の一体が特別仕様でもなけりゃ、もう一体レベル140の魔王が増えるだけだ。どうってことねえ。心配すんな」
「クマの隊長さんは、怖いこと言うにゃね。ぷらぐが立ったにゃ」
立つのはフラグな、それ挿すやつ。
「そのことですけれども……」
おずおずと口を開いたのは、キョウカ女史。
まさかの最後の魔王の特別仕様フラグ成立なのか!? と気を重くしたが……違う意味でのそれだった。
虚偽報告の告白がなされた。
キョウカ女史は動揺を抑えるためと、皆に魔王のレベルを偽って伝えていた。
真実が知らせられれば、俺の周りで唸りが起きてた。
「180……道理で、しぶてえわけだ……」
頭を掻きむしるなり、げんなりして愚痴るマサさん。
「うーん。レベルじゃ勝っているけど、やっぱ四体ってなると憂鬱になるよなあ……」
「ええ、たとえレベルが上でも、魔王自体の数の問題は大きい……!?」
横のカレンの眼が真ん丸になる。
「イッサは今、レベルは上、優っているようなことを口にしていましたか!?」
「口にしていたのはカレンの方だけれど、まあ、ちょっとだけ」
「にゃー!? にゃんじゃこのレベルはっ!?」
こっちがびっくりするような驚く声が上がる。
「カレレもアッキーも、早くイササのステータスを見るよろしっ。とんでもないことににゃっているのにゃ!」
フフォン、フフォンと、電子画面が立ち上がる。
その後は絶句状態のパーティの仲間達。
「おいおい兄ちゃんっ。お前さんのレベルいくつだっ」
パーティの反応もあってか、マサさんからの期待値を高く感じる。
「あれだよ、180の魔王とそんなに違わないよ。あんまりハードル上げないで」
「ご託はいいから、とっとと教えろっ」
「レベル、217……かな」
間違ってなかったよな、と俺も自分のステータスを確認。
フフォン、と手元に発光する画面が浮かぶ。
【レベル217 イッサ――魔法使いX】
体力値……321
攻撃力……259
防御力……278
魔法力……308(△401)
素早さ……268
器用さ……352
・《特性スキル 》―― 子供の成長期<*>
・《追加スキル》―― スロットふえーる /火炎ブースト極<*> /魔法力ブースト<*> /ふんばーる
「でも、あれなんだよね。ミロクみたく壁とか殴って壊せないし、めちゃくちゃな動きもできないし、思ってたほど強くなった気がしないんだよね……」
ステ値は超えてるんだけどなあ……。
改めてあいつのチート級の強さを知る。
んで、驚かれるだろうとは思っていたけど、やっぱりこの世界での”レベル”の占めるウエイトって大きいんだなあ、としみじみ思う。
まるで異星人とでも遭遇したかのような面食らった顔が並び、それらから、しげしげと見つめられるばかり。
「ねえ、皆聞いてる?」




