67 猟術使い
「脱出転移陣」
人を排した床面のスペースに、青白く光る六芒星の魔法陣が発現する。
星を囲う二重円。
魔法陣は、俺が大の字で寝っ転がっても平気なくらいの大きさがある。
「青いは送転陣。確認よし」
同じ職場の先輩と俺達パーティ、その他多数に見守られながら、黒髪少女が語りきは指差し呼称。
アリーゼ隊――兼ギルド本部に所属するこの少女サクラちゃんは、デカルト隊では誰も持たない『猟術使い』の職種を持つ。
新設された職種のひとつだから、俺が知らなくても……だし、なんとなくデカルト氏の性格だと、うちの隊からは省かれていただろうから、猟術士を目にする機会はなかったかも。
レベル主義のデカルト代表補佐のことだ、レベル99未満の冒険者は相手にしないだろう。
「この子がキョウカ女史の助手で俺達の隊に参加してたら、また違ってただろに……」
補助スキルに特化している模様の猟術使いは、巨人の助けを要するような重く大きな扉すらも、いとも容易く開く”解錠スキル”を持つ。
とまあ、過ぎ去ったことを悔やんでも時計が巻き戻るわけでもないので、今は唱えられた『ア・テラレ』だ。
サックリ、魔法陣を通しての転移スキル……らしい。
青色の魔法陣の側、キョウカ女史が周囲を見回す。
「離脱する者は、サクラが設置した青色の陣を使い外へ。転移先の城外にある待機場は、安全が確保されているので心配はありません」
「あのーキョウカさん、もしかしてこの転移陣って一方通行だったりする? サクラちゃん送転陣とか言ってたから」
キョウカ女史が擬音のギロ、で応えてくれる中、サクラちゃんが周りへ少し下がりスペースを空けるようにお願いする。
「ええと、こっちに新しく『脱出転移陣』を作ります……」
既に設けてあった青色の隣に、赤色で発光する魔法陣が刻まれた。
「赤いは受転陣。確認よし」
「なるほど、一度一組を設置してしまえば、新しい転移陣を作れるんですね」
と、アッキーが俺の傍らにて身を乗り出す。
並ぶ”送転陣”と”受転陣”に、何がなるほどなのだろうと小首を傾げていたら、青色の送転陣へ乗った猟術士の少女が、パヒュンと消え去る。
「おお、あっさり消えたな」
「今ので転移された……そういう事なのでしょうか?」
と、今度はカレンが一歩前へ。
俺もだけど、カレンもアッキーも興味津々といった様子だ。
「順序は、受け側の発現が先になるようですね。城外にある受転陣へ飛んだ彼女は、今度は向こうで新しい送転陣を設けるんでしょう。二組あれば、送転から受転の一方通行のスキルでも往来が可能になりますから」
「さすが、アッキーは聡明ですね。私は同じ場所に魔法陣を作ってしまって、何を成すつもりだろうと、訝しみながらに眺めるだけでした」
「そんな聡明とかは、やめてくださいよカレンさん。それに、ボクなんかイッサさんに比べたら」
アッキーとカレンから熱い眼差しが届く。
どうしよう。転移を見て、ダンジョンからの帰りが楽だよなーの発想と、俺も欲しいなー羨ましいな―の感想しか抱いていませんでしたけれど。
「その、行ったり来たりができるんだね、『脱出転移陣』って……はっ、ああ、だからかあ……」
思考が、頭の片隅で引っ掛かっていた情景を引っ張りだしてきた。
”緑”の扉から、一斉に現れたアリーゼ隊の姿。
「だから、アリーゼ隊の皆はバラけないで、『狭間の大広間』へ来れたんだな」
「……アリーゼ隊は、猟術士サクラさんのパーティを先行させて、魔王城最初の大規模トラップを転移で越えていたのですね」
「トラップでの転移後、どこか適度な場所に今のような『脱出転移陣』を作れば、他の冒険者も同じ道筋を辿れますからね」
俺、カレン、アッキーの順でつぶやき見合わせる顔には、『便利』の二文字が書かれていた。
ひとつ欠点を上げるなら、好きな時に使えない、かな。
今回の場合だとバラけるトラップを回避した後に、待機場の受転陣を作ったと思う。
本来、この受け側は、討伐作戦の終了時を見越して設けたものだったろう。
予定では、最終局面で送り側を使うはずだったから、その時まで送り側は設置できない、
つまり、一組の設置を完了しないと次が使えないスキルってことになる。
しかしながら。
「任意で転移場所を作れるってのは、かなりすげーよな……」
俺が感嘆を漏らす頃に、赤色の受転陣が強く輝く。
戻ってきた猟術士の少女――に、すかさず歩み寄る。
「なあなあ、サクラちゃん。これってパーティしか使用できないとかじゃなくて、俺達全員使えるんだよね?」
「離脱者の方は青色の魔法陣へ乗るだけで……えっと、キョウカ先輩」
ぐいと食い入ると、サクラちゃんは後ろへ身を引き、助けを求めるようにして顔を背けた。
うぐ。俺は君をすごく欲しているのに。
「イッサさん。質問は私がお答えします。ただし不要なもの、公序良俗に反する言動は控えて頂きます」
「……普段から控えていますが、『脱出転移陣』の制約というか、条件が知りたい。例えば動物は転移できるんだろうか、とか」
「はあ、貴方は此処にペットでも持ち込んでいるのですか」
呆れた顔で睨まれる。
うぬぬ、俺はただ、身近な転移と言えばの教会に、動物の転移の記録がないから念の為に聞いたのに。
人間専用かそうでないかを知りたいのだ。
「……下らない」
キョウカ女史がそっぽを向けば、ポニーテールの尾っぽが揺れた。
「ちょちょ、分かった分かった、待った! ズバッと核心を言うからっ」
すうーと息を吸う。
始終、フザケているつもりなんてなかったけれど、俺は意識して真面目であろうとする。
「転移陣……魔王には使える?」




