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66 サクラ。そして、キョウカから


 カレンとあれこれ会話をする時間もないままに、マサさんからの伝令を持ったルーヴァが合流する。

 集合の知らせに、これからのパーティの動きを知ろうとせかせか移動する。


 気がはやるのは、ここが戦場であるからだ。


 つかの間の休息なんてものはない。

 周りに群がる者達は、魔王から待機状態を余儀なくされただけだ。

 見渡す先では常に戦闘が繰り広げられ、時に身を強張らせる荒々しい衝撃と轟音をここまで届ける。


「あそこにゃね」


 ルーヴァの飾り尻尾を追う。

 避難場所にできる範囲と箇所は限られているので探すまでもないのだが、マサさんの居所は見つけやすい。

 人集りができているところに大概いる。


 ”緑”と”青”の扉の中間辺り、より多くの建物の瓦礫が積もる物陰に足を向けた。

 すると、マサさんを囲む輪の外で、何か声掛けが行われていた。


「デカルト隊の離脱者の方は、こちらにお願いします。マサ隊長さんから指示を受けている方は、こちらにお願いします」


 サーシャまでとは言わないまでも、小柄な女の子が淡々と喋る。

 デカルト隊では見た覚えがないので、アリーゼ隊所属の冒険者になるのかな。

 ただ、あんまり冒険者に見えない。


 雰囲気的に、まだまだ大人とは言えない年頃の子。その華奢そうな体つきがいけないのか、要所要所をベルトで縛り、活発的な作業に向きそうな革の衣装がお世辞にも似合っていると言えない。

 どちらかと言うと、ワンピースのようなおしとやかな服装の方が合うのかな。

 毛先が肩に届かないくらいの黒髪で、前髪ぱっつん。容貌はころりとして可愛いく、特にぱっちりした黒い瞳が吸い込まれそうなくらいに綺麗だ。


「あの、離脱者の方? ですか……」


 俺は黒い瞳から真っ直ぐに見据えられ――はへ?


「あ、俺?」


「イササは、まじまーじ見過ぎにゃ。おニャニャの子にうつつを抜かす余裕なんて、今はにゃいのだ」


「違うって。マサさんのどうたら聞こえたから、なんだろなって気に留めてただけで」


「サクラ、そちらの方は離脱者ではありません。敢えて述べるなら、以前話した非常にいかがわしい方です」


 キリリとした面立ちのポニーテール女史が割って入るなり、俺を非難いや、サクラちゃんとやらに手厳しく紹介する。

 盗賊風の衣装のこちらは、OLさんの格好がよく似合いそうなデカルト隊の参謀役。

 『キョウカ先輩』との静かな声を背中に俺の前へ佇めば、その纏う雰囲気の硬度を上げる。


「そして、イッサさん。まさかあなたが、サーシャさんをお救いになるとは夢にも思いませんでした」


「なんかそれ、誰かにも言われました」


 そんなに俺って、頼りなさ臭みたいなもん振り撒いていますかね。


「まだ魔王討伐作戦は継続中でありますけれども」


 すう、と。ぴしり、と。

 細身の体がこっちへ、くの字で曲がる。


「作戦へのご協力感謝致します。ギルドは貴方の功績を大きく讃えることでしょう」


 貶しからの急激な誉れだったからだろうか。

 お礼を言われて、なぜだか狼狽えることしかできない俺であった。



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