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40 ミロク


 この煙管の冒険者……。

 見た目からまったく予想していなかったが、アナライズの言葉から魔法使いだったと判明する。

 そして、言動から頭脳で戦うタイプの有能な――、


「そこのカブキ役者。あんたアタイの話の腰を折るなんて、いい度胸だね、ええ?」


 俺の視界から派手な色合いの衣装が、すーと後方へフェードアウト。

 やり手だと思っただけに……残念だ。


「おい、君達勘違いはするなよ。ここは女狐が毒薬など持ち込めるような、甘いところではない」


「クククッ、そうだねえ、あんたは余程アタイの体を気に入ったのか、事あるごとにねっとりじっくり隅々まで調べる仕事熱心な変態野郎だからねえ。今じゃアタイよりアタイの体にあるホクロの数を知っているんじゃないかい?」


 ぐぬ、と喉を詰まらせる好色家。


「と、とにかく、そいつが毒薬を使うなど不可能だ。ありえんっ」


 断言された言葉の傍らで、受けた辱めを辱めとも思っていないような女狐はほくそ笑む。


「でも実際にアタイの後ろでは、お嬢ちゃんが息をするのもやっとの猛毒に侵されている。クククッ、さあーて、どういう仕掛けだろうねえ」


――ハイ・アナライズ《詳しい情報取得》。



【毒の花道】

 

 効力:毒による影響を受けない



「影響を受けない……つまり無力化、無効化……」


 と、思うよな普通は。でもなら、なぜ毒耐性や毒無効となっていない。

 俺の知っている冒険者に、条件付きだが毒を無効にする特性スキルのヤツがいた。

 そいつのは、毒の無効とはっきり記されていた。

 そして、確認するのはミロクの『状態ステータス』。

 毒を始め、麻痺、石化、眠りなどの状態異常を起こした場合には、それを表す記号が状態ステータス欄に点灯する。

 状況からの先入観か、煙管の人は見落としていたのだろう。

 ミロクには毒の印があった。

 カレンに毒を盛った時に、とも考えられなくはないが――違う。


「ミロクはずっと毒状態なんだ。こいつの特性スキルは完全な無効化なんかじゃない。ただ、毒によるライフの減少と症状がないだけで毒には侵されたままなんだ。だから、あいつの唾液が毒だったんだ。それでカレンは……」


 毒状態だからそいつの体液が毒になるなんて笑える発想だが、ミロクの嬉しそうな顔がこのとんでも解答が正解だったと教えてくれる。


「魔法使いの言うとおりなら、噛みつかれたらアウトだな」


 誰かが言う。まったくその通りだ、増々人間離れしていやがる。

 無職故、技スキルもなく見るからに布一枚の装備であるが、そこに毒攻撃はあることになる。


 それで俺達は、もう薄々どころか、はっきりくっきり気づいている。


「こいつ……」


 俺と――俺達20人の上限突破者とり合う気でいる。

 俺はそっと、足元で転がっていた古代魔道士の杖を拾う。


「はいはい、せっかちになるんじゃないよ、坊や達。アタイの話はまだ終わっちゃいない。ルール説明だ。アイテムに僧侶の治癒に、なんでもいい誰でもいい。坊や達が後ろのお嬢ちゃんの毒をどうにかできたらそっちの勝ちだ。ああそうそう、お嬢ちゃんを教会送りにして楽にしてやるっていうもの別に構わない。つまり、あの模様の中から連れ出すのもありだ」


 にい、と口の端が上がる。


「さてさてしかし、その為にはアタイをどうにかするしかない。アタイがあのお嬢ちゃんのところへ坊や達を近づけさせないからだ。ククッ、ドゥーユーアンダースタン?」


「ミロクっ、いい加減にしろっ。貴様の相手は魔王だっ。あまり私を舐めるなよ。今回の話を白紙に戻すこともできるんだぞっ。それに冒険者の君らも、ミロクと戦うなどとんでもない。こいつを教会送りにするようなことが許されるわけがなかろうが。こいつのことだ。教会への転移を利用してここからの逃亡を企てているに違いないっ」


 地下室にデカルトさんの怒号が響く。

 この人、いろいろと分かっていない。

 もう、後戻りできないように仕向けられてんだよ。

 俺の仲間がいいように苦しめられてんだよ。

 20人の腕に覚えのある奴らが、たった一人の冒険者(しかも無職)に喧嘩売られてんだよ。引けるわけがねえ。


 そして、最も分かってないのが、俺達がミロクを教会送りにできるなんて買いかぶり過ぎだ。

 それか、あんたこそがミロクを舐めすぎだ。


「こうして二年も大人しくここに居てあげてるのに、酷い言い草だねえ。信用しなよデカルト。心配しなくても魔王討伐はやってやるさ。まったくこのハゲには、少しくらいは幼気な女の我がままに付き合う度量ってもんがないのかね。あんたさあ、アタイを捕らえた功績で出世できたんだろ? ジェミコルの前に下手打ちたくないなら、黙ることを覚えなっ」


 俺からすれば右側。

 たじろぐようにして小太りの男は壁際へと消えていった。


「さあーて、そこのハゲは何かほざいていたが、どうするんだい坊や達。好きなだけ考え相談してもいいが、あのお嬢ちゃん無駄に気が強いんだろうねえ、意識を手放してしまえば楽なのに、必死になって足掻いてる。クククッ、キャハハ、いじらしねえ」


「挑発なんて意味ねーよ」


 低く押し殺して言う俺の頭上には、メラメラ揺らめく巨大な炎の槍が浮かぶ。

 俺が『ドラゴニール』をミロクへ撃ち放つことで、戦闘開始の鐘が打ち鳴らされるっ。



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