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39 余興


「さあ、約束通りこっちは連れて来やった。しかも代表補佐である私自ら出向いてな。つまらぬ事をしでかすようなら」


「あーはいはい。分かってるよ。単にアタイが他のヤツにあれこれ話さないか心配してのことだろうにさ、恩着せがましいハゲだね。アタイはこの坊や達と魔王をぶち殺す。そしたらあんたがアタイに職を返す。あんたとはそういう取り決めだ。そうだろ?」


 冷ややかな目でデカルトさんをいなし、ミロクは徐おもむろにこっちへと歩いてくる。

 俺達が作る強張った空間の中に、臆することなく入り込めばその素足を止めた。

 自然と半円を描くようにして俺達はミロクを囲む。


「そうだね……、そこの髭面の戦士のあんた、レベルはいくつだい?」


 ミロクからすらりと寄られ、自分の顎先を指先で撫でられる体格の良い男。

 そこにある指を振り払うかと思えば、


「……俺は110、レベル110だ」


 飲まれてやがる。

 そして男の飲まれた感情は周りに伝染する。

 ミロクはへえ、と感心したような笑みを浮かべた後、次の男に次の女にと同じことを繰り返す。

 何人目かの問いは騎士装束の少女へ。

 ミロクに気圧されないようになのか、カレンは一歩前へ出る。


「そう、綺麗な目のお嬢さんは教えてくれないんだね」


「いえ、そういうわけでは。ただ貴方にレベルを教えることにどのような意味があるのかと……」


「そうねえ、意味なんてないわよ。気分。じゃあアタイその気分で、貴方に決めようかしら」


 ミロクの腕がゆっくりとカレンに向かう。

 よく見えていた。カレンもそのはず。

 しかし――目の前ではカレンが抱かれ、その唇にはミロクの唇が重なる光景があった。


「うくう、何をっ。貴方はいきなり何を、ぐ……」


 相手を突き飛ばしたと思ったカレンが、いきなりドサリと床へ崩れ落ちた!?


「カレンっ」


「はいはい、慌てない慌てない。後でちゃんと相手してやるから、アタイの話を聞きな。特にそこの魔道士、アタイの話の邪魔をするなら、この嬢ちゃんの綺麗な目ん玉エグるからそのつもりでいな」


 カレンを胸元まで引き上げたミロクからの脅しに、踏み込んだ足の行き先を奪われる。

 蒼白のカレン。

 首を締め上げられているわけでもないが、苦しそうなその口元からは唾液が泡のようにして滴り、痺れでもしているのか、両腕はだらりと下がる。


「ミロクっ、なんのつもりだっ」


 この怒鳴りは俺達の囲いの外からだった。

 俺は構うことなく、大急ぎで蓑笠を脱ぎ捨て背中に背負う道具箱を下ろし引っ繰り返す。

 確かめたカレンの状態は毒だっ。だから――、


「あったはずだ、毒消しの薬があったはずっ」


 毒はただライフゲージを減らしていくだけじゃない。そこに何かしらの症状や苦痛を伴う。

 あの苦しみ方は尋常じゃない。早く、早く薬を。


「なんのつもりだと聞いているっ。冒険者への危害は許さないと言った筈だっ。早く彼女を離さないかっ」


「そう目くじらを立てなさんな、クククッ、髪に悪いよ。ちょっとした余興ゲームさ。アタイが仲間になってやろうってんだ。アタイがこの坊や達のことを知ろうとして何が悪い」


「言っていることが分からんっ。いいかっ、お前は」


「ほんとうるせーハゲだね、少しは黙ってそこで大人しくハゲてろっ――つーの」


 毒消しの薬を握りしめ顔を上げた時だった。

 カレンが宙を舞っていた。

 人形が落ちたかのようになんの抵抗もなく堅い床へどさり。


「今あの騎士のお嬢ちゃんが転がっているところは特別でね。ライフゲージが常に全回復するような仕掛けがしてある」


 その言葉に、カレンが鉄の檻があった場所に放られていたこと。

 あの幾何学模様にライフの回復効果があること。

 それはミロクが自分でライフを削り、教会送りにならない対策のものであったこと。

 そして今、毒でライフゲージが幾ら削られてもカレンが教会送りにならない――つまり毒で苦しみ続けるように仕向けられたこと。

 これらをすべて把握する。


「鬼畜が」


 強く強く奥歯を噛みしめる俺は、後ろの冒険者から肩を掴まれていた。


「落ち着け。下手にミロクの機嫌を損ねたら更に彼女がいたぶられるぞ。それにこの位置。ここから彼女へ薬を使うにはミロクの間合いを擦り抜ける必要がある。ミロクが指を咥えて呆けるなどありえん。これから起こる状況をしっかりと見極め行動する。それが君が取るべき最善だ」


 煙管男の助言に俺は、前のめりになる体を渋々退らせることで返事とした。

 派手な衣装が俺の視界へ入る。


「拙者がハイ・アナライズした結果、ミロク殿の特性スキル『毒の花道』には毒性の無効化の効果があった。それを踏まえれば先程の接吻時、毒薬を口移しで飲ませていた可能性が高い」


 張る声は目の前のミロクではなく、もっと離れたデカルトさんへ向いた。

 煙管の人はこう言いたいのだろう。

 ここは毒薬を手にすることが可能な環境なのか、と。

 実際に”隠して”持っていたのなら、デカルトさんへ聞いたところで答えようがない。


 ただ、この発言の真の狙いはギルドの管理体制へのクレームではなく、遠回しに俺達へ、ミロクが毒以外の薬や武器を隠し持っている可能性があるから警戒しろ、と伝えるものだった――。



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