破門の羊、あるいは絶対計算の凍土
ロンドンへの永久追放を言い渡されたあの日から、私の時間は完全に凍りついている。
霧の立ち込めるテムズ川を見下ろすうらぶれたアパートの片隅で、私は父が私に宛てた、最後にして唯一の、法律文書のように冷徹な書簡を睨みつけていた。
世間は私を「偉大なる建国の父に背いた、哀れで愚かな裏切り者の息子」と呼ぶ。父ベンジャミン・フランクリンが自らの手で書き上げ、新国家のあらゆる印刷所に強制流通させた輝かしい自伝。その中において、私はかつて父の右腕として商会を支えた、誠実で優秀な相棒「ウィリアム」として都合よく美化され、その後の対立すらも、父の圧倒的な聖人性と寛大さを引き立てるための「悲劇的な舞台装置」として見事にトリミングされている。
だが、この手元にある極秘手記に刻まれた真実は違う。
私は、あの老人が若き日に身元不明の女性に産ませ、生涯を通じて法的な認知を拒み続けた「不都合な血統」そのものだ。
私がイギリス国王派につき、命を懸けてアメリカ独立の波頭に立ちはだかったのは、世間が言うような権力への妄執からではない。父という、感情の代わりに「コストとリターン」の計算式のみで世界のすべてをハッキングしようとする究極の合理的怪物の、そのあまりの恐ろしさに気づいてしまったからだ。人間らしい絆や血の温もりを、ただの「予測されたリスクの範囲内」として処理するあのシステムの暴走を、私は実の息子として、どうしても止めなければならなかった。
しかし、私の必死の抵抗さえも、あの老人の冷徹な計算シートの上では、最初から織り込み済みの数字に過ぎなかったのだ。
戦争が終わり、新国家が成立した。イギリス国王派の総督として捕らえられていた私は、泥まみれの監獄の中で、実の父親が面会に訪れるのをじっと待っていた。実の親子なのだ。どれほど政治的に敵対したとはいえ、すべてが終わった今、一言の謝罪と、人間としての和解の言葉が交わされるはずだと、私はまだどこかで信じていた。
「よく聞きなさい、ウィリアム」
牢獄の鉄格子の向こう側から響いてきたのは、長年の社交界で培われた、低く、濁っていながらも、恐ろしく知的な老人の声だった。
そこに、かつて新聞や暦本で民衆を熱狂させた「優しく温かい聖人」の気配は微塵もなかった。贅沢な食事の摂りすぎと痛風によって肥大化した肉体を、最高級の仕立ての良い衣服で包み込んだ70代の老人が、すべてを見透かすような冷酷な瞳で私を見下ろしていた。
「私はあなたを許しはしない。あなたがイギリス国王への忠誠を選んだあの瞬間、私の計算式において、あなたへの投資価値は完全にゼロになったのだ」
「投資価値……? 父上、あなたは実の息子である私を、ただの数字として見ているのですか!」
私は鉄格子を掴み、叫んだ。だが、老人の表情は微動だにしない。肉のついた分厚い唇の端に、いつもの、しかし凍りつくほど冷たい「余裕の笑み」を浮かべたまま、彼は冷然と言い放った。
「当然だろう。建国という巨大なプロジェクトを成功させるためには、あらゆる不確定要素を排除せねばならない。あなたが国王派に回ったおかげで、私は世間に対し『身内であっても大義のために厳しく対処する、無私の指導者』という完璧なプロパガンダを構築することができた。あなたの反抗すらも、私の名声を不可侵の領域へ押し上げるための最高のスパイスだったのだよ」
頭を殴られたような衝撃だった。
私が人間としての誇りを賭け、血の涙を流しながら選択した反抗すら、この老人にとっては、自身の社会的地位を高めるための「最高効率の計算式」の中に最初から組み込まれていたプロセスに過ぎなかった。
「もうあなたに割く時間的コストは残されていない。私はあなたに、これ以上の財産も、名誉も、私の名前を名乗る権利すらも相続させない。あなたは生涯、私の作った輝かしい新国家の影として、海の向こうの僻地でひっそりと朽ち果てるのが、最も損失の少ない処理方法だ」
彼は一瞬の躊躇もなく、実の息子の存在を人生の決算書から「不良債権」として切り捨てた。遺産はほぼ全て、私の異母妹へと配分され、私に残されたのは、帰ることを許されない異国への片道切符と、生涯にわたる絶縁の事実だけだった。
私がどれほど涙を流して許しを請うても、彼の知力100の脳内シートが「リターンなし」と弾き出した以上、その決定が覆ることは絶対にないのだ。
「……用件は以上だ。私はこれから、新紙幣の流通に関する重要な会議がある。これ以上、非効率な感傷に付き合うわけにはいかない」
背を向け、去っていく老人の後ろ姿を、私はただ絶望の目で見送るしかなかった。
その重厚な足取り、ペンを握る手の力強さ、すべてが完璧にコントロールされた現役としての圧倒的なエネルギー。それはあの「完璧なヒーロー」の姿そのものだった。しかし、その仮面の下にある素顔は、妻デボラを数十年間も孤独の中に置き去りにして見取りもせず、実の息子をシステム維持のために平然と永久追放する、世界で最も冷酷な怪物だった。
そして今、ロンドンの片隅で、私は新しく流通し始めたというアメリカの100ドル紙幣を、震える指先でなぞっている。
そこには、私が牢獄の暗闇で見たあの肥満した老人の醜悪な生々しさは、ひとかけらも存在しない。精緻な最先端の印刷技術によって描かれているのは、常に知的で堂々としたオーラを放ち、民衆の幸福のために生涯を捧げた、永遠の若さと美しさを保ち続ける「建国の聖人」ベンジャミン・フランクリンの肖像だ。
大統領という暗殺リスクの高い危険な椅子を他人に押し付け、自らは最高額紙幣の顔として経済の心臓部をハッキングする。責任を一切負うことなく、国家が存続する限り、すべての人間の欲望の頂点に君臨し続ける絶対安全な玉座。
民衆は、この紙切れを手にするたびに、そこに刻まれた彼の笑顔を愛し、信頼し、その手のひらの上で自発的に踊り続ける。彼がどれほど血も涙もない計算の怪物であるかなど、誰一人として知る由もない。
「父上……あなたは本当に、世界を完璧にハッキングしてしまったのですね……」
民衆は、100ドル札に描かれた彼の笑顔を「聖人の慈悲」として永遠に崇拝し続けるだろう。だが、その美談の劇場の最暗部には、海を渡れず、夫に忘れ去られ、ただ孤独の中で息を引き取っていく私という生贄の血が、べっとりとこびりついている。
……だが、私はもう一つだけ知っている。あの老人がどれほど完璧に歴史を編集し尽くしたとしても、たった一つだけ、彼の筆が及ばない場所がある。それは、彼自身の名前で公式に記録され、議会の書記官の手によって永久に保存される「議事録」だ。あの計算高い男が、己の手で自分の墓碑を書くつもりで提出した最後の一手が、これからどんな扱いを受けるか――私はロンドンの片隅で、それだけを楽しみに生き続けることにした。
冷たい床の上に、私の最後の手紙が力なく落ちた。大西洋の波の音はどこまでも遠く、私が息を引き取るその瞬間まで、私の部屋の扉が開くことは二度となかった。




