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不条理なる霧の都、単身乗り込む議会の門

大西洋の長く過酷な航海を終え、私の乗った快速船はついにイギリス本国の心臓部、ロンドンの港へと入港した。世界最速の最適解で臨検船の包囲網を完全ハッキングしたあの鮮やかな舵取りの余韻を残したまま、私は新天地アメリカの命運という、途方もなく巨大なデータをその両肩に背負って英国の土を踏んだのである。


港を包み込むのは、石炭の煙と冷たい潮気が混ざり合った、本国特有の重苦しい濃霧であった。だが、私の行く手を阻むかのように立ち込めるその暗雲すらも、私の内から溢れ出る圧倒的な活動力を前にしては、ただの舞台装置に過ぎない。私は仕立ての良い最高級の衣服をまとい、知的で堂々としたオーラを周囲に放射しながら、ゆっくりと馬車へ乗り込んだ。ペンを握る手の力強さはもちろん、衰えを知らない弁舌の切れ味は、敵の本拠地へ近づくにつれて凄みを増していく。


馬車の窓外に広がるロンドンの街並みは、一見すると世界の中心たる繁栄を誇っているように見えた。しかし、私のカンストした知力と現代的ビジネス知識をもってその構造をスキャンすれば、至る所に綻び(バグ)が生じているのは明白だった。大陸側で私とウィリアムが完璧に構築・自動化させた「非輸入同意」の経済包囲網は、確実にこの国の経済を内部から破壊し尽くしていた。本国の製品を買わないというクリーンなボイコット運動のせいで、港の倉庫には行き場を失った大量の毛織物や工業製品が山積みにされ、商業の中心地からは活気が急速に失われている。


「見事なものだ。旧態依然とした権力構造にしがみつく老害議員たちは、法律一つで植民地を屈服させられると盲信していたようだが……その結果が、この自国市場の麻痺という大バグなのだから」


私は常に余裕のある笑みを浮かべ、手元にある本国議会の動向を記した極秘書類に目を通した。


彼らが私をこの地に召喚したのは、困窮した本国の商人たちの突き上げに耐えかね、事態を打開するための「尋問」という名の罠を仕掛けるためであった。植民地の代表者である私を言葉の刃で吊るし上げ、不買運動を撤回させるための言論の公開処罰。それが、彼らの用意した浅はかなシナリオだった。だが、彼らは決定的な判断ミスを犯している。私をこの場に呼んだということは、彼らが最も恐れる「不条理の完全デバッグ」を、自らの最高決定機関の壇上で行う権利を私に与えてしまったということなのだから。


馬車が威圧的な石造りのイギリス議事堂の門前に到着すると、周囲には私の姿を見ようと、本国の多くの知識人や、経済的打撃に喘ぐ商人たちが群衆となって押し寄せていた。

彼らの目には、大陸を豊かに導き、天災の落雷すらも科学でハッキングして避雷針で街を救った「半神の天才」に対する、畏怖と好奇の念が混ざり合っていた。

第1話で十歳で学校を中退し、インクまみれの印刷工から這い上がってきたという本物の事実。そこから地続きの圧倒的なエネルギーを放つ私の立ち姿は、具体的な年齢や体型を一切描写せずとも、集まった群衆をその場に平伏させるほどの絶対的な説得力を持っていた。


私は常に余裕のある笑みを浮かべたまま、エスコートの衛兵たちを従えて、重厚な議事堂の廊下を進んでいった。


その時、懐から取り出したフランクリン印刷所特製の頑強な懐中時計の盤面が目に入った。文字盤を見つめると、フィラデルフィアで私の帰る場所を一途に守り続けている妻、デボラの可憐な姿勢が脳裏に浮かぶ。そして、私の理想に共鳴し、現地で最高営業および右腕としてボイコット運動の前線を死守してくれている最高の相棒、ウィリアムの熱い忠誠心も。

彼らが命懸けで維持してくれている大陸のホワイトな環境、労働者たちの笑顔、そして誰もが傷つかない理想郷のグランドフィナーレを完成させるために、私はここで一歩も退くわけにはいかない。家族関係の些細な摩擦や生活の裏側の泥沼といった不都合な現実は、私の世界には一切存在しないのだ。ここにあるのは、民衆の幸福のために戦う完璧な聖人としての、私の誇り高き意志だけであった。


「待っていなさい、デボラ、ウィリアム。この国の古いシステムが如何に不条理であるか、私がカンストした論理の暴力をもって、綺麗に更地にして差し上げましょう」


大きな二重扉が左右に開かれ、尋問会場となる広大な議場へと足を踏み入れた。


そこは、すり鉢状に配置された何百もの座席から、傲慢なイギリスの老害議員たちが一斉に私を見下ろす、言論の処刑場であった。議場を満たすのは、植民地の小僧が生意気にも大国に盾突いたという、強い敵意と侮蔑の視線。彼らは皆、豪華な法服や貴族の衣装に身を包み、権力の座に胡坐をかいた旧時代の亡霊たちだった。


「静粛に! これより、ペンシルベニア州代理人、ベンジャミン・フランクリンに対する印紙法および植民地情勢に関する尋問を開始する!」


議長の重々しい声が響き渡り、広い議場の中央にぽつりと置かれた証言台に、私は立つよう促された。何百人もの老害議員たちの包囲網の中に、たった一人で立たされるという、常人であれば精神が崩壊しかねない圧倒的なプレッシャー。


しかし、私は仕立ての良い衣服の襟を優雅に正し、ただ一人、その嵐のような敵意の中心で不敵に微笑んでいた。私の全身からは、彼らの持つすべての権威を無力化するほどの、知的で堂々としたオーラが立ち上っていた。ペン一本で街のメディアを支配し、格言一つでアメリカ全土の世論を動かしてきた私にとって、この程度の雛壇など、自らの知力を証明するための最高のエンターテインメントに過ぎない。


議員たちの席から、まず一人、丸々と太った傲慢な老議員が立ち上がり、私に向けて蔑むような声を放った。


「フランクリン市井人しせいじんよ! 貴様ら植民地の平民どもは、我が英国議会が定めた『印紙法』という神聖なる法律に対し、不当なボイコットという利己的な嫌がらせを行っているな! 偉大なる本国が、貴様らを戦争の脅威から守ってやった恩を忘れ、正当な税の支払いを拒むとは何事か! 貴様らのその我が儘のせいで、本国の善良な商人たちがどれほどの迷惑を被っているか、理解しているのか!」


その辛辣な言葉に、議場からは「そうだ!」「無礼な平民め!」という、地鳴り collective な罵声と賛同の嵐が巻き起こった。彼らは圧倒的な数の暴力と国家の威光を使って、私を精神的に圧殺しようと企んでいた。


だが、私はその罵詈雑言の嵐を、そよ風を浴びるかのように涼しい顔で受け流していた。私の脳内にある現代知識ベースの内政チート・データベースは、すでにこの老議員の発言に含まれるすべての矛盾バグを、世界最速のテンポでスキャンし終えていた。


周囲の怒号がひとしきり収まるのを待ち、私はゆっくりと、しかし議場全体の空気を一瞬で支配するような、衰えを知らない弁舌の切れ味をもって口を開いた。常に余裕のある笑みを浮かべた私の声は、遮るもののない圧倒的なエネルギーを伴って、何百人もの議員たちの鼓膜へと突き刺さっていった。


「そのご質問は、経済という精緻なシステムの根本を完全に見誤っておられますね。恩義という感情論で語る前に、まずは数字のロジックを直視されるべきです」


私の堂々とした第一声に、議場は一瞬にして静まり返った。その場にいるすべての老害議員たちが、私の放つ知的な覇気に気圧されたかのように、言葉を失って私を凝視した。


「我が方、アメリカの民衆が本国の製品を『買わない』と決めたのは、嫌がらせなどという低次元な理由ではありません。貴方方が強行した印紙法という不条理な重税のせいで、彼らの購買力という経済ステータスが物理的に奪われたからに他ならないのです。人が物を買うためには、原資コストが必要です。貴方方が印刷物や契約書のすべてから容赦なく富を毟り取れば、平民たちの手元には本国の工業製品を購入するための余剰資金が『一セント』も残らなくなる。これは感情の反発ではなく、単純な算術の帰結バグなのです」


私は一歩前に出ると、証言台の木をペンを握る手の力強さで軽く叩き、さらに弁舌のギアを上げた。


「本国の商人たちが困窮しているとおっしゃいましたね? その原因を作ったのは、我々ではなく、他ならぬこの議場にいる貴方方です。貴方方が植民地から強欲に税を搾り取ろうとした結果、本国が誇る最大の市場であったアメリカの消費システムを、自らの手で完全に破壊クラッシュしてしまった。つまり、自国の経済の喉元を締め上げているのは、今私を弾劾しようとしている貴方方老害議員の、短視眼的な政策そのものなのです」


「な……何だと……っ!?」


先ほどまで傲慢に反り返っていた老議員は、私のクリーンな正論の暴力を真っ向から浴び、顔を真っ赤にして絶句した。隣の席の議員にしがみつくようにして、己の器の小ささを露呈しながら、ぶるぶると震えている。


カンストした知力を持つ私の前では、国家の威光を傘に着たハッタリなど、一瞬で論破されるための中身のないデータに過ぎなかった。私の周囲には、民衆の幸福と人類の発展のためにのみ動く完璧な聖者としての、絶対的な正義の光が燦然と輝いていた。


だが、超大国イギリスの議会は、これだけで引き下がるほど甘くはなかった。議場の一角から、今度は法律のスペシャリストとして知られる冷徹な表情の重鎮議員が、鋭い視線を私に投げかけながら立ち上がった。彼らの用意した本当の「尋問の罠」が、ここから本格的に起動しようとしていた。


「面白い屁理屈だ、フランクリン。だが、国家の法秩序というものを、一介の印刷職人の経済論理で推し量れると思うなよ。我々には、次なる絶対的なロジックが用意されているのだから」


重鎮議員は不敵な笑みを浮かべ、机の上の分厚い法典を叩いた。その視線の奥には、私を言論の迷宮へと引きずり込み、二度と這い上がれないようにしてやろうという、冷酷な悪意がギラギラと脈打っていた。


不条理なる霧の都の、その最深部。新天地の自由の灯火を守るため、私は今、何百人もの老害議員たちが仕掛けてくる、知略の包囲網の真っただ中へと完全に突入した。私の余裕のある笑みは、さらに深く、そして鋭くその輝きを増していく。この議場にいるすべての権力者たちを言葉も出ないほど完全論破し、クリーンなざまぁを達成する伝説の瞬間へ向けて、私の知力はさらなる最適解の火花を散らし始めるのだった。

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