第2話:【前日譚】人妻、胃が痛い
この小説は生成AIを使用して作成しています。
卒業パーティーから遡ること、約一年前。
王都の地下深く、公爵邸と王城を繋ぐ秘密の謁見室には、重苦しい空気が漂っていた。
「……またしても、東部辺境伯(側妃の兄)の領地で不当な税の搾取があったか。それに加えて、我が息子ユリウスの浪費と、国庫からの不審な資金流出……」
頭を抱え、深くため息をつく初老の男性。彼こそが、この国の絶対権力者である国王陛下その人である。
その向かいで、私の父である公爵が、冷徹な目で分厚い報告書を机に置いた。
「陛下。もはや側妃様と外戚の専横は看過できるレベルを超えております。彼らはユリウス殿下を次期国王に据え、国を丸ごと私物化する気でしょう」
「わかっておる、公爵。だが、奴らは狡猾だ。尻尾を掴ませぬ。外戚の力も強く、明確な『国家反逆』レベルの証拠がなければ、派閥ごと粛清することはできん……」
苦渋の表情を浮かべる国王陛下。
そこに、私は静かに紅茶を差し出しながら口を開いた。
「ならば、殿下ご自身に『取り返しのつかない罪』を、公の場で犯していただきましょう。側妃派閥の連帯責任を問えるほどの、特大の罪を」
「セレスティア……お前、ユリウスの婚約者でありながら、恐ろしいことを言うな。何か策があるのか?」
「ええ。殿下が『裏帳簿』と『王家の宝物』に手を出さざるを得ないよう、美しく、儚く、そして頭の悪そうな令嬢をあてがうのです。殿下の承認欲求を満たし、唆して証拠を握らせる……いわば、極上のハニートラップですわ。お父様、適任者は?」
私の言葉に、父はニヤリと笑い、背後の暗がりに向かって指を鳴らした。
「入れ、『リリアナ』」
「はーい、お呼びでしょうかぁ、公爵閣下ぁ♡」
現れたのは、ピンク色のふわふわとした髪に、潤んだ大きな瞳を持つ、男爵令嬢……の姿をした女だった。甘ったるい声と小動物のような仕草は、まさにユリウス殿下の好みのど真ん中。
しかし、国王陛下が退出された途端、彼女は「ふぅ」と低くドスの効いたため息をつき、姿勢を正した。
「……あー、肩凝る。いつまでこの『ゆるふわ令嬢』の演技、やらせるんですか局長(公爵)」
声のトーンは先ほどよりオクターブ下がり、その眼差しは冷酷で理知的な暗殺者のそれへと変わる。
「我慢しろ、リリアナ。お前は我が特務機関でナンバーワンの潜入工作員だろう」
「あのですね、局長。私、もうすぐ三十路を迎えるんですよ? アラサーの人妻に、16歳の男爵令嬢のフリをして学園に潜入しろと? 毎朝、鏡の前で自分の痛々しい制服姿を見るたびに、胃がキリキリするんです!」
「あら、とっても可愛らしいわよ、リリアナ。うちの騎士団で副団長をしているあなたの旦那様も、『最近の妻は若返って一段と可愛い』と惚れ直していたそうじゃない」
私がクスクスと笑いながら言うと、リリアナは「うっ」と顔を赤らめた。
「そ、それは……夫が喜んでくれるのは嬉しいですけど! でも、あのユリウス殿下にごまを擦るのは本当に苦痛なんです!『君の瞳は星空のようだね』とか言われるたびに、全身に鳥肌が立って、殺意を抑えるのに必死で……!」
「そこをなんとか頼むわ。あなたが殿下の懐に入り込み、側妃派の裏帳簿を回収。私は『嫉妬に狂う悪役令嬢』を演じて、殿下を精神的に追い詰め、公の場での婚約破棄へと誘導する。すべてはあの腐敗した派閥を根絶やしにするためよ」
私の言葉に、リリアナは観念したように肩をすくめた。
「……わかりましたよ。愛する夫が暮らすこの国を守るためです。あのバカ殿下の甘言も、あと1年の辛抱ですね」
* * *
――そして、現在。
卒業パーティーでの痛快な断罪劇を終え、私とリリアナは公爵邸の温室で優雅にお茶会を楽しんでいた。
「いやぁ、最高の気分ですわセレスティア様! あの時の殿下の絶望に染まった顔! 録魔石(映像を記録する魔石)にしっかり保存して、夫と一緒に晩酌のツマミにします!」
「ふふっ、趣味が悪いわよリリアナ。でも、これで外戚の連中は全員、国家反逆罪と横領で投獄。殿下は平民に落とされて北の鉱山送り、側妃も修道院へ幽閉ね」
「それにしても、あの卒業パーティーでの私の泣き演技、完璧でしたでしょう?『ひぐっ、セレスティア様が怖いですぅ〜』って」
「ええ、あまりの白々しさに、私も笑いを堪えるのに必死だったわ。29歳の人妻の渾身のぶりっ子、お見事だったわよ」
「ちょっと、年齢のことは言わないでください!」
私たちは顔を見合わせ、声を上げて笑った。
愚かな王太子は、自分が選んだ「か弱く頭の悪い真実の愛の相手」が、自分よりひと回りも年上の、国で最も恐ろしい特務機関のベテランスパイ(既婚者)だったとは、気づかないだろう。
「さて、明日からはようやく本来の仕事に戻れますわ。夫に美味しい手料理でも作ってあげなくちゃ」
「ええ、たっぷり甘やかしてあげて。本当にお疲れ様、私の最高の相棒」
春の陽光が降り注ぐ中、私たちは勝利の紅茶を、静かに飲み干したのだった。




