第76話 待望の光
あれから、俺は修練を重ねた。
木人形を相手に、来る日も来る日も魔力場の制御に取り組んだ。
シェリーもまた、胸からの魔力譲渡を習得すべく、
母アストリッドとティシアの指導を受けていた。
そして一か月。
夏の暑さと生命の活力が頂点に達する頃。
ついに俺は、一つの節目に到達した。
黒髪のみを覆う魔力場。
その原型に辿り着いたのだった。
手応えを得た俺は、まずは測定装置で出来の程を確認することにした。
結果は成功だった。
だがしかし、これは相当に難しい。
形は何とかなったが、出力を上げるには更なる修練が必要だ。
シェリーの魔力譲渡も様に成って来た。
シェリーを通して俺に沸き上がる魔力は、心の老廃物が洗い流されるかの様な心地良さを感じさせる。
次に取り組んだのは、保護魔法の強化だった。
万が一手元が狂ったとき、保険が無いのでは話にならない。
まずは微弱な濃度場で、保護魔法の効きを観測する。
そして濃度を徐々に上げてゆき、安全性を確かめる。
検証は、もちろん木人形で行った。
さらに一か月。
ついに時は、来た。
十分に安全性を確認した俺達は、観測に踏み出すことにした。
シェリーの黒髪と俺の生み出す魔力濃度場。
これら二つの干渉だ。
ここはティシアの研究室。
空気は張りつめ、誰もが息を潜めていた。
薄手の寝間着を来たシェリー。
その肩に乗る、いつも通りの俺。
一方に向かい合うは俺の母、叡者アストリッド。
もう一方にはかつての想い人であり、今やシェリーと俺の親友と化したアマルティシア。
シェリーと母、そしてティシアは魔力測定装置の前で互いに等間隔に対峙している。
均衡を破ったのは、母だった。
「そろそろ始めようか」
シェリーと俺、そしてティシアが頷いた。
――――――
装置の扉が閉まった。
さすがの俺も、緊張する。
この実験で、俺の仮説の真偽が判明するのだ。
さながら審判の時を待つ、迷える子羊になった気分だ。
だが、これもいつものことだ。
ダメなら他の手を打つまでのこと。
幸いここには三人の賢人が居る。
必ず何とかなる。
そう自己暗示を施した俺は、シェリーの頭ギリギリを狙い、黒髪のみを覆う魔力場形成に取り掛かった。
暫くの後、実験は終了した。
制御は完璧だった。
シェリーの頭に掠りもしないが隙間もない。
注文通りの魔力場を展開できた。
果たしてこれで神界に届いたのか。
測定装置の扉が開き、同時にティシアの声が聞こえた。
「おめでとう、モーゼス」
その声色は柔らかく、肯定と賞賛に満ちた慈しみを滲ませる。
――そうか。
ついに、成功したのか。
「黒髪の吸収する魔力、僅かに増えたの確認できたわよ。
ついに神界に届いたのね」
その言葉を聞き、俺の心は例えようもない達成感に包まれた。
シェリーの目にも、涙が瞬時に湧き上がるのが見える。
俺の心はシェリーの心。
シェリーの涙は俺の涙。
俺達は、一心同体だ。
少しして俺達が装置の外に出ると、母が抱きしめてきた。
シェリの頭と俺の間に母の頭が埋まる。
同時に背後からも抱きしめられた。
ティシアだ。
俺達は一つになり、ようやく差し込んだ光がもたらす歓喜を皆で分かち合った。
――――――
その晩は、盛大なお祭りになった。
調子に乗り過ぎてやらかして、またもや女三人に囲まれ説教されたのはご愛敬だ。
でも、そこまで言わなくたって……。
今日の主役は俺のはずなのに……。
ぐすん。




