第21話 娘からの手紙
切り株の立ち並ぶ庭。
今日も俺は日課の素振りを終え、その一つに腰を下ろした。
そして、体にこもった熱が落ち着くのを待っていた。
シェリー、俺の愛しい一人娘。
娘は元気にしているのだろうか。
カモメは娘を泣かしたりしてやいないだろうか。
もしそうなら、
斬る!!
いやでも、本当に斬ったら娘が悲しむか。
全力グーパンで勘弁してやろう。
家の周りに切り株が並ぶ少し開けた空間。ここが、我が家の庭だ。
庭と森の境界から、人影が近づくのが見える。エリュナだ。
彼女も俺の姿を見止めたのか、こちらに向けて手を振っている。
出迎えに行くか。
「ただいま、アレス」
「おかえり、エリュナ」
俺は、エリュナから背負い袋を外してやり、肩に担ぎ直す。
結構な重さがある。
この重量の荷物を毎回エリュナに運ばせるのには少し罪悪感を覚える。
が、しかし、これには理由がある。
妻の買い物が長すぎて、俺が付き合っていられないのだ。
結婚して、もう17年。
そんなことは、お互いよく分かってる。
「ねえ、あなた。今回は良いもの持って帰ってきたわよ。
なんだと思う?」
『持って帰って』、つまり買ったわけではないということか。
はて。見当がつかないが。そこらできれいな石でも拾ってきたか?
「む。何か失礼な事を考えてるわね」
「顔に出てた?」
「うん。一目でわかるわよ。
それより、手紙よ。シェリーから手紙が届いたの」
「おお。それは良いものだな。
中が気になる。早く帰って読もう」
俺たちは足早に庭を横切り、帰宅する。
そして、二人ソファに腰かけ、手紙を開封した。
――――――
お父さん、お母さん、お元気ですか。私は元気です。アステロンの街に来て、今日でもう二ヶ月くらいになります。その間、ずっとアマルティシアさんのお家にお世話になってました。こっちに来てから、すぐにティシアさんとルカーヴさんの昔の関係を知りました。モーゼスから聞いた時は、何てひどい人なんだろうと思ったけど、ティシアさんが大きい屋敷にずっと一人で住んでるって知って、ティシアさんが悲しみを抱えて生きてきたんだって分かって、ティシアさんとお風呂でいっぱい話を聞かせてもらって、悲しくて、涙が止まらなくなりました。お父さんとお母さんは、二人の関係を知ってて私に黙ってたんですね。いじわる! お父さんなんて嫌い!
「なんで俺だけ……」
「続きがあるわ、読みましょう」
なんてウソよ。ちょっとびっくりした? 本当は、お父さんも大好きです♡ そうね、ティシアさんの次くらい。一番はモーゼス、次にお母さん。そしてティシアさんね。二人の事を私に黙ってた理由、今なら分かります。ティシアさんに会う前に聞いてたら、私はモーゼスを信用できなくなってたかも。だって、昔の恋人に会いに行くなんて、婚約して初めにすることじゃないでしょう? でも、ティシアさんから本当の話を聞かせてもらって、それにモーゼスの話を聞いて、二人の関係が終わってるって、納得できたの。そうそう、モーゼスったら可愛いのよ。ホントはティシアさんに未練があったのに、興味ないふりして変な分析始めたり。お母さんにもぜひ見てほしかったかったなあ。
「俺は……?」
「ちょっと黙ってて」
でも、そんなことはティシアさんにはお見通しで、結局はモーゼスは白状させられたの。それで、私、思ったの。二人とも、やりなおしたい気持ちはないけど、心に傷を負ってて、だから、二人とも元気になってくれたらいいなって。一度、三人で真面目に話し合って、結局、仲直りできたみたい。モーゼスは羽根を抜かれてたけど。
「そうか、二人とも丸く収まったか。それはよかった」
「そうね。ティシアに会わずにここに来てた時点で、
あの子にその気がないのは分かってたけど、
あの二人、あのまま放っておくのは可哀想だったものね」
それから、私の髪についても二人に調べてもらったの。モーゼスが言ってた異次元から魔力がどうのってやつ。何か新しいことが分かったって二人は大騒ぎしてたけど、私には難しくて何を言ってるかわかりませんでした。二人が研究に熱中してる間、私は槍のけいこを頑張ったのよ。ついに、モーゼスの教えてくれた技、出来るようになったの。今は目くらましのインチキじゃなくて、突きと一緒に魔法でたくさんの針を出せるようになったのよ。でも、あの技の名前を叫ぶの、あれだけはイヤ。恥ずかしいんだもん。でも、モーゼスは必ず叫べって言うし、そんなことで嫌われたくないし……私、どうしたらいいのかしら。お母さん、こういう時どう思う?
「私だったら張り倒すわね。それで終わりよ」
「……」
ところで、最近二人の研究が一段落したらしく、私たちは、近々アステロンを発つことになりました。せっかくティシアさんと仲良くなれたのに、ちょっと残念です。お母さんと同い年って聞いてたけど、ティシアさんは年を取るのが遅いから、お姉さんみたいで、普段は賢い女の人って感じだけど、ときどき抜けてる所もあったりして、可愛い人ね。すっかり好きになりました。これから、私たちは南に向かいます。モーゼスが、師匠に会いに行くって。モーゼスの師匠って、どんな人かな? 会う前からワクワクしています。
またどこかで落ち着いたら、手紙を書きます。それまで、お父さん、お母さん、元気でね。
――――――
「師匠、か。これはまた、随分と長旅になりそうだな」
「あなたは会ったことはあるの?」
「いや。ただ、まだあいつがルカだったころ、苦手って言ってたな。
20年前でもそれなりの年だったはずだが、今でも生きてるのか?」
「さあ。でも、モーゼスのことだから、何か考えがあるのよ、きっと。
それにしても、南へ行くってことは……」
「ああ、道中、間違いなくあの街を通ることになるな。
ジーク……。
奴の住む街。これも因果、か」




