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カモメ賢者と黒髪の少女  作者: ジャパンプリン
第二章 過去と向き合う旅(再会編)
19/42

第19話 新たなる決意

 シェリーの「黒髪」に関する新事実発覚から二ヶ月。

(カモメ)とティシアはこの事実に対する()()

そして、その背後に存在する()()について、

考察を繰り返し、議論を重ねてきた。

()()は、シェリーの負担が大きいので最初の一回だけで終わりにした。

なに、俺たちは賢者だ。

手持ちの実験結果だけでも十分な手掛かりになる、

と息巻いていたが、現実はそう甘くはなかった。

()()()から今日まで、俺達は昼夜を忘れ研究に取り組んできた。

すべては『黒髪』の謎を解き明かすため。

だが最近は、流石の俺達も行き詰まりを感じ始めていた。



 当初は俺たちの議論を笑顔で見守っていたシェリーだが、

いつの日からか実験室に一人で籠る時間が増えていった。

どうやら、槍の鍛錬に打ち込んでいるようだった。

突き、捻り、払いといった基本動作に加え、

魔法との同調など発展技術にも磨きをかけて、

遂には大技サウザンドピークスを完成させるに至った。

『槍の女神』誕生の頃は、俺がこっそり粒槍(ミニスピア)の魔法を仕込んでいたが、

今ではシェリー一人で空中の木札全てを打ち抜くことが出来る。

見事だ。


その姿を時おり陰から見守ってきた俺は、シェリーが自立の兆しを見せ始めたのだと喜ばしく思っていたのだが……。


――――――


「バカね。あの子、遠慮してくれてるのよ、私たちに」


俺とティシアは今日も賢者のキャッチボールに勤しんでいた。

その最中、ふと雑談へと話が逸れたときにティシアが漏らした言葉である。


「そうなのか? 最近は大技も完成させて、

 ついに鍛錬の喜びに目覚めたのかと思ってたんだが」


「……。」


!!! 痛った。


またデコピンされた。

相変わらず容赦がねえ。

俺なんか悪いことしたか?


「そういうとこよ、貴方の悪いところ。

 もちろん、自立したって言うのはあると思うわよ。

 でも、それだけじゃないの」


一転してティシアの動作、そして声色が優しさを帯びたものへと変わり、

俺の頭から首筋にかけてゆっくりと撫でてくる。

その姿はどこか慈しみの情を感じさせる。


「貴方、自分では気づかなかったでしょうけど、

 研究に打ち込む姿は輝いて見えたわよ。

 どうせ今まで、バカばっかりやってたんでしょ、

 タマちゃん(るんば)の時みたいに」


む。またか。

俺の『女=エスパー』説が真実味を帯びてきたな。


「だから、あの子が自立して見えたのは、

 半分は貴方のためだったのよ」


そうだったのか……。

おれはてっきり忘れられたのかと密かに恐れていたのだが。


「良い子じゃない。

 私、あなたの相手があの子で良かったって、

 心から言えるわ、今なら。

 だから、もしあの子を泣かすようなことをしたら……

 わかってるわね?」


「ああ。任せてくれ」


――――――


 雑多な物で溢れるティシアの研究室。

その壁際に置かれた角机。

机の上も物と書類で溢れかえっているが、一つの角の周りだけ、空白地帯がある。

その空白地帯に俺は座り、ティシアは目前の椅子に腰かける。

俺たちは二人、向かい合う。

だが言葉はなく、それぞれ思案を巡らせていた。


『黒髪』に潜む謎。

議論は尽くした。

だが結論は出ない。

これ以上は時間の無駄だろう。

ここから先は、()()に頼るのも一案だ。

名残惜しいが、ここはここまでだな。


……よし。


意を決した俺は、早速ティシアに決意を告げる。


「なあ、ティシア」


「なあに?カモメの賢者さん」


いつになく上機嫌のティシア。

……。この雰囲気では……言えない。

どうする? 明日にするか?


などとまごついていると、俺の醸し出す雰囲気から察するものがあったのだろう。

緩み切っていたティシアの顔の端々が、徐々にその張りを増すのが見える。

すまない、ティシア。



「ここらが、潮時だと思わないか?」


「……そうね。」


「そろそろ俺は、シェリーの元に戻らないといけない。

 近いうちに、ここを、発つ」


返事は、ない。

気が付けばティシアは(こうべ)をもたげていた。

青銀色の髪は垂れ下がり、その表情は伺えない。

その様は、視線を遮るカーテンのよう。

何か、元気づける言葉は……


「こんなに長い共同作業は、初めてだったな。

 確かに俺たちは結ばれなかったが、いい思い出で『上書き』できそうだ。

 ありがとう、アマルティシア」


「……バカね……そんな、女を、泣かせるような、こと……」


「ティシア……」


(カモメ)は、そろそろとティシアに近寄り、膝上に飛び降りる。

そして、体を預けて密着し、胸元に頭を寄せる。

ティシアが抱きしめてきた。

互いに無言。静かに時が過ぎてゆく。

10分ほどだろうか。

暫くの間、俺たちは無言で互いの()()を、肌で感じ合っていた。

二人だけの特別な時間、これで本当に最後だろう。

彼女は今、何を思うのか。



 終止符を打ったのは、ティシアだった。


「ふぅ。泣いたらすっきりしたわ。

 昔の女を口説くような真似、するんじゃないわよまったく。

 カモメのくせに、生意気ね」


ティシアが俺をからかうように、両手であちこちを刺激してくる。


「わ! ちょ! やめろ! どこ触ってんだ!」


「ふふ♪ 貴方、カワイイわね」


と、じゃれ合う拍子に羽根がふわりと舞う。

そんな調子でキャッキャウフフを楽しんでいると、

静かにドアが開き、シェリーが入ってきた。


「あ――――――っ!!

 ティシアさん、何やってるんですか!

 それに、モーゼスも!」


シェリーは即座に駆け寄り(カモメ)を即座に奪い取ると、その胸に抱え込む。

そして、


「もう。私は真面目に鍛錬してたのに、

 ()()が何遊んでるんですか。まったく」


「それは、その……」


珍しい。ティシア(賢者)が少女に説教されている。

いいぞ! もっとやれ!


「モーゼス。あなたもよ」


シェリーが俺を抱く、その腕に徐々に力が込められる。

痛たた。勘弁して?


「いつもいつも、ティシアさんにされるがままで、

 恥ずかしいと思わないの!?

 たまにはガツンとやり返してみなさいよ、もう!

 そもそも……」


ヤバい……シェリーに何か変なスイッチ入った。

鬱憤でも溜めてたのかな。

次から次へと愚痴が出てくるぞ。


 ~ その様は、止まるどころか勢いを増す、滝の様 ~


うむ。今日も俺は詩人――


「ちょっと! 聞いてるの!? 大体あなたは……」



あの後、小一時間くらいシェリー(婚約者)に説教されました。

俺、賢者なのに……ぐすん。


――――――


 ついに、この日がやってきた。

ここを発つ日が。


俺達三人は、魔法都市アステロンの入場門近くにある待合所で、

馬車を待っていた。

俺はいつもの定位置(シェリーの左肩)で、カモメ立ちだ。

俺とティシアは、ここでも「黒髪」談義に花を咲かせていたが、

そろそろ出発時刻だ。

別れの時が近づいてきた。



「ティシア、そろそろ時間だ。

 この二ヶ月、世話になったな」


ティシアの眉がピクリと動き、その表情を微かに緩めた。


「ええ。でも、こちらこそ。

 また貴方に会えて、ちゃんと謝れてよかった。

 それに、シェリーちゃんも。

 妹が出来たみたいで、この二ヶ月は本当に楽しかったわ」


シェリーは真剣な表情で、ティシアと見つめ合っている。

この二ヶ月、文字通り姉妹のように、二人は仲睦まじく暮らしていた。

きっと、楽しかったのだろう。


「ティシアさん……私も、その、お姉さんが出来た、みたい、で……」


シェリーが言葉に詰まる。

刻一刻と迫る別れの時に、感極まっているのだろう。

ここを締めるのは、俺の役目だ。


「昨日も話した通り、俺たちはこれから南へ向かう。

 そして一度、師匠に会ってくるよ。

 ここからだと行くだけでも4カ月はかかる、長旅だ。

 旅の間に何か思いつくかもしれんし、

 それが無理でも()()たる師匠なら、

 きっと助けになってくれるだろう」


「そうね。私は私で、理論の方から攻めてみるわ。

 貴方の仮説、『異次元への扉』が正しいとした場合に、

 背後に存在しうる論理、ね。

 貴方達が、最後にアレスとエリュナの元に帰るなら、ここは通り道になるわ。

 だから、かならずもう一度、立ち寄って。約束よ」


「ああ」


改めて交わされた再会の約束に、ティシアは満足げな笑みを見せる。

ん? 肩から下げたカバンから何か小袋を取り出した。

餞別の品か?


「シェリーちゃん。

 これ、あなた達のために作ったのよ。

 中開けてみて?」


ティシアはシェリーに小袋を渡し、シェリーを促す。

シェリーの肩上から小袋を覗き込むと、中には5、6本の小瓶が入っていた。


「これは……飲み薬(ポーション)?」


「そう、私特性の。

 効果は……精力剤、の様なものかしら」


「っ……※!?*♡///」


シェリーの顔が、徐々に赤みを帯びてゆく。

相変わらず、可愛いな。


「ああ、ごめんごめん。言い方が悪かったわね。

 正確には、魔力材、とでも言ったらいいのかしら。

 大量の魔力が込めてあるの。

 普通の人が飲むには危険だけど、ルカなら制御できるはず。

 どうしても人の姿に戻りたくなった時に、使ってね。

 30分くらいはもつはずよ」


これはありがたい。

いつの間にこんなものを。

ティシアには、感謝してもしきれないな。



 おもむろに、ティシアが両手を広げてシェリーに近寄り、身体を重ね合わせる。

そして、シェリーの頭と左肩に立つ俺、その間に青銀色の髪を滑りこませ、

両腕でまとめて俺たちを、抱きしめてきた。


「ここでお別れね。

 二人とも、仲良くするのよ。

 そして……さよなら、ルカ。

 たくさんの思い出、ありがとう。

 あなたはもう、ルカじゃない。

 カモメ賢者のモーゼスね。

 モーゼス……行ってらっしゃい。」


「ティシア、さん……」


――――――


こうして(カモメ)とシェリーはティシアに祝福され、再び二人、旅立った。

いざ行かん。師匠の元へ。


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