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砂金収集隊

 貝殻集めが趣味のジャックによってもたらされて砂金の情報を手がかりに砂金収集がスラムをあげて行われようとしていた。


 「ロラン様。砂金収集のための人が集まりました」

 「ありがとう。ガーフェ。どれくらい集まったかな?」


 ガーフェは有能な事務官という感じだ。人や資材を集めさせたら、次の日にはある程度目処をたててくれる。砂金の話だって、昨日の話だ。


 ちなみに僕とガーフェの話はすぐに師匠とシスターに相談済みだ。二人共、好きにやっていいというので好きにやらせてもらうことにした。ニッジについては、外で活動する分には問題ないというのでどっかのタイミングで連れ出そうと思う。


 「急ぎということなので、百人ばかりになります。ほとんどが私の部下となるので、好きに使ってください」

 「とりあえず、砂金の有無だけを確認しておきたい。砂金があるならば、収集ということで構わないかな?」


 ガーフェは満足そうに頷いた。


 「そうですな。今回は調査隊として送りましょう。ロラン様も行くということですが、護衛はどれ程つけましょうか?」


 護衛? どういうことだ?


 「一応、スラムのトップということになるのですから護衛くらいは必要かと。もっとも、襲ってくる者はいないとは思いますが用心はしておいたほうがいいでしょう」


 その辺りは僕に判断できることでは無さそうだな。要らないって思うけど……ガーフェに任せておいたほうが良さそうだ。でも折角なら、護衛に二人をいれてもらうことにした。子分にしたニッジとララだ。ニッジは何気に知識を持っているし、ララは思ったより身体能力が高い。二人ならば、立派に護衛が務まるだろう。


 それに話し相手が欲しいんだ。周りは大人ばっかりだし、スキンヘッドがやたらと多い。それだけでも気後れしちゃうからね。


 「分かりました。そのように手配しましょう。それでは出発しましょうか。ニッジとララの二人は後で合流ということにしましょう」

 

 えっ!? 今行くの? と驚いてしまったが、砂金があるかないかはスラムにとっては重要なことだ。ガーフェもウキウキした表情をしているし、水を指すのも気が引けてしまう。


 次々とガーフェが指示を出し、百人にもなる隊がスラムを出発した。


 「ジャック、案内を頼むぞ」

 「へへ。もちろんで。ここから一日ほど歩く場所になります。途中、深い森を抜けることになりますが、道は熟知しているのでご心配なく。それでは私は先導なので、この辺で」


 ジャックも仕事を与えられて、心なしか言葉に張りがある気がする。それとも貝殻が評価されて喜んでいるだけか? 何にしてもやる気があって、頼もしい限りだな。


 百人もの人数は、隊列をなすように歩き始めた。僕は隊の中腹あたりを歩いている。護衛としてスキンヘッド五人に囲まれている。時々、舐め回すような視線を感じるが何をしてくるわけでもないので、放っておくことにした。


 「ガーフェ。砂金というものはすぐに換金できるものなのか?」

 「そうですな。私も砂金というものを取り扱ったことがないのでなんとも言えませんが、問題ないと思います。ただ、砂金だけを拾い集めることが困難になりそうですな」


 考えてみればそうだな。貝殻に入っていた砂に砂金が含まれていた。それを一粒一粒回収するのは骨の折れる作業だ。その方法も到着するまでの間に考えておかないとな。


 隊は途中で何度も休憩を挟んでいた。理由はニッジとララの合流を待つためだ。ずっと待つというわけにはいかないので、三度目の休憩でようやく二人と会うことが出来た。


 「ニッジとララ。急に驚いただろ?」

 「驚いたなんてもんじゃないぞ。ガーフェ様の使いがやって来たから、何をされるかと思ったぞ。でも話を聞くと砂金収集に行くっていうから飛んできたぞ」


 砂金収集がそんなに魅力的だったのか? さっきガーフェに聞かされたから、砂金収集がすごく大変な作業だって知って、悩んでいるのに。そうか、ニッジは知らないんだな。知れば、魅力も失せるというのに。


 「ロランお兄ちゃん。呼んでくれてありがとうね。私、頑張るから」

 そう言って、勢い良く拳を突き出したら、ニッジの腹に見事に刺さり、悶絶していた。やはりララの力は相当のもののようだな。こんな小さな体のどこに力があるのだろうかと、不思議でならない。


 再び出発をして歩いていると、ニッジがふと興味深いことを言ってきた。


 「ロランは砂金の収集の方法を知っているか?」

 「どういうこと?」


 ニッジはニヤッと笑い、説明を始めた。

 「砂金は大抵は上流に金鉱脈があったりするんだ。その金が水で流されて、川の下流に土や石と一緒に流れてくるものなんだ。そのせいで、砂金は土や石と混ざっていて、それから砂金だけを集めるのは至難の業だ」


 なるほど……ガーフェの言っていた通りだな。


 「そこで収集方法というのが重要になってくるんだ。これを知っていないと砂金はただの石ころと変わりはない」


 確かにその通りだ。換金できる形にしてこそ意味があるな。それにしても、随分ともったいぶった言い方だな。ずっと気になっている収集方法とやらを教えてほしいんだけど。


 「知りたそうな顔をしているな」


 ニッジ……何を求めているんだ? 僕が懇願する様を見たいというのか? ならば、見せよう。知識の前にプライドなどくそくらえだ!!


 「頼む。教えてくれ。なんでも……なんでもするから」

 

 頼みこむと同時にララの鉄拳がニッジの頬に炸裂した。ニッジは不意打ちとララの怪力で吹き飛ばされてしまった。


 「ダメだよ。私達は子分なんだから。ロランお兄ちゃんにそんな意地悪しちゃ」

 「ララ。僕は気にしていなから、あまりニッジを殴らないでやってくれないか?」

 「うん。分かった!! お兄ちゃんもニッジなんかに頭を下げちゃダメだよ」


 年下の子に諭されてしまった。僕には子分とかなんとかは全く分からない。ニッジは友達みたいなものだし、子分だからという感覚はない。ララのほうが、その辺りの感覚が強いのだろうか?


 「ニッジ大丈夫か?」

 「ああ。大丈夫だ。それにしてもなんて怪力なんだ。顔がバラバラになりそうだ」


 ニッジを起こしてやると、ニッジは大きなため息をした。

 「ララ。いい加減にしてくれ。私がそんな意地悪をすると思っているのか?」

 「うん」


 間髪入れずに言ったぞ。どんだけ信用がないんだ?


 「全く。本来であれば、ロランが言うことだぞ。ララに先に言われてどうするんだ」

 どういう事だ? どうやら、君臣のけじめというやつを僕に教えたかったみたいだ。ニッジなりに僕を教育していたみたいだ。そのせいで怪我を負ったらため息もしたくなるか。

 

 「でも、なんでそんなことを?」

 「ロランは凄いことをやっていると思わないのか? 短い時間でスラムのリーダーになったんだぞ。ここを立て直せば、立派な勢力だ。それこそ貴族に匹敵するほどの。だから、今のうちに貴族らしくなってもらいたいんだ」


 貴族らしさというのが何なのか分からないけど、少なくとも今の境遇を貴族のそれと同じとは思えない。それにスラムの人達は仲間だ。その辺りからして違うと思うけど、ニッジにはそれが分からないようだ。


 「ニッジ。ありがとう。でもそういうのはスラムを立て直してから考えよう。それでいいだろ? それよりも収集方法を」


 「全く相変わらず、呑気な性格だな。まぁ、それでもいいさ。でもスラムを立て直したら真剣に貴族らしくなってもらうからな!!」


 ニッジはどれだけ貴族に精通しているのだろうか? もしかしたら、貴族の子息とか関係者だったりする?


 「そんなんだったら、スラムなんかにいるわけ無いだろ? 貴族とは、誇り高く、住民を奴隷のように思ってて、部下をいじめて、エロいことばかりする存在だろ?」


 うん。絶対に違うよね。貴族とかいう前に人として終わっているような気がする。そんな人に僕をさせる気だったのだろうか? 人を堕落させようとするニッジ……意外と怖いやつかも知れない。


 ようやく収集方法を教えてもらうことが出来た。


 「収集方法はそれほど難しくないんだ。道具があればなんてことはない。砂金っていうのは、簡単にいうと重いんだ。その重さを利用して、水に沈む物を回収していけば砂金だけが残るってわけさ」


 へえ。そんな方法があるんだ。やっぱりニッジは物知りだな。ところでその重要な道具は?


 「ない」

 そうだろうね。砂金の収集のための道具を持っていたら驚きだよ。作り方が知りたい。


 「知らない。砂金の特徴から考えれば、なんとなくは分かるけど、それ以上はこれから考えるしかないかな」

 

 そこまで話しておいて、知らないなんて……

 「しょうがないだろ? 砂金の収集なんて国家機密に匹敵するような話なんだ。道具の作り方なんて簡単に知られたら、みんな採っちゃうじゃないか」


 ……悩みはまだまだ続きそうだ。

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