【悪魔】VS 悪役令嬢
ボクは教室に行く途中、前方にため息をつきながらしょげてている茶髪の女の子を見つけた。
「はあ……」
おやおや、いつもは心の中に不安をしまうような男らしいところがある子だけど、今日は違うようだねぇ。
【ししっ……よーし!】
ボクは軽い足取りでそーっと茶髪の女の子……ヨコピーの背後に忍びよる。
ーーーー
僕……ヨコピーこと横平拓郎は憂鬱に埋もれていた。
その理由は一つ、昨日友人のメリッサに勢いで告白してしまった事だ。
返事はまだ返してもらっていない、メリッサとしてはもう少し考えさせてほしいのだと言う。
「はあ……もうちょっとタイミングを見計らった方が良かった……」
ーーししっ、タイミングを計っているのはボクの方だよ!
「なっ⁉︎」
突然背後から子供の声が聞こえてきた。こ、この声は……!
慌てて振り返ろうとするが、それより先に相手が動いた。
【そーれっ、スカートオープン!!】
ばさっ
抵抗する暇もなく、僕のスカートが勢いよく捲り上げられた。
「きゃああああーーー⁉︎⁉︎⁉︎」
スカートのお尻のところがさらけ出される。僕は乙女な悲鳴をあげて、スカートを抑える。
そして顔から熱が出そうなくらい真っ赤になりながら、女の子に対して有り得ない狼藉を犯した馬鹿を睨みつける。
後ろを見れば、女の子になった僕の身体よりも少し低いくらいの、あどけない顔立ちをした男子が無邪気な笑顔でこちらを見ていた。その雰囲気は昨日会ったカインとは違うベクトルの可愛さを持っていた。
「お、お前……!」
【ししっ、いやー相変わらず面白い反応だねぇヨコピー!イタズラし甲斐があるよー】
「い、イタズラって……この変態が!相変わらずお前は女に対しても見境なしに……!」
【ししっ、そーいう慌てたら普段と話し方が変わるところも可愛いーなー】
かわっ⁉︎
そうだ、僕はここではお嬢様口調で通ってるんだった。僕は慌てて口調を戻す。
「な、何をなさるんですか、フランさま。おイタが過ぎますよ」
【何ってスカートめくりだけど。あ、ボク的にだけどピンクよりも水色の方がいいかなー、君に似合うとしたらねー】
「僕のパンツの色をおおっ広げに言うんじゃねぇ、このど畜生がっ!!ピンクだってバレるだろうが!!」
【あれー?ボクは下着の話だって言ってないけどなー】
「うぐっ」
こ、コイツ……
初めて会った時からこんな調子でこのフランという男は絡んでくる。
【フラン】こと【フランベル】。この学校の学園長の息子で、天真爛漫な性格が女子受けするらしい学校の人気ものだ。学校では別名【悪魔】なんて言われている。なんでもこういうイタズラっ子なところが悪魔っぽいからだそうな。
けど男の僕からしたらただのうざい奴だ。
「ふ、ふんっ!フランさまは今は人気ものですが、いずれ成長なされた時に後悔すると思いますわ!女の子に対して狼藉を働くなど、女の子を軽視しているのと同じでございますわ!そんなことではきっと、ご結婚など夢のまた夢でしょう!」
イタズラされて頭に血が上り、ついついキツイ言葉を言ってしまう。
けれどフランは動じた風もなく、キョトンとした顔で首を傾げて言った。
【う〜ん?ボクは女の子と結婚はしないよ?彼女もいらないしー】
「へ?」
結婚しない?
あれ?メリッサから聞いたところによると、このフランも、ゲームで言うところのカインと同じ攻略対象のはず。なのに女に興味がなさそうな口ぶりは一体……?
「結婚、なされないのですか?」
【うんっ、だって大切な女の子ができちゃったら、もうその子にイタズラできないじゃん】
「え……?」
【それじゃ、キミも元気が出たようだからボクはもう行くね!またねー!】
手を振ってフランは去っていく。
僕はただその背を見て、立ち尽くしていた。
「……アイツ誠実なのか不誠実なのかわからないな」
ーーーー
一方その頃、メリッサは……
「はあ〜〜〜、どうしてわたくしはこうなんでしょう、はあ〜〜〜」
ヨコピー以上のため息をついていた。
わたくしは、昨日ヨコピーの告白を断り、一日中ずっとどう返事をしようか考えていましたわ。確かにヨコピーの告白は驚きましたし、わたくしも嫌って事はないのですが。
わたくしだって女です、邪険にされたとは言えカインさまへのお気持ちを簡単に捨てられるほど簡単な性格はしておりませんわ。
諦めきれないというわけでなく、キチンと決着をつけてから、改めてヨコピーの告白へのお返事をしたいと考えておりますわ。
けれど……相手は一度惚れたお相手で、どんな風にお話しすればいいのかわかりませんわ。これでは決着どころが、ヨコピーへのお返事も返すことができなくなりますわ。
「うう〜、どうしましょう〜」
【何か悩んでるの?】
「ひゃわっ⁉︎」
急に後ろから声をかけられましたわ。振り返るとそこにはカインさまと方向性の違う可愛さを兼ね備えた、子供のような雰囲気のフランベルさまがいらっしゃいました。
フランベルさまは首を傾げてこちらを見ていらっしゃいます。
あわわ、こんな可愛い人に見つめられるとドキドキしますわ……
「こ、これはこれはフランベルさま、ご機嫌麗しゅうございます」
【うん、ご機嫌よう。それで何に悩んでたの?もしかしてその昨日はつけてなかったメガネに関係ある?】
「メガネではありませんわ!アイマスクでございます!」
【いやわかんないけど、前見えてる?それ】
「ご心配なさらずとも、縁日の仮面のように目のところに小さな穴がいくつも開いておりますのでちゃんと見えておりますわ!」
【今度はアイマスクの意味がなくなったよ⁉︎なんでいきなりそんなのつけてるの?】
「これは……わたくしの心がお先真っ暗というのを表していますのですわ」
【お先、真っ暗ねぇ】
「はい、それではわたくしはこれで……ご機嫌よう」
優雅に手を振ってわたくしはフランベルさまの前から立ち去る。
…………
立ち去る時にわたくしは少し疎外感を抱えていました。聞けばヨコピーはいつもフランベルさまからスカートめくりなるものをされているのだといいます。けれどわたくしはそんな事一度もされたことがございませんわ。
別にスカートの中を見せたいと言う事ではないのですが……
それはまるでわたくしに興味がないと、暗に行動で示されているような感情を抱いてしまいますわ。
やはり悪役令嬢とは周りから一歩引いたところにいる存在なのでしょうか。
周りの攻略対象の男の子は主人公にしか興味がなく、悪役など主人公を引き立てるための道具にしか見られていないのでしょうか。
……………
……そんなわたくしとヨコピーは、果たして釣り合うのでしょうか
完結まで恐らくあと四話ほど、多分
ここで完結かも知れない
書けたら書きます