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クインテット。ナイツ  作者: 恵/.
R―巡らせる。ナイツ
82/132

書いてから思ったけど、何この茶番劇?

 互いを静かに見詰め合う二人。先に動いたのは、天のほうだった。

「―――今日こそは、勝たせて頂きます」

 左手の銃を兄に向け、それを握る拳に右手を添える。ただそれだけの動作で、銃口から無数の弾丸が放たれた。弾はそのまま一片目掛けて、雨の如く降り注いでいく。

「……少しは」

 一片は『見えざる刀』を、眼前で器用に回転させる。すると、弾の一部はそれに弾かれ、あらぬ方向へ飛ばされる。

「学習という言葉を知ったほうがいいな」

 そして残りの弾は、彼の脇を虚しく通り抜けて行った。

「それはただの連射馬鹿で、威力と精度に関しては最低レベルダ。俺でなくても簡単に対処できる。『見えざる刀』のフィールドに影響されない、実弾発射型なのは強みかもしれんが、言ってみればそれまでダ」

「くっ……」

 天は顔を顰めると、何を思ったか、霊銃を振り上げながら直進し出す。一片はぎりぎりまで惹きつけて、振り下ろされるそれを悠々と躱した。更に右手を薙いで、丁度真横に来ていた妹の頭を、思いっきりぶん殴った。

「っ……!」

 天は倒れそうになりながら、霊銃を振り上げて兄の脇腹を打とうとする。しかしそれすら、易々と避けられてしまった。そのまま地面を転がり、近くに落ちていた大きな石にぶつかってようやく止まる。

「……さすがに、簡単には、いきませんか」

 天はボロボロになりながら、それでも立ち上がって兄と対峙する。対する一片は、そんな妹の姿を見て、若干呆れているようだった。

「まさかとは思うが、自分が手加減されていることに気づいていないわけあるまいな?」

「分かっています。ですから―――」

 天は霊銃を、左手から右手に持ち替える。

「その油断を、突かせてもらいます」

 すると銃身のサイドから、白銀の刃が弧を描くように迫り出してきた。―――なるほど、だから『三日月』なのか。確かに、この刃はまるで三日月のような形をしている。

「覚悟……!」

 天は、銃剣と化したそれを引き摺るように駆け出す。

「……!?」

 すると突然、天の姿が掻き消える。それを確認する間もなく、一片は咄嗟に真横へ飛んでいた。

「はぁっ……!」

 そして振り返れば、今まで彼がいた場所に、天の銃剣が叩きつけられていた。一片は天に向けて発砲。しかしその影はまたも消えてしまう。

「……なるほど。喧嘩を売るだけの力はつけていたか」

 一片の視線の先には、銃剣を携え佇む天の姿があった。天は乱れた呼吸を整えつつ、兄の言葉に答える。

「お兄様のいない間も、私は鍛錬を続けてましたから」

「―――分かった」

 一片は左手の刀の柄に、右手の銃のグリップを宛がう。

「それなら俺も、本気で相手しよう」

 『見えざる刀』が解放され、風の守護が一片に纏わりつく。難攻不落の防御形態にして、彼の本気。かつて、闇代や優を苦しめた風の防壁だ。

「元より、そのつもりです」

 天は銃剣を一片に向けると、その刃に左手を添えた。その様子はあたかも、マシンガンを構えているかのようだ。

「三日月―――霧雨」

 その直後、一片の視界が、無数の銃弾に覆われた。天の銃剣から放たれたおびただしい数の銃弾が、カーテンさながらの弾幕を作っているのだ。

「ちっ……」

 一片の周りには風があるため、迫り来る弾丸は彼に届かない。しかし、彼を足止めするには十分だった。

「たぁっ……!」

 左から踏み込み、銃剣で切りつけに掛かる天。一片がそれを鞘で防ぐと、金属同士が触れ合うような音がした。

「フッ……、考えたようダナ」

 一片を守る風は、未だに直進を止めない弾丸を止めるために、全て使っている。それ故彼には、天からの攻撃を防ぐ風が残っていないのだ。

「しかし、ここまで近づけば、お前も霊術は使えまい。あくまで、このフィールドを躱せるのはその霊銃だけのはずダ」

「確かに、その通りです。ですが……」

 天はにっこりと微笑みながら、叫んだ。

「三日月―――繚乱!」

 その途端、銃剣の刃が砕け、その破片が新たな弾丸であるかのように、一片に襲い掛かってきた。一片は突然のことに反応すら出来ず、無防備に喰らってしまう。それでも咄嗟に、背後に飛んで距離を取った。が、尻餅をついた上に銃を手放してしまった。

「これで―――」

 天は刃を失った霊銃を一片に向け、止めを刺そうと一歩踏み込む。

「終わりで―――きゃっ!」

 だが、一片が銃を離したせいか、風が途絶えてしまい、今まで抑えていた弾丸が一挙に天へ降りかかった。まるで津波のような弾丸に、天は成す術もなく飲まれてしまい、そのまま空き地の端にあるブロック塀にぶつかって、ようやく止まった。

「……未熟者が」

 一片が起き上がり、地面を転がる自分の銃を拾うと、弾丸の山(とはいえ、然程数があるわけではないが)から顔を覗かせる天の元へ歩いていく。

「自分の使った技の制御もろくにできないのか? 多少はましになったと思っていたが、どうやら勘違いのようダナ」

 対して天は、弾丸に埋もれた体を動かすことが出来ない。……てか、あんたもやられかけたじゃん。

「それでは、約束通り、俺の前から消えてもらおうか」

 そんな妹の額に、銃を突きつける一片。そんな無慈悲な兄に対して、天は半ば諦めたかのように口を開いた。

「……その前に一つ、申しておきたいことが」

「何ダ?」

 一呼吸置いて、天がその続きを紡ぐ。

「私は、お兄様のことを、ずっと前からお慕いしていました」

「……」

 えっと……これは?

「今回お兄様を連れ戻そうとしたのも、お兄様と離れ離れになってしまい、とても寂しかったからです。ですから、今すぐにでもお兄様を連れ戻して、また一緒に居たいと、思っておりました」

 何だか、重大な告白のような気が……。

「ですが、それが叶わなくなった今、いっそこの魂ごと打ち砕かれてしまいたいです。その最後を、お兄様の手で迎えられるのなら本望です。―――さあ、どうかその引き金を、引いてください」

 最早死を受け入れて、それでもどこか満たされたような、何とも言えない表情を浮かべる天。……一回、状況を整理してみようか。

 一、天は一片と一緒に居たいと思っている。

 二、しかし彼が家を出て、寂しい思いをしていた。

 三、だが兄には戻る意思がなく、結果、今回のように決闘する羽目になった。

 四、それに負けたので、自分の思いを打ち明け、止めを刺すよう懇願。

 ……言葉が見つからないというのは、こういうときに遣うのだろうか?

「……」

 それは一片も同じだった様子で、戸惑ったような顔をしていたが、やがて、その手の銃を下ろした。

「お兄様……?」

 そして妹に背を向け、

「命は勘弁してやる。さっさと俺の前から失せろ」

 そう言い残して、どこかへ去っていった。

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