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クインテット。ナイツ  作者: 恵/.
R―巡らせる。ナイツ
78/132

×ロープで教育 ○ロープの教育


  ◇


「……お前ら、何話してんだよ?」

 あれから暫くして、狼が戻ってきた。

「ちょっと、人生の後輩に教育的指導をね」

「なら、そこに置いてあるロープと、教育的指導の関係性について、しっかりと聞かせてもらおうじゃねえか」

 テーブルの上には、ナイロン製のロープが置いてあった。何故、こんなものが?

「腕の正しい縛り方を教えるためだよ」

「何でまたそんなことを……」

「だって天ちゃんが、一片君にそういうことをしたいって言うから」

「言ってませんっ!」

 全力で否定しなくても、狼が真に受けるとは思えないが。

「どうせお前が変な誘導尋問したんだろ」

「ううん。違う」

 何で事実をそんなにきっぱりと否定できるのだろうか。その技能は羨ましい。

「……まあいいや。それなりに打ち解けたみたいだし」

 最早、そこは気に留めないこととしたようだ。まあ、闇代相手ならそれが一番楽だろうが。

「話してきたぞ、あいつと」

 その一言で、和んでいた(というか、振り回された後の)天の表情が引き締まった。狼は続ける。

「なんか、色々理由をつけてたけど、戻りたくないのは確実だな、ありゃ」

「そうですか……」

 そう告げられて、天は残念そうに項垂れた。普通ならそこで口を噤むのだが、止せばいいのに追撃する狼。

「家がどうたらとか、妹は当主の癖に弱いとか、傀儡とか、伝統と誇りはどうしたとか、考えが古すぎるとか、支離滅裂なことばかり言ってた」

「それは……」

 言わないほうがいいと思うのだが。それを言うからこその追撃である。

「……やはり、私に当主は務まらないのでしょうか?」

 ほら、しっかり傷ついてる。

「いや、知らんが。まあただ、話してみた印象だと、あんまり好感持たれてないのは確かだな、お前」

 何故更に追い討ちをかける? Sか? どSなのか?

「―――私は、お兄様にとって、邪魔でしかないのでしょうか?」

「んなの聞くな。聞くなら本人にしろ。お望みなら、ここまで引きずり出すけど、どうする?」

「……いえ、ご迷惑はかけられません」

 そう言って、天は静かに店から出て行った。残されたのは、闇代と狼の二人だけ。

「……良かったの?」

 闇代は、責めるような視線を向けつつ狼に問いかけた。

「何がさ?」

「天ちゃん、絶対に傷ついてるよ? 追いかけたら?」

「だろうな。普通はそうする。けど、ああいうのは俺より適任がいる」

「?」

 首を傾げる闇代に、狼は含みのある笑いを浮かべ、こう言った。

「とにかく、ゲームでもして待ってれば何とかなるって」



 一方、店を出た天は、町を当てもなく彷徨い歩いていた。


「……お兄様」

 兄のことを思い、ここまでやって来たというのに。彼は自分と会う気すらないのかと思うと、衝動にも似た何かが込み上げてくる。だがそれを理性で抑え、それでも暴れようとする気持ちを静めるために、ただただ歩き続けた。

「あの」

 ふと声を掛けられ、立ち止まる天。顔を上げれば、目の前には茶髪で碧眼の人物である優―――天は名前を知らないが―――がいた。

「もしかして、何かお困りですか? よろしければ相談に乗りますよ」

 優しく声を掛けられ、天の心が揺らぎそうになる。

「……いえ、大丈夫ですから」

 それでも、見ず知らずの人に迷惑は掛けられないと、断ってその場を離れようとする。だが、優はそう簡単には引き下がらない。

「いえいえ、この町では『困ったときはお互い様』という暗黙の了解がありまして、たとえ他所の方でも、困っていたら助けなければならないんです」

「……どうして、私が他所から来たと?」

 不審に思い、天は足を止めてしまう。しかし優は、さも当然のように答えた。

「あなたの着ている制服です。かなり遠方にある中学の制服ですよね」

「あ……」

 制服というのは、自分がどこに所属しているのかをはっきりさせる代物。故に、それを見れば自分の居住地も分かってしまうのだ。近所でもない学校の制服を把握している人は少ないが。

「ここではあれですし、とりあえずうちに来ませんか? 頼りになる子供達もいますし。ね?」

 その笑顔に、折角の厚意を無碍(むげ)にするのも悪いと思い、天は渋々ついていくのであった。

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