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クインテット。ナイツ  作者: 恵/.
Q―知らされる。ナイツ
59/132

「ここは俺に任せて先に行けぇーーー!」は死亡フラグ


  ◆


 ……少し前。


「お優さーん、こんにちはー」

 開店前の居酒屋『虹化粧』の入り口を、妙齢の女性―――女刑事、小宮間舞奈が勢いよく開けた。

「あら小宮間さん、どうされました?」

 それを、この店の持ち主である優が出迎えた。

「ちょっと近くまで来たから、顔出しとこうかなって」

「そうですか」

 舞奈がカウンター席に腰掛けると、優が透かさず湯飲みにお茶を入れ、舞奈に差し出す。居酒屋なのに酒でないのは、営業時間ではないからだろうか。

「そういえば狼君、元気?」

「ええ、お陰さまで。最近は同居人が増えたせいか、一段と元気ですよ」

「同居人?」

 すると、またもや店の扉が開いた。

「お優さん、ただいまー」

「帰った」

 入ってきたのは、闇代と一片だった。例の一件以来彼らがどうなっているのか聞かないが、一緒に帰ってくるくらいには打ち解けているようだ。

「おかえりなさい」

 闇代は鞄をテーブルに置くと、カウンター席に座っている舞奈に気が付いた。

「誰?」

「知り合いの刑事さんで、小宮間舞奈さんです」

 名前を呼ばれ、舞奈は立ち上がって闇代たちのほうを向いた。

「小宮間舞奈です。もしかして、君たちがこの家の新しい同居人?」

 自己紹介され、闇代も姿勢を正してそれに応える。

「飾闇代です。お優さんのところでお世話になってます」

「へー、闇代ちゃんって言うんだ。可愛いね」

「えへへ」

 褒められて、はにかむ闇代。この場合の『可愛い』は『小さい』という意味合いが強いのだが、それは本人には内緒の方向で。

「で、そっちの子は?」

 舞奈の視線が一片に向く。

「……一片、瞳」

 呟くように名乗る一片。

「ふーん、瞳君かぁ。クールでカッコいいね」

「……」

 一片はそっぽを向いてしまったが、耳が赤いので照れているだけだろう。

「なるほどね。こんな子達と一緒なら、狼君も幸せだろうね」

 微笑む舞奈。まるで、自分のことのように喜んでいる。

「でも狼君、最近冷たいんだよ? 今日だって、わたしを放って他の女の子達と寄り道してるし……」

「それはお前がしつこく付き纏っているからダロウ?」

 まあ確かに、闇代は愛情表現には若干(と言いつつ実は相当)問題がある。

「べっ、別に付き纏ってなんかいないもん!」

 闇代は顔を真っ赤にして抗議しているが、一片は取り合おうとしない。

「まあ、まあ。狼君も男の子だからね。たまには一人になりたいんだよ」

「何故男が孤独な生物みたいになってるんダ……?」

 一片の呟きは、舞奈には届いていない。てか、そもそも聞く気すらない。闇代の話もちゃんと聞いていないし。

 そんな話をしていると、店の奥からベルの音が響いてきた。

「あら、電話みたいです。ちょっと出てきますね」

 そう言って、優が店の奥へと消えていった。


「はいはい、今出ますよ」

 優は受話器を取ると、それを耳に押し当てた。

「もしもし牧野です」

 しかし受話器からは、何の音もしない。

「もしもーし?」

 再度呼びかけるが、反応はない。

「どうしたんでしょうか?」

 普通に考えたら悪戯電話、それも無言電話だが、優は電話を切ろうとしない。

《……だ? ……かよ……》

 耳を澄ませると、くぐもった声が聞こえてきた。

「狼ですか?」

 さすがというか、優にはそれが狼の声だと分かるようだ。

《……ら……にげ……!》

 声が途切れていて何を言っているかは分からないが、緊迫した様子が読み取れる。

「う、狼っ! どうしたんですかっ!?」

 このナレーターでもこの程度のことが分かるのだから、優はより強くその雰囲気を感じたらしい。必死に呼びかけるが、彼の返答はない。

《……そ……ぐ……!》

 そこで、通話が切れてしまった。

「狼……」

 優は受話器を戻すと、店のほうへと駆けて行った。



  ◆


 ……狼達に、何があったかというと。


「ちっ、動き出した」

 電柱の陰、茂みの中、傍の空き家などから、黒いスーツにサングラスの男達が姿を現す。彼らは右手にごつい拳銃を握り締め、足並みを揃えて狼達に近づいていく。

「何者だ! 俺らに何か用かよ?」

 彼らは、狼の言葉に耳を傾けずに、徐々にその包囲網を狭めていく。

「くそっ、面倒だな……。俺が道を開くから、お前らだけでも逃げろ!」

 狼は懐から、先の尖った、三角錐の形をした金属塊を取り出した。彼の武器の一つ、『貫く頭蓋』ランスだ。

「おら!」

 それを握った手を右に振り抜き、一番人の薄い部分を攻撃。突然の不意打ちに、男達が体勢を崩した。

「今だ急げ! ぐっ……!」

 直後、狼の肩を弾丸が掠める。

「狼っ……!」

 上風は僅かに躊躇ったが、紗佐の手を掴んで、狼の作った隙へと飛び込んだ。

 しかしその頃には、男達が体勢を立て直しかけていた。

「こんのっ……!」

 上風の回し蹴りが、立ち直りかけていた男達の側頭部に直撃する。

 そのまま足を止めず走り抜け、包囲網を突破する。

 そんな彼女達に、銃を向ける他の男が三名ほど。

「させるかっ……!」

 狼が放ったランスが、彼と繋がっているロープ部分を使って男の腕を縛る。そしてそれを力任せに引っ張り、後の二人にぶつけた。

「ガキが……!」

 しかしそれにより、残った男達から一斉に銃撃されてしまった。

「がっ……!」

 腕を、足を、腹を、肩を、凶弾が狼を貫いていく。

「狼っ……!」

「向坂君……!」

 さすがに上風も足を止め、紗佐も彼の名を呼ぶ。だが、

「まったく、手間取らせやがって」

「「!」」

 少女達の行く手は、控えていたと思われる男達に遮られてしまった。

「抵抗したところで、無駄に苦しむだけだというのに……なんと愚かな」

「ぐっ……!」

「あっ……!」

 男達は上風と紗佐を締め上げると、彼女達を連れて狼の元へ歩いていく。

「……くそっ!」

 狼はボロボロになりながらも、まだ立ち上がろうとしている。

「もう止めろ。無駄な犠牲が増えるだけだ」

 また別の男が狼の首根っこを掴み持ち上げ、傍らにいる少女たちを指差し言った。

「これ以上抵抗するなら、こいつらを始末する必要が出てくる」

 その言葉に、狼は恨めしそうな目をしていたが、やがて全身の力が抜けたかのようにぐったりとなった。

「狼……」

「向坂君……」

 上風と紗佐はただ、なす術なく彼を見ていることしかできなかった。

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