いけない子はお仕置きしちゃうぞっ★
◇
優は、道路の真ん中で立ち止まる。周囲には空き地が目立ち、時間帯のせいか車や通行人もいない。ここでなら、多少暴れても問題無さそうだ。
朝焼けが辺りを照らす頃になると、優の正面から一組の男女が姿を現した。
「……現れましたね」
優は、ゆっくりと口を開く。
「何? 態々出迎えてくれたの?」
二人のうち、男のほうがそう返す。か細く長い体躯と、俳優やアイドルにも劣らない整った顔立ち。一言で言うなら美男子だろうか。彼らが件の、吸血何たらだろうか。
「まさか。あなた達を止めに来たんです」
「止める? ふふっ」
今度は女のほうが、笑みを零した。こちらは男のほうと違い、局所の凹凸がかなり目立つ体型。やや化粧が濃いものの、こちらも結構美人である。
「どうかしましたか?」
「だってあなた、何も分かってないんだもん」
クスクスと笑い続ける女。正直、物凄く不気味だ。その不快な笑い声を何とかしてほしい。
「分かってない? 何がです?」
「そうだね。折角だし、説明してあげよう」
男のほうが、それに答える。
「僕らね、君を仲間にしようと思って来たんだ」
「仲間、ですか」
「うん。仲間」
優は、男の言葉の真意を探っていた。仲間、それがどういう意味合いで遣われているか。また、言葉どおりに解釈したとして、そこに秘められた意図は何なのか。その様子を意外に思ったのか、男は首を捻った。
「あれ、これで分からないの? うーん、それだと噂は本当だったってことになるね」
「噂?」
「うん、噂。『魔女は人間とじゃれ合うのが好きだ』って噂だよ」
「なるほど」
その言葉で、優は彼らの言いたいことが分かった。『人間とじゃれ合うのが好き』。つまりは、
「あなた達は、人間が嫌いなんですね」
この結論に達した。『人間とじゃれ合うのが好き』だと仲間になれないのなら、彼らは『人間とじゃれ合うのが嫌い』。つまり、人間が嫌いと言うわけだ。小学生でも分かりそうな理屈である。
「まあね」
男は肩を竦めて、続けた。
「でもね、それは普通なんだよ。僕ら異種族は人間が嫌いだし、人間は僕らが嫌いだ。僕らのほうが、人間なんかよりもずっと優れているのに」
「そうそう」
先程まで笑っていた女が、言葉を引き継ぐ。
「だ、か、ら。あたしたちで馬鹿な人間達を滅ぼそう、って計画を立てたの。つまり―――」
「私に、その片棒を担げ、と?」
「正解♪ 分かってるじゃない」
冗談じゃない。優は心の中で呟いた。そんな馬鹿げたことを簡単にできるとは思えないし、仮にできたとしても、優がそれ賛同するわけない。だからこそ、優は悩み、苦しんでいるのだ。
「残念ですが、それには協力できません。生憎と私は、種族の違いを然程意識しませんから」
「うん、ほんとに残念だ。だって、」
男は懐に手を入れ、黒光りする凶器を取り出すと、それを優に向けた。
「人間に味方する奴は、たとえ同胞だったとしても、始末しないといけないからね」
警察官が持っているようなリボルバー式の拳銃。その先は優の頭部に向いている。
「そんなもので私を倒せるとでも?」
「まさか。これは単なる牽制さ」
それを言ってしまっていいのだろうか。牽制の意味が無いと思うが。
「でもまあ、魔女に僕らの能力が通じるとは思えないし。結構不安なんだよね、これでも」
「だったら、今すぐ降参してはどうです?」
「冗談」
男は銃のリボルバーを回転させて、それを指で止める。
「ロシアンルーレットって知ってる? リボルバーに一発だけ弾丸を込めて、適当に回転させてから順番に撃つんだ」
「知ってますよ」
「今からやってみない? この銃には弾が一発だけ入ってるし、リボルバーも回転させたから」
「やるわけないでしょう」
「そっか、残念」
とか言いつつ、まったく残念そうに見えない。というか、女のほうはどこへ言ったんだろうか?
「じゃあ、早速消えてもらおうかな」
直後、優の左胸から血飛沫が上がった。
「!?」
胸を押さえ、倒れそうになるのをどうにか堪えて振り返る。すると、
「あら残念。仕留め損ねちゃった」
見れば、女が優に銃を向けていた。銃口から硝煙が上がっているのを見るに、優はこっち銃に撃たれたようだ。
「どうだい? マイシスターは気配を消して動くのが得意なのさ」
この二人、兄妹だったのか。などと、どうでもいいことを思う優。しかし、傷口からは血がどんどん溢れてくる。致命傷は避けられたようだが、このままでは出血が多くなってしまう。
「因みに、こいつもただの銃じゃない。牽制用ってのも嘘。とあるルートで手に入れた特殊武装で、君みたいな異種族にも通用する代物だよ」
「そんなことより、こいつに留め、刺していい?」
「うん、そうだね。あんまり苦しめたら可哀想か」
前と後ろから銃を向けられた優。正しく、絶体絶命。
「じゃあ、僕らに楯突いたことを後悔するといいよ」
そして、同時に引き金が引かれた。
「「!」」
はずだったが、何故か、二人の間から優の姿は消えていて―――
「ふーっ、危ない危ない」
男の背後から、そんな穏やかな声が聞こえてくる。
「後ちょっと、あたしが出てくるのが遅かったら、大変だったよ」
そこには、笑顔の優が立っていた。―――その瞳を、黄色に染めた状態で。
「……そう言えば、高位の魔女は多重人格者なんだったっけ?」
「うん。あたしはその一人」
優は右手を上げると、己の武器を呼び寄せる。
「恐れ戦き自戒せよ」
その掛け声と共に、一振りの刀が『虹化粧』のほうから飛来する。
優はその刀を手に取ると、前方の二人にそれを向けた。その軽快な動作から察するに、傷は既に塞いでいるのだろうか。なんという治癒力……。
「物騒なことばかり企む悪い子には、お仕置きが必要だよね」
その微笑に、異類の兄妹は戦慄を覚えるのだった。




