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クインテット。ナイツ  作者: 恵/.
O―貪る。ナイツ
49/132

いけない子はお仕置きしちゃうぞっ★


  ◇


 優は、道路の真ん中で立ち止まる。周囲には空き地が目立ち、時間帯のせいか車や通行人もいない。ここでなら、多少暴れても問題無さそうだ。

 朝焼けが辺りを照らす頃になると、優の正面から一組の男女が姿を現した。

「……現れましたね」

 優は、ゆっくりと口を開く。

「何? 態々出迎えてくれたの?」

 二人のうち、男のほうがそう返す。か細く長い体躯と、俳優やアイドルにも劣らない整った顔立ち。一言で言うなら美男子だろうか。彼らが件の、吸血何たらだろうか。

「まさか。あなた達を止めに来たんです」

「止める? ふふっ」

 今度は女のほうが、笑みを零した。こちらは男のほうと違い、局所の凹凸がかなり目立つ体型。やや化粧が濃いものの、こちらも結構美人である。

「どうかしましたか?」

「だってあなた、何も分かってないんだもん」

 クスクスと笑い続ける女。正直、物凄く不気味だ。その不快な笑い声を何とかしてほしい。

「分かってない? 何がです?」

「そうだね。折角だし、説明してあげよう」

 男のほうが、それに答える。

「僕らね、君を仲間にしようと思って来たんだ」

「仲間、ですか」

「うん。仲間」

 優は、男の言葉の真意を探っていた。仲間、それがどういう意味合いで遣われているか。また、言葉どおりに解釈したとして、そこに秘められた意図は何なのか。その様子を意外に思ったのか、男は首を捻った。

「あれ、これで分からないの? うーん、それだと噂は本当だったってことになるね」

「噂?」

「うん、噂。『魔女は人間とじゃれ合うのが好きだ』って噂だよ」

「なるほど」

 その言葉で、優は彼らの言いたいことが分かった。『人間とじゃれ合うのが好き』。つまりは、

「あなた達は、人間が嫌いなんですね」

 この結論に達した。『人間とじゃれ合うのが好き』だと仲間になれないのなら、彼らは『人間とじゃれ合うのが嫌い』。つまり、人間が嫌いと言うわけだ。小学生でも分かりそうな理屈である。

「まあね」

 男は肩を竦めて、続けた。

「でもね、それは普通なんだよ。僕ら異種族は人間が嫌いだし、人間は僕らが嫌いだ。僕らのほうが、人間なんかよりもずっと優れているのに」

「そうそう」

 先程まで笑っていた女が、言葉を引き継ぐ。

「だ、か、ら。あたしたちで馬鹿な人間達を滅ぼそう、って計画を立てたの。つまり―――」

「私に、その片棒を担げ、と?」

「正解♪ 分かってるじゃない」

 冗談じゃない。優は心の中で呟いた。そんな馬鹿げたことを簡単にできるとは思えないし、仮にできたとしても、優がそれ賛同するわけない。だからこそ、優は悩み、苦しんでいるのだ。

「残念ですが、それには協力できません。生憎と私は、種族の違いを然程意識しませんから」

「うん、ほんとに残念だ。だって、」

 男は懐に手を入れ、黒光りする凶器を取り出すと、それを優に向けた。

「人間に味方する奴は、たとえ同胞だったとしても、始末しないといけないからね」

 警察官が持っているようなリボルバー式の拳銃。その先は優の頭部に向いている。

「そんなもので私を倒せるとでも?」

「まさか。これは単なる牽制さ」

 それを言ってしまっていいのだろうか。牽制の意味が無いと思うが。

「でもまあ、魔女に僕らの能力が通じるとは思えないし。結構不安なんだよね、これでも」

「だったら、今すぐ降参してはどうです?」

「冗談」

 男は銃のリボルバーを回転させて、それを指で止める。

「ロシアンルーレットって知ってる? リボルバーに一発だけ弾丸を込めて、適当に回転させてから順番に撃つんだ」

「知ってますよ」

「今からやってみない? この銃には弾が一発だけ入ってるし、リボルバーも回転させたから」

「やるわけないでしょう」

「そっか、残念」

 とか言いつつ、まったく残念そうに見えない。というか、女のほうはどこへ言ったんだろうか?

「じゃあ、早速消えてもらおうかな」

 直後、優の左胸から血飛沫が上がった。

「!?」

 胸を押さえ、倒れそうになるのをどうにか堪えて振り返る。すると、

「あら残念。仕留め損ねちゃった」

 見れば、女が優に銃を向けていた。銃口から硝煙が上がっているのを見るに、優はこっち銃に撃たれたようだ。

「どうだい? マイシスターは気配を消して動くのが得意なのさ」

 この二人、兄妹だったのか。などと、どうでもいいことを思う優。しかし、傷口からは血がどんどん溢れてくる。致命傷は避けられたようだが、このままでは出血が多くなってしまう。

「因みに、こいつもただの銃じゃない。牽制用ってのも嘘。とあるルートで手に入れた特殊武装で、君みたいな異種族にも通用する代物だよ」

「そんなことより、こいつに留め、刺していい?」

「うん、そうだね。あんまり苦しめたら可哀想か」

 前と後ろから銃を向けられた優。正しく、絶体絶命。

「じゃあ、僕らに楯突いたことを後悔するといいよ」

 そして、同時に引き金が引かれた。

「「!」」

 はずだったが、何故か、二人の間から優の姿は消えていて―――

「ふーっ、危ない危ない」

 男の背後から、そんな穏やかな声が聞こえてくる。

「後ちょっと、あたしが出てくるのが遅かったら、大変だったよ」

 そこには、笑顔の優が立っていた。―――その瞳を、黄色に染めた状態で。

「……そう言えば、高位の魔女は多重人格者なんだったっけ?」

「うん。あたしはその一人」

 優は右手を上げると、己の武器を呼び寄せる。

「恐れ戦き自戒せよ」

 その掛け声と共に、一振りの刀が『虹化粧』のほうから飛来する。

 優はその刀を手に取ると、前方の二人にそれを向けた。その軽快な動作から察するに、傷は既に塞いでいるのだろうか。なんという治癒力……。

「物騒なことばかり企む悪い子には、お仕置きが必要だよね」

 その微笑に、異類の兄妹は戦慄を覚えるのだった。

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