(あれとかこれとかそれとか)
◇
向坂狼は悩んでいた。何にかと訊かれると、言うまでもなく闇代にだろう。最近の彼女は(一時期に比べ)大人しいのだが、それでも必要以上にスキンシップを迫ってくる上、所構わず抱きついてくるため、ついこの前など狼が警官に補導されかけてしまったのだ。しかも、この一週間で七回。一日に一回のペースである。
「ったく、あの馬鹿をどうにかしねえとまともに外出できねえな」
因みに、家にいるときは彼にべったりとくっついてくるため、暑苦しくて敵わないそうな。
「って言っても、悩んだところで無駄なんだがな」
まともに考える間もなく、狼はトイレでの思考を中断した。今日はこれから眠るつもりだ。無論、闇代対策を厳重に施してからだが。
……翌日。
「お前ら、今日は休みだ」
「「は……?」」
朝、担任の春山が、教室に入るなり生徒達に告げた言葉が前者。そして、それを聞いて面を喰らっている生徒達の呟きが後者。
「聞こえなかったか? 今日はもう休みだ。寄り道せずにさっさと帰れ」
「それは、今日は休校になったということですか?」
状況を逸早く察した戸沢が尋ねた。こいつ、こういう時しか出番がないな。
「そういうことだ。分かったらとっとと帰れ」
春山はそれ以降何を訊いても、帰れとしか答えなかった。
◇
「何だったんだろうね、さっきの」
上風は呟くように言った。彼女は今、狼と二人っきりで下校している。帰り道が違う紗佐や戸沢、馴れ合いが苦手な一片は勿論、いつも鬱陶しいくらいに馴れ馴れしい氷室や、この頃狼に異様に付き纏う闇代までもが、彼らとは別行動をとっている。
「どうでもいいだろ。それよか、俺はどっかで時間を潰したい」
「何でよ?」
「このまま帰ると、家に闇代が居るからだ」
「あんたも大変ね」
「まあな」
そんな他愛も無い会話(闇代に付き纏われて大変とか、闇代にべったりされて大変とか、闇代に襲われそうで大変とか)が続く。そしてひとしきり話したところで、話題がこれからの予定に変わった。
「さてと、今日はこれからどうするかな」
「なんなら家に来る?」
「それは遠慮する」
即答する狼。例の罠とやらを恐れているだろうか。聞くところによると、上風の家は防犯上の理由で(というか両親の趣味で)からくり屋敷となっていて、そこには極めて危険な装置(地雷とかギロチンとか劇薬とか)が、ネズミ捕り感覚で設置されているそうな。
「じゃあどうすんのよ?」
「それなんだけどな」
彼らが歩いているは、商店街の入り口付近。『虹化粧』はこの商店街の反対側に位置している。
「ゲーセンどころか、店が一個も開いてないんだよな」
「そうね」
それはまだ時間が早いからでは? 時刻はまだ十時にもなっていない。
「行くとこねえな」
「仕方ないじゃない」
そんなこんなで、二人は結局『虹化粧』に行くのであった。




