「尻に敷かれる」を絵に描いたよう
……その後の休み時間。
「いや~それにしてもまさか闇代ちゃんが転校してくるとはなぁ~」
闇代の周りに出来た人だかりを追い払い、教室がようやく落ち着いた頃。氷室が零した言葉だ。というかお前ら、もう一人の転校生のこと忘れてるぞ。
「にしても、もう一人の転校生ってのはどうしたんだろうね?」
忘れていたわけではなかったのか。少し補足すると、あの後もう一人の転校生は諸事情により登校が遅れるとの知らせが入った。その諸事情とやらが何なのかは、担任にも分からないらしい。
「それよか、その机の配置をどうにかしてくれ」
狼は気怠そうに呟いた。実はあの後、ちょっとした席替えがあった。無論闇代の席を決めたのだが、狼と知り合いということで担任の配慮(とは名ばかりで、実際は単に面白がっていただけ)によって、彼の隣となったのだ。既に隣には氷室がいて、更に闇代が来るとなると、さすがに(精神的な意味で)きついのだろう。
「あのなぁ、俺には嫌味にしか聞こえないぞ」
「その思考回路を米粒一つでもいいから分けてくれよ」
そう言う狼の姿は、何だか憔悴しているように見える。気のせいだろうか。
「またまたぁ~。狼きゅんてば照れ屋さんなんだからぁ~」
「きゅん付けて呼ぶな。語尾も伸ばすな」
そんな状態でも、突っ込みは欠かさない。
「てか、戻ってくんの幾らなんでも早すぎだろ」
「だから言ったでしょ? 『すぐにまた逢える』って」
「何? 何の話?」
「えっとね―――」
「話さんでいい」
その話は彼としても蒸し返されたくないので、話題を転換することにした。
「大体なあ。お前、ほんとに俺と同い年なのかよ?」
「当然」
しれっと答える闇代。むしろ、どこに疑う余地があるの? とでも言いたげだ。
「お前見たいな小学生が高校の制服着てるとか……見てるだけで軽くノイローゼだ」
「ひ、酷いよ……」
項垂れる闇代。ひどく傷ついた模様。
「あっ、狼が女の子泣かした」
「知るかっての」
そんな彼らをよそに、紗佐は一人ぼんやりとしていた。その目に、この光景は映っているのだろうか。
そんな彼女に、もう一人の転校生が誰なのかなど、分かるはずもない。
……放課後。
「結局来なかったね。例の転校生」
縄文寺が呟いた。そうなのである。例の転校生がやって来ないまま、放課となってしまったのだ。
「正直、もうどうでもいい……」
狼は机の上に突っ伏した。肉体的疲労というよりは、精神的疲労によって。
「うるっちお疲れさん」
そんな狼を氷室が労う。……ように見えないのは、何故だろうか?
「ほんとに体力無いなぁ」
今度は闇代の声が、狼の頭上から聞こえてきた。
「俺の頭はお前の椅子か?」
「うん」
そう答える闇代は今、狼の頭の上に腰掛けている。軽く足を振って、ご機嫌のようだ。
「即答するな」
狼は頭を上げようとしたが、それをするだけの気力は、彼には残されていなかったらしい。
「まあまあ。考え方によっては、むしろラッキーかもよ」
「お前と一緒にするな」
屈辱だ、と思う狼だった。




