Q.よくある転校生イベント……なのかな? A.そうでもないと思う。
◇
チャイムに数分ほど遅れて、担任の春山が教室へ入ってきた。
「おいお前ら、今日はいい知らせがあるぜ」
入ってくるなり早々、そう口にする担任教師。その言葉に、生徒達はざわつきだした。
「何と、このクラスに転校生がやって来た」
その言葉で、ざわつき度は更に増した。
「しかも二人だ。因みに男女一人ずつ」
今度は、ハイテンションでガッツポーズをしたり、教室の中心で喜びを叫ぶ生徒が続出。そんなに転校生が嬉しいのか、お前ら?
「騒ぐな!」
春山に一喝され、直ぐに静かになってしまったが。
「なあなあうるっち、転校生ってどんな奴だと思う? 女の子のほうは可愛いといいんだけど」
氷室が、隣の席の狼に耳打ちしている。
「知るかっての」
狼はとことん興味が無さそうで、適当にあしらった。
「おーい、入れ」
春山の声に答えるように、教室の戸が開けられる。そして、そこから入ってきた人物を見て、狼は顔を顰めた。驚愕しなかったのは、心のどこかでそれを予想していたのだろうか。
「あの野郎……。帰ったんじゃないのかよ」
入ってきた少女は、この学校の制服で最も小さいサイズと思われるそれに身を包み、鼻歌交じりに春山の隣に歩いて来た。金糸のような髪の束を二つ、揺らしながら。
少女は皆のほうに向くと、小さく深呼吸。そして、
「初めまして。飾闇代です」
よく通る声で自己紹介をした。
次の瞬間、教室は歓喜の声(主に男子生徒の)に包まれた。まあ、いきなり金髪の幼女が転校して来たというだけでも、ノーリアクションではいられないだろうが。勿論狼も―――他の生徒とは違った理由で―――ノーリアクションではいられなかった。
「何考えてんだ、あんにゃろ」
呆れと憂いのせいか、彼は額を押さえ頭痛を堪えている様子。
「あっ」
そんな狼の姿に気づいた闇代は、
「狼きゅうーん! 久しぶりぃー!」
あろうことか、狼に向かって叫びだしたのだ。しかも大声で、手を大きく振りながら。二人の距離は、数メートルもないであろうに。
(あのアホ……)
狼はもはや、反応するのも億劫になってきた。だがしかし、闇代はいまだに手を振りながら叫んでいる。放っておく訳にはいかないだろう。
「ねーねー狼きゅうーん! 気づかないのー? こっち向いてぇー!」
なおも叫び続ける闇代に向かって、手近にあった消しゴムを投げつける狼。
「きゃっ!?」
消しゴムは、闇代の額にクリーンヒットした。
「い、痛いよぉ~……」
額を押さえて蹲る闇代。そんな彼女を一瞥すると、狼は溜息を吐いた。先が思いやられる、とでも思っているのだろう。
このやり取りについて、他の生徒や春山が何も尋ねなかったのは、そんな彼が殺気だって見えたからだろうか。




