これが後に、取り返しのつかない事態を引き起こす……かもしれない
◆
……少し前、狼と闇代の作戦会議の続き。
「ふと思ったんだがな。あの銃使いは、霊術ってのを無効化しちまうんだろ?」
「うん。だから困ってるの」
何を今更、といった感じで答える闇代。
「だったら、その霊刀とかいうのはどうなんだよ?」
「え?」
その提案に、闇代は目をぱちくりさせた。
「その霊刀とかいうで切りかかれば、勝機もあるんじゃないか?」
「でも、霊刀から繰り出される技は全部無効化されてるし……」
「霊刀本体も消されるのか?」
「分からない。そもそも霊刀は切りかかるための武器じゃないから、試したことがないの」
「だったら、試す価値はあるだろ?」
「でも……」
あまり乗り気ではない様子。
「何か問題でもあるのか?」
「てゆうか、わたしの霊刀はちょっと特殊なの」
「特殊って?」
「わたしの霊刀は自立飛行型って言って、霊術と同じ原理で宙に浮くタイプなの。だから、霊術を無効化する相手とは相性が悪くて……」
「手で持って戦えばいいだろ?」
「無理。両手が鞘で塞がっちゃうから」
「鞘一本でか?」
「ううん。一本じゃなくて二本」
「二本て……」
つまり、狼の出した案は限りなく実現不可能に近いと。そういうことらしい。
「まあそれなら、効果範囲外からの物理的攻撃を加えるぐらいしか手はないけどな」
「でも、霊術は無効化されるんだよ? 霊術以外であれに有効そうな攻撃はできないし」
「てか俺、お前の霊術とかいうの、まともに見たことがないんだが」
「? さっき見せたよね?」
傷を治したときのことだろうか。
「あんなの戦闘じゃ使わんだろ」
「まあね」
闇代は近くの木に寄ると、手招きして狼を呼んだ。
「何だよ?」
「今からわたしの霊術を見せてあげるね」
闇代は拳を振り上げると、木の幹に向かって振り下ろした。
「!!」
ドスン、と鈍い音がしたかと思えば、木の表皮に幾多もの割れ目が走った。闇代が手を離すと、木は彼女と狼の間を倒れていく。
「これがわたしの霊術。普通は霊質を合成してエネルギー体として打ち出すんだけど、わたしの場合は身体強化が殆どなの。治療も似た系統だから、ついでに習得しただけだし」
かつて地に根を張っていた、この決して小さくはない木は、小さな少女の一撃によってへし折られてしまった。その一部始終を見ていた狼は、唖然と闇代を眺めている。
「ふふん、すごいでしょ?」
ぺったんこだけが売りの胸を自慢げに反らす闇代。散々狼に見くびられていたためだろうか。
「でも、全部消されるんだよな」
「うっ……」
確かに、いかに闇代の霊術が凄かろうと、打ち消されては意味が無い。
「どっちかって言うと、ああいう手合いには熱か冷気を撃ったほうが有効だと思うぞ」
「え、そうなの?」
「ああ。どういう原理で無効化してるのかは知らんが、大概この手の能力は別の形にしてぶつければ有効な場合が多い」
「詳しいね」
「優から習った」
子供に何を教えているんだろうか、あれは。
「特に、熱エネルギーや力学的エネルギーは防ぐのが難しいからな。魔術や霊術なんかの系統のほうが妨害を受けやすいとか」
てか、魔術もあるんかい、この話。
「熱かぁ……。正直苦手な分野だよ」
「というか、得意分野とかあるのかよ?」
「あるよ。身体強化とか」
「効かないだろ?」
「うっ……」
先程と同じ反応。
「で、でも、逆は得意なんだよ……?」
「逆?」
「うん。熱は苦手だけど、冷気なら何とかなるよ」
「冷気か……」
狼は暫し考え、
「それなら、いけるかもしれない」
「ほんとに?」
「ああ」
頷く狼に、闇代は顔をぱあっと輝かせた。
「お前、やっとまともに笑ったな」
「え、そう?」
「今までは、無理して笑ってる感じがした」
それには気づかなかった。狼も、何気によく見ているようだ。
「そっか……そうかもね」
闇代は右手に握った金属片―――右の五芳星を見つめ、小さく呟いた。
「わたし、ちゃんと笑えてるって、ママ」
そして顔を上げ、右の五芳星を前に向ける。
「お願い、力を貸して、ママ」
闇代は、右の五芳星を握りつぶした。すると、彼女の拳から―――何も握っていないはずの左手からも―――細長い金属棒が伸びてきた。それらは適当な長さで止まると、今度は太くなっていき、闇代の手で掴めるギリギリの大きさになって止まった。その棒はまるで鞘に収められた刀のような形状で、恐らくこれが彼女の言っていた『霊刀』なのだろう。
「行こう、狼君。決着をつけに」
「ああ」
闇代は一歩を踏み出し、そして軽やかに駆けていった。




