おいしいとこは攫われる
「破滅するとき、影名を語る」
そう唱えると共に、優の刀が黒く染まっていく。
「くっ……!」
顔を顰める優。刀を片手から両手に持ち替え、溢れ出す衝動を抑える。
「風天―吹き荒れる嵐の如く!」
振るった刀から疾風が放たれ、少年へと襲い掛かる。対して少年は、あの強烈な霊体破壊攻撃で応戦。
「くっ……!」
二つの力が拮抗し、その反動が優にも伝わってくる。押し返されぬよう力を込め直すが―――
「ああっ……!」
力と力が相殺され、生じた爆風に吹き飛ばされてしまう少年と優。即座に体勢を立て直そうとするが、少年のほうは既に銃を向けており―――
「しまっ」
「た」と口にする間もなく、霊体破壊攻撃が放たれる。
「風天……!」
咄嗟に風を放って打ち消そうとしたが、衝撃を完全には殺しきれなかったらしく、更に飛ばされてしまう。
地面を転がる優。そしてそれを追いかけるかの如く放たれる霊体破壊攻撃。辺りの地面は穿たれ、もはやそこが地であったことさえ分からない様である。
「まったく、人が本気を出せないのをいいことに……」
ようやく起き上がることのできた優は、瞳が白銀に変わっていた。
「やっぱり、もう年なのかしら?」
全身ボロボロで、刀を杖のようにして立つその姿は、確かに老人に似ているかもしれない。
「でもまあ、子供達のためなんだから、このくらいは当然よね」
おまけに、狼がべた褒めしたせいでハードルも上がっている。
「仕方ないから、もう一度だけ本気を出すわ」
少年に銃を向けられ、それでも尚、戦う気力を失わない優。体中の傷を血で塞ぐと、刀を地面に突き刺した。
「直接握ってると正気が保てないから、このほうがいいかしら?」
優の手が離れると、刀は全体が紅に―――血に染まっていく。
真っ赤になった刀を手に、優は少年に向き直る。
「ここからは覚悟しなさいよ。今までのようにはいかないから」
言うや否や、優は少年に向かって駆け出す。真っ直ぐにではなくジグザグに走り、少年の狙いをぶれさせようとしているようだ。
対する少年は真上に跳躍。風の守護もあいまって、遥か上空にまで飛び上がる。
優は構わず彼の真下まで来ると、刀を空へ振り上げた。
「たとえ空でも―――」
切っ先から無数の紅い糸が、少年を捕らえんと伸びてくる。少年は銃を向け、霊体破壊で応戦するが―――
「逃げ切れないわよ!」
声に振り返れば、少年よりも更に上空を舞っている優の姿があった。先程まで地上にいたはずだが、いつの間に……?
下へ向けられた刀は、少年を貫かんと迫ってくる。風の守護を掻き分け、まるで優を少年の元へ導こうとしているかのように。
「くっ……!」
銃身を横に向け、それを防ぐ少年。しかし空中で受けたため、勢いのまま地面へと落とされる。
優はやや離れた場所に落下し、一気に距離を詰めようとして―――
「……っ!」
放たれた風に足を止め、刀で振り払う。その先には、銃をこちらに向けた少年の姿。
もう何度目になるか分からない霊体破壊が、優に向かって放たれた。
優は刀を盾にしようとするが、
「……!?」
突然目の前に現れた二本の刀が、それを代わりに防いだ。
そして振り返れば―――
「お待たせ、お優さん」
両手にそれぞれ鞘を握る闇代と、
「邪魔だったかもしれないが、ちと我慢してくれ」
その後ろに立つ狼の二人がいた。
「二人とも……」
優は刀を下げ、彼らの元へ後退する。
「まったくだわ。もうすぐで止めだったのに」
「そういうな。若い者に手柄を譲るのも年長者の務めだぜ」
「それもそうね」
そんな言葉を交わす二人の前を、闇代が一人で歩いていく。ゆっくりと、ゆっくりと。
「行くよ、ママ」
そして、右手を大きく振り上げた。




