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クインテット。ナイツ  作者: 恵/.
S―破滅する。ナイツ
100/132

猫をもふもふするのが大好きだけど、そのせいで猫に嫌われている


  ◇


 ……一時間目が終わって。


「うーるーふーくーん!」

 チャイムが鳴るや否や、先程の少女―――美也が、狼の教室に駆け込んできた。突然入ってきた女子生徒(しかも上級生)に驚いて、教室にいた生徒たちが一斉に振り返る。

「あれ、美也さん!?」

「やっほー、上風ちゃんも久しぶり~」

 美也を見て、上風が大声を上げていた。知り合いなのには驚いたが、よく考えれば、彼女は狼と幼馴染なのだから、彼の先輩と知り合いなのも当然か。

「ほらほら狼君、今すぐもふらせてぇ~」

「断る!」

 朝と同じく抱きつこうとしてきた美也を、手馴れたように躱す狼。闇代を回避する技能を身につけたから、予測していれば避けられるのだろうか。

「あぁん! 折角再会したんだから、もふもふの一つくらいさせてよぉ~」

「させるかっての!」

「もしかして、思春期真っ只中の狼君はもふもふくらいじゃ満足できないの? ―――(自主規制)―――とか、―――(自主規制)―――とかして欲しいの?」

「だからそういうことを口走るな!」

「相変わらずですね……」

 自主規制用語を大声で連発する女子生徒にも、他の生徒たちはまったく動じていない。普段から闇代が(時々他の子が)暴走しているので、もう慣れてしまったのだろう。

「とにかく今すぐもふもふさせて! でないと禁断症状で発狂しちゃう!」

「既に発狂してるだろ!」

「駄目ぇーーー! 狼君はわたしがもふるのっ!」

「お前は出てくるな!」

 そこに闇代が絡んできて、もっとややこしいことになってきた。

「闇代ちゃん、だっけ? 生憎だけど、狼君は私が―――(自主規制)―――して―――(自主規制)―――して―――(自主規制)―――するって、何年も前から決まってるの。だから諦めて、ね?」

「んなの決まってねえ!」

「わたしはもう結納まで済ませたもん!」

「済ませてねえ! てかそもそもしようとしたことすらねえわ!」

 この自主規制と、既成事実の捏造による応酬は、休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴るまで続けられた。



  ◇


 ……二時間目が終わって。


「狼くーん! もふもふの時間だよー!」

 またしても美也がやって来た。教室に入ってくるなり、獲物に飛び掛る豹のように、狼に抱きつこうとする。

「いい加減にしてくれ!」

 狼はそれを何とか躱す。しかし、その後方には伏兵が潜んでいた。

「隙ありー!」

「うぉっ!」

 回避直後の隙を闇代に突かれ、頭部を抱えられてしまった狼。……てか、闇代さん、あなた机の上に乗ってますよね? そうしないと彼の頭に届かないのは分かるけど、止めたほうがいいんじゃないかと。ほら、お行儀悪いから。今更だけど。

「狼君、もふもふぅ~」

「はーなーせー!」

 狼は闇代の腕の中でもがいているが、抜け出せそうには見えない。

「あーっ! 私にももふもふさせてぇ~!」

「だーめ。狼君はわたしがもふるの」

 ―――駄目だ。この二人、ほんとに同レベルだ。狼の苦労が倍加しただけだな、これは……。

「止めてくれーーー!」

 狼の絶叫も、最早誰の耳にも届いていない。



  ◇


 ……昼休み。


「……やっと昼飯か」

 精根尽き果てたといった感じで、机に突っ伏す狼。ご愁傷様です。

「大変ね、あんたも」

「ここまでくると、さすがにうるっちが不憫に思えてきたぜ……」

 上風と氷室も、哀れむように狼を眺めていた。とはいえ、彼らはまだましな方。大概の生徒は最早、意に介すことすらない。違和感さえも持たれていないかも知れない。

「狼くーん、お昼ご飯食べよー」

 ほらほら、美也がまたもやって来た。今度はパンを片手に。自分用の昼食だろうか?

「狼君、わたしと食べよっ」

 すると闇代が鞄から弁当箱を二つ取り出して、狼の向かいに座る。そして一つを狼の前に置いて、言った。

「ほら、狼君のために作ったんだよ。一緒に食べようよ」

 つまり彼女は、朝食と共に弁当も作ったのか。女の子の手作り弁当……これで狼の好感度も、若干闇代寄りになるはず。

「とりあえず、食えれば何でもいい」

 ありゃ? それほど手応えがないな……。

「じゃあ、私も一緒に食べるね」

 そしたら美也は、狼の隣に腰を下ろした。そしてパンの包装を破き、パン(スティック状の奴)を取り出して、咥えた。

「ふぇえ、ふふふふぅ」

「口にものを入れて喋るな」

 狼は弁当(闇代の手作り)を食べながら突っ込んだ。美也はパンを噛み千切って咀嚼してから続ける。

「どうして、この学校に入ったのに、まったく顔見せなかったの?」

「この展開を予想して、鉢合わせないように避けてたんだ」

 そうだったのか……にしては、同じく知り合いの上風とも会ってなかった様だが。

「まあ、美也さんって、この通りの人だからね……」

 溜息混じりに呟く上風。……なるほど、こっちも避けてたのか。それなら納得。

「うぅ……私、二人に嫌われてるのかな?」

「少なくとも俺は苦手だ」

「が、がーん……!」

 いや、口に出すほどの衝撃を受けなくても……。だが、その割りにパンを普通に食べ進めている美也。もしかして、これは単にリアクションが大袈裟なだけか?

「私は、狼君のこと、大好きだよ……?」

「ありがた迷惑」

「振られた!?」

 まあ、彼は好意を持たれて、ろくなことになってないからな。

「だって狼君は、わたしの婚約者だもん」

「してないっての」

「そっかぁ、それじゃあ仕方ないよねぇ~。狼君、ロリに目覚めたんだから」

「そのコントまたやるのか?」

 てな感じで、昼食を乗り切った狼であった。

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