旅立ち、愛と青春と共に
緊迫したキャリアの分岐点において、ホルトーリ家の両親(マルク・真由美)とダンを待っていたのは、
フィンランドのフットボール界における生ける伝説――ハリ・モトマネンだった。
<四者面談>
「やあ、ダン。大きくなったな。ボルト・アリーナでのデビュー戦のキック、素晴らしかった。あれ以来だな。」
HJKヘルシンキOBでもあり、現在はフィンランド協会で要職にあるモトマネンは、現役時代の鋭い眼差しとは打って変わって、まるでおじさんのように温かい笑顔でダンを迎え入れた。
「先生、マドリードまでご足労頂き、痛み入ります。」
父マルクの言葉に揃えて、両親が深々と頭を下げる。
「いや、こちらこそ。外遊は多いのに全然見てあげられなくてね。」
テーブルの上には、レアル・マドリードのフロントから提示された、オランダの名門アヤックスへのレンタル移籍(1年半)の書類が置かれている。
「ダン、マドリードのメディアが何を書いているかは気にするな」
モトマネンは温かい紅茶を口に運びながら、静かに、しかし確かな優しさを込めて語りかけた。
「あそこの連中は、かつて10代のマルティン(ウーデゴール)がカスティージャにいた時も、手のひらを返してボロクソにけなしていた 。『過大評価の神童』だとね。だが、今のマルティンを見てみろ。誰もが彼をプレミア最高の司令塔だと認めている」
ダンの碧い瞳が、モトマネンを見つめる。
「君のケンガのドライブシュートは、間違いなく世界を壊せる武器だ。でも、今の君には、その武器を組織の中で使いこなす為の経験値が足りない。それはマドリードのベンチに座っていても絶対に身につかないんだ」
モトマネンはそっとダンの肩に手を置いた。その手は、かつて10番を背負ってアヤックスを欧州王者に導いた男の、重みと温もりに満ちていた。
「アヤックスへ行きなさい。あそこは、若い才能にフットボールのすべてを教えてくれる特別な学校だ。トータルフットボールの中で、君のキックを組織を破壊する究極の芸術へと進化させておいで。フィンランドの森は、いつでも君の背中を押しているよ」
モトマネンの言葉を受けて、両親も語りかける。
母 真由美 「ありがとうございます先生。弾、今回は先生のご厚意に甘えてみなさい。ベンチに座っていては、あなたのサッカーを見失ってしまうわ」
父 マルク 「そうだな。ダン、今はつまづいているが、これまでのマドリードの経験は決して無駄じゃないぞ。思い返しながら、アヤックスでの新しい知識と融合させて行きなさい。」
ダンの心にまだ残っていた、らしくない意固地さがすぅっと溶けて行った。
自分を15歳でプロにしてくれたHJKの、そしてフィンランドの偉大な恩師、そして誰よりも愛してくれる両親の言葉が、ダンの行く道を真っ白な雪原のように美しく照らしていた。
「ありがとうございます。モトマネン先生、アヤックスでサッカーがしたいです。」
<新たな旅立ちの刻>
マドリードの空港には、ダンの他に3つの影があった。
ダンと同じく移籍交渉中のングゥワチュチュ、トップチームに定着したマリオ、そしてダン達が去ったカスティージャで新しいポジションを掴んだチョビ。
ングゥワチュチュ 「少なくとも、自主トレでは会うだろ。近くだったらちょいちょい遊べるけどね。」
マリオ 「オフにオランダの美味いチーズ持って来いよ!」
チョビ 「2年以内に公式戦でマッチアップしようぜ、オレが勝つけどな。」
「みんな、ありがとう。アムステルダムで、一皮剥けてくるよ」
高校生活も共にした3人の励まし。世界最強の壁に一度は阻まれたダンだったが、その瞳には挫折の影などもうなかった。
友人、恋人、両親、恩師―――温かい灯火を胸に、ダンは次なる進化の舞台、オランダ・アヤックスへと向かう飛行機へと、力強く歩みを進めていた。
『懸河の蹴球~碧き瞳 光陰のマドリード編~』 完
※近年アヤックスは内紛で迷走してますが、無かった事に(笑) 夢はある方が。
それと、さすがに実名は憚られるので、喝言ってた方にしました。
書き手としても、楽しみつつも何度も涙して、光陰のように過ぎ去った第2編。
第3編 「碧き瞳 盈月編」は10/15(木)7:10より公開中。リンクならんけど。
(作品ページはこちら|https://ncode.syosetu.com/n3390mw/)
引き続き、ご支援のほどよろしくお願いします。




