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第1話 タイムスリップ

もともと吹き出しアイコンノベル形式で書いたものを、修正し記載しています。

 平成三十一年、三月の終わり。


 もうすぐ平成が終わる……そんな時期に。


 俺はなぜか、母校である小学校の裏門の前で、大の字に寝ていた。


 いや。なぜかではないか。

 当たり前だ。俺はこの裏門を乗り越えようとして失敗し、背面から落下したのだから。


 頭や肩がズキズキする。

 いてぇ。腰もいてぇ。


「あー……たたた」


 金曜日の夜、酔っ払ってスーツ姿のまま何してんだか。


 まぁ、ここの裏門は人通りの少ない路地に面している。見つからないうちに早くずらかろう。

 誰かに見られたら、不審者として通報されてしまうだろう。


 上半身を起こし、頭をかく。

 そのとき、チカチカと日光がまぶたを攻撃してきたものだから、俺は驚いて目を開けた。


「は……?」


 あれ、昼だ。

 太陽が出ているじゃないか。


(そんなに長い間、気を失ってたのか?)


 えっと、飲み会を抜けたのは、夜の十時くらいだったような……。

 

「お兄さん、大丈夫?」


「うわっ!?」


 突然聞こえた声に驚いて、俺は尻もちをついたまま振り返る。


 するとそこに少年が一人、こちらを見下ろし立っていた。


「救急車、呼んだ方がいい?」


「え? あ、いや、大丈夫……」


 慌てて立ちあがる。

 少年の向こう側の小さな交差点に、通行人が何人か見えた。


 やばい、こんなガキと話してて、不審者に見られてないかな。


(ん?)


 いま通りすがった女子高生二人組が、すごいミニスカートなうえ、足元にモコモコとした長い靴下を履いていたような……ルーズソックス?


(気のせいか?)


 そんな時代錯誤な女子高生などいないだろう。

 俺はとりあえず、尻ポケットに入れていたスマホを取り出した。

 よかった、幸い画面は割れてはいないようだ。

 でも。


「あれ? 時刻がエラーになってる」


 やはり落下したときの故障か、日付も時間もすべてゼロを表示していた。こんなの、見たことないぞ。


 まだかたわらに居てくれた少年に、俺は視線を向けた。


「ごめん、きみ、いま何時かわかる?」


「え? たぶん四時くらいだけど……」


 こちらの問いに答えつつも、少年はじっと俺のスマホを見ていた。

 な、なんだ?


「ねえお兄さん、その機械なに?」


「は?」


「新しいゲーム? すっごい薄いね! それとも何かの部品?」


 少年が見ているのは間違いなくスマホで、その質問もスマホに対してしているのだと理解した。

 理解したが。


「何言ってるんだ。ただのスマホだろ」


「すまほ? 何それ。聞いたことないや」


 嘘だろ!?

 今どき、小学生でも持っている時代じゃないのか。こいつんちは、そんなに貧乏なのか?


 いやでも、さっきの口ぶりではスマホ自体を知らないような……。


「!」


 そのとき、俺は信じられないものを見つけてしまう。


 裏門横にある壁の、町内のお知らせを貼るどこか懐かしい掲示板。


 そこに貼り出された、真新しい紙に「平成11年 春の川清掃のお知らせ」と書かれていたのだった。



■□■□■□■□■□■□


第1話 タイムスリップ


■□■□■□■□■□■□



「……はあ!?」



 思わず掲示板に近づいて、バンッ! と両手のひらで壁ドンをした。痛い。


 目の前にくるように紙へ顔を近づけたが……なんてこった。見間違いなんかじゃない。


(平成十一年? これを作ったやつが間違えたのか?)


 はたして、二十年もの間違いなんてするだろうか。

 打ち間違えたという可能性だってある。

 そうだよ。そうに違いない。


 しかし。


「ねーねー、今からカラオケ行こうよー」


「あ、いいねー! 私あゆの新曲マスターしたから!」


「マジで! じゃあさ、モーむすもいける?」


「いけるいけるー!」


 ギャハハハ、とどでかい声を響かせて通り過ぎる、先ほどとは違う女子高生たち。


 なんだ、あの黒さは……。

 なんだ、あのど派手メイクは……。

 カバンにはビーズやハイビスカスの飾りをじゃらじゃら着け、足元はどでかいルーズソックス。ミニスカートからむき出された太ももに、ついつい視線が行ってしまう。


 あれじゃあ──まるで。


「ヤマンバギャル!?」


「ああ、あれ。嘆かわしいよねえ、最近の女子高生は。うちのクラスメイトの女子も何人かギャル目指しててさ。バッカじゃねーの」


「お前、まだいたのか!」


 俺の背後で少年は、屈託なく「よっ」と片手をあげる。

 少年はただ、心配そうに俺を見ていた。


「なんか混乱してるみたいだけど、大丈夫? やっぱり他の人呼んでこようか?」


「いや……その……」


 嘘だろう。まさかな。


 突拍子もない考えが頭の中を占め始めて、慌ててその考えを打ち消そうとする。

 でも……。


「……あのさ、きみ。今って平成……何年だっけ?」


「へ? 平成十一年でしょ。そこにも書いてあるじゃん」


「………」


 少年は、俺が凝視していた掲示物を指さした。


「今は西暦……」


「一九九九年」


「流行りの歌手は?」


「さあ? あんまり詳しくないけど、モーむすとか宇多田とか?」


「……流行りのゲームは?」


「もち、ポケモン! この間やっとミュウゲットしたぜー」


「……えっと……その……」


「…………」


「…………う」


「う?」


「嘘だろおぉぉぉ!?」


「うわ!」


 ガキがモーむすだの宇多田だの言うか! ユーチューバーだろ今のガキは! ていうか何だよミュウゲットって! 俺らの青春がなぜこのガキから語られるんだよ!!


 まさかまさかまさか──まさか!?

 

「どうしたんだよ、お兄さん。まるでタイムスリップしたみたいな反応して」


「………」




──そういうこと……なのか?






◇ つづく ◇

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