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運命の人と幸せな記憶  作者: 霜月聖


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反比例する

美咲の夫、渋谷 幸太郎の視点です。

なんだか最近、美咲の様子がおかしい。


美咲はもともと記憶力が良く、少々神経質と言ってもいいくらい几帳面でまじめな性格をしている。

忘れっぽく、適当なところがある俺としてはそんな美咲の性格が頼もしくもあり、厄介でもあった。

例えば仕事帰りに牛乳を買ってきてほしいと言われたことをすっかり忘れて帰宅したとき。人から頼まれたことを忘れるなんて!と大層怒っていた。仕事だったらこんなミス許されない、そんなんで大丈夫なのとまで言われてしまってはこちらとしてもうんざりしてしまう。


そんな美咲が最近とても穏やかだ。

いつもなら一度機嫌を損ねると3日くらいは不機嫌なオーラが出ているのに、次の日の朝にはにこにこと笑っていつも通りの朝食の支度をしてくれている。

なんでかはわからないけれど、妻の機嫌がいいと家に帰る足取りも軽くなる。

自宅までの帰り道、ふと駅前の旅行代理店の広告が目に入った。

そういえばもうすぐ結婚記念日だったな。

父が幼いころに病死し、母は女手一つで俺を育ててくれていた。当然旅行に行く余裕なんて幼少期にはなかった。そんな環境で育った影響か、元々の性格か、旅行の計画を立てるということが大変苦手なのだ。

美咲はいつも旅行の計画は一緒に考えようと言い、最初のうちは一生懸命下調べをし、行きたい場所などのリストアップなどをしたが、移動時間を考えていなかったり、予約が必要なことを知らなかったりと美咲をイライラさせてしまうだけだと気付いたためいつの間にかすべて美咲に丸投げするようになっていた。


たまには、俺が計画してみるか。温泉にでも行ってのんびりしよう。

そう思い立って、旅行代理店に寄り有名な温泉地のパンフレットを何枚かもらって再び帰路についた。


________


自宅に帰り夕食の準備をしていた美咲に旅行の計画について切り出した。

「そういえばもうすぐ結婚記念日だろう?温泉旅行なんかいいんじゃないかと思ったんだけどどう?」

俺の言葉を聞いて美咲が手元から顔を上げる。通勤用のカバンからもらってきたパンフレットを取り出してテーブルに並べると美咲もキッチンから出てきた。

「ここなんか新幹線で1時間くらいで着くみたいだよ。こっちはちょっと遠いけど近くに食べ歩きできる商店街があるんだって。美咲そういうの好きだったよね。どうかな?」


美咲は真剣な顔でパンフレットを見比べている。その表情に今までさんざん文句を言われてきた思い出が蘇ってきて、内心ドキドキしてしまう。

しかし、そんな心配をよそに顔を上げた美咲は満面の笑顔を浮かべていた。


「温泉いいね!新幹線なんて付き合って初めての旅行で乗ったきりじゃない?駅弁買って車内で食べたよね!またそんな風にのんびり旅行出来たらいいなって思ってたの。嬉しい。」

俺はそんな美咲を大げさだなぁと笑った。美咲はお構いなしに、以前新幹線で食べた駅弁のおかずを半分こしたことなんかを子供みたいに話している。

美咲のこんなうれしそうな顔を見たのは久しぶりだ。つられて俺も自然と笑顔になる。

この日は珍しく日を跨ぐまで2人で旅行の計画を立てた。


________


いつも通りの朝、コーヒーのいい香りで目を覚ます。

あくびをしながら起きてきた俺に「おはよう」と声がかかる。

目玉焼きを載せたトーストを食べ、きれいに詰められていくお弁当のおかずを眺める。


玄関まで行き、「行ってらっしゃい」とカバンを渡される。


靴を履きながらそういえば、と美咲に声をかけた。

「昨日決めた宿、予約しておいてもらってもいい?新幹線とセットのプランで。」


わかったよ!と返事をしてくれると思って振り返る。

美咲は不思議そうな顔をしていた。


「宿?新幹線?何の話?」


「え?なに?寝ぼけてるの?結婚記念日の旅行の話!昨日散々話したろ。って、もう行かないと。とりあえずよろしく!」


美咲の反応に違和感を覚えたが、出勤時間が迫っていたため特に追求せず家を出た。


あの時、ちゃんと話をしていればこんなことにはならなかったのかもしれない。

ずっと幸せな夫婦でいられたのかもしれない。

そんなことを考えてももうどうにもならないのに。



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