第31話 :「《勇者編》選択の自由と、その選択がもたらすもの」
「みんな、本当に一緒にパーティーを組むつもり……?」
私は少し不安になって、そっとみんなに確認した。
「なに言ってるの、澪。あたしたち、もちろん一緒に戦うよ!」真白は明るくそう答えてくれた。「幸いにも、うちらの属性って相性良さそうじゃん? 剣士のあたしが前衛を担当して、さっき王国の人たちの話をちょっと盗み聞きしたけど……勇者って物理も魔法も適性あるらしいから、澪も前線に来てくれると助かるよ!」
「うん、それで澪と真白が戦ってる間は、あたしが後ろから魔法で支援するから。」梨花もにっこりと答えた。
「私は……学者って言われたけど、正直パーティーで何をすればいいのか分からないなぁ。でもミレイアさんが、読んだ本の内容を忘れないって能力も魔法職の一種って言ってたし……たぶん何かの役に立つはず!」エミリアはちょっと興奮気味に答えていた。
……彼女、きっとずっと憧れていたんだろうな。異世界転生モノが好きだったし、日本のアニメもよく話してたから。
そんなふうに私たちがパーティーについて話し合っていると、ふと気づいしました。
王国の人たちは、さっきから男の子たちの鑑定結果にばかり注目していますが、真白たちの職業には、ほとんど反応していない……です。
鑑定はまだ続いています。数人の大人しい女子たちが、緊張しながら魔法陣に立つ。その結果は……
「料理人適合者。“食材霊識”の潜在能力を確認。職業は:魔力料理人。」
「裁縫師適合者。裁断精度および繊維との共鳴率が非常に高い。職業は:光の裁縫師。」
「薬師適合者。希少植物の感知能力あり。職業は:錬金術師。」
……戦場で活躍できるような職業ではないかもしれない。でも、私がちらりと視線を向けた連邦の人たちの反応は、まるで別物でした。
「素晴らしい!まさにレアスキルだ。我々の医療班にぜひ来てほしい!」
「霊識系の裁縫師……我が国の“綾羅の都”が喜んで迎えるはずだ!」
獣人の代表は満面の笑みを浮かべ、エルフの女性は穏やかに拍手し、あの黒い角を持つ魔人の男性でさえ、珍しくうなずいています。どうやら彼らは、強さだけを求めているわけではないよさそうです。
一人ひとりの適性に真剣に向き合っていて、その後の生活まで想定しているようでした。すると、連邦の副大統領・ハーグさんが私たちの前に歩み寄り、両手を広げて柔らかく笑っています。
「我らアルディア連邦には、九十二の自治領があり、あらゆる文化、職業、種族が交わり生きています。
戦士でも、料理人でも、舞踊家でも、魔法使いでも――あなたにふさわしい場所をご用意できますよ。」
彼の言葉に、私の隣の女の子たちの目が、ふわりと輝います。そして、小さな声でこそこそと話し始めました。
「ねえ、連邦なら勉強も続けられるって本当かな?」
「獣人の街にはメイドカフェがあるんだって……行ってみたい!」
「戦うのはちょっと怖いな……自由に暮らせるなら、それが一番かも……」
……その時、私はようやく気づいています。全員が「主役」になりたいわけじゃないです。全員が戦いや名声を求めているわけでもないです。
女神様が「この世界は危険」と言っていたことを、私はちゃんと覚えています。
……本当に、戦わなくても生きていけるのかな?
そして最後の勢力――聖国の聖女ミレイアさんと、その従者たちは、ずっと静かにそこに立っています。誰かを勧誘することも、条件を提示することも、名簿に手を伸ばすことすらしなかったです。
ただ、誰かが鑑定を終え、魔法陣から降りるたびに、静かに手を合わせて祈るします。
「あなたの選ぶ道が、魂の光に背かぬものでありますように……」
それは、何の欲も混じっていない、純粋な祝福の言葉です。まるで、本当に私たちの未来を信じて見守っているような、そんな祈りをしました。
……最初は、彼女たちは私たちを“見捨てている”のかとも思います。でも、心のどこかでこう思った。きっと彼女たちは女神様の意思を理解しすぎています。
だからこそ、無理に手を伸ばさず、私たちの「選択」を尊重しています、と。
女神様も言っていました。
「これからは、あなたたち自身の意志で生きていきなさい」と――
そして、いま――その“未来の選択肢”が、私たちの目の前に、三つの形で並べられています。王国は、多くの男子を中心に囲い込み、名誉と地位を与えると約束しています。中には、もう「王立魔法騎士団に入りたい」と申し出ている人もいます。
連邦は、まるで巨大な市場のように、それぞれに合わせた人生設計を描いてみせています。その丁寧さと多様性には、確かに心が惹かれるものがあった。
そして、聖国は――祈りの外縁から、静かに、静かに私たちを見つめています。
説得もしなければ、干渉もしないです。ただ、魂のままに歩めと、そう願ってくれていた。
私は、三つの国の姿をじっと見ることをしました。
王国は、血筋と栄光を重んじ、勇者を「勝利の象徴」としてお迎えしました。
連邦は、力と協調を重視し、私たちを「未来の柱」として招います。
聖国は……私たちの魂が、この激動の中で穢れず、歩み続けられるかどうかを見ていたのかもしれないです。彼女たちの本当の目的は、最後まで見えなかった。
あまりに静かで、あまりに言葉が少なくて……何も分からなかった。
それでも私は――
そっと、まだ微かに熱を帯びる自分の胸に手を当てた。
運命の三叉路。
私たちは、それぞれの選択を、ここで下す。