第32話 :「《勇者編》争い続けた意見と、未来を拓く選択」
鑑定会場から休憩ホールへ戻った頃には、空はすっかり夕焼けに染まっていた。
私は窓際の席に座り、まだほんのり温かい蜂蜜入りの紅茶を手にしながら、遠くに見える荘厳な王都の塔を見つめていた。けれど、その味わいはこのお茶よりもずっと苦く感じられた。
私たち三十六人は、現在王国の迎賓用の城館に滞在している。すべては整然としていて、配慮も行き届いている……それでも、心のどこかに、不安が灯り続けていた。
「おーい、みんな!」
突然、中央で誰かが手を叩いた。新田翔太だった。彼は昔から変わらない自信に満ちた笑顔を浮かべて、自然にリーダーのように振る舞っていた。
「さっき王国の騎士たちから聞いたんだけどさ、勇者全員に直属の騎士団と専属の魔導士チームがつくんだって!」
彼は誇らしげに語り、さらにこう続けた。
「それだけじゃないぞ! 王国は俺たちに伯爵相当の貴族位を与えるらしいし、“呪われた土地”を解放した後、その領土を分けてくれるらしい。子孫までその地位を受け継げるんだってさ!」
そう言って彼は皆を見渡し、私の方を見ると、どこか挑発するような笑みを浮かべた。
「それにさ、うちのクラスには戦闘向きの適合者が多いし、人間の王国に入るのが一番安心じゃない? 変な種族が混じってる国よりさ。」
「待って、新田さん!」
私は立ち上がっていた。思っていた以上に、声が大きく、そして熱を帯びていた。
「それはあまりにも一方的ですよ。私たちはまだこの世界のことを何も知らなかった、三つの国の代表からも十分な説明を受けてないのに、どうして今この場で王国に決めようしますか?」
「一方的じゃない、現実的な判断だよ?」
新田は当たり前のような顔で返してきた。
「獣人とか魔人とかエルフとかが混ざってる国に行きたいのか? そいつらが何を食べてるか知ってるか? 隣の部屋に角のあるやつがいたら、安心して眠れるか?」
私は思わず眉をひそめた。すると、隣にいた真白さんがそっと言った。
「新田……そういう言い方、相手に対して失礼だよ。」
「はっ、女ってのは甘いんだよな!」
別の男子が口を挟んだ。
「連邦は自由に見えるけど、言い換えれば無秩序ってことだ。人間の国である王国が一番まともなんだよ。日本人としてはさ。」
「でも連邦には教育制度もあるし、芸術の都市も、魔導技術の都市もあるよ。野蛮な場所なんかじゃないよ。」梨花さんが冷静に反論した。
「それに聖国は私たちに何も強制しなかったし、勧誘すらしなかった。ただ見守ってくれた。私はあの姿勢こそ、私たちの自由意志を尊重してくれてると思うな。」
エミリアさんも落ち着いた口調で言った。
「自由? もしお前らが軍隊もない国に行って、最終的に俺たち王国の男子に守られることになったらどうすんの?」
その言葉が出た瞬間、空気がピリッと張りつめた。
「……何言っていますか?」
私はもう一度立ち上がり、彼の前に歩み寄った。
「私たちは誰かに守られるためにここに来たんじゃないですよ。みんなそれぞれ能力と適性を持っています。どう生きるかは自分で決めるべきといます。まだ国家の軍事力も分からないのに、何を根拠に判断していますか?」
「選びたいなら勝手に選べばいいけど、全員を巻き込まないでくれよな。」
新田は鼻で笑った。
「俺たち男子はまとまって王国に残るから。変な方向に引っ張られるのはごめんだね。」
「あなたが男子全員の代表なの? みんなの意見、ちゃんと聞いますか?」
私が言うと、女子たちが次々に立ち上がった。真白さん、梨花さん、エミリアさん……誰一人として引く者はいなかった。その時、普段はあまり話さない男子のひとりがぽつりと呟いた。
「……俺、連邦もアリかなって思ってたんだ。発明家に向いてるって言われたし、機械の勉強も続けていいって……」
別の男子も頷いた。
「俺、動物好きだから魔物研究に興味あるんだよね。精霊都市にそういう研究所あるって聞いたし……最初から王国って決めるのは早いかも。」
新田の眉がピクリと動いた。流れが変わってきている。誰かが小さな声で話し、誰かが新しい選択肢に目を向け始めた。
私は深く息を吸い込み、できるだけ優しく語りかけた。
「ねえ、みんな……まず、三つの国を見に行かない? 反対してるんじゃないの。ただ、今この場で決めるのは早すぎると思う。ちゃんと自分の目で確かめてから、それで王国を選ぶなら、それは立派な選択だよ。」
「うん……」真白さんが頷いた。 「私たちは召喚された兵士じゃない。考える力を持った人間なんだもん。」
「女神様が私たちに自由意志を与えてくれたのなら、その意志で旅路を決めるべきよね。女神様の願いに応えるためにも。」
エミリアさんの言葉に、皆の表情が少しずつ変わっていった。
沈黙のあと、新田は舌打ちして、気怠そうに言った。
「……分かったよ。そんなに言うなら、見てから決めようぜ。ただし……その時後悔しても知らねーからな。」
私は息をつき、安堵の笑みを浮かべながら、隣にいる女子たちを見た。みんなの顔には緊張と不安、でもそれ以上に、希望の色が灯っていた。
私たちは決めた。三国を自分たちの目で見ることを。 それは誰かに与えられた運命じゃない。 私たち自身の手で選ぶ、初めての「未来」だった。
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今回は女性視点を中心にした、勇者・澪の物語をお届けする予定です。
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今回のヒロインである澪は、異世界におけるさまざまな国家の柱として、主人公・瑛太の代わりに各国を巡り、世界観を補完していく役割を担っております。




